39 「兄の事、信頼してるんですね」
更新遅れて申し訳ありません。新連載に集中していてかなり遅れました。
あと1/4程で完結するのでお付き合い頂ければ幸いです。
セシル君に発破をかけてから数日後、心配していたシリル君はひょっこりと姿を現してくれました。
いつもと変わらぬ表情なのは、良い方向に向かったのか、それとも……。
「……リズベットさん、先日はお騒がせしました」
「いえ、此方もお節介みたいな事してしまって」
律儀に頭を下げてくるシリル君に私も慌てて頭を下げます。
シリル君は謝っていますが、触れられたくない場所に触れてずけずけ物を言ったのは私の方です。幾ら停滞していた家族を動かす為とはいえ、まだシリル君にとって私は他人でしょうし余所者に引っ掻き回されるのは迷惑だったかもしれません。
私が眉を下げてしまったのを見て、シリル君は十二歳とは思えない程落ち着いた佇まいで緩く首を左右に振ります。
「……良いんです。兄と話が出来たので」
「セシル君と、お話出来たんですか」
「ええ、まあ。誰かさんに尻を叩かれたみたいであの後追いかけてきましたよ、どうやら兄は盗み聞きしてたみたいで」
「う」
……お尻を叩いたのは私だって、シリル君勘付いてる。いえセシル君が言ったのかもしれませんけど……。
「まあ、その誰かさんのお節介で、色々話せたんですけどね。あの人、相当不器用でした」
「ふふ、そういう所はぶきっちょなんですよセシル君」
セシル君、言葉が足りなかったり態度は素っ気なかったりするから、慣れないと誤解しちゃう事がよくあります。シリル君は最初からセシル君を疑ってかかっていたから、尚更。
セシル君はセシル君で直そうと頑張ろうとしてるみたいではあるんですけどね。
まあそういう所も可愛いんですけど、とシリル君には言わずにくすりと笑んだ私に、シリル君は何とも言えなさそうに苦笑。けど、その笑みは苦い感情が含まれている訳ではありませんでした。
「でも、思ってた事を聞けて良かったし、言えて良かったです。結局無い物ねだりだったんですよね、俺ら。俺は兄さんの能力が羨ましくて、兄さんは俺の境遇が羨ましかった。兄さんは母さんに見て欲しかったし愛情が欲しかった、普通の魔力持ちに生まれたかったそうです。……今では後悔もないらしいですが」
「セシル君……」
「……可愛いお嫁さん見付けて研究室任されて当主の座に就く事を約束されて、そりゃあ誰だって妬みますよ。まあ、一発殴らせて貰ったのですっきりしましたけど」
「あら」
シリル君の口から殴るって言葉が出たのが意外で口許を押さえた私に、シリル君はちょっと不安そうに此方を窺ってきます。
「殴った事、怒りますか?」
「いえ、二人で納得した結果ならそれで良いと思いますよ」
セシル君は鍛えてますし多少殴られた所で大丈夫です。……こういったら私がセシル君をぞんざいに扱っているみたいに聞こえますけど、そもそもセシル君は案外喧嘩は強いそうなので受け止めるか躱すかする筈なのです。
それなのにシリル君の一発が当たったという事は甘んじて受け入れたって事でしょうし、私からその辺り口出しするのも野暮というものでしょう。
もし腫れてたら治癒術使ってあげなきゃなあ、でもセシル君拒みそうですね。……意地っ張りなのは、セシル君もシリル君もおんなじみたいですけど。
ふふ、と笑った私に、シリル君は些か呆気に取られた様子で、私の事を凝視。
「兄の事、信頼してるんですね」
「勿論。セシル君ですから、心配してませんよ」
セシル君ならちゃんとお話し合いで解決してくれるって信じてましたし(多少シリル君から拳が出たみたいですが)、実際仲直りしてきたみたいですから。
無事に解決してよかった、と笑った私に、シリル君はやや眩しげに瞳を細め、それから意味ありげな視線を私の背後にある建物に送ります。
「良かったのですね兄さん、ベタ惚れされてますよ」
「え?」
「そこでコソコソされるくらいなら堂々と出てきてください」
……こそこそ?
シリル君の言っている意味が分からなくて首を傾げつつ振り返ると……なんと建物の影に隠れるようにセシル君が此方を窺っていたのです。
ただ、指摘されてセシル君は観念したように姿を現しては肩を竦めています。
「……気付いてたのか」
「流石に気付きます」
セシル君、もう顔パスでうちに入ってますよね。いえ、いつもの事なのですけども。
すっかりうちの一員みたいな感じですよね、と思うと胸が温かくてほっこりしてしまうのですが、シリル君的には話を聞かれていたのに思う事があるらしく、呆れた表情。
「……で、俺の話内緒で聞いて何がしたいんですか」
「いや、その……」
「はっきり言ってくれませんか」
心なしかシリル君はセシル君に当たりが強いですけど、それでも敵意とかは見当たりません。ただ、兄弟という関係にあんまり慣れていなくて距離を測っているようにも思えます。
それはセシル君も同じようで、なんというか気まずそうというか態度を決めかねているらしく、ちょっぴりまごついているセシル君。
これはこれで新鮮です。だってセシル君、私には遠慮ないですし、睦む時はそういうもじもじの仕方しませんし。
「……出るタイミングを逸したというか、お前らが仲良さげに話していたから、出るに出れなかったんだよ」
「変に遠慮されても気味が悪いのですが」
「……お前、言うなー」
「この前のあなたは俺の事無理矢理引き留めて部屋に引きずり込んだでしょう。あんな強引な真似されれば誰だってそう思いますよ」
「いやそりゃあそうかもしれないけどな? でもお前、ああしなきゃ話なんて聞いてくれなかっただろうし」
「あんな事しなくてもリズベットさんに言われていたので聞く耳くらいは持ちました」
「嘘つけ、最初嫌そうな顔した癖に」
どんどん言葉が交わされていきますけど、会話を重ねる度にぎこちなさが減って、何だか仲良しに見えてくるのが不思議です。
何だかんだ、腹を割って離したら分かり合える二人だったんですよ、元から。思い込んで互いが互いを憎んでると思っていたから、擦れ違っていただけで。
蓋を開いてみれば、ほら。言い争いをしているようで、楽しそうに会話しています。何処をどう見ても、仲の良さそうな兄弟にしか見えません。
「ふふ、仲良しさんで良かったのです」
正直な感想を漏らすと、二人の言い争いは止まって、同時に私を見て。
私はそんな二人がまたおかしくて喉を鳴らして笑い、それからセシル君に余っていた席を手で示し、ゆるりと首を傾げてみせました。
「さ、一緒にお茶しましょうか。語る事は沢山あるでしょう?」
「……そうだな」
二人には会話が足りないと、あの時は言ったけど……それは今からでも取り戻せます。
いがみ合っていたと思っていた時期があった分を、取り返していけば良いのですから。
私の笑顔に、毒気の抜かれたようなセシル君は、穏やかに微笑み返してくれました。




