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もう一つの物語  作者: 佐伯さん
本編
38/52

38 「まあこっぴどく振られたら慰めてくれ」

 週に一回あるか程度の、二人だけのお茶会。家族は一応彼の事を知っているのですが、気遣っているのか一緒にお茶している時はこちらに姿を見せません。ルビィは結構に彼の事が気になっているみたいなので、もう少し慣れてきたら引き合わせても良いかもしれません。


 私と彼自体は、ゆっくりと仲良く(?)なっています。彼の名前も素性も知らないけれど、別に急いで知らなければならない事ではありませんし、彼の気が向いたらお話ししてくれると思うので気長に待つ事にしています。

 彼自身は大人しい気質で、口達者という訳でもなければ寡黙でもない。十二歳(と聞きました)にしてはやけに達観した物言いをするのですが、それが何となく彼の立っている境遇を匂わせてきました。


 ただ、私から踏み込む事は、しません。嫌がられるでしょうし。

 だから、彼が話すまでは何も言わず、一人の客人として和やかにお茶会をするのです。


「……どうして、俺をもてなしてくれる、のですか」


 今日もまた彼はやってきて、最早習慣のようになってしまった二人きりのお茶会に参加するのです。

 でも、今日は何だか思い詰めたような顔色。いつも何か言いたげにしながらも口にしなかった彼ですが、今日だけは違いました。


「もてなしちゃ駄目なのです?」

「怪しいでしょう普通」

「そうですか? 少なくとも悪い方だとは思ってませんよ」


 害意ある人間ならば家族が反応します。父様が問題ないといって好きにさせているのですから、多分素性は知れているのでしょうし、悪い人間ではないでしょう。私が聞かないのは、彼の知らないところで彼の事を調べるなんて卑怯だと思ったから。彼自身の口から聞きたいですから。


 怪しんではいないから大丈夫ですよ、と笑うと、普段は呆れる彼ですが、今日の彼は何か渋いものを含んだような表情。どうして、と小さく呟いたのは、気のせいではないでしょう。


「……俺は、あなたが思う程、良い人間ではない。少なくとも、あなたにとって面白い存在ではありません」

「そうですか? お話しするのは楽しいですよ」

「俺の目的を知ってもですか」

「目的?」


 そりゃあるとは思っていましたけど、別に悪いものじゃないだろうから気にしてなかったんですが……本人は結構真面目に私を見ています。


「俺は、あなたを見に来た」

「私を? そんな変人として知れ渡っているだなんて……」


 わざわざ私なんか見に来るって事は、変な噂が広まっているのかもしれません。それか、討伐による魔導師としての力量とかその辺の事でしょうか。何にせよ知らない間に嬉しくなさそうな噂が広まっていそうです。


 困りましたね、と肩を竦めると机に突っ伏しそうな程脱力した彼ですが、立ち直ったらしくこほんと咳払い。……気のせいか「何でこんな緩い人なんだ」とか微妙に失礼な事を言われてます。心外ですね、私はきっちりする時はきっちりするのですよ。


「……どんな人か、見に来た。俺が思っていた人と、違いましたけど」

「どんな風に思ってたんですか?」

「……魔術に長けた、氷のような女性だと」

「誰ですかそれ」

「俺にも分かりません」


 おかしいですね、私そんな冷たい感じの人間ではないですよ。冷え性気味なのはありますけど。見掛けでいうなら母様の血が強いので寧ろ暖かい感じの顔付きですし。

 確かに魔術は氷系統が得意ですが、別に人格と魔術の適性は一致しませんし。そんな冷血漢みたいなのを想像されても困ります。


「誰がそんな事を言ったんでしょうね……」

「信用ならないものですね」


 実物はこんなにも能天気な人なのに、と呟いた彼。聞こえてますからね。


「それで、あなたの目にはどう映ったのですか?」

「……実に、警戒心のない方だと」

「それよくセシル君にも言われます」


 セシル君にも「お前は警戒心が無さすぎて怖い」とか「もっと人を疑え。俺でも信用しちゃ駄目な時があるからな。寝起きとか本当に迂闊に近寄らないでくれ」とか言うし。

 私は私なりの基準があって、それに準じて警戒をしたりしているのです。セシル君には警戒する必要がないと思うのに、セシル君はそれじゃ駄目だって口を酸っぱくして言ってくるし。……セシル君だから、全部許してるのにな。


 むう、と思い出しては唇を尖らせるのですが、よく考えたら彼にはセシル君という人物を知らないだろうから置いてけぼりにしてしまっている気がします。

 ちら、と彼を見ると、何とも言えない苦々しい顔。知らない人間のお話なんて愉快ではありませんよね。


「あ、ごめんなさい。此方の話です」


 そう言って話題を打ち切るのですが、彼の表情は晴れません。思案するように暫し俯いた後、此方を窺ってくる彼。


「……こんな見ず知らずの男を庭に入れても良いのですか。あなたを見る為に近付いた、気味の悪い男ですよ」

「害意はないですし。それに、何だか寂しそうでしたから」

「っ」


 息を飲んだ彼に、私はただいつものように微笑みます。

 ……こちらを見てくる彼は、悩ましげで、一人でぽつんと立っては何かを言いたげにこちらを見てくる。それが、どうしても寂しそうだったのです。何だか放っておけなかった。助けを求めたくても声の上げ方が分からなかった、昔のセシル君のようだったから。


「少しは楽しんで欲しいなって、そう思って」


 まあお節介にも程がありますよね、と照れ臭くて頬を掻くと、彼は少し呆然とした後に深く、溜め息。


「お人好しとかよく言われませんか」

「そうでもないですよ。私は自分の掌に載るだけの人しか、優しく出来ませんから」

「見ず知らずの俺がその掌に載っていると?」

「もう見ず知らずじゃないでしょう?」


 名前も知らないけれど、私達はこうやって向かい合って話し合っているのです。明確に見ず知らずの他人とは言えないですし、結構私としては彼を気に入ってるのですよ。


「……あなたがもっと性格が悪ければ、良かったのに」

「性格悪いと思われてたなら心外なのですが……」

「性格が悪いのは俺の方なので大丈夫ですよ。素性も狙いも教えずにあなたに近付いているので」

「ふふ、そう暴露する人が本当に性格悪いとは思いませんよ」

「……お人好しですね、本当に」


 染々と頷いた彼は、少しだけ遠い目をします。それから、なんとも言い難い寂寥を滲ませた表情で、弱々しく笑いました。


「……あなたがもっと嫌な人なら、憎めたのに」

「……憎まれるような事をしてしまいましたか」

「間接的にですが、ね」


 あなたが直接した訳ではありませんよ、と困ったような、途方に暮れたような、そんな重い声。

 ……彼は、私に恨みがあったから、私の顔を見に来たのでしょうか。


「あなたに当たるのも筋違いだとは思っています。……ぶつけるべきは、兄なのでしょう」

「兄……?」

「俺は、シリル。聞いた事、ありますか?」


『俺よりシリルを構えばどうですか。シリルが嘆いていましたよ』


 祝賀会の時、セシル君は確かにイヴァン様にそう言いました。そして、先日の訪問の時にも、イヴァン様はシリルというもう一人の息子さんが居ると言っていた。

 なら、目の前の男の子は。


「……セシル君の、弟さん……?」

「ええ、まあ。全然似てませんけどね」


 赤みがかった茶髪を一房摘まんでは、居心地悪そうに肩を竦めたシリル君。

 セシル君とイヴァン様はそっくりで本当に親子なのだと直ぐに分かりますが、シリル君は色合いが違うからパッと見セシル君達程親子の繋がりは見えません。イヴァン様も言っていましたが、シリル君はお母さん似だそうです。


 けれど、うっすら金を帯びた瞳や、整ったやや中性的な顔立ちは、イヴァン様に似ています。決して全く似ていないという訳ではありません。並べばちゃんと親子だと分かるくらいには、造形が似ています。


「でも、顔立ちは何処と無く似ていますよ」

「何処が。俺はシュタインベルトの血が薄い。この見掛けを見れば分かるでしょう」


 私の言葉にやや苛立たしげな声を上げるシリル君。


「俺は父や兄のような銀髪でもなければ金の瞳でもない。祖父のような優れた魔力もなければ父のような外見でもない、兄のような特殊な魔力も才能も持っていない。俺にはなにもないんですよ。唯一持っていた、家督の相続という希望も、今はなくなった。……兄を出来損ないと笑っておきながら、実の所俺の方が出来損ないだった訳です。滑稽でしょう」


 道化であった俺を笑って下さいよ、と乾いた笑みを浮かべるシリル君は、痛々しくて。

 ……イヴァン様が言ってたのは、こういう事だったのですね。シリル君は、シュタインベルトという血と家の重圧に押し潰されかけて、劣等感を抱くようになってしまった。そして、イヴァン様は正しい愛情の注ぎ方を知らなかった。

 だから、こうも擦れ違ってるんですね。本当はイヴァン様、シリル君の事、見捨てたりしていないのに。


「そんな事ありません。そういう価値観であなたを見ている訳ではありません。大体私があなたをいつ笑ったというのですか。私がいつ、あなたを笑いたいと言ったのですか」

「……そうですね、あなたはそんな事をする暇があるならお茶しましょうと能天気に言ってきますから」

「私のイメージ酷いです! 否定しませんけど!」

「くっ、ははっ、あなたらしいと思いますよ」


 凹んでいるかと思いきや、シリル君は少しだけからかうように笑って。

 ……確かにシリル君は家にコンプレックスを抱いているのかもしれませんが、自身である程度納得だけはさせているのでしょう。それだけ、シリル君は強い子だった。ただ、思いだけが蟠って、処理しきれなくなっている。


 そのもやもやを、少しずつでも取り除いていければ良い。私に託されたのは、そういう事でしょう。


「むう。そういう所はセシル君そっくりです、意地悪なんですから」

「……俺が兄と?」

「似てないって言いますけど、やっぱり雰囲気とか……案外優しい瞳してる所、そっくりです」


 シリル君は、似ているのが嫌かもしれません。それでも、やっぱりシリル君とセシル君は、そういう所が似ています。多分、根っ子が同じなのだと思います。

 案の定シリル君は渋い顔をしましたが、それでも意外そうに此方を見てくる所は可愛らしい。兄と似ている、という部分が気になったのでしょう。


「シリル君は、セシル君の事、嫌い?」

「……嫌いです」


 問い掛けにはやや躊躇いがちに頷かれて、そりゃあ好きと言えたらこうならないよなと思いつつも、はっきり言われてはちょっと困ります。セシル君とシリル君が仲良くなるにあたって、シリル君から拒まれるとどうしようもないですし。


「うーん、それだと困っちゃいますね。好みばかりはどうしようもないですし。どういう所が嫌いですか?」


 セシル君の嫌いなところって想像つきません。私全部引っくるめて好きですし。全部言ってると大変な事になるから言いませんけど……いつか本人に言ってみましょう。きっと顔が真っ赤になって照れちゃうでしょう、そんな可愛いところも好きなのですが。


 シリル君は少し悩んだ後、此方を気遣いつつもやや眉を寄せて。


「……何にも出来ないと思っていたのに、何でも出来る所がむかつきます」

「まあ万能な方だとは思いますが、セシル君にも出来ない事はありますよ」


 例えば女の子口説くとか。そこはイヴァン様とは正反対みたいです。


「俺にはもっと出来ません。……父から期待されてるのは兄さんだ。俺なんかどうでも良いんですよ、父は」

「そんな事ないですよ。イヴァン様も、あなたの事を気にかけてましたよ」

「そんな訳がない、だって父さんは」

「本人から聞いたんだから間違いないですよ」


 ああ、やっぱり擦れ違ってる。シリル君は自分に関心なんて抱かれてないって思ってるから、イヴァン様の関心を引き受けるセシル君が嫌なのでしょう。

 ……シリル君の事がどうでも良いとかじゃ、ないのに。確かにイヴァン様はシリル君には次代当主の座は渡せないと言いましたが、息子としては気にかけているのに。何も跡継ぎだけが子供の価値ではないのに、その子供が価値観を疑ってしまっているのですね。


「そんなの、」

「……なら、聞いちゃえば良いじゃないですか。腹割って話し合うのが一番です」


 何で断定的に「父は俺が嫌いだ」とか思い込んでるんですか。多分ちゃんと話していないでしょうに、イヴァン様は飄々としていましたが、シリル君やセシル君の事を案じる時は父親の顔をしていました。そして、いずれ家族になる私に期待をかけてくれた。

 そんなイヴァン様が、シリル君の事どうでも良いとか嫌いとか言う筈ないのに。


「あっさり言わないで下さいよ。あの人は、俺を見てなんか」

「そんなの聞いてみなきゃ分からないじゃないですか。聞いて駄目なら振り向いて貰うまでです」

「そんなの、」

「私が言えた義理じゃないですけど、あなた方家族は対話が足りないと思いますよ。対話して分かり合えないならそれは仕方ないですし、時間を置いて距離を縮めていくべきですけど、まだ話してもないでしょう」


 それなのに、話さない内から相手は自分の事を嫌っているんだってばかり。それは、自己防衛が働いているのでしょう。直接聞かずにそう信じて離れていれば、本当に拒絶される事はないから。

 ……家族全員がそんな考えだったから、歩み寄れる余地はある筈なのに、その一歩を踏み出す人が居なかったのです。


 でも、少しずつ変わってきたのも確か。

 セシル君はイヴァン様と向き合い出した。昔の嫌悪感は薄れて、今は何だかんだ嫌いつつもちゃんと会話はしています。まあ嫌いというのはイヴァン様がおちょくるせいでしょうけど。

 イヴァン様も、気遣っているのは分かりました。躊躇っているけれど、それでもどうにかしようとする姿勢は見てとれるのです。


 だから、後はシリル君だけ。ううん……多分、シリル君も、少しずつ歩み寄ろうとしているのかもしれません。だって、私の事、知りに来たんですから。


「だ、だからってあなたには関係ないでしょう」

「関係あります。あなたは嫌かもしれませんが、その内義姉になるんですから」


 なら、その手を取って二人と繋がせてあげるのが、私の役目。

 三人の間に立って、仲介するのが私に託された事。バラバラになったピースを繋ぎ合わせてきちんとした家族という形に戻すのが私のするべき事、いいえ、したい事です。

 家族というパズルの欠けてしまったピースに、私もなりたい。シリル君の母親にはなれないけれど、義姉として。


「……ちょっとだけでも、お話ししてみませんか」


 なるべく優しく問い掛けてみると、シリル君は返事をする事はなく、顔をくしゃりと歪めて走り去っていってしまいます。

 ……急きすぎた、のでしょう。まだ信頼関係だってきっちり結んだ訳でもない、シリル君としては私を義姉になると認めたくないかもしれませんし。他人が偉そうに、と思ってしまう可能性だって否定出来ません。


「……やっぱり口出ししない方が良かったのかな」

「いや、そうでもないが」


 吐息と共につい呟いてしまったのですが、まさかそれに返事が来るだなんて思ってなくて、しかもその声の主がよく見知っていて尚且つ件の人だったのだから、心臓が飛び出るかと思いましたよ。


 振り返ると、綺麗な銀髪を日光で輝かせながら、何とも言えない顔で肩を竦める愛しの人。……今日は訪問予定がなかった筈です、それにシリル君もそれを見越して訪ねてきたというのに、どうして。


「せ、セシル君……? 何で、此処に」

「お前が庭の世話をしてた時に来るって聞いたから、ルビィに頼んで影から聞かせてもらった」


 ……思えば、セシル君は多分私に話を聞いた時から、謎の男の子の正体が自分の弟だと気付いていたのでしょう。容姿を話したら、神妙な顔をしていましたし。それでも結局止めなかったのは、シリル君が何をしたかったのか見定める為だったのでしょう。


 ルビィも共犯みたいですね。多分ルビィもセシル君か父様に聞いていたか……若しくは、社交界で見掛けたのかもしれません。ルビィは、シリル君の存在に悪い顔をしてなかったから。


 全部聞いていたらしいセシル君は「盗み聞きして悪かった」とちょっと申し訳なさそうで。……セシル君も心配だから様子を見に来たのでしょう。


「……やっぱりあいつ、俺の事疎ましかったんだろうな。俺があいつの欲しいものを全部取って行ったからな。当主の座も、親の関心も、シュタインベルトの血も」

「そんな……」

「……まあ、そうそう和解出来るとは思ってなかったんだが……ああも言われると、ちょっと寂しいな」


 へらりと、セシル君には珍しく空気の抜けたような、笑み。けど、それは笑みと呼ぶにはぎこちないもの。口角は無理矢理吊り上げているのに、眉は下がって感情を雄弁に語っています。

 ……セシル君も、シリル君の事を気にしていたのでしょう。でなければ、私と彼が接触するの自体を拒んだ筈ですから。セシル君だって好きで仲違いしていたい訳じゃない、そんなの顔を見なくたって分かります。


「……セシル君」

「ま、おいおい話していけば……」

「……ねえセシル君。そうやって、後回しにしたから拗れたんじゃないですか?」


 ……ごめんねセシル君、きっと、まだ他人の私が偉そうに、きつい事言っちゃう。


「私から口出しするのは良くないですけど……悪い子じゃないって思うし、本当にセシル君の事嫌ってる訳じゃないと思います。多分、突き放されるのが怖いんだと思います。昔のセシル君そっくり、他人に拒まれるのが怖くて、ずっと壁を作ってた頃のセシル君に」


 セシル君と話した時もそうでしたけど、彼はセシル君そっくりです。セシル君よりは柔らかいし融通こそ聞きますが、仲違いして年月が経っているので、シリル君も父や兄は自分を疎んでいるんだって決め付けて思い込んでしまっている。

 それなのにまた時間を置いて話していくなんて、駄目です。シリル君はその間もずっとひとりぼっちで寂しいままじゃないですか。


「……セシル君だってずっとひとりぼっちが続くなんて、嫌でしょう?」

「……そうだな、もし俺もあのままずっと孤独だったと考えたら、ぞっとするよ」

「今、シリル君だってその状態ですよ。突き放されたと思って、壁に閉じ籠ってます。……その壁をぶち抜くのは、私じゃなくて、二人であるべきです」


 私から言ったって、彼の耳には届きません。本人である、セシル君やイヴァン様からじゃないと、きっと届かない。


 だからセシル君が、と言いかけて、セシル君の掌がくしゃりと頭を撫でてきた事によって中断してしまいます。

 いきなりで目を丸くした私に、セシル君はまたくしゃくしゃと撫でて……というかセットを乱しかねない、いえ確実にぐしゃぐしゃにしていますよねこれ。


「ちょ、セシル君?」

「ありがとうな、リズ」


 ……もう少し丁寧に扱って欲しい、と思ったものの、セシル君の何かを決めた笑みを見て、文句は飲み込みます。


「……お前を迎え入れる為に家の厄介事処理してきたけどさ、一番始めの部分が出来てなかったみたいだ」


 ルビィの兄貴ぶっといて、自分の弟には兄面すら出来てないなんてな。と苦笑いをしたセシル君、でも表情を引き締めて、私には柔らかい笑みを向けて。


「……ちょっと、行ってくる。まあこっぴどく振られたら慰めてくれ」

「ふふ、任せて下さい。何回でも慰めて応援してあげますから」

「頼んだぞ」


 茶化すように笑ったセシル君に、私もまた同じように微笑んで。

 じゃあ行ってくる、と私に背を向けたセシル君。もう、躊躇いもありませんでした。


「……大丈夫ですよ、きっと」

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