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もう一つの物語  作者: 佐伯さん
本編
18/52

18 「……迷子防止だ」

「兄様、このまま押し切っちゃえ!」


 おかしい、私ルビィに何も言ってない筈なのですが。


 律儀に今日も時間十分前にルビィの家庭教師にやってきたセシル君ですが、出迎えた私の隣を擦り抜け抱き付いたルビィの言葉に頬を引き攣らせていました。

 それからギンッと鋭い眼差しで此方を睨んで来た為、かなり誤解を招いている気がして頭をぶんぶんと振ります。待って、私悪くない。ルビィには一言もそんな事言ってないし匂わせてすらいません。


 私は関与してませんと身振り手振りでアピールすると、セシル君ルビィなら有り得ると思ったのか深く溜め息を零して「何処で嗅ぎ付けたんだよ……」とぼやいています。私が聞きたいですそれ、私何も言ってません。

 可能性としては父様か母様だとは思うのですよ、ジルにはこの事内緒にしてるみたいなので。言わない方が良いと言われたのでだんまりしてるのです。


「父様に聞いたの!」

「ルビィ、ちょっと待ってろ。諸悪の根源絞めてくるから」

「落ち着いてセシル君!」

「兄様、姉様嫌なの?」


 流石と言うか、ルビィあざといですそれは。

 うるうると上目遣いで「姉様嫌い?」とこてりと首を傾げられると、セシル君も怒りを持続している訳にも参りません。宥め方が手慣れてきていると言うか……気のせいかどうしたらどう行動してくれるか計算でやってる気も。いやいやルビィですし、ほら、例えそうでも可愛いから許される……筈。


 一先ずルビィにより矛を収めてくれたらしいセシル君。ルビィの問いには頑なに答えてくれそうもありませんが、何となく想像は付いてるのでいいかなーと。

 勿論、答えは「友人としては好き」と言われるでしょう。異性としてかは、私でも分かりませんが……ルビィに答えるならこれ一択です。


 やや機嫌が降下したセシル君ですが、ルビィのにこにこに脱力させられたらしく仕方ないと深く溜め息。私達姉弟がセシル君の精神的な負担を増やしている気もしなくもないですが……うん、わざとじゃないですよ?


「ふふ、でも兄様が姉様とかー」

「……勘違いすんなよ? あくまで十七になっても相手が居なければ、だからな?」

「うん、だから姉様とだよね?」

「……お前最近俺を罠に嵌めたがるな?」

「罠じゃないよ?」


 ……仲良さそうで何よりなのかなこれ。心なしかセシル君の頬が再び引き攣りだしております。


「折角だから一緒にお出掛けしたりしてみればいいのに。しないの?」

「特にする必要ないだろ」

「兄様案外甲斐性ないね?」


 あっセシル君の眉間にかなり皺が寄ってる。ルビィ笑顔でぐさぐさ刺してませんかね。

 ……ルビィは誤解と言うか思い込んでますけど、別に……お出掛けとかしなくても、結構な時間一緒に居るので。お仕事ですけど、時間は共に過ごしているのですよ。

 セシル君だってわざわざ用もなく出掛ける事なんてないでしょうし、出掛けるなら一人で出掛けると思います。私が危なっかしいと叱るし。


「ルビィ、セシル君は私なんか連れ出しても楽しくないと思いますよ? セシル君単独行動する方が多いですし」

「……別に楽しくないとは思わない」

「それなら良いですけど。でもまあ用事もないのにセシル君出掛けてくれないでしょう、出掛けたって買い出しくらいですよ? ルビィも我が儘言わないの、セシル君忙しいし一人の方が気が楽でしょうし」

「……兄様ー、これは自業自得だと思う」

「やかましい」


 ルビィの困ったような呆れたような何とも言えない眼差しにセシル君が微妙に疲れた顔。これ、私が疲れさせているのでしょうか。


 いやだってセシル君お出掛け滅多にしませんし、買い出しに付き合っても必要なものしか買いませんし直ぐに魔導院に帰っちゃいますから。たまーに、それも軽い荷物の時に限りお茶するくらいで。


 だからルビィの期待の期待に応えられるような事がある訳ないのですよね。出掛けた所で普通にお茶して直ぐに帰ってきますし、それなら家で読書なりお茶なりした方が良いです。私も出不精かもしれませんが。


「……出掛けたいなら、言ってくれたら出掛ける」

「そうです?」

「ほら姉様、兄様もそう言ってるんだし出掛けてきたら?」


 背中を押すようにと言うか物理的に押して私をセシル君とお外に出そうとするルビィ。いえ、気遣いは嬉しいですしお出掛けも嬉しいですが、今日は家庭教師の日ですからね?


 視線で何を考えているのか分かったらしいルビィはにこやかに「今日は自主練習しておく」と逃げ道を塞ぐように付け足して、これは本当に行かせる気満々だなとか悟るのですよ。

 セシル君もルビィが譲りそうにないのを見て嘆息。それから、ちらりと此方を見て。


「……リズ、出掛けるぞ」

「え?」

「どうせルビィの事だから出掛けるまで何かしら駄々をこねるぞ。それよりは諦めて出掛けた方が良い」

「セシル君もすっかり馴染んで……」


 嫌な慣れ方の気もしなくはないですが、ルビィは基本私達の為に考えてしてくれているのですよね。まあ自分の為ではあるのでしょうが。

 ルビィとしては私達に仲良くなって欲しいのでしょうし、あわよくばくっつけば良いと思って……いえそう仕向けているというか画策してるのです。我が弟ながらその辺り恐ろしい。


 ……別に、お出掛けは嫌じゃないですし、セシル君と一緒なら何処でも楽しいとは思いますけど。


「じゃあいってらっしゃい!」

「行く事決定系なのですね……い、行ってきます……?」


 何と言うか、今日は割と強引にルビィに勧められ、セシル君と二人半ば家を追い出される形でお外に出る事になりました。

 屋敷を取り囲む外壁の外に出た所で、私はセシル君と顔を見合せて何とも言えず苦笑い。ルビィ、今日はやけに積極的に推してきたというか。何かあったのでしょうか。


「すみませんルビィが」

「いつもの事だ」

「……申し訳ないです」


 ルビィ、普段は良い子で大人しいのにセシル君の事となるとはしゃいだりちょっとした我が儘言っちゃうんですよね。セシル君がそれだけ好きと言う事の裏返しでもありますが。


「それで、結局何処に行くんですか?」

「さあな。……何処に行く?」

「特に行く所ないですよね」


 お出掛け早々、早速行き詰まる私達。

 そもそもプランなしに行き当たりばったりに何処かに行くなんて私達苦手なのですよね。お互いに無駄遣いとかしないですし、私は私で男性と服飾店に行くとかないですから。

 いえそういう店に行くと男性に何となくの範囲ですがサイズを知られる事になりますし、そもそも支払いとか男性持ちになる場合があるので申し訳ないです。


 私もセシル君も着飾る事はあまりしないので、お出掛けしたいと思う場所に限りがあるのです。それがまあお仕事用に材料とか売ってる場所かカフェくらいだから、半日空いた時間を潰すにはちょっと少ない。


 どうしたものか、と悩む私でしたが、ふとお互いの趣味に合って尚且つ時間を費やしそうな場所が一ヶ所思い付きます。私はこの間行ったばかりなのですが、セシル君は恐らく未訪問なのではないでしょうか。


「……あ、じゃあ知り合いの魔道具店にでも行きますか? 色々あるんですよ」


 エルザさんのお店なら多分開いているでしょうし、セシル君は魔道具職人としては心惹かれるものがあるのではないかと思いまして。

 あのお店、明らかに今の魔導師では再現出来ないような魔道具まで置いてますからね。セシル君にも作れなさそうな謎の魔道具とかありますよ。その辺職人魂なるものが擽られるのではないかと。


「行く当てもないからそこに行くか」

「ふふ、はーい」


 ちょっと瞳の色を変えたセシル君に微笑ましさを感じつつ、私の先導の元エルザさんのお店を目指す事になりました。




 市民街の方に出て、大通りから外れた脇道を進んでエルザさんのお店に行く訳ですが、セシル君此方は通らないのかやや物珍しそうにしています。

 結構奥まった所にあるので知る人ぞ知る的なお店なんですよね。というか実際知ってる人少ないのでは。私の知り合い以外にお客さん見た事ないので。

 エルザさんが儲けてるのかは知りませんが私達にあまりお金は要求しないので、最早道楽みたいなものではないかと勝手に想像してます。


 そんな訳でお店のドアを開けて中に入ったのですが……相変わらず微妙に薄暗い室内、カウンターに気怠げに佇む美しい女性。いつもと同じように頬杖を着いて私達に視線を向ける姿は、何処か憂うような雰囲気でもあります。

 ただまあ、直ぐに揶揄するような笑みに変わるのですが。


「エルザさんこんにちは」

「いらっしゃい、今日は恋人連れかい?」

「そんな関係じゃない!」


 弾かれたように即座な反応を見せるセシル君に、エルザさん更に笑みを濃くしています。微妙にセシル君がロックオンされた気がしますよ、何がってからかう相手として。

 即座に否定されるのはいつもの事ですし当たり前だとは思うのですが、……何か、ちょっと寂しい気もしますね。


「嬢ちゃんも中々やるねえ」

「え、エルザさん、えっとですね、彼は……その、大切な友人ですよ。からかわないであげて下さい」

「おやおや」


 にやにやと端正な美貌を緩めているエルザさんですが、不思議と不快感はない笑みです。ただまあからかわれているというのはよく分かるのですけどね。


「えっと、セシル君、彼女がこの店の店主であるエルザさんです。小さい頃からお世話になっているのですよ」

「……信用出来るのかこいつ」

「ちょっとお茶目な所はありますが、品揃えは凄いですよ。私のリボンとか例の成長の飴、ルビィの魔導書も此処で買いましたから」

「は!?」


 そう言えばまだ言ってませんでしたよね、と紹介すればやっぱり初耳だったらしくセシル君が目を剥いています。

 そりゃびっくりですよね、現状ほぼ入手不可能な希少価値の高い魔導書を売ってるなんて、普通信じられません。それに私のリボンだって作るのがかなり難しい完全な魔力隠蔽の性質を持ったもの。効果は元導師の目を欺く程なのでお墨付きです。


 そんなものがごろごろと転がっているこのお店は、セシル君の常識から考えて有り得ないでしょう。魔道具自体作製が困難という点もありますからね。

 セシル君も陳列された商品を見ては僅かに瞳を細めています。やっぱり気になるみたいですね。


「……魔導書を売るなど。価値が分かっているのか?」

「……実は買い取ったんじゃなくて貰ったというか……」

「はぁ!? 何という事を……!」

「私にとっちゃ、必要な人間に与えてこそ道具の価値が生まれると思ってるからね。使い手の居ない道具は無価値だよ」


 だから私は値段に拘らないし必要ならば対価を要求せず相応の人物に与える、と商売人としてはあまり宜しくない、けど作り手としては信念を感じさせる言葉。利潤を求めていないように見えていたのは、そこから来ていたのですね。


 私達には分からなかった理由を聞かされて、私もセシル君も絶句して。それから、セシル君は「勝手な事を言ってすまなかった」と小さく謝罪をしました。エルザさんもへらへら笑って気にするなと言わんばかりに手を振っているので、その辺り信念は揺らがないから余裕があるのでしょう。


「魔導書だって、此処で埋もれるより相応しい使い手に使ってもらう方が本望だろう。そもそも魔導書に現れる魔術は頭にあるからね」

「……何だこの規格外」

「製作者本人ですからね……」

「待て、魔導書は百年単位で昔に作られた物の筈だ」


 セシル君が感心したのも束の間、私の言葉があんまりに想定外だったらしく頬を引き攣らせています。

 私も最初は驚いたのですが、何かエルザさんなら有り得そうだよなって事ですんなり納得してしまいました。ほら、昔から不思議な人でしたし一切外見に衰えはないですからね。本当に数百年生きててもおかしくなさそうです。


「……待てよ、エルザつったな。……エルザ=ハイゼンベルグか?」

「おや、懐かしい名前を」


 よくそんな名前を知っていたね、と笑みを浮かべるエルザさんに、セシル君はますます眉間の皺を濃くします。私は名前として知らないのですが……聞き覚えがあるような、ないような。

 セシル君が知っているからには何処かの文献に載っているのでしょう。魔導書を作れる程の実力者なら高名である可能性も高いですし。


「セシル君、何故そう思ったのですか?」

「魔導書を作れる人間で思い当たる名前はそれしかなかった。稀代の魔導師として、そしてかなりの変人として名を残している。……つっても、そのエルザ=ハイゼンベルグは数百年前の人間だがな。あんたは、本人なのか」

「さあね。私はただのエルザで、この店の店主。それで充分だろう?」


 名も肩書きも必要ない、そう笑ったエルザさんをどう思ったのか。ただ美しく笑んだエルザさんに「そうだな」と静かに頷いて、言及するのを止めました。


 エルザさんが、何者なのか。その数百年前の時代を生きていたエルザ=ハイゼンベルグその人なのか、私には分かりません。

 けれど、私にとってエルザさんはエルザさんでそれ以上それ以外もないのだから、それで良いのだと思います。


 それ以上の追及を止めたセシル君は、並んでいる魔道具に視線を移しては興味深そうにしています。手に取ってじっくり眺め、検分する姿は真剣そのもの。仕事でもある魔道具作りの参考になるのでしょうね。


「……全てあんたが作ったものか?」

「全部が全部ではないけどね。収集品もあるし。坊やはどんなのが欲しいんだい?」

「坊や言うな。……基本的に、魔道具は自分で作る。参考にするが、なるべく自分で作る努力はする」

「おや、魔道具作れる人間が居たのかい」

「あっ、そうなんですよ。セシル君魔道具作れるんですよ、このブローチはセシル君に作ってもらいました!」


 セシル君に前貰った、『コキュートス』の補助術式を刻み込んだブローチを、エルザさんに見えるように揺らします。

 これはあくまで魔道具単体で使用出来るものでなく魔術の制御を安定させる為のものなのですが、それだけでも凄いと思うのですよ。そもそも魔術を開発した上での、このブローチですからね。普通の人は魔術開発なんて出来ませんから。


 私が作った訳ではないのですが誇らしげに見せると、エルザさんは瞳をぱちくりとさせて、それから「よく見せておくれ」と手招き。素直に近寄ると胸元に飾ったブローチを凝視して来ました。


「……ふむ。この時代にちゃんとした魔道具を作れる人間も居るもんだね。特別な術式の補助用だろう?」

「まあな。リズに負担をなるべくかけないようにしている。一度に扱う魔力の量が桁外れだからな」


 それでも全力は制御しきれなかったが、とやや悔やんだ声だったので、私が至らなかったのが悪かったんですと主張します。セシル君は悪くありません、私の制御が追い付かなかったのが問題で、セシル君には何ら非はないのです。


 だから気にしないで下さい、と笑うとセシル君は少し申し訳なさそうな顔をしつつも頷いてくれます。ただ「これも改良するべきか」と呟いてる辺り向上心溢れているというか心配をかけすぎているというか。

 ……自分でも『コキュートス』、ちゃんと練習しなきゃな。今度はちゃんと扱えるように、特訓しなくては。


「これ、大分苦心して作ったろう。あちこちに改良の後が見られるし。制御の為の術式もそうだし魔力の流れをスムーズにするようにしてある、そもそもこのブローチも一から作ったんだろう?」

「……セシル君、そんなに細かくしてくれてたのですか……?」

「別にそんな大した手間は掛けてない」


 何て事のないように返すセシル君に、何だか申し訳なさで一杯です。セシル君、あの時本当に寝不足だったみたいですし……私の我が儘を完璧に叶えておまけにフォローもしてくれて。感謝の言葉で一杯です。


「嬢ちゃんも想われてるね」


 胸がじんわりと熱くなっていると、エルザさんは微かに微笑んでセシル君に意味ありげな視線。それを受けたセシル君がかっと赤くなってエルザさんを睨みます。

 笑みが微笑ましそうというか若干にやにやしたものになっているエルザさんに、セシル君唇をもごもごとさせてはふんと鼻を鳴らしてそっぽ向いてしまいました。


「初々しい事で」


 小さな呟きにセシル君が我慢しきれなくなったのか「もう行くぞ」と私の手を掴んでエルザさんから離し、扉に向かって進んでいきます。

 まだそんな時間経ってないですしもうちょっと、と思ったのですが力強く手を引かれてはどうにもなりません。大きな掌に掴まれて、強引に引き摺られていきます。


「はは、また来てねー」


 エルザさんは何が楽しいのかにやにやしながら手を振っていて、私は頭だけ下げてセシル君に誘導されお店を出る事になるのでした。


 エルザさんの店を出て暫く進んだ所で、セシル君は漸く脚を止めてくれます。セシル君脚長いし歩幅も大きいから中々に追い付くのが大変で小走りになっていたのですが、途中で私が頑張って着いてきていた事に気付いて止まってくれました。

 振り返ったセシル君の顔は顰めっ面で、おずおずと見上げた私を見ては少し表情を和らげます。ごめん、と小さく謝って、それから溜め息。


「……あの人は、いつもああなのか」

「は、はい。エルザさんはいつもあんな感じなので……からかうのが好きなのですよ」

「だろうな」


 一気に疲れた顔をするセシル君ですが、その瞳はやや柔らかい。何だかんだであのお店自体は気に入ったのでしょうね、エルザさんは苦手っぽそうではありますが。父様に通じるからかいがありますからね……。

 そんなセシル君、ちょっぴり満足そうなので連れていって悪くなかったなあと思うのです。褒められて嬉しいのかと。エルザさんは魔道具に関しては一流ですし、認められたとあれば嬉しいでしょう。


 ふふ、と笑うとバツが悪そうに顔を背けるセシル君。やっぱり気に入ってたんだ、と零すとセシル君はそっぽ向いたまま「うるさい」と一蹴してしまいます。


 これ以上追及すれば多分拗ねちゃうから此処までにしておき、私は繋がれた手に視線を落とします。

 来る時は繋いでくれなかった手。引っ張る為なのでしょうが掌をしっかり掴んでくれていて、大きな掌が私の掌を包むように繋いでいます。


 それが嬉しくて頬を緩めると、私の視線で気付いたのかさっと頬を赤らめ、でも離そうとはしません。


「……迷子防止だ」

「失礼なのですよ」


 もう、と唇を尖らせるとセシル君少し溜飲が下がったのか口の端を吊り上げ、それから柔らかな眼差し。こっちがどきっとするくらいに綺麗な満月の瞳が、私に向けられて。


「……行くか」

「……うん」


 ただその一言を返すだけで変に気恥ずかしくて俯けば、きゅっと掌に力を入れられます。けど優しく握られているのは、力加減で分かる。

 お互い合図する事なく歩き出して、今度は私を気遣ってゆっくり歩き出すセシル君にはにかみ。少しだけセシル君との距離を縮めて寄り添うように歩を進めるのでした。

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