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第2章  浦代官


第2章  浦代官



 神人達の寄進で新造なった代官屋敷に入った香西五郎左衛門は、頬骨が張った色白の顔の一線を引いた様な細い目を更に細くして、浦代官補としての船越与三郎に言った。

「ここの神人達は裕福じゃのう。」

「さようでございますな。これだけの普請をポンと寄進出来るのですから、かなりの貯えを持しておるはずでしょう。」

 代官と違って色の浅黒い大男の代官補は肯き答えた。

「これからは、神人達は生かすな、殺すな。取れるだけの物はすべて取ってしまえ。」


 仁尾浦代官に就任した香西五郎左衛門は「役徳」又は「徳役」と称される兵粮銭催促、一国平均役催促の賦課を行った。

「新兵衛尉、惣官としてのお主に申し渡す。御用である。こたびの和州御陣に際しての兵粮銭30貫文を早急に納めよ。兵船は4艘じゃ。」

「ははー、あい勤めさせていただきまする。」

 惣官の原新兵衛尉は白砂に頭をすりつけ代官の命を受けた。

「よしよし、後は与三郎に聞け。」


 永享11年春。惣官の原新兵衛尉は再度代官に呼ばれた。

「新兵衛尉。先の御用は大儀であった。戦が長引いてな、次の御用は50貫文じゃ。」

 庭に正座させられたうえ小半刻も待たせられ、やっと代官香西五郎左衛門がきざはしまで出て来たと同時に能面のように白い顔を見せ言った。

「へへー、されど、先に30貫文を収めさせていただいたばかりに、50貫文とは無茶でございます。」

 原新兵衛尉は白砂の上で痛い足をかばいながら頭を上げて代官に言った。

「何を申しておる。これは細川様よりのきついお達しである。ならば使者雑用以下として10貫文計60貫文を納めよ。」

「そ、そんな無体な。」

「こりゃ、無体も何もあるものか。御用じゃ。すぐにでも帰って集めるのじゃ。」

 横から代官補の船越与三郎が言った。

「そ、それにしても60貫文は過ぎまする。」

「よしよし、原新兵衛尉。さすればこうしよう。この御用を厳密に納めたならば以前の徳役の事は返し下さるものとしよう。どうじゃ。」

 代官の五郎左衛門が腰を落として新兵衛尉を諭すように言った。

「はっさようで。ならば村へ帰り御用を勤めさせていただきます。」

 原新兵衛尉はこれ以上言っても仕方が無いと諦め代官屋敷をあとにした。


「どうじゃ、与三郎。あやつらは持っておるは。何としても吸い上げるのじゃ。」

 原新兵衛尉が帰って代官香西五郎左衛門は座敷に座り、船越与三郎を前にして言った。

「それにしても代官様。先の徳役を返してやるとはいかがなものでしょうか。」

「ははは、お主も馬鹿じゃのう。誰が返すものか。」

「さらばうそでござるか。」

「うそも方便じゃ。返してくれと言って来た時には新たな徳役を作ればいいではないか。」

 代官は片手に持った扇子で自分の頭を叩きながら

「どうじゃ、ここの使いようじゃて。」

 と言った。

「はっ、なるほど。左様でございまするなぁ。代官にはかないませぬ。」


 兵船徴発は細川氏所領として義務づけられている「海上の諸役」の具体的形態である。

 本来兵船徴発は守護代が課すものであるが仁尾浦では代官香西五郎左衛門が賦課している。浦人は精一杯「御用」をつとめていると述べている。

 代官の親父逝去に伴う徳役はまさに香西氏の恣意によって課された「徳役」であり、仁尾浦神人は20余貫文を納めさせられている。

 兵船徴発は守護代側の軍勢催促の権限と衝突をひき起こした。


 仁尾浦は「今度の御大儀」すなわち嘉吉の乱勃発に伴い讃岐国「西方御勢上洛」の為ということで、西方守護代香川修理亮景光から「出船」の催促を受け、船二艘を仕立てたところ、代官香西五郎左衛門からそれは「僻事」、すなわち取り違いであるということを申し懸けられ、香西氏はその対応処置としてであろうか船頭を召し取り、船を止め置いた。

 そして、香西方への船のことは「御用」に従ってまた命令を行うからまずは待て、と香西五郎左衛門から文書で通知を受けたので、船の準備はやめて指示を待っていた。






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