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第8章 電話

『拓真くん……?』

「どうしたの?」

 ともちゃんは消え入りそうな声で、でもはっきりとこう言った。

『私、死のうと思う』

「何言ってるんだよ!」

『拓真くん、今までありがとう』

「今どこにいるの?」

『松川駅だけど……』

 最寄り駅の隣の駅だ。

「今から行くから待ってろ! 死ぬな!」

 僕は家を飛び出した。

 ともちゃんは駅のホームに一人で立っていた。目がうつろだ。僕は両肩に手をやってともちゃんを揺さぶった。

「ともちゃん、しっかりしろよ!」

「拓真、くん……」

 そしてともちゃんは倒れるかのように僕の腕の中へなだれ込んできた。

「どうして、来てくれたの……?」

「ともちゃんのことが心配だからに決まってるだろ!」

「どうして、私のことなんか……」

「だって、友達だろ?」

「友、達……」

 ともちゃんは、

「私、政和に振られて、目の前が真っ暗になって……」

 と言い静かに泣き出した。

「ともちゃん……」

 僕は何も声をかけられなかった。ただ、しっかりとともちゃんを抱いていた。

「でも、拓真くんは来てくれた。嬉しかった」

「当たり前だろ」

 少し間を置いてから、ともちゃんは僕の背中に手を回しながら言った。

「……ねえ、拓真くんのこと好きになっちゃ駄目……?」

 思いがけない言葉に僕は目を丸くした。

「駄目だよ、僕には沙織がいる」

 とは言えなかった。外は雨が降っていて、雨粒が地面に当たる音が僕たちを包んでいた。


『拓真くん、好き』

 ともちゃんから来たメールを見ながら、僕はため息を吐いた。

「拓真、大きなため息なんか吐いてどうした」

 自分の席に座る僕の肩を政和が叩いた。

「お前のせいだよ……」

 ともちゃんと会った日、僕はちゃんとした回答を出せぬまま帰路についた。勿論、僕は沙織のことが好きなのだけど。でも、そうやってあの場面で口に出してしまうのはあまりにもともちゃんが可哀想だと思ったんだ。

「お前、今日は沙織ちゃんち行くんだろ。もっと嬉しそうな顔してろよ」

 そう、僕は今日、初めて沙織の家に行く。

「そうだよな……よしっ、ひとまず忘れよう」

 ともちゃんのことは今日は考えないことにした。


「拓真くん、お待たせ」

「今日も可愛い服着てるね」

「ありがとう。私んちはこっち、こっち」

 君のあとを付いていくと、一軒家に辿り着いた。

「沙織んちってデカいなー」

「そんなことないよ」

 しかし、君の部屋も僕の部屋より広かった。

「一人っ子だっけ?」

「そうだよ」

「……もしかして、お嬢様?」

「まさか」

 しかし、リビングにグランドピアノがあるのを見た。身分違いの恋だったらどうしよう……と僕は不安になった。

「じゃあ、ぷよぷよしようよ」

 君の提案で僕たちはテレビゲームをした。君はなかなか強くて、僕は負けてばかりだった。その後恋愛もののDVDを観て、日も暮れてきたころ僕は帰ることにした。

「今日はありがとう」

「僕の方こそ」

 そして、別れのキスをする。

「またな!」

 僕は手を振った。君も手を振り返した。

「……あ、携帯」

 帰りの電車の中で、僕は沙織の家に携帯電話を忘れたことを思い出した。明日、沙織にバイト先に持ってきてもらえばいっか。僕は引き返すことなく、自宅に帰宅した。

 家には誰もいなかった。電話を見てみると、留守電が入っているようなので僕は聞いてみることにする。

『新しい録音が二十三件あります』

 ――え?

『拓真くん』

 沙織の声だ。

『浮気、してるでしょ』

 そう言って切れた。二件目を再生してみる。

『許さないから』

 また沙織だ。三件目も、四件目も同じ。この分だと全部、沙織なのだろう。僕は血の気が引くのを感じた。どうしてこんなことをしたのか。浮気なんて、しているわけないじゃないか。

 延々と続くかのような留守電を聞いているとき、電話が鳴った。僕は電話をとる。

「……」

『拓真くん?』

 やっぱり。

「沙織、どうしてこんなことをするんだ?」

『携帯』

「え?」

『拓真くん、好き、っていうメールがあった』

 ともちゃんからのメールだ。僕は言った。

「それは、一方的に言われただけで……」

『嘘』

「嘘じゃない! 大体、勝手に人の携帯見るなよ」

『どうして?』

「どうしてって、プライバシーの侵害だろ」

『だって拓真くんは私のものでしょ? なのに、何で見ちゃいけないの?』

 悪びれた様子もなく君は言った。僕はしばし言葉を失った。

「……とにかく、浮気は誤解だから。とりあえず、今から携帯取りに行くから」

 明日なんて言っていたら沙織が僕の携帯電話で何をするか分からない。そう言って電話を切ると、僕は沙織の家へと向かった。


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