第7章 友達
校門で別れる際、政和と会った。
「あ、拓真」
「政和……」
僕はともちゃんの電話を思い出した。
「もしかして、その子が沙織ちゃん?」
「そうだけど……」
「初めまして」
沙織がぺこりと頭を下げる。
「すげえ美人じゃん。拓真にはもったいないな」
「それ、親にも言われたよ」
「拓真のこと好き?」
「はい、好きです」
君は微笑みながら答えた。
「くーっ、拓真は幸せ者だなー」
「それよりも政和、ともちゃんと別れたって本当か?」
「あれ、何で知ってんの」
「ともちゃんからメールが来た」
「そうなんだ」
「お前の方からフったって?」
「ああ」
「どうして」
「んー、好きじゃなくなったからかな」
こともなげに言う。
「ともちゃん、いい子じゃないか。泣いてたぞ」
「しょうがねえだろ。恋愛対象として見れなくなったんだから」
「彼女と……別れたんですか?」
遠慮がちに君が訊く。
「そうなんだよ。どう? 俺の新しい彼女にならない?」
「ちょ、政和!」
「冗談冗談。あ、沙織ちゃん、メアド教えてよ。もし拓真が浮気したときは俺が慰めてあげるからさ」
「しねえよ!」
「いいですよ」
うふふと笑いながら君はメアドを教えた。
「サンキュ。じゃあ拓真、行くぞ」
「おう。ありがとね、沙織。またな」
「うん、またね」
君は見えなくなるまで手を振っていた。
「たださ、沙織ってちょっと変わってるんだよな」
政和と弁当を食べながら言った。
「どこが?」
メールの件を説明する。
「僕、何だか怖くなって」
「一途って感じでいいじゃんか。お前、想われてんだぞ」
「そうともとれるけど……」
「俺、結構ああいう子タイプかも」
「盗るなよ」
「略奪愛って奴?」
政和は歯を見せて笑った。
その時、携帯電話が震えた。沙織からメールだ。
『今、何してるの?』
僕は、
『政和と弁当食ってる』
と返信した。
「ラブラブで羨ましいなー。あー、俺も彼女欲しい」
「じゃあ、ともちゃんとより戻せよ」
「無理無理」
政和は首を振った。
「それよりもお前、早く沙織ちゃんとエッチしろよ」
「そんなこと、出来るわけないじゃないか」
「お前、分かってないなー。抱かれてこそ、愛を感じるんだぜ?」
「うーん……」
そんなものなのだろうか。
弁当を食べ終わると、僕は自分の席に着いて次の教科の準備をし始めた。すると、また携帯電話が震えた。
『今、何してるの?』
沙織からだ。僕は、
『五限目の国語の準備』
と送った。沙織もマメだなあと感心していられるのは今のうちだった。
『今、何してる?』
国語の授業中にまた沙織からのメール。そのメールは六時限目にも来た。ちょっとしつこいなと思ったが、まさか本人に言えるわけもない。僕はその度返信をした。
「何、また沙織ちゃん?」
放課後、政和が僕の携帯電話を覗きながら言った。
「うん。今日で十通目」
「沙織ちゃん、健気だなあ」
これは健気と言うのだろうか。
「なあ、今日は沙織ちゃんも交えて三人で遊ばないか?」
政和の提案に僕は一瞬迷ったが、友達に沙織のことをよく知ってもらうのは良いことだろう、了解した。沙織にも話をする。
『いいよ』
そして僕たちは駅へ向かった。
「あ、沙織ちゃんだ」
僕より早く沙織を見つけられたのがちょっと悔しかった。
「今日は、政和くん」
君は大きな麦わら帽子をかぶっている。
「じゃあ、さっきメールで言った通り遊園地行こうか」
「うんっ」
君ははしゃいでみせた。
「沙織ちゃんは、拓真のどこが好きになったの?」
「素直なところ。あと、優しいところ」
「俺も素直だよー?」
「政和!」
政和はことごとく沙織を口説いていた。冗談だとは分かっていても、つい焦ってしまう。
「よし、着いた。まず何乗る?」
「僕、お化け屋敷入りたい」
「えー、私お化け屋敷苦手……」
チャンスだ、と思った。お化け屋敷でなら手を繋げられるかもしれない。運が良ければ、君が抱き付いてくれるかも……なんて。
「大丈夫だよ、僕が付いてるから」
爽やかな笑顔を浮かべてみせる。すると、
「じゃあ……入る」
と言ってくれた。
お化け屋敷の中は真っ暗だった。僕は君の手をしっかりと繋いで前へ進む。
「きゃっ」
お化け役をした人が出てくる度、君は強く手を握ってきた。
「怖い、もう無理」
「もう少しだから」
君を励ましながら、どうにか出口まで辿り着いた。君は今にも泣きそうな顔をしていた。
「沙織ちゃんは本当に可愛いなあ」
政和、鼻の下が伸びているぞ。
その後、僕たちはジェットコースターや観覧車に乗って思う存分楽しんだ。駅で君を送ったあと、政和が言った。
「本当にお前は幸せ者だよ……」
ともちゃんから電話が来たのはその晩のことだった。