第6章 メール
携帯電話のバイブで目が覚めた。時計を見ると、午前二時。こんな時間に誰からだろう? と思って携帯電話を開く。沙織からメールだ。
『今までずっと携帯の前で拓真くんの返信を待っていました。何で返信してくれないの?』
僕は戸惑った。もう、会話は終わったものと思っていたのに。とりあえず返信する。
『ごめん。もう話は終わったと思ったからさ』
返事はすぐに来た。
『拓真くんと話したいこと、いっぱいあるのに』
そう言われても……。返信の内容に迷っている間、また沙織からメールが来た。
『拓真くんのこと、大好きなんだよ。拓真くんは私のこと好きじゃないの? ただの遊びなの?』
少し面倒だなと思った。再び携帯電話が震える。また沙織からかな……と重い気持ちで開いてみると、何だ、ともちゃんからだ。僕はほっとして本文を読んだ。
『政和にフラれちゃった……』
え? 突然のことに僕は困惑した。心配になったので電話をかけてみる。ともちゃんはすぐに電話に出た。
『拓真くん……』
ともちゃんは涙声だった。
「どうしたんだよ。何があったの?」
『もう、私のことが好きじゃないんだって……』
「そんな、どうして」
『分からないよ』
ともちゃんが嗚咽を漏らし始めた。可哀想だと思った。ともちゃんは本当にいい子だ。そんな彼女をフるなんて酷い。
「学校で政和に問いただしてみるよ」
『ううん、いいの』
「どうして」
意外な言葉に僕は問い返した。
『政和と、最近キスもしてなかった。してくれようとしなかった。会いたい、って言っても忙しいって言われてあまり会ってなかった。本当は分かってた。もう、政和の心は離れてるって。だから、もういいの』
けれど、泣いているっていうことはまだ政和に未練があるんじゃないのか? でも、だからといって政和に何か言ったところで復縁出来るとは思えない。僕はどうしたらいいのだろう。
『拓真くん……沙織ちゃんとは上手くいってる?』
「うん、まあ」
『そっか』
そしてともちゃんは「夜中にごめんね。話聞いてくれてありがとう」と言って電話を切った。僕は正直眠かったので、
『沙織のことは好きに決まってるだろ。とりあえず、こんな時間だからまた明日な』
と送って携帯電話の電源を切った。
「拓真ー。お友達来てるわよー」
お母さんの声で目が覚めた。時計を見ると、まだ七時。誰だろう、お友達って。僕は身体を起こし大きく伸びをすると玄関へ向かった。
そこには、沙織が泣きそうな顔で立っていた。
「沙織……」
「メール送ったのに……」
電源を切っていたからメールが来ているなんて知らなかった。そのことを沙織に告げると、
「私、すごく不安になっちゃって……やっぱり、拓真くんに嫌われたんじゃないかって」
と君は言った。
「嫌いになんかならないよ」
「絶対?」
「うん」
「……ありがとう」
そして君にいつもの笑みが戻った。
「学校まで一緒に行ってもいい?」
「いいけど、沙織学校間に合うの?」
「実は今日は創立記念日なのだ」
にこっと笑う。
「じゃあ、行こう」
僕は沙織と一緒に学校に行けることにワクワクしていた。とりあえず、沙織はリビングに待たせておいて僕は部屋に戻って制服に着替える。そして携帯電話の電源を入れてみた。すると。
新着メール:5件
「まさか……」
思った通り、全て沙織からだった。
『私のこと、どれくらい好き?』
『拓真くんは私のどこが好きなの?』
『どうして返事くれないの?』
『ねえ、拓真くん?』
『やっぱり好きじゃないの?』
最後に送られてきたメールの時刻は四時半。そんな時間まで起きていたんだ。僕は少し沙織が不気味に思えてきた。でも、裏を返せば沙織はそれほど僕のことが好きだということだ。不安がらせないようにしないと。
リビングに行くと、母親と沙織が話していた。
「あ、拓真。沙織ちゃんっていい子ねー。美人だし、拓真の彼女にはもったいないわ」
「拓真くんすごく優しいんですよ」
「そんなことないわよー」
「私、ずっと前から拓真くんのこと好きだったんです」
僕は二人の会話を聞きながら、トーストを食べる。
「じゃあ、行こうか」
食べ終わると沙織に言った。沙織は、
「うんっ」
と言って笑う。朝っぱらから沙織の笑顔を見られるなんて、やっぱり僕は幸せ者なんだな。