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第4章 恋人

 君は視線を泳がせて、顔を赤くした。僕は祈るような気持ちで君の言葉を待っていた。

「……どうして、私なんか」

「一目惚れしたんだ。それに、沙織とのメールが楽しいから」

 上目遣いで僕を見る。多分、僕の頬も赤くなっていることだろう。バイクがうるさいエンジン音を立てながら僕たちの横を走り過ぎていった。

「……私も、だよ」

「え?」

「私も……好きなの、拓真くんのこと」

 聞き間違いかと思ったらそうでなかった。緊張のせいか君は何回もまばたきをして、そう口にした。

「本当に?」

「うん。メール交換する前から、ずっと気になってたの」

「じゃあ……」

「付き合って下さい。お願いします」

 まさか、君の口からこんな言葉を聞くなんて。これは夢じゃない。

「こっ、こちらこそ!」

 僕は右手を差し出した。君はゆっくりと僕の手を握った。温かい手だった。

「よろしくね、拓真くん」

 そう言って笑った。僕は早く政和に報告したかった。僕にもついに彼女が出来たんだぜ。沙織だよ。お前が背中を押してくれたおかげだよ。ありがとな、政和。こんな感じに。

「今度は一緒にどこ行く?」

 これは、デートのお誘いだろうか。沙織って、意外とよく話すんだな。もっと沙織のことが知りたい。一緒にいたい。

「じゃあ、カラオケ行かない? 沙織が空いてる日なら、いつでも」

「じゃあ……来週の土曜日は?」

 その日は政和と遊びに行く約束をしていたが、僕は迷わず答えた。

「空いてるよ」

「なら行こっ。カラオケ」

 君はにこりと笑った。えくぼが可愛い。本当、まるで夢みたいだ。

「あ、電車来てる。走ろっ」

 君は駅に向かって走り出した。

「待てよ、沙織」

 この幸せがずっと続けばいいと思ってた。ずっと僕の隣を歩いてくれればいいと思ってた。


「マジかよ! 拓真、やったな!」

「もう嬉しくて夜も眠れねえよ」

 政和は自分のことのように喜んでくれた。

「きっとともも喜ぶよ。あいつ、結構心配性でさ」

「なあ、どんな歌歌ったらいいかな。いつもみたいにアニソンばっか歌ったらマズいかな」

「沙織ちゃんがどんな歌歌うかだな。流行りの曲歌うようだったら、絶対止めとけ」

「じゃあ何歌えばいいんだよ」

「ロック。男はロックだろ」

「駄目だよ。沙織はクラシック好きなんだから。もっと静かな方がいいんじゃないか?」

「……お前、あんまり俺のアドバイス聞く気ねーだろ」

 沙織の歌声を早く聞きたい。あっという間に時間は流れていった。


 そして、恋人同士になってから初めてのデート当日。先に来ていたのは君だった。

「待った?」

「待った。二○分」

「沙織、来るの早すぎるよ……まだ待ち合わせ時間の十分前だぜ?」

「だって楽しみだったんだもん」

 カラオケボックスに着くと、君は言った。

「拓真くん先に歌って? 私、恥ずかしいから」

「でも、僕、歌下手だよ」

「いいの」

 そう言ってマイクを手渡す。僕は緊張しながら、有名な曲を選んで歌った。君は拍手をしながら、

「拓真くん、上手いじゃん。これじゃあ私、歌いにくいなー」

 そう言って君が選んだのは情念系女性アーティストの曲。ロックだ。歌詞に少し卑猥なところがあって、その部分は少し声を小さくして歌っていた。なら違う歌にすればいいのに、と思ったが、恥ずかしそうにしている君が可愛くて、歌声もとても綺麗で、僕はずっとその曲を聴いていたかった。

「沙織、ロックも聴くんだ」

「うん。だから、こないだのライブも嫌いじゃなかったよ」

 そうして二時間歌った後には、辺りも日が暮れ始めていた。

「今日はありがと。また、会おうね」

「うん。明日もコンビニに行くよ」

「待ってる」

 まだキスもしていないし手も繋いでいない。これから先、そういう展開は望めるのだろうか。だとしたら、僕は何て幸せ者なんだろう。沙織を好きな気持ちが膨らんで、今にもパンクしそうだった。


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