第2章 誘い
次の日、コンビニに行くと君はいた。君は微笑んで言った。
「メール、ありがとうございます」
「いやっ、こちらの方こそ!」
僕は酷く緊張していて、おつりをもらい忘れそうになるほどだった。沙織の行っている高校は僕より頭の良いところで、別の日に、
「頭、良いんだね」
と言った。
「そんなことないです……」
と君は謙遜してみせたが、言葉の節々から知能の高さを感じた。
「お前、頑張ったじゃん。あと一押しだぜ」
政和は言った。彼の恋人のともちゃんも、
「拓真くん、勇気出したかいあったね。頑張れ!」
と応援してくれた。ともちゃんはたれ目にボブ、小柄な体型だ。沙織とは正反対で、でも僕は嫌いじゃない。はっきりとした物言いが聞いていて気持ちいい。もう政和と付き合って一年が経つ。
「お前にいいものやるよ」
政和が手渡してくれたものは、アマチュアバンドのライブのチケットだった。
「ともと行く予定だったんだけど、俺その日バイト入っちゃってさ。だから沙織ちゃんと行けよ」
僕は政和の顔を見た。この僕に、彼女をライブに誘えと? 冗談にもほどがある。
「無理に決まってるだろ。まだタメ語ですら話せないのに……」
「お前、そう言いながらメルアド渡しただろ。やれば出来るんだって」
「拓真くん、勇気出しなよ」
ともちゃんが僕の肩を叩いた。
「いいか。誘わないと沙織ちゃんにバラすぞ。お前の気持ち」
「それだけは止めてくれ!」
そんなの、たまったもんじゃない。
「じゃあ決まりだな。ま、頑張れよ」
政和は白い歯を見せた。他人事だからそんなに笑っていられるんだろ。まあ、そう思いながらも僕は沙織を誘うことに決めたんだ。
『今晩は、沙織さん。あの、今度の土曜日もし空いていたら一緒にライブ行きませんか? ダチの知り合いがやってるバンドのライブなんだけど。ダチが彼女と行く予定だったんだけど、その日行けなくなったらしくて。勿論チケット代は僕が払うので』
何度も文章を読み返してから、送信した。返信が来るまでドキドキで、リビングでご飯を食べていても上の空だった。部屋に戻ると携帯のランプが点滅していた。僕は急いで携帯を開く。
『いいですよ。丁度バイトも休みなので』
やった! 僕はガッツポーズをした。まさか、こんな展開になるとは思わなかった。いつも好きな人を遠くで見ているだけで終わった恋が、進展しようとしている。勇気を出して良かった。政和が背中を押してくれたおかげだ。僕は嬉しさのあまり政和に電話をした。
『もしもし』
「政和?」
『どうした?』
「沙織ちゃん、ライブ行くって」
『マジかよ! やったじゃん。ここまで来ればこっちのもんだな』
「そんな簡単なものじゃねえよ。でも、ありがとな、政和」
『いいや。これくらいお安いご用よ』
僕は良い友達を持ったと思う。電話を切ると、今から緊張してきて落ち着かなくなり、枕を宙に投げた。