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【夏のホラー2026】君の声が聞こえる

作者: 天月瞳
掲載日:2026/08/12

「-・・-- -・--・ -・-・- ・-・ ・-!」


いつものように、仕事帰りの道を歩いていた。

不意に耳元で彼女の声が響き、奥野は驚いて目を見開いた。


それは彼が最も愛した人の声だった。

もう何年も前に死んでいるはずの人。


「ああ、君なのか? 幸子」


奥野の濁った涙が頬を伝う。

こんなにも長い時間が経って、もう一度、幸子の声を聞けるなんて思ってもいなかった。


「僕に話しかけてくれているんだよね」


彼は道端の掲示板に手をつき、そこに貼られた尋ね人の貼り紙を見つめた。

紙はすっかり黄ばんで、カビまで生えている。

写真には、清楚な顔立ちをした、スーツ姿の若い女性が写っていた。


奥野と幸子は、かつて同じ会社の同僚だった。

幸子が入社したばかりの頃、彼女の指導を担当したのも奥野だった。

二人はとても仲が良かった。


「私、幸せになります!」


幸子が目元に涙を浮かべながら見せた、あの幸せそうな笑顔を、彼はいつまでも覚えている。


「は、はは、幸子……僕のもとへ戻ってきてくれると分かっていたよ」


掲示板のガラスに、やつれた中年男性の顔が映り込んでいた。

ぼさぼさの髪に、剃り残した無精ひげ。その姿はひどくみすぼらしかった。

だが今の彼の口元には、幸せそうな笑みが浮かんでいた。


「-・・-- -・--・ -・-・- ・-・ ・-!」


耳元で、幸子の訴えかける声が響いた。


奥野は足取りも軽く、自分のボロアパートへと帰っていった。


彼は明かりをつけなかった。

まずは押入れの前へ行き、扉の鍵がかかっていることを確認した。


それからようやく安堵し、明かりをつけた。

部屋はひどく古くて狭く、そこら中に食べ終えた弁当の容器や、潰されたビールの空き缶が転がっている。


ただ、ローテーブルの上だけは綺麗だった。

そこには一枚の新聞が、きちんと平らに広げられていた。


『23歳女性OL、ある日突然失踪 警察は顔見知りによる犯行とみて捜査』


奥野は腰を下ろし、煙草に火をつけた。

煙草の煙を肺いっぱいに吸い込み、静かに吐き出した。

灰色の煙が、狭い部屋の中に次第に立ち込めていく。


「-・・-- -・--・ -・-・- ・-・ ・-!」

幸子の声が、耳元で何度も何度も繰り返し響いている。


「ああ、分かっているよ。たとえ死んでも、僕は君を絶対に離さない」


奥野は幸せそうな微笑みを浮かべ、押入れを開けた。

中には、スーツを着た女性が静かに身を縮めていた。


奥野は彼女を優しく抱き寄せた。

すでに朽ち果て、白骨だけになったその身体には、もう温もりなど欠片も残っていなかった。


「僕たちは、ずっと一緒だ……」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

感想や見たいもの、誤字などがあればぜひ教えてください!


p.s.「-・・-- -・--・ -・-・- ・-・ ・-!」(ゆるさないの和文モールス符号です、たぶん)

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