竹取デスマーチ 〜5人のクソ富豪に100%無理な仕様変更を突きつけたら全員爆死した件〜
初めまして、あるいはこんにちは!
本作を開いていただき、本当にありがとうございます。
もしも現代のブラックなIT業界に「かぐや姫」がいたら……?
そんな妄想から生まれた、現代風パロディラブコメディです。
わがまま放題な大富豪たちに、天才SEの主人公が「絶対に実現不可能なクソ仕様変更」という名の呪いをかけて全員論破していきます。
(※作中の愚痴や仕様変更の絶望感にやけに生々しいリアリティがあるのは、作者の拙い実務経験(血涙)がちょっぴり隠し味になっているからかもしれません)
IT業界の方も、そうでない方も、スマホで3〜5分ほどでサクッと読める短編となっております。
少しでもクスッとしていただけたら幸いです。
それでは、本編をどうぞ!
「赫夜ちゃん、俺と結婚してくれたら、君をこの泥沼のデスマーチから救い出して、一生遊んで暮らせるようにしてあげるよ?」
液晶画面に反射する私の死んだ魚のような目に、高級スーツを泥で汚した成金男のドヤ顔が映り込む。
私の名前は赫夜。某大手IT企業で、どんなスパゲティコードも一瞬で解きほぐす、生きる都市伝説こと超絶天才システムエンジニア(SE)だ。
そして私の前で、ダイヤの指輪をチラつかせているのが一人目のクソ男、石作御子。
石油王だか何だか知らねえが、こちとら3日連続徹夜でエナジードリンクのカフェインだけで心臓動かしてんだよ。お前のダイヤの輝きより、今すぐ目の前のサーバーのバグが消える奇跡のほうが100億倍輝いて見えるわ。
「あー、石作さん。結婚とかマジで興味ないんで。っていうか、今週のリリースに向けて本番環境が燃えてるの見て分かりません? お前のそのダイヤでサーバーの排熱ファンでも修理してくれんのか?」
「ははは、照れちゃって。じゃあ、どうしたら僕を男として認めてくれる?」
話が通じない。こいつらの脳みそは光回線じゃなくて有線LANの時代で止まってんのか。しかもタチが悪いことに、私の元にはこういう「金と権力でエンジニアを釣れると思っている勘違い大富豪」が、合計5人もストーカーばりに群がっていた。
右を見ても左を見てもクソ仕様(クソ男)。 私はバキバキに充血した目でキーボードを叩き、一つの仕様書(遺言状)を出力した。
「分かりました。そこまで言うなら、条件をあげます。私がこれから出す『システム要件』を完璧に満たすアプリを開発して持ってきた男と、結婚してあげますよ」
5人のクソ男たちは「なんだ、アプリ一個作ればいいのか!」と鼻で笑った。
甘い。甘すぎる。
お前らが今から足を踏み入れるのは、世界のどの軍隊よりも過酷な『デスマーチ』という名の地獄の一丁目だ。
❖ 皿 ❖
私は5人の男たちに、それぞれ現代のIT技術では1000%不可能な『無理難題(神の仕様変更)』を突きつけた。
一人目、石作には【仏の御石の鉢】
「石作さんにはね、『AIが完全に人間の感情を理解し、絶対に文句を言わない完璧な上司アプリ』を作ってもらいます。あ、もちろん予算はゼロ、納期は明日、デザインは
『なんかいい感じで、ふわっとしてるけど高級感あるやつ』でよろしく」
「デザインの言語化が抽象的すぎるだろォォォォォォ!!……、…ォォ!……!……、…」
石作は悲鳴を上げて開発現場にずるずると引きずられていった。数日後、彼はフリーの怪しいフリーランスに外注し、ただの「おみくじアプリ」を持ってきて「これが完璧な上司です!」と言い張ったが、バグで画面が真っ暗になり、私のプログラミングパンチによって即座に論破された。
二人目、車持皇子には【蓬莱の玉の枝】
「車持さんには、『ブロックチェーンと量子コンピューターを融合させ、さらに5Gの電波を使って、スマホの画面から本物のフライドチキンが出てくるアプリ』をお願いします」
「それもうITじゃなくて錬金術だろォォォ!!」
車持は金を湯水のように使って怪しい海外のエンジニア集団を雇ったが、出来上がったのは「画面がチキンの油でベタベタになるだけのウイルス入りの偽アプリ」だった。もちろんセキュリティ違反で即座にアカウントBANである。
三人目、阿倍御主人には【火鼠の皮衣】
「阿倍さんには、『絶対に炎上しないSNS』を作ってもらいます。どんなに差別発言をしても、どんなに不倫を暴露しても、全人類が『まあ、そんなこともあるよね』と笑顔で許し合う、仏のインターネットです」
「全人類の脳みそをハッキングしなきゃ無理だろソレェェ!!」
阿倍は自社開発を試みたが、テスト運用の段階で「バグ報告をしたエンジニア」と「それを無視したディレクター」の間で大炎上が発生し、アプリがリリースされる前に会社ごと燃え尽きた(ざまぁ)。
四人目、大伴大納言には【龍の首の珠】
「大伴さんには、『ユーザーが念じるだけで、コードが自動で生成され、バグも自動で消滅し、ついでに肩凝りも治る超機能エディタ』の開発を命じます」
「もうそれ龍の呪いかなんかだろ!!」
大伴は深夜のオフィスで「仕様変更が……仕様変更が止まらない……!……、……!」
とブツブツ呟く妖怪に変貌し、そのまま精神がログアウト(ざまぁ)した。
五人目、石上中納言には【燕の生んだ子安の貝】。
「石上さんにはね、『深夜2時に突然思いついた社長の思いつきのアイデア(ゴミ仕様)を、ボタン一つで全て美しいコードに自動変換する夢のAI』を作ってもらいます」
「一番無理だわ!! 人間のエゴを舐めるなァァァ!!」
石上は「社長の思いつき」という名の無限の迷宮に迷い込み、要件定義の段階で発狂。そのまま窓際族へとジョブチェンジした(ざまぁ)。
♡⃜ ♡⃜ ♡⃜
こうして、5人のクソ大富豪たちは、エンジニアが日常的に味わっている「クソ顧客からの無理難題」という名の地獄を身をもって体験し、全員が灰となって消え去った。
静かになったオフィスで、私はようやく快適にキーボードを叩いていた。 邪魔者がいなくなった画面には、100%バグのない、美しい私のコードだけが並んでいる。
「ふぅ……。やっぱり、男と付き合うより、コンパイルが一発で通ったときのほうが脳汁出るわ」
私がエナジードリンクをグイッと煽ったその時。 オフィスの自動ドアが、静かに開いた。
「相変わらず、容赦のない要件定義をするな、赫夜」
聞き覚えのある、低くて、バカみたいに色気のある声。
振り返るとそこに立っていたのは、我が社の最高技術責任者(CTO)であり、このIT業界の頂点に君臨する男――通称『帝』だった。
5人の成金とは格が違う。
本物の、技術と財力を兼ね備えた天才だ。
「帝……。なんでここに? 今日の役員会議は終わったはずじゃ」
帝は、私のデスクの前にゆっくりと歩み寄ると、私の画面に残された「無理難題の仕様書」を一瞥してフッと不敵に笑った。
「あの5人の無能どもが自滅するのを待っていたのさ。……赫夜、お前が提示したあの5つのクソ仕様。……実は、俺の個人サーバーで、すでにプロトタイプが完成している」
「は!?!?!?!?!?」
私はひっくり返りそうになった。
スマホからチキンが出るアプリ!? 炎上しないSNS!?そんなの作れるわけがない。
「いや、チキンはさすがに出ないが、3Dホログラムと味覚神経を刺激する最新デバイスの組み合わせで、脳内に『完璧なフライドチキンの味』を再現するコードは書いた。お前が突きつけた仕様変更、俺なら全て実装してみせる」
帝は私の顎をクイッと持ち上げ、至近距離でその美しい瞳を私に向けた。
「俺なら、お前のどんな我が儘な仕様変更にも応えられる。お前の人生のバグは、全部俺が修正してやる。……だから、俺の専属エンジニア(妻)になれ」
「ッ……!!」
顔が熱い。
ブルーライトのせいじゃない。
5人のクソ仕様には1ミリも動かなかった私の心臓が、今、完全にオーバーヒートを起こしそうになっていた。
技術力でプロポーズしてくる男なんて、前代未聞だ。だけど、世界で唯一、私と同じ視座でコードを語れるのは、この男しかいない。
「……バカ。プロトタイプのコード、後でコードレビューさせなさいよ。バグがあったら、結婚は仕様変更(白紙)だからね」
「ああ、望むところだ。一生かけて、お前を満足させるシステム(家庭)を構築してやる」
月明かりが照らす深夜のオフィス。
私たちは、世界で一番熱い、マージコミット(口づけ)を交わしたのだった。
了
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
5人のクソ富豪たちをデスマーチの地獄へ叩き落とした赫夜ちゃんでしたが、最後はそれを上回る圧倒的な技術力とスパダリ感を見せつけた「帝(CTO)」に見事にマージコミットされてしまいました。
私も昔、夜中に降ってきた謎の仕様変更と戦いながら「誰か私の人生のバグも修正してくれ」と画面の前で白目を剥いていたので、赫夜ちゃんにはぜひ末永く幸せになってほしいものです(笑)
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また次の物語でお会いしましょう!




