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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

愚君王子は暴君ではない

作者: 園尾
掲載日:2026/04/15

 アーサー王子は、誉れ高きサングリーン王国の第一王子にして、建国より仕えた由緒正しき五大公爵家から嫁いだ王妃の唯一の息子。そして、サングリーン王国開祖の偉大なる国父の名前をつけられた王子だ。

新緑のようなキラキラした瞳と金細工のように美しい金髪をもった美貌の

クソアホバカ王子である。



 アーサー王子の自認はともかく他認による、その学力と気質の愚かさは、十人中十二人がアホ王子と太鼓判を押すぐらいだった。

なお増えた二人は十人に問いかけた際に通りがかった人ですら、あのアホ王子ねとなった結果だ。

外交に出れば、相手国のタブーを軽々と口に出して側近と外交官が冷や汗を垂らしながら必死にフォローし、書類を書かせれば、なんだこの怪文書は!よこせ!もういい部下にやらせろ!と、遅々として政務が進まない彼のために新設された王子専属秘書達が文書を整えサインするだけでいい状態にしなければいけない有様。

かわいい女の子を見かければ、身分の低いメイドにすら声をかけ、今度王族しか入れない庭園のお花あげるよ!とヘラヘラ浮ついたことを話す。

腹違いで優秀と評判の弟王子が王子について聞かれれば、「兄上は……その悪い人じゃないんですが、まあアレですよね」と口籠り、呆れた家臣はアーサー王子には任せられないと弟王子にせっせと陳情を運ぶ。

聡明で慈愛のある側妃は、「親族と環境が悪いのもありますが、殿下の持って生まれた気質もありますのでもはや仕方ないとは思います。」とこの後に待ち受けている未来を考えては憐れみの視線をむける。

しかも、それらを「へへ、執務減ったラッキー」と贅沢に設えられた部屋でお菓子を食べながら、ふぬけた顔でとのんきに笑って過ごし、王族としての威厳も責任感もあったものじゃない。


王はそんなアーサーにつかず離れずの絶妙な距離で接し王太子については名言せず、もっぱら側妃のもとへ通い詰め、王妃は、私のかわいいかわいいむちゅこたんは何をしてもいいのよとお菓子を与え甘やかしては言うことを聞かない周りが悪いとあたり散らす。

あぁ我が王室は大丈夫だろうかと新しく入った文官達はあの王子が王になったらお終いだ暗君だ愚君だと国を憂いていた。



 そんなクソバカアホ王子が王国中の貴族の子どもが通う学園の卒園パーティでやらかした。


「エリザベス!話がある」


保護者も含めて国中の貴族とその子女が集まって交流している中で急に王子が上げた声に注目が集まる。 

なぜかエスコート相手の違う王子と、兄に付き添われている公爵令嬢に密かに目を配っていた貴族たちはざわめきをピタリと止め、舞台のように自然と役者たちの周辺から退いてポッカリと空間をあけた。


人がいなくなり花道のように歩きやすくなった場所を、カツンカツンとリズムよくヒールを慣らして真紅のドレスをはためかせてウェーブがかった金髪の美女が王子に近寄る。学園1の才女、マナーに厳しいが優しく美しいサングリーンの宝石と令嬢と関わりのある人は称賛するヤマクロ公爵令嬢だ。

公爵令嬢と対峙すると待っていましたとばかりに王子ほくそ笑んだ。


「エリザベスいや、ヤマクロ公爵令嬢、君との婚約を破棄して、僕はこのアセンター男爵令嬢と婚約を結び直す!君はえーと国に悪いことをした罪で牢獄行きだ」


ヘラヘラと笑いながら脇に黒髪でキュルルンとした瞳の可憐で胸の大きな男爵令嬢を控えさせてそうのたまったのだ。

あるものはぎょっと目を剥き、あるものはついにきたかとうつむき、あるものはこれはいい流れだと目を輝かせた。

凛と背筋を伸ばし、国一番の仕立て屋に作らせた豪奢なドレスにも、大粒のジュエリーにも、負けぬ薔薇のような美貌をもった公爵令嬢は慌てることなく王子しっかりと見つめて問う。


「殿下全くもって意味がわからないのですが、婚約破棄と本日わたくしのエスコートをなさらなかった理由は、隣の女性のせいでしょうか?」

「ああ、そうだよ。ほらアセンター男爵令嬢この際だから言ってやりなさい」

「王子様ぁ。ありがとうございますぅ。ヤマクロ公爵令嬢もう揉み消しや隠すことはできませんよ〜」


公爵令嬢は男爵令嬢の甘えた声と口調に、眉をひそめ王子から男爵令嬢へと視線をうつす。


「そもそも、わたくしあなたと会ったことあったかしら?」

「同じクラスですし何度もご挨拶させていただきましたけどぉ?なんならいじめもされましたけどぉ?ほら王子様やっぱり!」

「うん、そうだな」


二人は顔を見合わせコクリと親密そうに頷きあった。

その姿に公爵令嬢は、徐々に状況が理解できた。二人で示し合わせて自分を糾弾しようとしているのだ。それも全貴族が揃っているこの卒業パーティの場で!

理解とともに苛立ちが募った公爵令嬢は手に握った扇をパンッと顔の前に広げて口元を隠す。高貴なる淑女は余裕のある微笑みに形作られた口元こそが美しい。苛立ちで口角が下がり微笑みが崩れるのを隠す為だ。


「言いがかりも甚だしい。いじめなんてしておりません。マナーを弁えてない者に正しい振る舞いを教えていただけです。それに、下賤なる身でこのわたくしに」

「君のそういう身分や血筋に厳しいところが昔から嫌いなんだよ。学園では身分は関係なく平等といっているのにいつも公爵令嬢であることを振りかざして!」

「殿下、まだ話している途中ですわ最後まで聞いてくださいまし。それに、いくら学園といえルールと規律は大切ですわ。無法を許せば下々の者たちがつけ上がりあっというまに蔓延るんですから」

「ルールというけど君は身分を振りかざして課題や試験を成績のいい身分の低い者にさせてるだろ!僕だって任せたかったのにがんばって自力でしてるんだよ」

「王子様ぁ、頑張ってるのはえらいですけどぉ、その言い方はちょっと情けないかもぉ」

「えっそう?」


 なおもワイワイと言い争う三者に、えっほえっほとお腹を揺らし汗を垂らしながら近づくものがいた。

公爵令嬢の叔父であるオイカー子爵だった。彼は事の始まりの際にパーティ会場の隅にいたので事情がよくわからなかったので人だかりの輪に飛び込んだのだ。

そして、三者のやり取りと周りの人の囁きで、自分の姪であり将来輝かしき王妃になること決まっている一族の麗しき姫が、詰問されている姿を見て驚いた。

あんなにも美しく、幼い頃から聡明で優しく人の上に立つのがふさわしい娘はいないのとに憤慨すらした。やはり愚かな王子だと思いつつ彼女の凛とした立ち姿を見て公爵令嬢の幼い頃を思い出す。


 オイカー子爵は、腹も出ていて顔も良いとは言えない。人々が陰で豚子爵と言っていて、妻にも若い使用人たちにも忌避されていることも知っていた。

公爵令嬢が10歳の誕生日会で、そんな自分に見事なカーテシーを披露してくれて微笑んでくれたときに子爵はつい醜い自分が気にならないのか聞いてしまった。

彼女はふんわりとしたかわいいピンクのドレス姿で

「おじさまはお父様の弟なんでしょう?でしたらその体に流れる血は尊いものですわ。ほら、人は見た目よりも中身ってよくいうでしょう!」

そうやって醜い自分に天使のように微笑みかけてくれた彼女はなんと素晴らしく優しい子だ、と感動したものだ。

しかも、その後彼女へのプレゼントを持たせていた自分の奴隷がよろけて彼女に粗相をした際に、彼女に謝り奴隷を叱ろうとしたのを止めて、「おじさまの手を煩わせるなんて、申し訳ないわ。よろしければわたくし自ら躾けて差し上げます」と文字通り鞭打って教育してくれたのだ。同い年だというのに奴隷と比べて、気品と振る舞いがこうも違うとは、と彼女に上に立つものとしての資質を感じたのもこのときだ。


オイカー子爵が過去に思いを馳せる間にも、中央の舞台はどんどん進んでいく。


「陛下……そうです!陛下はこのことをご存知ですの?わたくしたちの婚約は王命によるもの。勝手に破棄できるようなものではありません」

「陛下にはこれから許可をもらう。君の悪辣さとアセンター男爵達の功績を報告すれば認めるもらえるはずだ」

「政略のことすら理解できてない愚かさだとは……我々ヤマクロ公爵家が後ろ盾になっていたというのに、殿下は自分の足元すら見えていませんの?」

「後ろ盾ぇ?じゃらじゃらまとわりついてうっとおしい鎖の間違いじゃないか?

まとわりつくといえば幼い頃から君は僕にひっついては周りを威嚇してたな!いろんな友達を作りたかったのにすごく迷惑だった」

「えぇせっかく王子様が人を見出す機会だったのにそんなことされてたのぉ?かわいそう!」

「あれは!殿下が派閥や身元も関係なく誰彼構わず声をかけようとしたからですわ。王妃様とわたくしが声をかけていいものを選ぶと事前に打ち合わせたでしょう!」


言い争いがヒートアップして、幼少期までさかのぼってお互いに文句を言い合う子どものような姿に、周囲の貴族たちもどう止めたものかと目を見合わせる。


そこへパーティ会場の扉の向こうががやがやと騒ぎが聞こえたかと思えば、扉が一気に開け放たれた。

そこにはサングリーン王国至高の存在であり、名君と諸外国にも知れ渡る国王陛下がいた。目にしたものから順に敬意を込めたお辞儀とカーテシーを行っていく。波のように皆が頭を下げていく状況に言い争っていた三者も気づき、王子と公爵令嬢はともに助けがきたとばかりに顔を輝かせた。

親衛隊に守られながらも王子たちに近づいた王は疲れきった表情で口を開いた。


「この愚か者!」

「えっ父上!何故お怒りに?悪いのはヤマクロ公爵令嬢であって…」

「婚約破棄にも順序とタイミングというものがあるのだ。」


叱りとばす王とおろおろしだす王子に、我が意をえたりと公爵令嬢は笑みを浮かべた。もはや自然と浮かぶ笑顔に扇をパチリと閉じ王に感謝の視線を送る。

これでこの騒ぎを起こした愚者達もお終いだ。あぁ、王子は無理でも男爵令嬢だけでもこちらに引き取れないか交渉しよう。ここまでコケにされたのだ家の奴隷よりも酷い目に合わせないと気がすまないと公爵令嬢が思考を巡らせていれば王がこちらに視線を向けた。


「ことここに至っては致し方なし。ヤマクロ公爵令嬢」

「はい、陛下」

「愚息の突然の申し出さぞ驚いたろう」

「はい」

「本当はもう少し根回しをしてからと思ったがある意味タイミングが良い。近衛兵!ヤマクロ公爵一族を捕らえろ!!」

「はい陛下謝罪を受け入れ…へいか?」


扉の向こうで合図がかかるのを今か今かと待っていたのか、近衛兵が会場にどっと押し寄せ次々とヤマクロ公爵一族を捕縛していく。オイカー子爵も例外ではなく膨れたお腹は紐が食い込みボンレスハムのようだと、口の悪い貴族が小声で呟いた。

公爵令嬢も後ろ手に縛られひざまづかされながら縋るように王をみる。


「なぜ、なぜわたくしが、捕まるのはその愚者とあばずれでは」

「そなたら、違法とされている奴隷と人身売買に携わっておったろう」


王の冷たい視線とともに告げられた言葉に、心臓の弱い貴族婦人がひっと短く悲鳴をあげた。奴隷と人身売買、それはサングリーン王国では建国の成り立ちに関わるため禁忌に近い違法行為である。会場にいた貴族も信じられないものあるいは悪魔を見るような目をヤマクロ公爵一族に向けた。

公爵令嬢は、人生で初めてとなる称賛と羨望と真逆の侮蔑と非難する眼差しを受けパニックになった。


「あ……わたくし、わたくし悪くないですわ。わたくしは高貴なる者で…未来の王妃でこの国を率いて…ぃぬ…………いぬ!犬!犬犬犬ぅ!目の前の王に噛みつけ!!!」


打開しようとギラギラとした瞳で、まわりをギョロギョロ見回した公爵令嬢は壁の一箇所を見て突如叫んだ。


途端に閃く銀色。


王の首にナイフが近づき一閃。


ガギィイイ


ナイフと首の隙間に扇が差し込まれ間一髪、王の玉体は守られた。すかさず親衛隊が暗殺者を取り押さえ公爵令嬢にも口輪を噛ませる。


「ふっ、アセンター男爵令嬢助かった。辺境で鍛えられたその技見事である。」

「はっ恐れ多い言葉であります。自分が御身をお守りできたこと一族の誉れであります」

「いやぁやっぱりニーナはすごいなぁ!僕全然見えなかったよ」

「いえ、自分なぞ姉や母に比べればまだまだ殻のついた雛同然とよく叱咤激励されております!動きにくいため反撃まではできませんでした!鍛錬不足を痛感しておりますってやだぁつい慌ててたから口調戻っちゃったぁ可愛くない」

「えー大丈夫どっちもかわいいよー」

「もぉー!王子様は女の子ならなんでもかわいいっていうから信用できないのぉ」

「へへ女の子って、みんな砂糖菓子とスパイスでできてるみたいにキラキラして可愛いからなぁ」


騒然とする会場でいちゃいちゃするカップルにより何も知らない貴族は混乱しながらも、事情を知る貴族と近衛兵たちは粛々と後処理を始めた。王がパンッパンッと手を打ち鳴らし注目を集めると会場に掻い摘んだ事情を話す。


一つ、ヤマクロ公爵一族は他国と人身売買をしながら自身の一族では奴隷を扱い、気分しだいで残虐非道なことを行い酷使し使い捨てながら暗躍し優雅に暮らしてきていたこと

二つ、アセンター男爵家は貴族になってから類まれなる武力と忠誠心で国のため尽くしてきたがなぜか中央に伝わる頃にはヤマクロ公爵一族の功績となっていた

三つ、今回発覚したその事情よりヤマクロ公爵一族を逮捕、公爵位はもとより領地資産等没収をし、順次アセンター男爵家へと今までの謝罪と報奨として与えていく


「正式な詳細と今後についてはまた別の機会にしかと伝える!今回はアーサー王子が早く動いてしまい皆を混乱させた!ほれ謝罪せい」

「此度は、本来であれば皆様にとって心温まるひとときとなるはずの宴を、私の未熟さゆえに台無しにしてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます。皆様にご不快とご迷惑をおかけいたしましたこと、誠に遺憾に存じます。どうかこの非礼をお許しいただけますよう、深くお願い申し上げます。」

「まったく…子どもの頃から謝罪と人を見る目だけは上手いやつだ」


仕方ないやつだとばかりにアーサー王子を見る王の眼には親としての情が浮かんでおり、親子の絆を感じさせた。


卒業パーティは結局そのままお開きとなり、退場案内に合わせて帰宅したり逮捕されたりと貴族たちにとって悲喜こもごも明暗の分かれる結果となった。


 終わってみればなんてことない、"また"アホ王子により悪人が捕らえられ有能な人間が取り立てられたというわけだ。新人文官は事後処理や雑務にこき使われながら、恙無く回っていく宮廷を見て、あっこの国大丈夫そうと安心するのが毎年の恒例行事である。


 そうして、公爵令嬢は王子の宣言通り牢獄に入れられたのであった。

めでたしめでたし。










・アーサー王子は人を見る目と人望はある。あと本人に学力と倫理観ないけど、好きなるのが賢くて倫理観あるひとなのでいい人レールをまっすぐ走れる。実母が愚かな自分を操作して、王妃の親族優遇して権力握ろうとしくるので、物心付きだしたらこいつら嫌いーと、母と母側親族とははいはいあーねと流して付き合いつつ、側妃に懐いてる。

・元婚約者の公爵令嬢は、気位が高くて選民主義なうえ幼い頃から人を虐げまくってきて人権感覚おかしいサイコパス。王妃と公爵令嬢は親戚な上、選民思想で裏で違法な奴隷売買とか奴隷虐げとかしていたクズですし、王妃一族は愚かな王子を担ぎ上げで外戚甘いみつチューチューしようとした奸臣です。

・男爵令嬢は可憐でおっぱいでかい小動物系だからアホな男がホイホイ寄ってくるけど、辺境でバリバリに鍛えて戦ってて、国への忠臣もあつい中身はムキムキ歴戦の辺境騎士みたいな女の子なので外見に惑わされなかった王子に好印象。甘えた話し声は、いとこのめちゃんこかわいい子の話し方と甘えて人を動かすという自分にはなかった戦法にピシャーンと感銘を受けて真似をしている。素は軍人喋り

・弟王子や側近は、はー!やれやれまったくこのアホ王子は仕方ない人だなぁ!俺が助けなきゃ!腕まくりして能力全開で助けてる。

・側妃が憐れんでいるのは、幼少期から自分に懐いてきていてこんなにバカワイイ子なのに王様という下手したら首差し出さなきゃいけない重責担わないといけないのが可哀相って目線。

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