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少し遅めのお昼に梗介が作ってくれた鯖とナスの和風パスタが絶品で舌鼓を打った。
また今度何か作ってもらいたいな、と密かに期待している。
夜になり、梗介の実家に集まる。私たちが着くともう既にみんな揃っていて、なんと遠方に住んでいる梗介の兄、昴まで居て驚いた。
葵は一人っ子だが、梗介には3つ上の兄がいる。
「昴が何故いる?」
「昴!遠いのに来てくれたの?」
梗介と葵の表情が対照的で昴は可笑しそうに笑う。
「葵!綺麗になったなぁ・・・俺の嫁に来るか?」
「葵は俺のだ、離れろっ」
葵を抱きしめる昴をベリっと剥がす梗介。
「梗介くん!昴くんに負けないくらい大きくなったわね〜!昔から格好良かったけど、大人の色気が出てて俳優さんみたいだわ〜!」
早速母の推し活が始まった。梗介の両手を握り締め、ブンブンと上下に振っている。これが俳優さんなら警備員に引き剥がされていることだろう。
「お母さん落ち着いて」
「梗介、もう酒飲めるだろう。この日をずっと楽しみにしてたんだよ」
「うん。圭吾さんが好きそうな酒買ってきたから後で飲もう」
「お父さんまで・・・」
昔から父は梗介と昴を友だちだと思っているのか気安い。二人も父と気が合うようで、よく男三人で出掛けたりもしていた。
梗介と昴が私の父とばかり遊ぶので、お医者さんで多忙である梗介の父はいつも羨ましそうに見送っていた。
今日はお仕事の都合がついたようで帰ってこられたのに隅で拗ねているようだ。
「梗介、祐一さんが・・・」
梗介は父がいじける姿を見て呆れたようにため息をこぼす。
「父さんは自分をいくつだと思ってんだ?まったく・・・」
そう言いながらも近づいて声をかけていた。
「父さんも一緒に飲む?」
「飲む!」
梗介を少し渋くした美形をニコニコと緩ませた。
「俺も飲む!」
昴まで便乗している。
「さぁ!ご飯食べましょ。葵ちゃんは私の隣ね!」
梗介の母、菫が声をかける。
母たちお手製の豪華な食事にお腹が愉快に音を奏でる。各々席に着き食事会が始まった。
ちなみに席次は・・・
梗父 梗母 葵
梗介
葵父 葵母 昴
という風に座っている。
「そうだ、お饅頭も買ってきたから後でみんなで食べて」
「葵ちゃんセンス良いわね〜餡子は大好物なのよ〜!ねっ百合ちゃん」
百合ちゃんは葵の母のことだ。
「我が娘ながらナイスチョイスね!」
「梗介も一緒に選んだよ」
「梗介くん、わざわざありがとね〜大事にいただくわ」
今日の母は常にハイテンションで発光している。目と耳が疲れる。
「ここまで長かったわよね〜」
「もどかしいったらないわ!」
「俺が貰うつもりだったのにな〜」
「梗介が息子になるなら大歓迎だぞ!」
「葵ちゃんがお嫁に来てくれるなんて感動してしまったよ」
ん?
葵と梗介は目を合わせる。
まだ何も知らせてないよね?
え?
何故、結婚することが知られているのだろうか・・・。
頭にたくさんの?が浮かぶ。
いや、待てよ・・・もしかして!定食屋の件かっ!
言わないでって言ったのに〜!
「なんで知ってんの?」
梗介が疑問を言葉にする。
「だって葵ちゃんと夕飯食べに来るなんてそういうことでしょ?」
「梗介くんの名前が出た時からそうだろうなって思ってたわよ?」
「「結婚するのよね?」」
母二人の声がハモリ、目が点になる。
親の嗅覚とは恐ろしいものだ。
梗介と目を合わせ、姿勢を正す。
「なぁに、改まって・・・」
戸惑う母たちに真剣な眼差しを向ける。
梗介は葵の手を握るとスーッと息を吸って話し始めた。
「圭吾さん、百合さん。これまで葵とたくさんすれ違ったけど、俺が心から愛するのは葵だけだ。今は言葉でしか伝えられないけど、これから行動で証明する。もう絶対手放さない。葵と結婚します。葵と生きていくこと、認めてください」
迷いのない真っ直ぐな声で言葉を紡ぎ頭を下げる。
葵も後に続いて口を開いた。
「私も、梗介と生きていくって決めた。これからきっと幸せな気持ちだけじゃいられない時もあるかもしれない。でも、梗介と一緒なら乗り越えていけると思えたの。だから、祐一さんと菫さんにもお願いします。梗介と生きていくことを、認めてください」
両親たちは各々目を合わせ、頷く。
最初に話し出したのは葵の母、百合だった。
「二人とも顔を上げなさい」
恐る恐る顔を上げる。
「二人の想いも覚悟もしっかり伝わったわ。元々反対する気なんてさらさら無いのよ。だから梗介くん、葵を選んでくれてありがとう。自慢の娘なの・・・どうか、見捨てないでやってね」
「俺から手を離すことはないし、葵が離しても追いかけて捕まえるよ」
「あら、情熱的っ!」
百合は頬を染めうっとりする。
「葵ちゃん、不器用な梗介だけど支えてやってね。昔から葵ちゃんのことしか見てないからちょっと重たいかもしれないけど・・・」
「ちょっ、母さん!」
動揺した梗介が止めに入るが、止まるわけもなく・・・
「誰に似たのか、一途なのはいいことなんだけどねぇ・・・しつこいというか、執念深いというか・・・」
「梗介は完全に父さん似だよな」
「昴は黙ってろ!」
菫と昴が梗介を揶揄う。
「梗介、葵一筋なんて見る目あるぞ!さすが俺が認めた男だ!」
圭吾は梗介と肩を組み楽しそうに笑っている。
「梗介も葵ちゃんも、夫婦だからって二人だけで頑張らなくてもいいんだよ。いつでも頼りなさい」
祐一が最後の締めのように二人を包み込んだ。
この人たちが葵と梗介に家族というものを教えてくれた。感謝でいっぱいだ。
この温かい空間で育って来れたことを誇りに思う。
「祐一さん、菫さん、お父さん、お母さん、それに昴。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
梗介と二人でもう一度頭を下げる。姿勢を戻すと自然と視線が絡まり、お互いに安堵の笑みをこぼした。話し始めるのと同時に繋いだ手は、これからの未来を結ぶように、離れず繋がれたままだった。




