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リビングに通され、コの字型に置かれているソファー。
梗介と蓮、その向かいに瑠奈と母親、一人掛けのソファーに社長が腰掛ける。
「まず一つお聞きしたいのが、婚約の件は、どのように進められたのでしょうか?」
「梗介・・・?」
瑠奈が不安気に梗介を見る。
「どのように、とはどういうことかな?」
梗介の言葉の意図を図りかね、戸惑う様子を見せる。
「私は、瑠奈さんに婚約を迫られましたがお断りしています。付き合っていた過去はありますが、随分前に別れています」
「何?」
社長の眉間に皺が寄る。
「私自身もどうしてこんなことになっているのか分からず、社長と瑠奈さんに確認したく参りました」
「瑠奈。どういうことか説明しなさい。お前は梗介くんからプロポーズされたと言っていたじゃないか」
「梗介!なんでそんな嘘つくの!ひどいわっ」
そう言って涙を流し始めた。
女優でも目指したらどうだ。と心の中で悪態をつく。
「梗介くん。娘はこう言っているが」
「言葉ではどうとでも言えますよね。では、こちらからはまず、瑠奈さんの普段の行いについてお伝えさせていただきます」
蓮はバッグの中から書類の束を出し、社長の前に差し出す。
社長は束になった書類に目を通し目を剥く。
店員への横柄な態度や、乱れた異性関係などが写真付きで並べられていた。
蓮は爽やかな笑顔を貼り付けたまま淡々と事実を並べていく。
「これらは私が集めた娘さんの悪評の数々です。どなたかが慎重に揉み消していたようですが、したことを完全に消すことは出来ません」
瑠奈は目を丸くして、社長の手から書類を奪い去る。中身を確認して破り捨てた。
「何なのよこれ!こんなのでっち上げよ!」
瑠奈は大きな声で叫ぶと、破り捨てた紙屑たちを踏みつけた。
いつもの余裕綽々とした瑠奈からは考えられないほどの豹変ぶりに、息を呑む。
だが、引くわけにはいかない。グッと拳に力を入れた。
「法的に十分証拠となる物ですよ。それからこちらも・・・」
蓮はスマホを出し音声を流す。
「こちらは瑠奈さんのお母様から婚約の情報提供があったという出版社の方の証言です」
瑠奈と母親は顔面蒼白で、唇を噛み締めたまま固まっている。
「お前たち、どういうことだ!母さんまで手を貸したのか!?」
二人は震えながら弁解する。
「嘘じゃない!梗介と婚約したもの!」
「そうです!こんなものはいくらでも捏造できますわ!あなた、可愛い娘の言うことが信じられないの!?」
そう。問題があったのは父親ではなく母親の方だった。
キーキーと文句を言っている横で、社長が片手で顔を覆い深く息を吐いている。
「二人とも落ち着きなさい」
大きな声を出したわけでもないのに響く、深くて重い声。大企業の社長然りとした姿に空気がピリつく。
「話を続けてくれ」
社長は前屈みに項垂れ、話の続きを促す。
「承知いたしました。これを踏まえた上で、こちらの音声をお聞きください」
蓮はスマホを操作して先程のものとは違う音声を流す。
『私と婚約すれば、父が梗介の事務所をもっと大きくしてくれるわ。父の会社としてもあなたの事務所の力は大きいと思うの。Win-Winでしょ?』
『たしかにそうかもしれない』
『ならっ』
『でも、君と婚約はしない。俺が想いを向けるのは葵だけだ』
『断るの?婚約を断ればこの事務所もどうなるか分からないわよ?』
『好きにすればいい。俺の答えは変わらない』
そこまで流すと再生を止める。
社長は頭を抱え、瑠奈と母親は、ヒステリックに叫びSPに止められている。
「瑠奈と妻を部屋に連れて行きなさい。出られないように見張りも頼む」
「承知しました」
「瑠奈ちゃんに何するの!」
SPが敬礼して暴れる二人を連れて行く。
リビングには梗介と蓮と社長の三人になった。




