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幼馴染のち恋模様  作者: 琴乃葉つむぎ
夢の中のあの人

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5


先ほど見ていた入り口に近い窓側にあるソファー席に案内された。


「こちらでお待ちください」

「恐れ入ります」


しばらく建物内を見渡していると侑李が戻ってきた。


「お飲み物をお持ちしました。熱いのでお気をつけください」

「ありがとうございます。いただきます」

「それからこちらは今回のプロジェクトで開発予定の模型です。よろしければご覧になってお待ちください」


社員の方二人が慎重に模型をテーブルに置く。


「わぁ〜!」


思わず感嘆の声がこぼれる。侑李と社員の方たちは一礼して去って行く。

改めて模型に視線を戻す。開発予定である霜月駅周辺の模型はとても精密で思い出が蘇る。

ここよく通ったな〜

あ、このコンビニでよく買い食いしてたな〜

そんな思い出に浸りながら夢中で模型を眺めていると頭上から声がかかる。


「柚月さん?お待たせしてしまってすみませんでした」

「っ!」


驚いて危うく模型に顔を突っ込んでしまうところだった・・・。


「と、とんでもありません。トラブルの方は大丈夫でしたか?」

「問題ありません。早速始めましょうか」


切り替えの速さにさすがだなと心の中で拍手を送る。昔から器用になんでもこなすので美しい顔と相まって女の子が放っておかなかった。


「これは霜月駅周辺ですよね?こんなに細かく再現できるなんて・・・」

「実際にそこに暮らしている人たちの目線を入れたくて。”保存”じゃなく”息を吹き返す”が今回のテーマなので」


梗介は指先で模型の小さな路地をなぞる。その動きが丁寧で、建物に対する愛情が伝わってくる。


「東雲様は霜月が地元だとお伺いしましたが、今回のプロジェクトにはどんな思いで臨まれていらっしゃるのでしょうか?」

「大切な街の大切な人たちが繋いできた場所を私も私の力で守りたいと思いました。開発と聞くと歴史や思い出が消えてしまうように思われるかもしれませんが、そうではなく、歴史や思い出はそのままにそれが味となって強調されるように新しいものを取り入れる。昔ながらを大切にしながら大切な街がもっと大切にされるように精一杯努めたいと思っています」


梗介の言葉の誠実さに心が温かくなる。この街を大切に思っているのは私だけじゃないんだ・・・。

それから今回のプロジェクトに関する話をやりとりし、そろそろ終わろうかとしたところで梗介が提案してきた。


「柚月さんまだ時間ありますか?良かったらもう一つ模型があるので見て行きませんか?」


梗介の提案に心が躍りすぐさま「ぜひ!」と答えていた。


歩き出した梗介の後について行くと階段を登って2階に上がる。2階にはキッチンがあり、ソファーも置いてあり休憩スペースのようだ。そこを通り過ぎた奥に扉があり、そこへ入っていく。


「お邪魔します・・・」


呟いて葵も中へ入ると、本棚に囲まれていて真ん中に大きな長方形のテーブルがある。その上には先ほど言っていた模型が置いてあり、それに近づいて興味深げに覗き込む。


「霜月の商店街!こちらも精密ですね・・・」


またまた夢中で観察していると、背中が温かくなり重さが加わる。えっ?と思った次の瞬間には背後から囲い込むような形で梗介がテーブルに手をついた。テーブルと梗介に挟まれるような姿勢になり身動きが取れない。テーブルについた左手の指輪を見たくなくて目を逸らす。

どうしていいか分からず固まっていると梗介が耳元で囁いた。


「葵...」


どうしてそんなふうに名前を呼ぶの・・・。

切なげに私の名前を呟く梗介に胸が締め付けられる。

なんと返していいのか分からず目をギュッと閉じて押し黙る。


「葵?こっち向いて」


また耳元で囁かれる。

さっきまでの社長然りとした梗介はどこへ行ってしまったのか、突然の甘い空気に眩暈がする。


「・・・っ、初めましてって、言ったじゃない」


なんとか声を絞り出したが、皮肉めいた物言いに少し後悔する。どうしてもっと可愛げのある言葉選びができないのか・・・。


「最初にメールではじめましてって送ってきたのは葵だろ?だから初対面を装った方がいいのかと思ったんだ」

「それは、仕事で関わる以上、メールで私的なこと書けないでしょ?」

「いつの間にか番号変わってて連絡つかないし」

「水没してスマホ変えた時に番号も変わっちゃったの」

「俺のIDブロックしてるだろ」

「そ、それは・・・」

「それは?」

「・・・ごめんなさい」


背中越しに言い合う二人の声が室内に交互に響く。


「じゃあ今の連絡先教えてくれるなら許す」


既婚者が言うセリフじゃないでしょ・・・。


「結婚してるんだよね?相手の方はよく思わないと思う」


だんだん腹が立ってきて語気が強くなる。


「結婚?あぁ・・・」


コンッコンッコンッ


梗介が何か言おうとしたその時、ドアがノックされた。


「仁科です。梗介さんに急ぎのお電話です。ご対応いただけますでしょうか」


扉の外から侑李が声をかける。


「取り込み中「本日は貴重なお話をありがとうございました!現地取材の日もよろしくお願いいたします。それでは失礼いたします」


梗介が返事をするのを遮り、隙をついて梗介の腕の中から抜け出す。早口でお礼を伝えてから勢い良くドアを開けた。

後ろから梗介の「おい、待てっ」と言う声が聞こえるが、聞こえないフリで部屋の外に出る。

ドアが勢いよく開き驚く侑李にも今日のお礼を伝え逃げるように退散する。


既婚者のくせして他の女に迫るなんて最低!見損なったわ!

ムカムカする気持ちと久しぶりに触れる梗介の体温にドキドキする気持ちがせめぎ合い複雑な心境を抱える。

この気持ちをどうにかしたくて親友の真緒を飲みに誘った。



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