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「うんうん、驚くのもわかるよ〜かっこいいよね〜。僕も若い頃は・・・」
部長が何か言っているがどんどん声が遠くなり、焦りと戸惑いで心臓が脈打つ。
何が起きているのだろうか・・・。見覚えのある、さらりとした黒髪に通った鼻筋、シャープな輪郭ながら全体的に優しい空気を纏う美形。しかしだいぶ大人びたその顔に今朝の夢が思い出される。
慌てて首を横にブンブン振り頭の中から追い出した。
「柚月さん?大丈夫?」
突然奇行に走る葵に部長が心配そうな表情を向けている。
「すみません、大丈夫です・・・。ちなみに、その仕事は私以外に任せる方はいないのでしょうか?」
「いるにはいるけど、先方が柚月さんをご指名なんだよね」
ご指名!?私がここで働いていることを知ってるの・・・?どうして?
頭の中で幼馴染である彼に疑念を抱く。
部長に目を向けると捨てられた子犬のような目で葵を見つめ「柚月さんにしかできないんだ・・・」とトドメの一撃を喰らわせてきた。私はその言葉に弱い上に、この霜月開発プロジェクトにはとても興味があった。
「「・・・・・・・」」
「・・・・分かりました」
長い沈黙を経て諦めたように返事をする。
部長はずるい。私が断れないと見越して話しているに違いない。悔しい気持ちにクッと奥歯を噛み締める。
「ありがとう!柚月さんなら素敵な記事を書いてくれると信じているよ」
信頼と期待のこもった温かい部長の微笑みに降参だ。覚悟を決めるしかない。
部長に仕事の詳細を聞き早速取り掛かる。
部長にもらったメールアドレスに挨拶の文を打ち込む。
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東雲様
はじめまして。
株式会社リシモ 編集部の柚月葵と申します。
このたび、霜月駅前開発プロジェクトに関する取材を担当することになり、ご挨拶を兼ねてご連絡いたしました。
建築面からのご意見や、今回のプロジェクトに込められた意図など、ぜひお聞かせいただければと思っております。
お忙しいところ恐れ入りますが、日程調整のご相談をさせていただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
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これでいいかな?
なんの緊張なのか微かに震える指先でマウスをクリックし送信した。
「ふぅぅーーーー」
深く息を吐き、気持ちを切り替える。
よし!まずはプロジェクトの内容確認と取材内容をまとめて・・・
頭の中でやるべきことを組み立てながら作業しているとパソコンの画面に表示が一つ、メールの受信を知らせた。
もう返事きたの?早くない?
恐る恐るメールを開くと思った通り彼からの返信だった。
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柚月様
ご連絡ありがとうございます。
霜月駅前開発プロジェクトを担当しております、嚮建築事務所の代表 東雲梗介です。
取材の件、承知いたしました。
日程については、来週であれば比較的調整がしやすい状況ですので、柚月様のご都合と合う日があればお知らせください。
それでは、当日お目にかかれることを楽しみにしています。
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最後の文に含みを感じるのは、過去があるからなのか、それとも思い過ごしか・・・。考えても仕方ないので黙ってメールを閉じた。




