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Black Rings  作者: 弥百花
15/15

逃げ場のない空

それは、事故ではなかった。

そして、偶然でもなかった。

同じ時刻、

同じ空の下で、

それぞれが「逃げ場」を失っていく。

――これは、始まりの合図だ。

飛行船が、急降下してきた。

逃げ場はなかった。


カナタは、恐怖で思考が追いつかず、

足元から世界が浮き上がるような感覚に襲われた。


――死ぬ。


その瞬間だった。


稲妻のような光が走り、

タシトの腕が、空を裂くように振り上げられる。

次の瞬間。


ドカァン――!!


轟音と共に、巨大な飛行船は空中で“砕け散った”。

爆発ではない。


まるで、構造そのものを否定されたかのように。


エルナスは、目を見開いたまま、タシトを見る。

「……なにを、した……?」


答えはなかった。

爆煙の向こう、崩壊した影の中から――

人影が、五つ。


次の瞬間、間髪入れずに放たれる殺意。

これは事故ではない。


最初から、“殲滅”だった。




その頃――

同じ時刻、別の地点では。


最新鋭の機体から一人の男が降りてきた。

こちらに向かって歩く足音が、夜の闇に微かに響く。


「隠れる?」ミラがシャドに耳打ちした。


「どこに…?」シャドは、皆の顔を順に見渡す。


「まずは、リングを可能な限り解除して構えよう」シャドが声をかけ、皆は手首を確認する。


男は、足元の飛行船の扉を軽くノックした。姿はまだ見えない。


「僕が出る」シャドは操縦席に進み、外部通信機のボタンを押す。

「何でしょうか?」声が微かに漏れる。


「……ああ、よかった、応答してくれて。こんな場所にしては、ずいぶん賑やかだね」

声のトーンには柔らかさがある。


後ろに下がり手を振るその姿が、窓越しにようやく見えた。


爽やかで屈託のない青年。スーツに隠れた両腕には、いくつものリングがゆっくり回転している。


「あなた…何かご用ですか?」シャドが恐る恐る問う。


「君たち、まだ学生だよね?ちょっと驚いたんだ。こんな所で会うなんて、特殊部隊の学生?」


沈黙。


「そんなに身構えなくても大丈夫だよ、敵じゃない。少なくとも――今はね」


シャドが体を強張らせる。


「あなたは?」ミラが、静かに尋ねた。


「ただの使い走りさ。偉い人の代わりに、空気を確認しに来ただけ」


男は辺りを見渡し、大きく息を吸う。

「……忠告しておきたくてね。君たちは、ここに長居しない方がいい」


長い沈黙が、静かな夜の基地に流れる。


「忠告ありがとうございます」ミラは深く礼をした。とはいえ、パイロットが戻らなければどうすることも出来なかった。


男は、去り際に一言だけ残した。

「じゃあね。

また会えたら、その時は――」

敵と言うには、あまりにも爽やかすぎる笑顔だった。


男の姿が最新鋭の機体に乗り込んだ。

――その直後だった。

《……ザッ》

リング通信が、一瞬だけノイズを噛んだ。


ミラは、胸の奥に残った違和感を噛みしめる。

(笑顔が――作り物だった)

理由はわからない。 けれど、その感覚だけは、妙に確かだった。




――遠くで、爆発音がした。


溪谷に残された生徒九人の足元へ、

遅れて、鈍い振動が這い上がってくる。


「あの空……光った場所って」

女生徒が、震える指で闇を指した。


「タシト隊長の……方向じゃない?」


答える者はいなかった。

代わりに、砂嵐が吹き荒れ始める。

視界は一気に奪われ、通信リングが不規則にノイズを吐いた。

「……今、連絡が来ても出られないよ」

誰かが、岩陰に身を縮めて呟く。

「こんな中じゃ……」

 

その頃――

タシトは、迫ってきた黒い特殊スーツの男二人を、ほとんど同時に掴み上げていた。

次の瞬間、首元を掴まれたまま、二人の体が地面へ叩きつけられる。

閃光。

地面が光り、爆ぜる。

男たちは悲鳴を上げる間もなく、沈黙した。


残る三人は、一斉に王へと照準を切り替える。

セリューが即座に前へ出て、シールドを展開した。

その動きに無駄はない。

だが、相手も同じだった。


――全員、レベル8以上。

DefenceとAttackを、完全に使いこなしている。


拮抗する力のぶつかり合いの中で。

カナタは、ただ座り込んでいた。

何が起きているのか、理解できないまま。

――自分だけが、ここに取り残されている気がしていた。



ミラ達の元に、パイロットがようやく戻ってきた。

「ど、どちらに行かれてたんですか!?」 シャドは、思わず問い詰めるように声を荒げた。


「今すぐ、ここを立ち去る」

短く、切り捨てるような言葉だった。


「給油は!?」 ミラが、反射的に叫ぶ。

「そんな時間はない」 パイロットは、それ以上の説明を拒むように言い放つ。


遠くで、最新鋭の三機と別の飛行船が動き出しているのが見えた。

「……何か、あったんですか?」 ミラは、嫌な予感を押し殺しながら問う。


「ここは、間もなく地下空間が――大規模爆発を起こす」


「え……?」

ミラとシャドは、顔を合わせる余裕すらなく、言葉を失った。


飛行船が、浮上しようとした――その瞬間。

何か見えない“力”に引き留められたように、機体が強く弾かれた。


次の瞬間、別の飛行船がバランスを崩し、壁へと叩きつけられていた。

爆発。

炎と破片が宙を舞い、その衝撃と熱風が、即座にミラたちの機体にも届いた。

偶発事故ではない。 そう直感させるほど、その動きは正確だった。


「シールド、最大展開!」

ミラたちは、反射的に何層もの防壁を張る。


パイロットの展開したシールドが、赤から青に変色する。 機体全体を包み込むような、強化防御。

だが――

飛行船は、前にも進めず、留まることも許されなかった。 まるで、見えない蜘蛛の糸に絡め取られたかのように。

ミラは歯を食いしばり、削られていくシールドを必死に維持する。 隣で、シャドは歯噛みするしかなかった。

――今は、壊す力より、守る力が必要だった。


隣に駐機していた、もう一機の飛行船が、

爆風に耐えきれず、音もなく潰れるように崩れ落ちた。

——あれは、タシトたちが乗ってきた機体だった。


「――この場から、誰も逃げられない」

その予感だけが、静かに膨れ上がる。


爆風が、ようやく収まった。


ふと視界の端に、最新鋭の三機が映る。 すぐ隣にあるにもかかわらず―― それらは、異様なほど静かに駐機していた。


それでも、地下でいつ起こるかわからない大規模爆発の気配は、空気に張りついたままだ。


「早く……ここを脱出しなければ……」


ミラは、足がすくむのを感じながら呟いた。

パイロットが能力者だと分かっただけでも、救いだった。

それでも――どうすればいい。


次の瞬間。

最新鋭の三機が、空間を裂くように加速した。


――抜けた。


蜘蛛の糸が、引きちぎられる。


直後、外で爆発音が響いた。


「……え?」




(第十五章・了)


見えない糸は、すでに張り巡らされている。

誰が仕掛け、

誰が気づき、

誰が――解放されたのか。

次に動くのは、

逃げる者か、

それとも――

立ち向かう者か。

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