二人一組の掟
人は、誰と並ぶかを選べない。
だが、誰と引き離されるかは――
ある日、唐突に決められる。
寮の近くの喫茶店は、夜になると学生でにぎわう。
木目のテーブルと、少し古いソファー。
訓練を終えた身体を沈めるには、ちょうどいい場所だった。
実家から通う者、寮暮らしの者。
立場は違っても、今夜は六人、同じテーブルを囲んでいた。
「メア・フェールだってよ。圏外だ。まじでアイツ、俺たちを殺す気だぜ」
バーチはソファーに深く座り込み、ぶつぶつと不満を垂らす。
「メア・フェールっていったら、世界きっての悪の溜まり場だろ?」
ソードは、舌につけたピアスをぺろりと見せて笑った。
「俺より悪いやつがいるなんてね」
「笑かすな! お前なんか全然フツーだし」
「はぁ? 調子こいてんじゃねーぞ!」
胸ぐらをつかみ合う二人に、ミラはため息をつく。
「……もう、この二人。先が思いやられるわ」
そのまま視線をユウナギに向けた。
「シャドってば、早々に膝をついたのがショックだったみたいね。終わってから、すぐ帰っちゃったし。
意外にナイーブなのかしら。優等生だし?」
ユウナギは答えず、湯気の立つミルクティーを両手で包み込むように持ち、黙ったまま一口含んだ。
「ねえねえ、タシト隊長って、どんだけ強いのかなぁ」
ミルルは、まだ興奮が冷めない様子で身を乗り出す。「どう思う? ミラ」
「そりゃ強いでしょ。あの年で、現役の特殊部隊隊長よ?」
ミラはソファーに深く腰を沈め、片肘を背もたれに預けたまま顎に手を添え、ため息まじりに言った。
「それより問題なのは――メア・フェールに、プラス先生が同行しないこと。
ありえなくない?」
「だから言ってんだろ」
バーチが肩をすくめる。
「能力者の卵、まとめて始末しろって要請が出てんじゃねーの?」
「やめてよ!」
ミラが鋭く睨む。
その横で、カナタは何事もなかったかのようにハンバーガーを頬張っていた。
「ミラ、おかわりしてもいい?」
「あ……私の分あげる。食欲ないし」
ミラは包み紙ごと、差し出す。
「ありがとう」
カナタは、屈託なく笑った。
「うーん……」
ミルルは窓の外、夜空を見上げる。
「でもさ。結構、優しい感じがしたんだけどなぁ」
一瞬の沈黙。
「「どこが!!」」
声が、見事にそろった。
◇
発着用の巨大な格納庫に、重い金属音が響いていた。
「うえー、まさか飛行船に乗るのが人生で今回が初なんてよ……」
バーチがぼやいた。
皆、戦闘用の宇宙服に身を包んでいる。
「お前、コロニー・リオンド行ったことねーの?」
「はぁ!?」
「やめて、二人とも。ここで始まるとこじゃないわ」
ミラが冷静に睨む。
言い合いもかき消されるほど、空気は張りつめていた。
荷物が積み込まれ、隊員たちは次々と機体へと吸い込まれていく。
ミルルは、乗り込む瞬間に体勢を崩し、足を滑らせた。
「――先に視線を運べ。
ミルルは、動きが先だ」
タシトが、よろけた身体を一瞬で支える。
「は、はい! 隊長。もっと集中します!」
「……」
タシトはそれ以上言葉を返さず、別の機体へと向かった。
機体が、低い振動音を響かせながら浮き上がる。
別の機体に搭乗するユウナギは、その背中を黙って見送っていた。
カナタは、いつの間にか強く握りしめていた手に気づき、そっと力を抜く。
「ねえ……」
ミルルは、誰にともなく呟いた。
「あの人の下なら――
どこでも行ける気がする」
窓の外で、星々が静かに流れ始めていた。
*
闇夜に、タシト一行は到着した。
メア・フェールの航空基地は、
半分は放棄され、半分は今も稼働している。
表向きは、正規の軍用・交易用基地。
だが実態は――
傭兵、密輸業者、情報屋、
そして正体不明の能力者たちが、同じ滑走路を使っていた。
秩序と無秩序が、無理やり同居している場所。
それが、衛星メア・フェールだった。
「ここが、衛星メア・フェール!」
ミルルが、期待に胸を膨らませて声を上げる。
「君だけだぜ。
なんか遠足に来たみたいなテンションなの」
バーチが呆れたように言い、
そのまま首を傾けてタシトを見た。
「……油断ならねぇな」
飛行船は、二機に分かれていた。
タラップを降りたタシトは、生徒たちを手短に集める。
「ここで、班を分ける」
ざわ、と空気が揺れた。
「まず、待機班を発表する」
「そんなのあり!? 待機とか!」 バーチが目を見開く。
「ミラ、シャド。ほか七名」
「うそ、まじか!?」 バーチは思わずミラを見る。
「何よ。文句があるなら、タシト隊長に言って」 ミラは腕を組み、素っ気なく返した。
タシトは、淡々と続ける。
「次。メア・フェールの街を通過する班」
「あ、地獄行き班ね」 バーチが即座に言う。
「びびりすぎだ」 ソードが鼻で笑った。
「ユウナギ、ミルル、バーチ、ソード。ほか六名」
「ユウナギ、頼むぜ」 バーチは軽くユウナギの肩に手を置く。
「……」 ユウナギは応えず、タシトを見ていた。
「最後に――高原側から回る班」
一拍。
「カナタ、ほか九名。
そして、私が同行する」
空気が、微かに張りつめる。
「……カナタと、隊長が……」 ユウナギの胸に、複雑な感情が静かに湧き上がった。
「なんで! なんで私、隊長と同じ班じゃないの!!」 ミルルは、あからさまに肩を落とす。
タシトは、誰の表情も見ない。
「期間は三日。想定外が起きる可能性は高い。
食料は七日分持て」
「各班、リング通信で一時間おきに状況報告。
異常があれば即時連絡」
淡々と、命令だけが積み重ねられていく。
ユウナギは、両腕のリングを見た。
レベルは三まで。普段と変わらず解除されている。
「リングは、各自が制御できる限界まで解除を許可する。ただし――
自分の限界を誤認した者は、生き残れない」
「街を通る班には、装甲車を用意してある」
遠くで、飛行船のパイロットが小さく手を振った。
タシトは、最後に一言だけ付け加える。
「――それでも、生き延びろ」
それだけで、十分だった。
(第十二章・了)
こうして、彼らは分けられた。
同じ目的を持ったまま、
違う地獄へ。




