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貞操逆転世界で、俺だけが『抵抗』できる ~魔力ゼロの種馬扱いから始まる、最強神官長(ヤンデレ)との支配関係逆転生活~  作者: 秋葉原うさぎ


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第7話:静寂の図書館と、恋に落ちない少女、世界の謎

 アテナの監視、リナの突撃、シエルのツンデレ視線……。

 そんな「ハーレム(修羅場)」から逃げ出した湊が向かったのは、学園の聖域・図書館。

 そこで待っていたのは、今までのヒロインとは一味違う「彼女」でした。

 その日の放課後、俺に奇跡的な「自由時間」が訪れた。


「ごめんなさい、ミナト。どうしても大神殿の定例会議に出なくちゃいけないの」


 アテナは、この世の終わりのような顔で俺の手を握りしめていた。どうやら神官長としての公務はサボれないらしい(サボろうとして側近に引きずられていった)。


「いい? 絶対に教室から出ちゃダメよ。他の女と目を合わせるのも禁止。呼吸もなるべく控えて」

「呼吸はさせてくれ」

「……できるだけ早く戻るわ。もし誰かがあなたに触れようとしたら、この護身用の『業火の指輪』を使って。学園の一区画くらいなら吹き飛ばせるから」

「受け取れないよそんな戦略兵器!」


 後ろ髪を引かれまくるアテナを見送り、俺は一人、教室に残された。

 ……とはならなかった。

 教室にいると、リナやシエル、その他の肉食女子たちが「アテナ様がいない今がチャンス!」と群がってくるのが目に見えている。


(……逃げよう)


 俺はアテナの言いつけを破り、教室を抜け出した。

 目指すのは、学園で最も静かで、人気のない場所。

 ――『王立図書館』だ。


 ◇


 図書館の扉を開けると、そこには静寂と、古紙の懐かしい匂いが広がっていた。

 天井まで届く巨大な書架。宙に浮遊する魔導ランプ。

 この世界の女性たちは、身体を動かすことや魔術の実践を好むため、座学中心の図書館は不人気スポットらしい。

 読み通りだ。ここなら落ち着ける。


 俺は適当な本を手に取り、閲覧席の奥へと進んだ。

 この世界に来てから、まだこの世界の「歴史」や「仕組み」をちゃんと調べていない。

 なぜ、男女の貞操観念が逆転しているのか。

 アテナが言っていた「呪い」とは何なのか。


「……ん?」


 書架の陰にある、窓際の席。

 そこに、先客がいた。


 小柄な少女だ。

 さらさらとした黒髪をボブカットにし、大きな丸眼鏡をかけている。

 膝の上に分厚い魔導書を広げ、ページをめくる指先は雪のように白い。

 制服のリボンは、他学年を示す緑色。後輩か?


(……気づかれてないな)


 俺が静かに通り過ぎようとした、その時だった。


「――珍しいですね。この学園の殿方が、ファッション誌以外を読むなんて」


 涼やかな、鈴を転がすような声。

 少女は本から目を離さず、淡々と言った。


「あ、いや……ちょっと調べ物があって」


「そうですか。……なら、静かにしてください。集中しているので」


 冷たい。

 今まで出会った女子たちのような「熱っぽい視線」が一切ない。

 彼女は俺を一瞥いちべつすらせず、活字の世界に没頭している。

 ……なんだろう、この安心感は。

 俺は彼女の邪魔をしないよう、少し離れた席に座り、手に取った歴史書を開いた。


 そこには、こんな記述があった。


『――かつて、女神イシュタルは嘆いた。男たちの争いによって大地が荒廃することを。故に女神は、世界に新たなことわりを与えた。女には「力」と「支配」を。男には「美」と「服従」を。これこそが平和へのいしずえである』


(……なるほど。神話レベルで「女尊男卑」が刷り込まれてるわけだ)


 だが、読み進めていくうちに、俺はある違和感に気づいた。

 本のページの端に、微かな、しかし乱雑な筆跡で、何かが書き殴られているのだ。

 インクではない。時間が経って黒ずんでいるが、これは……血か?


『……嘘だ』

『歴史は……改竄かいざん……された』

『本当は……男も……魔力を……』


 その走り書きを読んだ瞬間、背筋が寒くなった。

 誰かが、この「正史」に命がけで疑義を抱いている?


「――その本、面白いですか?」


 不意に、すぐそばで声がした。

 ビクリとして顔を上げると、いつの間にか先ほどの黒髪の少女が目の前に立っていた。

 眼鏡の奥の瞳は、深い藍色。

 感情の読めない、冷たい湖のような瞳だ。


「あ、ああ……。神話について書いてあったから」


「ふうん。……『女神の盟約』についての記述ですね。この世界の根幹を成す、絶対の真理」


 少女は俺の手元を覗き込み、そして、ふっと自嘲気味に笑った。


「……くだらない」


「え?」


「あ、いえ。独り言です」


 彼女は表情を戻すと、俺の顔をじっと見つめた。

 その視線は、アテナのような「熱」でも、リナのような「好奇心」でもない。

 何かを分析し、解剖するような、冷徹な観察眼。


「貴方、噂の転入生ですよね。ミナト・カザマ」


「知ってるのか?」


「ええ。アテナ神官長が『世界一の至宝』として囲っている愛玩動物ペット。……でも、実物は随分と雰囲気が違いますね」


 彼女は一歩、俺に近づいた。

 鼻先が触れそうな距離。

 だが、そこに「媚び」や「誘惑」の気配はない。むしろ、ナイフを突きつけられているような緊張感がある。


「貴方の魔力波長……おかしいですよ。この世界の『檻』に、収まっていない」


「……何が言いたいんだ?」


「別に。ただ……気をつけてくださいね、という忠告です」


 少女は俺の耳元に唇を寄せた。

 アテナの時のような甘い吐息ではない。ひやりとした、氷のような囁き。


「この学園には、貴方を『愛でたい』人ばかりじゃない。……貴方のような『異分子』を、排除したがっている人間もいるってことです」


「排除……?」


「ええ。例えば――この世界の『嘘』を暴こうとする者を消す、掃除屋クリーナーとかね」


 ゾクリ、とした。

 彼女の言葉は、まるで自分自身のことのようにも、あるいは誰かへの警告のようにも聞こえた。


「――ノア」


 少女は身を離し、再び無表情に戻った。


「私の名前はノア。……覚えておいて損はないと思いますよ、ミナト先輩」


 ノアはそう言うと、分厚い魔導書を抱えてきびすを返した。

 その背中は小さく、どこか孤独に見えた。


「あ、おい! 待ってくれ!」


 俺が呼び止める間もなく、彼女の姿は書架の向こうへと消えていった。


 残されたのは俺と、机の上の歴史書。

 そして、彼女が去り際に残していった、一枚のしおり

 そこには、美しい文字で一言だけ、こう書かれていた。


『真実を知りたければ、満月の夜、時計塔の下へ』


(……なんだよ、これ。デートの誘いにしては、物騒すぎるだろ)


 俺は直感した。

 彼女――ノアは、ただの図書委員じゃない。

 この「貞操逆転」の世界において、アテナとは違う視点で世界を見ている、何らかの「勢力」の手の者だ。


 もしかしたら、彼女こそが、この狂った世界の謎を解く鍵になるのかもしれない。

 あるいは、俺の命を狙う刺客か。


「……面白くなってきたじゃん」


 俺は栞をポケットにしまい、ニヤリと笑った。

 守られているだけの「お姫様」ポジはもう御免だ。

 ここからは、俺自身の足で、この世界の秘密に踏み込んでやる。


 ――だが、俺はまだ知らなかった。

 アテナが戻ってきた時、俺のポケットから「知らない女の匂いがする栞」が見つかり、神殿始まって以来の修羅場が訪れることを。


 新キャラクター・ノアの登場です!

 「クーデレ」「眼鏡っ子」「ミステリアス」……これまた強力な属性が来ました。

 彼女は敵か味方か? そして世界の「嘘」とは?


 次回、「第8話:神官長の嫉妬は『尋問』の味がする」。

 アテナ様、激おこです。主人公の貞操(と命)が危ない!

 

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