第4話:氷の令嬢が「初めて」を知る時、あるいは絶対支配の崩壊
お待たせしました! いよいよ「ざまぁ」&「陥落」回です。
学園の女王様・シエルのプライドが、湊の「ある力」によって粉々に砕け散ります。
スカッとしたい方、必見です!
中庭に、乾いた音が響いた気がした。
それは、学園最強と謳われた令嬢、シエル・ランバードのプライドが砕け散る音だったのかもしれない。
「……う、そ……」
シエルの震える唇から、掠れた声が漏れる。
彼女が握りしめた短杖の先端からは、依然として青白い魔力の光が放たれている。それは間違いなく、対象の精神を強制的に屈服させる『強制』の魔法だ。
この学園の男子生徒ならば、光を見ただけで涙を流して許しを請うほどの高出力。
だが。
俺――湊は、ただそこに立っていた。
痛みもない。圧迫感もない。ただ、少し涼しい風が頬を撫でていくだけだ。
「な、なんで……なんで跪かないんですの!? 私の魔法は完璧なはず……! あなたのような『守られるだけの存在』が、私の意思に逆らえるはずがありませんわ!」
シエルが叫ぶ。その美しい顔は、屈辱と焦燥で歪んでいる。
俺はゆっくりと、彼女との距離を詰めた。
一歩、また一歩。
俺が歩みを進めるたび、シエルは「ひっ」と喉を鳴らして後ずさる。
(……ああ、そうか。わかったぞ)
俺の中で、アテナが語っていた言葉が腑に落ちる。
――『この世界には魅了の魔力が満ちている』。
つまり、彼女たちの魔法は、相手が「自分は女より弱い」「女には逆らえない」と無意識に信じ込んでいるからこそ、効果を発揮する催眠術のようなものなのだ。
だが、俺にはその「常識」がない。
俺の魂は、男女平等の世界で育ち、自分の足で立つことを教えられてきた。
だから、彼女の魔法は滑り落ちる。
俺という「個」の輪郭を、掴むことができないのだ。
「……その魔法は、相手が心を開いている時にしか効かないんじゃないか?」
俺はシエルの目の前、吐息がかかるほどの距離で足を止めた。
彼女はもう、背後の壁にぶつかって逃げ場がない。
「な、何を……」
「俺はお前の所有物じゃない。俺の心は、俺だけのものだ。だから、お前の言葉は届かない」
俺はそっと、彼女が震える手で握りしめていた短杖に手を伸ばし、その切っ先を指先で弾いた。
カツン、と軽い音がして、杖が彼女の手から滑り落ちる。
「あ……」
武器を失ったシエルは、完全に無防備だった。
俺は彼女の瞳を覗き込む。
そこにあったのは、先ほどまでの傲慢な侮蔑ではない。
自分よりも弱いと思っていた存在に、あろうことか「拒絶」され、「無力化」されたという、未知の衝撃。
そして――。
「どうして……どうして、そんなに強い目をするの……」
シエルの頬が、みるみるうちに朱に染まっていく。
瞳が潤み、呼吸が荒くなる。
恐怖? いや、違う。これは――『ときめき』だ。
この世界の女性にとって、男性とは「従順で弱いもの」。
だからこそ、彼女は生まれて初めて出会ったのだ。
自分の力をねじ伏せ、真っ向から見つめ返してくる「オス」という存在に。
「私、心臓が……おかしい……。こんな、熱い気持ち……初めて……」
シエルはその場にへなへなと座り込んだ。
スカートが広がり、彼女は涙目のまま俺を見上げる。
それは、完全に「敗北」したメスの顔だった。
(……これが、この世界の『逆転』か)
俺が呆気にとられていると、背後からゾクリとするような冷気が漂ってきた。
「――そこまでよ、シエル」
アテナだ。
彼女は俺とシエルの間に割って入ると、氷のような微笑を浮かべてシエルを見下ろした。
「私のミナトに手を出そうなんて、いい度胸ね。……それとも、自分の魔法が効かないからって、色仕掛けで誘惑するつもりだったのかしら?」
「ち、違いますわ! 私はただ……!」
「黙りなさい」
アテナが一喝すると、シエルはビクリと肩を震わせて口を閉ざした。
アテナは俺の方を向くと、一転して甘ったるい声で囁く。
「ミナト、行きましょう。こんな『負け犬』に構う必要はないわ。……それに、あなたが他の女を見下ろして、支配しているような顔をするのを見ていたら……私が、我慢できなくなっちゃった」
アテナが俺の腕に抱きつく力が、ミシミシと強くなる。
その瞳は、シエルへの嫉妬と、俺への歪んだ愛情でドロドロに溶けていた。
「教室へ行きましょう。そこで、たっぷりと『消毒』してあげる。……あなたが、私だけのものだって、身体に教え込まなくちゃね」
アテナに引きずられるようにして、俺はその場を去る。
去り際、俺は一度だけ振り返った。
へたり込んだままのシエルは、まだ俺を見ていた。
その瞳には、熱っぽい光が宿っていた。
それは、獲物を見つけた狩人の目ではなく、初めて「恋」を知った少女の、切なくも激しい執着の光だった。
――こうして、俺の学園生活初日は、「最強の令嬢を陥落させる」という、とんでもない爆弾を抱えて幕を開けたのだった。
シエル、完落ちです。
「跪け」と言った本人が跪く展開、書いていて最高に気持ちよかったです(笑)
そしてラストのアテナ様。「我慢できない」「消毒」……不穏なワードが飛び出しましたが、湊くんの運命やいかに!?
次回、「第5話:神官長による愛の『消毒』タイムと、太陽の少女」。
アテナの愛が暴走します。そして、元気いっぱいな新ヒロインも登場!
お楽しみに!




