第3話:氷の令嬢は、従順な男がお好き?
神殿付属の学園に編入することになった湊。
そこで待っていたのは、学園の女王様気取りの令嬢・シエルでした。
「ざまぁ」展開の予感です!
翌朝。
俺はアテナに連れられ、神殿に併設された学園の中庭を歩いていた。
「いい? ミナト。私のそばから離れちゃダメよ」
アテナは俺の腕に自分の腕を絡ませ、ぴったりと密着している。
すれ違う女子生徒たちが、驚愕と嫉妬の入り混じった視線を向けてくるが、アテナが一睨みすると全員が目を逸らして逃げていく。
アテナの権力、すげぇ。
俺が着ているのは、アテナが見立てた神官見習いの制服だ。
布地は柔らかく、体のラインが少し出るデザインなのが恥ずかしい。これも「男を魅力的に見せるため」らしい。勘弁してくれ。
「あら、アテナ様。珍しいものを連れていらっしゃいますのね」
不意に、凛とした声がかかった。
振り返ると、そこには一人の令嬢が立っていた。
青い髪を縦ロールにし、吊り上がった蒼眼。扇子で口元を隠す仕草がいかにも「高貴なお嬢様」だ。取り巻きの女子生徒を二人従えている。
「……シエル。あなたには関係ないでしょう」
アテナの声が少し低くなる。
シエルと呼ばれた少女は、アテナではなく、俺をじろじろと値踏みするように見つめた。
「ふん、召喚された異世界人とは聞きましたけれど……なんて浅ましい。殿方のくせに、人前で堂々と顔を上げて歩くなんて」
シエルは軽蔑の色を隠そうともせず、俺を罵倒した。
「それに、その目つき。女性に対して媚びの一つも売れないなんて、躾けがなっていませんわね。野良犬同然ですわ」
カチン、ときた。
第1話のモブたちとは違う、知性を感じる侮蔑。
こいつは本気で「男は女に従うべきだ」と信じ込んでいる。これがこの世界の「エリート」の常識なのだろう。
アテナが前に出ようとするのを、俺は手で制した。
ずっと守られているだけじゃ、男が廃る。
「……野良犬で悪かったな。でも、俺は誰かに飼われるつもりはない」
俺はシエルの目を真っ直ぐに見つめ返して言った。
シエルの目が大きく見開かれる。
「は……? な、なんですの、その口の利き方は……!」
「お前が俺をどう思うか勝手だが、俺の価値はお前が決めることじゃない。俺が決める」
周囲が凍りつく。
男性が、しかも高位貴族の令嬢であるシエルに対して、公衆の面前で口答えをする。
それはこの世界では、あり得ない「大罪」であり「異常事態」だった。
「きっ、貴様……っ!」
シエルの顔が真っ赤になる。怒りか? それとも屈辱か?
彼女は懐から短杖を取り出し、俺に向けた。
「口を慎みなさい! 下賎な男が……私の『強制』魔法で、地べたに這いつくばらせてあげますわ!」
シエルの杖が光る。
圧縮された魔力が、俺の精神を叩き潰そうと襲いかかってきた――はずだった。
(……ん?)
風が吹いた。それだけだ。
俺は何の圧力も感じなかった。
「……な、なんで?」
シエルの表情が強張る。
彼女はもう一度、強く杖を振った。
「跪けと言っていますのよ! なんで平気な顔をして立っていますの!?」
「なんでと言われても……お前の魔法、全然効かないんだけど」
「そ、そんなはずはありませんわ! 私は学年首席のシエル・ランバードですのよ!? 男一匹、ひれ伏させられないなんて……!」
シエルが狼狽える。
その時、俺は気づいた。
彼女の顔が赤いのは、怒りだけじゃない。
俺が彼女の魔法を――彼女の支配を、真正面から跳ね除けたことに対する、未知の「混乱」と、そして……。
(……こいつ、目が潤んでないか?)
俺の「抵抗」に触れた瞬間、彼女の中の何かが揺らいでいる。
アテナが言っていた「魅了への耐性」とは、こういうことか。
俺は一歩、シエルに近づいた。
シエルが「ひっ」と小さな悲鳴を上げて後ずさる。
「言っただろ。俺は飼われるつもりはないって」
見下ろす俺と、見上げられ、呆然とする「氷の令嬢」。
その構図が逆転した瞬間、俺の胸の奥で、何かがパチンと弾ける音がした。
そして、シエルの瞳の奥に宿っていた「傲慢」の色が、音を立てて崩れ去っていく。
代わりに浮かんできたのは――初めて「オス」に負かされたメスの、熱っぽい陶酔だった。
シエルお嬢様、陥落(チョロイン化)の予兆……!
この世界の女性は、男性に強く出られることに免疫がないようです。
湊くんの無自覚な「王の覇気」、炸裂しましたね。
次回、「第4話:氷の令嬢が「初めて」を知る時、あるいは絶対支配の崩壊」。
シエル、完全に落ちます。そしてアテナの嫉妬も爆発します(笑)
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