第23話:魔王と勇者と神官長、奇妙な三角関係の逃避行
金貨100万枚で競り落とした「元・勇者」カノン。
彼女を加えた一行を待ち受けていたのは、しつこすぎる「あの女」の追撃でした。
最強の元カノ(勇者)と今カノ(神官長)に挟まれた、湊の明日はどっちだ!?
「――見つけましたわよ、愛しの魔王様!」
オークション会場の頭上から、甘く、そして狂気を孕んだ声が降り注いだ。
VIP席のガラスが粉々に砕け散り、純白の修道服を翻して「彼女」が舞い降りる。
神殿の異端審問官、セラフィナだ。
その手には、以前俺が握り潰したはずの「断罪の鎌」が――いや、それよりも巨大で禍々しい、新たな鎌が握られている。
「あいつ、もう武器を新調したのかよ!」
「ふふっ、貴方に壊された鎌は、家宝として寝室に飾ってありますわ。……これは二代目。貴方の手足を切り落として、ダルマさんにするための特注品です!」
セラフィナが鎌を振るうと、衝撃波だけで会場の床が裂けた。
悲鳴を上げて逃げ惑う貴族たち。
優雅なオークション会場は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わった。
「チッ、面倒な女が来たねぇ!」
情報屋シャムが短剣を抜き、俺たちの前に立つ。
「旦那、神官長サマ! ここはアタシが撹乱する! その隙に『商品(勇者)』を連れて逃げな!」
「わかった! 行くぞ、アテナ、カノン!」
俺は二人の手を取って走り出した。
だが。
「……待て。私はまだ、拘束されたままだ」
カノンが足を引きずりながら言った。
彼女の手足には、魔力を封じる重厚な手錠と足枷が嵌められたままだ。これでは走るどころか、まともに歩くことすらできない。
「鍵は!? 司会者が持ってるはずじゃ……」
「そんな暇はないわ!」
アテナが叫ぶ。
彼女はカノンの鎖に手をかざし、解錠魔法を唱えた。
しかし――。
「……ダメ、弾かれる! これは古代魔法の『呪縛鎖』よ。神代の術式でロックされているわ!」
「神官長殿でも解けないのか……。ならば、私はここに置いていけ」
カノンが諦めたように目を伏せる。
「私は所詮、敗北者だ。……これ以上、貴様らの足を引っ張るわけにはいかない」
「バカ野郎!」
俺はカノンの胸ぐら(ボロボロの鎧)を掴み、怒鳴りつけた。
「100万枚だぞ!? 俺(の女の財布)はお前に大金を払ったんだ! 商品のくせに勝手に諦めるな!」
「なっ……貴様……」
「それに、俺は言ったはずだ。『俺の剣になれ』ってな。……錆びついたまま終わるつもりかよ、勇者!」
俺の言葉に、カノンの蒼い瞳が揺れる。
その奥底に、消えかけていた闘志の火種が、再び灯るのが見えた。
「……ふっ。口の減らない『飼い主』だ」
カノンは口元を歪め、俺を睨み返した。
「いいだろう。……ならば、この鎖を断ち切ってみせろ。それができれば、私は地獄の果てまで貴様に付き合おう!」
「ああ、やってやるよ!」
俺はカノンの手錠を両手で掴んだ。
冷たく、重い金属の感触。
そこには、彼女の魔力を吸い取り続ける、どす黒い呪いが渦巻いている。
(……この程度の呪い、俺の『王の力』で……!)
俺は念じた。
地下書庫で、錆びた剣を目覚めさせた時と同じ感覚。
支配。命令。解放。
「――砕けろッ!!」
俺の手から、金色の覇気が奔流となって流れ込む。
バヂヂヂヂヂッ!!
手錠が悲鳴を上げ、黒い呪いが霧散していく。
パキィィィィンッ!!
硬質な音と共に、手錠と足枷が粉々に砕け散った。
「……なっ!?」
カノンが目を見開く。
拘束から解放された瞬間、彼女の身体から、太陽のような黄金の魔力が噴き出した。
「魔力が……戻った……? 古代の呪縛を、一瞬で……?」
「さあ、仕事の時間だぞ、勇者様!」
「……ああ、承知した。我が主!」
カノンは床に落ちていた剣(出品されていた装飾用の剣)を拾い上げると、風のように疾走した。
「逃しませんわよぉぉぉ!」
背後から迫るセラフィナの大鎌。
カノンは振り返りざまに、剣を一閃させた。
「『聖光斬』!!」
キィィィィィンッ!!
光の刃と、鋼鉄の鎌が激突する。
衝撃波が広がり、周囲の瓦礫を吹き飛ばした。
「くっ……! 腐っても勇者、ということですか……!」
セラフィナがたたらを踏む。
その隙に、俺たちは裏口へと飛び込んだ。
◇
闇市の迷路のような通路を、俺たちは駆け抜けた。
先頭はシャム(いつの間にか合流していた)、殿はカノン。
そして中央には、俺とアテナ。
「はぁ……はぁ……。まさか、勇者の封印まで解くなんてね」
アテナが走りながら、不満げに頬を膨らませている。
「ねえミナト。あの女、もしかして私のライバルになるつもり?」
「ライバルって……今はそんなこと言ってる場合じゃ……」
「いいえ、重要よ! あの子、見るからに『忠犬』タイプじゃない。あなた、そういう従順な子に弱いでしょ?」
……痛いところを突く。
確かに、カノンの凛とした佇まいと、時折見せる「デレ(忠誠)」のギャップは破壊力が高い。
「安心しろ。俺にとっての一番は、いつだってアテナだ」
「……ほんと?」
「ああ。金貨100万枚も出させたんだ。一生かけて身体で返すよ」
「っ……バカ///」
アテナの機嫌が直った。チョロい神官長で助かる。
「おい、イチャついている場合か!」
背後で剣を振るいながら、カノンが怒鳴る。
「追手が来ているんだぞ! ……というか、貴様ら、どういう関係なのだ? 神官長と、魔王の器……敵同士ではないのか?」
「愛に壁はないのよ、元・勇者さん」
アテナがドヤ顔で言い返す。
「それに、ミナトは私の『所有物』。手出ししたら、その金髪ごと焼き尽くすわよ?」
「……フン。所有物、か。随分と歪んだ愛だな」
カノンは鼻で笑い、俺の方をチラリと見た。
「だが……あの『手』の温かさは、所有者を縛る鎖とは違っていたぞ。……あれは、誰かを救おうとする『王』の手だった」
カノンの頬が、ほんのりと赤く染まっている。
……おい、こっちもフラグが立ってるぞ。
「前方に敵影! 出口を塞がれてるよ!」
シャムが叫ぶ。
通路の先には、武装した神殿騎士たちが待ち構えていた。
「ここは私が……!」
アテナが前に出ようとするが、俺はそれを制した。
「いや、俺がやる」
「ミナト?」
「勇者を解き放ち、神官長を従える……。なら、その主である俺が、一番派手に暴れなきゃ示しがつかないだろ」
俺は前に出た。
騎士たちが、俺に剣を向ける。
「止まれ! 魔王の種よ! 抵抗すれば殺す!」
「……抵抗?」
俺はニヤリと笑った。
地下書庫で手に入れた『錆びた剣の柄』を握りしめる。
「違うな。これは『反逆』だ!」
俺は柄を突き出した。
同時に、体内の「王の因子」を炸裂させる。
「――道を開けろォォォォッ!!」
ズドォォォォォンッ!!
俺の咆哮と共に、金色の衝撃波が通路を駆け抜けた。
魔法ではない。純粋な覇気の奔流。
騎士たちは悲鳴を上げる間もなく、枯れ葉のように吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「……すごい」
カノンが呆然と呟く。
アテナも、うっとりとした表情で俺を見つめている。
「出口だ! 一気に抜けるぞ!」
俺たちは崩れかけた通路を突破し、地上の光の中へと飛び出した。
――そこは、朝日が昇り始めた王都の路地裏だった。
長く、濃密な夜が明ける。
「……ふぅ。なんとか撒いたか」
俺はその場に座り込んだ。
隣には、同じく息を切らしたアテナとカノン。そして屋根の上にはシャム。
奇妙な取り合わせだ。
神官長。勇者。情報屋。そして魔王の器。
本来なら殺し合うはずの運命にある者たちが、今、一つのチームとしてここにいる。
「……ねえ、ミナト」
カノンが、朝日を背にして俺を見下ろした。
その表情は、先ほどまでの険しい騎士の顔ではなく、年相応の少女の顔だった。
「礼を言う。……私を買ってくれて、ありがとう」
彼女は跪き、俺の手を取った。
「この命、貴様に預ける。……だが、勘違いするなよ? 私は貴様の『所有物』になったわけではない。あくまで『剣』として……」
「わかってるよ。よろしくな、カノン」
俺が微笑むと、カノンは顔を真っ赤にして俯いた。
「……あと、その……できれば『カノン』と呼び捨てにしてくれ。……ご主人様、と呼んだほうがいいか?」
「カノンでいい」
「むぅ……」
なぜか不満そうだ。
この元勇者、もしかして潜在的な「奉仕願望」があるのか?
「ちょっと! 私の目の前でイチャイチャしないで!」
アテナが割って入ってくる。
修羅場・第二ラウンドのゴングが鳴った。
こうして、俺のパーティーに最強の剣が加わり、魔王覚醒への準備は着々と(そして騒がしく)整いつつあった。
だが、俺たちはまだ知らない。
この脱走劇の裏で、神殿最深部の『黒い棺』が、微かに脈動を始めたことを。
【あとがき】
勇者カノン、正式加入です!
「くっ殺」系女騎士かと思いきや、助けられた途端にデレるチョロインっぷり。
アテナ様との相性(?)も抜群のようです。
そして次回、「第24話:カノンの秘密と、失われた『男の魔法』の痕跡」。
カノンが語る1000年前の真実。
そして、湊だけが使える「男の魔法」の正体が明らかに!?
物語はいよいよ核心へ。
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