第22話:闇市のオークションと、出品された『元・勇者』
舞台は、欲望と金が支配する「闇オークション」。
そこで湊が目にしたのは、この世界の「残酷な真実」でした。
新たなヒロインとの運命的な出会い。
そして、アテナ様の「桁違いの金銭感覚」にもご注目ください。
情報屋シャムの案内で辿り着いたのは、歓楽街の地下深くに広がる巨大なドーム状の空間だった。
「裏会員制オークション・会場」
磨き上げられた大理石の床。
シャンデリアの煌めき。
そして、仮面で顔を隠した貴族や富豪(もちろん全員女性)たちが、優雅にグラスを傾けている。
「うわぁ……。地上よりも豪華なんじゃないか?」
俺は安物のローブのフードを目深に被りながら、小声で呟いた。
隣には、同じくフードを被ったアテナ。
そして、黒いドレスに着替えたシャムが先導している。
「ここは王都の『ゴミ捨て場』であり『宝物庫』さ。表社会じゃ手に入らない違法魔道具、絶滅危惧種の魔獣、そして……ワケアリの『男』たちが取引される」
シャムがヒソヒソ声で解説する。
「いいかい、旦那。絶対にフードを取るなよ? アンタの顔とオーラがバレたら、ここの女ども全員が理性を飛ばして襲いかかってくるからな。……アタシらが肉壁になっても守りきれないよ」
「……肝に銘じるよ」
俺はアテナの手を強く握った。
アテナもギュッと握り返してくる。その手は震えているようにも見えたが、よく見ると――。
「(……あそこの貴族、見たことあるわ。裏帳簿の証拠、押さえられそうね)」
震えているのではなく、獲物を見つけた狩人のように興奮しているだけだった。
さすが神官長。メンタルが強すぎる。
◇
オークションが始まった。
司会者の女性が高らかに声を上げ、次々と「商品」が紹介されていく。
『最初の商品は、東方の島国から密輸された媚薬! 一滴で巨象をも発情させる「竜の涙」です!』
『続いては、観賞用の美少年奴隷! 歌って踊れる、夜のお供にいかがでしょうか!』
飛び交う金額は、俺の常識を軽く超えていた。
億単位の金が、紙屑のように動く。
人間が物のように売買される光景に、胸が悪くなる。
「……落ち着きなよ、旦那」
シャムが俺の肩を叩いた。
「これがこの世界の『日常』さ。……気に入らないなら、アンタが王になって変えるしかない」
「……ああ、そうだな」
俺は奥歯を噛み締めた。
目的は、俺の魔王オーラを隠すための**『認識阻害の仮面』**だ。
それさえ手に入れば、長居は無用だ。
『さあ、お待たせいたしました! 本日の目玉商品その1! 古代の遺物、**「虚無の仮面」**です!』
ステージ上に、禍々しくも美しい、黒い仮面が運ばれてきた。
あれだ。
『着用者の魔力、気配、存在感そのものを希薄にする S級魔道具! 開始価格は金貨1000枚から!』
「1500!」
「2000!」
即座に入札が始まる。
暗殺者や、お忍びで遊びたい貴族たちに人気のアイテムらしい。価格はあっという間に跳ね上がっていく。
(……マズいな。金貨なんて持ってないぞ)
俺が焦っていると、隣のアテナがスッと手を挙げた。
「金貨1万枚」
会場が静まり返った。
相場を無視した、圧倒的なオーバーキル入札。
『い、1万枚!? お客様、本気で……!?』
「早くしなさい。時間がないの」
アテナが懐から、神殿紋章入りのブラックカード(魔力式決済カード)を取り出した。
ざわめきが広がる。
「あの紋章……まさか神殿関係者?」
「ていうか、あの声……」
「……チッ。目立ちすぎだよ、神官長サマ」
シャムが舌打ちをするが、商品は無事に落札された。
すぐに係員が仮面を持ってくる。
俺はそれを受け取り、顔に装着した。
スゥッ……。
視界が少し暗くなり、同時に、身体から溢れ出していた熱(王のオーラ)が内側に閉じ込められる感覚があった。
これで、少しは安全に行動できるはずだ。
「さあ、目的は果たした。帰るぞ」
俺が席を立とうとした、その時だった。
『それでは……本日のメインイベント! ラストを飾る“特別出品”のご紹介です!』
司会者の声が、一段と熱を帯びる。
会場の照明が落ち、スポットライトがステージ中央の檻を照らし出した。
『かつて、魔王軍と戦い、世界を救ったとされる伝説の存在……。その血を引く、**「勇者の一族」**の生き残りです!』
ドォォォン……。
重厚な檻の中にいたのは、一人の少女だった。
ボロボロの聖騎士の鎧。
泥と血にまみれた、輝くような金髪。
そして、手足には魔力を封じる重い手錠と足枷が嵌められている。
だが、何よりも目を引いたのは、その瞳だ。
絶望の淵にありながら、決して折れることのない、蒼穹のような青い瞳。
「……勇者?」
俺の心臓が、ドクンと跳ねた。
地下書庫の壁画を思い出す。
かつて男たちと共に戦っていた女性たち。その中に、彼女によく似た剣士が描かれていた気がする。
『彼女の名はカノン。数少ない「光属性」の使い手ですが……残念ながら、神殿への反逆罪で指名手配されておりました。この度、我々が捕獲し、皆様の「玩具」として提供いたします!』
カノンと呼ばれた少女は、観客たちを睨みつけた。
「……殺せ。私を辱めるくらいなら、殺せ!」
凛とした声。
だが、観客たちはその気高さを見て、さらに嗜虐心(サドっ気)を刺激されたようだった。
『キャーッ! いい目をしてるわ!』
『あんな強気な女騎士を屈服させるなんて、最高じゃない!』
『金貨5万枚!』
『私は8万出すわ!』
欲望のオークションが加速する。
彼女は商品として、消費されるためにここにいる。
「……行くぞ、ミナト」
アテナが俺の袖を引いた。
「彼女は反逆者よ。関われば、私たちまで疑われるわ」
「……」
「ミナト?」
俺は動けなかった。
仮面の下で、俺の魂が叫んでいる。
――助けろ、と。
彼女の瞳。
それは、地下書庫で俺が見た「錆びた剣」と同じ光を宿していた。
孤独で、誰にも理解されず、それでも何かを守ろうとして戦い続けた者の目。
(……俺と同じだ)
この世界で、たった一人で戦ってきた俺と。
彼女を見捨てることは、俺自身の「反逆」を否定することになる気がした。
「……悪い、アテナ。俺は、欲張りなんだ」
俺はアテナの手を離し、一歩前に出た。
「あの『勇者』……俺が貰う」
「はぁ!? 旦那、正気か!? あんな目立つ商品を競り落としたら、身バレ確定だよ!」
シャムが止めるが、俺は止まらない。
俺は大きく息を吸い込み、会場中に響き渡る声で叫んだ。
「――金貨、100万枚だ」
シン……。
会場の時間が止まった。
100万枚。
それは、小国の国家予算に匹敵する金額だ。
誰が出せるというのか。
『お、お客様……? 冷やかしでしたら、命で償っていただきますが……』
司会者が震える声で尋ねる。
俺はニヤリと笑い、隣のアテナを指差した。
「支払いは、そこの神官長様がする」
「……ッ!?」
アテナが目を見開き、そして深くため息をついた。
「……はぁ。やっぱり、そうなるのね」
彼女は呆れたように、しかしどこか嬉しそうに、懐から別のカード(プラチナ色)を取り出した。
「いいわよ、ミナト。……あなたが欲しいと言うなら、世界だって買い取ってあげる」
アテナがカードを掲げる。
その瞬間、会場のモニターに「支払い完了」の文字が表示された。
『ら、落札ですぅぅぅぅ!! 勇者カノン、金貨100万枚で、謎のフードの男性にお買い上げぇぇぇ!!』
歓声とどよめき。
檻が開かれ、カノンが引きずり出される。
彼女は呆然と俺を見ていた。
「……貴様は、何者だ? 神殿の犬か? それとも……」
俺はステージに上がり、彼女の前に立った。
そして、仮面越しに彼女を見下ろし、手を差し伸べる。
「犬じゃない。……俺は『反逆者』だ。お前と同じな」
カノンの瞳が揺れる。
俺の手から溢れる、微かな「王の覇気」を感じ取ったのだろうか。
「……面白い」
彼女はフッと笑い、俺の手を取った。
その手はボロボロで、しかし力強かった。
「契約しよう、名もなき反逆者よ。……私の剣は、今この瞬間から貴様のものだ」
こうして、俺のパーティーに、最強の剣(元・勇者)が加わった。
だが、それは同時に、俺たちが「世界の敵」として完全にロックオンされたことを意味していた。
「……あら、見つけましたわ」
会場の最上階。
VIP席から、純白の修道服を纏った少女が、俺たちを見下ろして笑っていた。
セラフィナだ。
「逃しませんわよ、私の愛しい魔王様……。今度こそ、地獄の果てまで追い詰めて、その仮面を剥ぎ取って差し上げますわ!」
新たな仲間と、迫りくる追手。
夜の闇市を舞台に、第二ラウンドのゴングが鳴り響く。
新ヒロイン・カノン、加入!
「金で買われた女騎士」という背徳的なシチュエーションですが、彼女の中身はゴリゴリの武闘派です。
そしてアテナ様、太っ腹すぎます。金貨100万枚って……。
次回、「第23話:魔王と勇者と神官長、奇妙な三角関係の逃避行」。
セラフィナの包囲網を突破し、学園へ帰還できるのか?
そして、カノンが明かす「勇者の秘密」とは?
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