第18話:決勝戦!? 神官長vs反逆の王、愛と支配の頂上決戦
お待たせしました。
第一章、最大のクライマックスです。
「愛ゆえに檻に閉じ込めようとする女」と、「愛ゆえに檻を壊そうとする男」。
二つの魂が激突する時、世界は――そして二人の関係は、どう変わるのか。
熱量MAXでお届けします!
コロシアムは、異様な熱気に包まれていた。
Sクラス序列3位、“紅蓮の女帝”ガーネットが、一人の「男」の足元で震え、許しを請うている。
その光景は、この世界の常識を根底から覆すものだった。
「あ……ぅ……ミナト様……」
ガーネットは俺の足に縋りつき、濡れた瞳で見上げてくる。
その顔は真っ赤で、そして恍惚としていた。
強者が弱者にひれ伏す瞬間。その背徳的なカタルシスに、観客席の女たちも酔いしれていた。
『す、すごい……! あのガーネット様が……!』
『ミナト様! こっち向いて! 私にも命令して!』
黄色い歓声が嵐のように降り注ぐ。
だが。
その熱狂を一瞬で凍りつかせたのは、たった一人の少女の足音だった。
カツ、カツ、カツ……。
リングへの階段を上る、ヒールの音。
それだけで、空気が重くなる。気温が下がる。
観客たちの喉が引きつり、悲鳴すら上げられなくなる。
「――そこまでよ」
絶対零度の声。
現れたのは、銀髪の神官長、アテナだった。
彼女はいつもの神官服ではなく、動きやすい(しかし身体のラインが強調された)純白のバトルドレスを身に纏っていた。
「ア、アテナ様……?」
ガーネットがビクリと震え、慌てて俺から離れようとする。
だが、遅い。
「……汚らわしい」
アテナが一瞥した瞬間。
ドォォォォンッ!!
ガーネットの足元で蒼い炎が爆ぜ、彼女の身体をリングの外へと吹き飛ばした。
「きゃああああっ!?」
ガーネットは壁に激突し、気絶した(あるいは、アテナの殺気に当てられて失神した)。
容赦がない。
アテナは倒れた敗者には目もくれず、ただ一点、俺だけを見つめていた。
「……ミナト」
彼女の瞳は、暗く、深く、澱んでいる。
ハイライトが消えている。
それは、最愛のペットが自分以外の人間に懐いているのを見た時の、飼い主の絶望と怒り。
「楽しそうだったわね。……あんなメス犬に、あんな顔を見せるなんて」
アテナが一歩踏み出す。
バリバリバリッ!!
空間が悲鳴を上げる。彼女から溢れ出る魔力が強大すぎて、結界に亀裂が入っているのだ。
「予定変更よ。……次の試合、私が相手になるわ」
『えっ!? し、神官長様が!?』
『そんなのあり!? 殺されちゃうよ!』
実況席も観客席もパニックだ。
だが、アテナは止まらない。彼女にとって、ルールなど無意味だ。彼女自身がルールなのだから。
「ミナト。あなたは強くなった。……強くなりすぎてしまった」
アテナは悲しげに微笑んだ。
「このままじゃ、あなたは私という檻を壊して、どこか遠くへ行ってしまう。……そんなの、絶対に許さない」
彼女が右手を掲げる。
その掌に、太陽ごとき灼熱の蒼炎が凝縮されていく。
「ここで、あなたの心をへし折るわ。……二度と、私の腕の中から出ようと思わないように。一生、私に守られて生きる方が幸せだと、その身体に刻み込んであげる」
宣戦布告。
いや、これは「処刑宣告」だ。
俺は深く息を吐き、構えを取った。
怖い。
本気のアテナと戦うのは初めてだ。彼女の魔力は、ガーネットとは次元が違う。一歩間違えば、本当に消し炭になる。
だけど。
不思議と、俺の心は燃えていた。
「……上等だ、アテナ」
俺は彼女を真っ直ぐに見据えた。
「俺もお前に言いたいことがあったんだ。……過保護も、束縛も、全部まとめて受け止めてやる。その上で……俺がお前の『隣』に立つ男だってことを、証明してやるよ!」
『しょ、勝者ミナトへの挑戦者……まさかまさかの、アテナ神官長ぉぉぉ!!』
『これは試合なのか!? それとも痴話喧嘩なのか!?』
『レディー・ゴーッ!!』
開始のゴングが、世界の終わりの鐘のように鳴り響いた。
「眠りなさい。『蒼天の抱擁』」
アテナが呟く。
瞬間、リング全体が蒼い炎の海と化した。
逃げ場はない。
全方位からの焼却攻撃。だが、その炎の性質は「破壊」ではなく、対象の意識を刈り取り、強制的に無力化する「慈悲の炎」だ。
(……どこまでも、俺を傷つけたくないってか)
その優しさが、今は腹立たしい。
俺は炎の海の中で、一歩を踏み出した。
カッッ!!
俺の全身から、金色のオーラが噴き出す。
『王の覇気』。
魔力を無効化し、支配を拒絶する力。
ジュウウウウ……。
俺に触れた蒼炎が、音を立てて霧散していく。
海を割るモーセのように、俺の進む道だけが切り開かれる。
「……ッ!? 私の最上位魔法を……歩いて!?」
アテナの表情に、驚愕が走る。
彼女は信じられないものを見るように、目を見開いた。
「嘘よ……。あなたは魔力を持たない『男』のはず……。どうして、私の愛(魔法)を拒絶できるの!?」
「拒絶じゃねえ!」
俺は叫びながら、距離を詰める。
「俺は、お前の愛を受け止めるために、ここに来たんだ!」
「違う! あなたは逃げようとしている! 私以外の女のところへ!」
アテナが取り乱す。
彼女は両手から、無数の光の鎖を放った。
『聖女の戒め(ホーリー・バインド)』。対象を傷つけず、永遠に拘束する封印術。
ヒュンヒュンヒュンッ!
鎖が生き物のように俺の手足を狙う。
俺はそれを、拳で殴り飛ばし、手刀で切り裂いた。
ガギィッ! パァァンッ!
物理法則を無視した光景。
男の拳が、最高位の魔法を粉砕している。
「なんで……なんでよぉぉぉっ!!」
アテナが叫ぶ。
その声は悲鳴に近かった。
「どうしてわかってくれないの!? 外の世界は危険なのよ! 男は弱くて、汚くて、すぐに壊れてしまう生き物なのよ! 私の中にいれば、永遠に幸せでいられるのに!」
「それが『呪い』だっつってんだよ!」
俺はさらに加速する。
距離、あと5メートル。
「男は弱くない! 女も完璧じゃない! 俺たちは、どっちも不完全な人間だ!」
「黙って! 黙って黙って黙って!」
アテナの周囲に、巨大な魔力球が出現する。
暴走。
感情のタガが外れ、彼女自身の制御を超えた力が溢れ出す。
「ミナトがいなくなるなら……こんな世界、いらない!!」
ズズズズズ……。
コロシアムが揺れる。いや、空が割れそうだ。
彼女は本気で、この会場ごと俺を「心中」という名の永遠の箱庭に閉じ込めようとしている。
「逃げて! ミナトくん!」
「あのアホ神官長! 私たちごと吹き飛ばす気ですわ!」
リナとシエルの悲鳴が聞こえる。
だが、俺は止まらない。
むしろ、好都合だ。
彼女が全てをさらけ出した今こそ、その心に触れるチャンスだ。
「アテナァァァァッ!!」
俺は魔力の暴風雨の中へ、真っ向から突っ込んだ。
肌が焼ける。
骨が軋む。
『王の覇気』をもってしても相殺しきれない、圧倒的な質量の愛(魔力)。
痛い。
苦しい。
でも、それ以上に伝わってくる。
彼女の孤独が。恐怖が。
世界最強であるがゆえに、誰にも弱みを見せられず、ただ一人、俺という存在にだけ縋り付いてきた、彼女の弱さが。
(……泣いてるんだな、お前)
魔力の光の中で、俺は見た。
アテナが、子供のように泣きじゃくっているのを。
俺は歯を食いしばり、最後の障壁を拳でぶち抜いた。
パリィィィィンッ!!
結界が砕ける音。
俺はアテナの懐に飛び込み――。
「……捕まえた」
彼女を、力いっぱい抱きしめた。
「――ッ!?」
アテナの動きが止まる。
暴れ狂っていた魔力が、行き場を失って霧散していく。
静寂。
俺の腕の中で、アテナは呆然としていた。
「ミ……ナト……?」
「痛かったろ。……怖かったろ」
俺は彼女の背中を、優しくポンポンと叩いた。
昨夜、彼女が俺にしてくれたように。
「もう大丈夫だ。俺がいる。……俺は、お前の魔法なんかなくても、こうやってお前のところまで来れるんだ」
「でも……私は……あなたを……」
「閉じ込める必要なんかない。俺は、自分の足で、自分の意志で、お前の隣にいたいんだから」
俺は身体を離し、彼女の瞳を見つめた。
涙でぐしゃぐしゃになった、世界一美しい顔。
「アテナ。俺は『反逆の王』になる。……お前が一人で背負ってるこの世界の重荷を、半分奪い取るためにな」
「……っ」
「だから、覚悟しろよ。……これからは、俺が『守られる側』じゃなく、お前を『支える側』になる。……文句あるか?」
アテナは瞳を瞬かせた。
そして、みるみるうちに顔を赤くし、震える声で呟いた。
「……生意気」
彼女は俺の首に腕を回し、体重を預けてきた。
「魔力もないくせに……私の結界を破るなんて……。私の心を、こんなに乱すなんて……」
彼女は顔を上げ、潤んだ瞳で俺を睨んだ(それは最高に可愛かった)。
「……責任、取ってよね?」
「ああ。一生かけてな」
俺たちは、数千の観衆が見守るリングの中央で、口づけを交わした。
それは、支配のためのキスではない。
対等な男女が交わす、誓いのキスだった。
『う、うおおおおおおおおっ!!』
『なんだこれ!? 尊い! 尊すぎるぞぉぉぉ!!』
『ミナト様! アテナ様! 万歳!!』
会場が揺れるほどの大歓声。
殺伐とした処刑場は、一瞬にして祝福の結婚式場(?)へと変わった。
しかし。
物語は、ハッピーエンドでは終わらない。
ドクンッ。
突然、俺の心臓が嫌な音を立てた。
胸元の「呪印」が、焼きごてを押し付けられたように熱くなる。
「ぐっ……!?」
俺はアテナの腕の中で膝をついた。
「ミナト!? どうしたの!?」
「わから……ない……身体が……熱い……」
全身の血が沸騰するような感覚。
そして、空が割れた。
コロシアムの上空に、巨大な「目」のような魔法陣が出現したのだ。
『――見つけたぞ。我が器よ』
脳内に直接響く、野太い声。
それは、地下書庫の剣から聞こえた声とも、学園長室の通信機から聞こえた声とも違う。
もっと根源的で、禍々しい響き。
「……あれは、まさか……『魔王』の紋章!?」
アテナが蒼白な顔で空を見上げる。
「なんで……封印されたはずの魔王が……」
『アテナよ。貴様が愛玩していたその男……そいつこそが、我復活の鍵だ』
空からの声が告げる。
『男よ。貴様の中に眠る「王の力」……それは女神への反逆の力ではない。……この世界を滅ぼす、魔王の因子だ』
「……は?」
俺の意識が遠のいていく。
アテナの叫び声が聞こえる。
ノアたちが駆け寄ってくる気配がする。
俺が……魔王?
反逆の王って、そっちの意味かよ……。
俺の意識は、そこでプツリと途切れた。
物語は、「学園編」から、世界の存亡をかけた「魔王覚醒編」へと、最悪の形で突入しようとしていた。
アテナ戦、決着!
そして、まさかの急展開!!
「反逆の王」の正体とは? そして空に現れた「魔王」とは?
これにて第一章【学園・反逆編】は完結です。
次回から、舞台は世界へ。
目覚めた湊を待っていたのは、アテナとの甘い生活……ではなく、世界中から追われる「魔王の器」としての逃亡生活だった!?
「続きが気になる!」「ここで終わるな!」と思った方は、
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第二章も、フルスロットルで駆け抜けます!




