第15話:学園を揺るがす『反逆の王』選定トーナメント
いよいよ第15話。
アテナの愛の檻を破り、湊が自分の意志で「王への道」を選ぶ瞬間。
熱いです。滾ります。
その日の朝、俺は全身がバラバラになりそうな痛みと、身体中に残された「所有の刻印」と共に目覚めた。
アテナの愛は、もはや物理攻撃に近い。
特に、ルナの匂いが残っていた首筋や鎖骨周りは、赤や紫の痕で埋め尽くされている。これでは、制服の襟を立てたところで隠しきれない。
「……はぁ。どう言い訳するんだ、これ」
隣では、昨夜の狂乱が嘘のように、アテナが聖女の寝顔で幸せそうに眠っている。その腕は、まるで捕獲ネットのように俺の腰に回されたまま、微動だにしない。
「んぅ……ミナト……愛してる……」
寝言まで独占欲の塊だ。
俺はため息をつきつつ、彼女の銀髪をそっと撫でた。
(悪いが、アテナ。俺はもう、カゴの中の鳥でいるつもりはないんだ)
俺はそっとアテナの腕を外し、身支度を整える。ルナの野性的な香りは、アテナの強烈な香油の匂いに完全に上書きされ、消滅していた。
だが、その代わりに俺の心に刻まれたのは、「俺が動かなければ、世界も、そしてアテナの不安も消えない」という、新しい決意だった。
◇
教室に入ると、予想通りの阿鼻叫喚だった。
特に、俺の隣に座っているアテナは、いつも以上に俺の腕に絡みつき、クラス中の女子を氷点下の視線で威嚇している。
「ミナト。今日、私から1メートル以上離れたら、この教室の全員を石化させてあげる」
「冗談でも言うなよ」
「冗談じゃないわ。あなたへのマーキングが、まだ薄くなっていないもの。他の女に、匂いどころか、視線すら触れさせたくないのよ」
俺とアテナの間に、不可視の結界が張られているようだ。
斜め後ろの席では、シエルが扇子で顔を隠しているが、耳まで真っ赤になっている。恐らく、俺の首元の痕を見て、昨夜の状況を想像してしまったのだろう。
そんな緊迫した空気の中、担任のヒルデガルド先生が、いつも以上にピリついた表情で教壇に立った。
「静かにしなさい! 緊急事項よ!」
先生が教鞭で黒板を叩く。
生徒たちはざわつく。あの冷徹なヒルデガルド先生が、こんなに動揺しているのは珍しい。
「先ほど、中央神殿より異例の勅命が下されたわ」
先生は息を呑むと、まるで歴史を変える言葉を告げるように、ゆっくりと口を開いた。
「この学園の『男』たちを対象とした、『反逆の王 選定儀式』の開催が決定したわ」
その瞬間、教室が静寂に包まれた。
誰もが耳を疑った。
「な……なんですって?」
「男を対象に……トーナメント?」
「そんな儀式、歴史書に載っていませんわ!」
当然だ。この世界で、魔力を持たず、守られるだけの存在である『男』が、王を名乗って戦うなど、狂気の沙汰だからだ。
「この儀式は、古来の伝説に則ったものだそうよ。女神の呪いに対抗する、『真の王の器』を持つ男を探すのが目的」
俺の心臓がドクン、と大きく跳ねた。
『反逆の王』。
地下書庫のノアの言葉と、錆びた剣の予言。
すべてが繋がった。誰かが、裏で糸を引いている。
「そして、その参加条件よ」
ヒルデガルド先生は、俺を真っ直ぐに見つめた。
メガネの奥の瞳が、獲物を狩るようにギラつく。
「『この世界の理』に囚われず、自らの意志で立ち、女性の魔力を退ける『特異点』。……それが、最初の選定対象よ」
クラス中の視線が、一斉に俺に集中した。
当然、そんな条件を満たす男は、この学園に――いや、この世界に俺一人しかいない。
「ミナト君。あなたよ。あなたは、強制的に儀式に参加することが決定したわ」
俺は息を呑んだ。
チャンスだ。
この儀式を勝ち抜けば、俺は「アテナのペット」ではなく、世界の理を覆す「反逆の王」として認められる。
「な……何をふざけたことを!」
隣のアテナが、ついにキレた。
彼女は椅子を蹴倒して立ち上がると、教壇のヒルデガルド先生を睨みつける。
「神官長である私が、この儀式を認めません! ミナトは私の『至宝』です! か弱い彼を、あんな危険な見世物小屋に参加させるわけにはいかないわ!」
「アテナ様。これは中央神殿の勅命です。貴女の個人的な愛情で覆せるものではありません」
「なら、私が中央神殿を燃やして差し上げますわ!」
ドォォォッ!!
アテナの身体から、再び蒼い炎が燃え上がる。
教室全体が揺れる。シエルやリナを含め、クラス中の生徒が、神官長の暴走に怯え始めた。
「アテナ、落ち着け!」
俺は立ち上がり、アテナの両肩を掴んだ。
火を消すように、俺の「王の力」が彼女の魔力に干渉し、炎がフッと弱まる。
「……ミナト」
アテナは涙目で俺を見つめた。
まるで、宝物を奪われた子供のような顔だ。
「ダメよ……あなたは弱いんだから。私が守ってあげるから。……トーナメントなんて、他の男に任せておけばいい」
「いや、任せられないんだ」
俺はアテナの頬に優しく触れた。
そして、その瞳を真っ直ぐに見つめ返す。
「俺は、お前のペットじゃない。そして、弱いまま守られるつもりもない」
「ミナト……?」
「俺が戦うのは、自分のためだけじゃない。……お前を守れる男になりたいんだ」
アテナの瞳が大きく見開かれる。
俺はアテナの手をそっと離すと、教壇のヒルデガルド先生へと向き直った。
「先生。……そのトーナメント、俺は参加します」
その言葉に、アテナは絶望の表情を浮かべ、シエルは驚愕と期待の入り混じった目で俺を見つめた。リナは「わああ! さすがミナトくん! かっこいい!」と歓声を上げ、その場で飛び跳ねた。
俺が参加を表明した瞬間、教室の扉が勢いよく開かれた。
そこに立っていたのは、迷彩柄のローブを身につけた、黒髪の少女。
ノアだ。
「待ってください! ミナト先輩! そのトーナメントのルール、完全に『罠』です!」
ノアが眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせて叫んだ。
彼女は俺に駆け寄ろうとするが、アテナの放つ残りの殺気に足がすくむ。
「……罠だろうと、関係ない」
俺はノアに背を向けたまま言った。
「俺はこの世界の理不尽をぶっ壊して、お前たちを、そしてこの世界を支配する嘘を、本当の意味で解放してやるんだ」
俺の心臓は、高鳴っていた。
不安と、そしてそれ以上の「ワクワク」に。
トーナメント。それは、俺が世界の「王」になるための、最初の舞台だ。
ついに始まりました。「反逆の王」編!
アテナの愛の檻から飛び出し、湊が戦場へと足を踏み入れます。
ここまでお読みいただき、本当に、本当にありがとうございます。
ここから物語は、学園全体、そして国全体を巻き込む壮大なスケールへと発展していきます。
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それでは、トーナメント会場でお会いしましょう!




