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春の風に揺れてー

作者: あやの ちゆ
掲載日:2026/02/15

今日は小春日和こはるびよりの日曜日となりました。

ダウンジャケットも、マフラーも、手袋もなし。

カラダが軽くるなると、

ココロも軽くなりますね。


桜が咲いてしまうのではないかと

心配になってしまった今日、

もうすぐそこの春を想いながら

積み重ねてきたものを見直しながら

以前に書いた掌編しょうへんを

編集してみました。


たまに男性一人称で書くことがあります。

今回のショートショートストーリ「春の風に揺れてー」では、

そう若くもなく、年齢を経ているのでもなく、

一歩踏み出せないでいる男性の気持ちを

季節の変化と重ねて描いてみました。


1000文字プラス少しくらいなので、

サクッとお読みになれるかと。


軽く読んでいただけて、

ちょいとばかり共感していただけたら、

とても嬉しくなります♪

「そういうことあるなー」

なんていうふうに♫

どうぞ気軽にお楽しみくださいませ。



「春の風に揺れてー」



 彼女の髪が揺れる。

 後ろ姿の彼女。

 その長い髪が、風にゆらゆらと揺れるたび、

 僕の心も同じように揺れた。


 あの夏の日から、ずっと揺れ続けている。


 一年前の夏だった。  

 エレベーターで顔色の悪い彼女を見かけ、

 来客用の部屋に案内し、健康管理室に連絡した。

 それから何度が彼女はそこに休みに来るようになった。

 朝や昼休みに偶然に会うことが続き、話をするようになった。

 話してみると、趣味や好みが似ていて、自然と会話が弾んだ。



 夏の残業中、彼女はふらりと現れては、他愛のない話をしたり、

 お菓子を持って来てくれたりした。

 気づけば僕は、残業の時間に、小さな期待を抱くようになっていった。

 時計を見ては、「まだかな」なんて思ったり、

 彼女に渡すお菓子をわざわざネットで取り寄せたりした。

 彼女がふらりとやってくると、

 もらいもののお菓子をたまたま持っていたようなフリをして差し出すー。

 そんな夏の夜の残業が、僕の密かな楽しみとなっていった。  


 秋になり、涼しい風にコスモスが揺れる頃、

 彼女は体調が戻り、来客室には来なくなった。

 それでも時折、朝早い時間や昼休みに珍しいお菓子やコーヒーを持って

 僕の部屋にふらりとやってきた。

 窓の外で、やわらかな陽射しに揺れるコスモスのように、

 僕の気持ちも揺れ続けていた。


 結婚しているのだろうか。

 年齢は?

 そんなことが気になりだした。

 彼女が部屋の前を通るたび、

 いつの間にか目で追っている。

 僕は待っているのだ、

 彼女が前を通るのを。  


 ある日、同じ部署の人にそれとなく聞いてみた。

 彼女はバツイチで子供はいない。

 35歳。

 どれも僕と同じだ。  

 胸の奥まで揺れた。

 でも、どうしたらいいのか分からないまま、

 日々は過ぎていた。

 揺れる気持ちはおさまらないままー


 木枯らしで枯れ葉が揺れる頃、

 彼女がまたふらりとやってきて言った。


「3月いっぱいで転職するの」


 心臓が跳ねた。


 あと3ヶ月しかない。

 それでも僕たちは相変わらず、本やCDの貸し借りをし、

 お菓子の話をするだけで、何も変わらないまま日々が過ぎていった。

 僕の心は揺れ続けるだけで、

 何もできないでいた。



 冬の夕方、エレベータホールでバッタリ会った。

 話の流れで、近くにおいしいアンミツ屋さんがあると言うと、

「行ってみたいなぁ」と彼女は笑った。

 その先の一言——

「じゃあ、今度一緒に」——が、

 どうしても言えなかった。  


 結局、僕は最後まで自分から何も言えない男だった。  


 3月31日、僕たちは変わらず他愛もない会話をして、

 職場でよくある型どおりの退職の挨拶を交わした。



 4月—— 春の風に桜の花びらが舞っていた。 

 昼休みに近くの遊歩道をのんびり歩いていると、

 ランチに向かう女性たちが楽しそうに通り過ぎて行く。

 ふと振り返ると、彼女たちの長い髪が春風にゆらゆら揺れていた。

 その揺れを見つめながら、

 あの夏から続く揺れが胸の奥で静かに、

 波のように広がっていった―。


 ― おわり ―

note でも同日更新中♪

https://note.com/ayanochiyu/n/neb9d8674a4eb


「カオル21歳~風と旅する頃~」心がほどけていく物語

https://note.com/ayanochiyu/m/mb90e54b0da1d


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