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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
間章3 ~時代の間のこぼれ話~

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狐は嫁入りするもの

これは、平安京の建設を眺めつつ、各地の瘴気の影響や山中のダンジョンの様子を見回っていた時のことだ。


(ん……?)


俺はある時、奇妙な気配を感じ取っていた。

隣に座るハルカも、同じものを感じたのか、視線を同じ方向へ向けている。


(アナタ、あれ……)

(ああ、こういう事もあるんだな……)


魔力の領域内で映し出された、山中のダンジョン周辺の様子。

そこでは、何者かが戦う姿があった。


一方は、瘴気に歪められた異形。

元は猪だったようだが、今は大型化し、半ば二足歩行に近い生態の様だ。

猪特有の巨大な牙は巨大化し、更に前足の蹄は鎌のような鋭さを持つ爪に成り果てている。

まるで悪夢の中でで良そうな醜悪な姿だ。


もう一方は、


(狐……か?)


二足歩行の狐だった。


体長は人間の成人ほど。

スラリとしたスタイルは均整が取れていて、対峙する異形とは対照的だ。

鋭利な瞳には、明らかな知性の光がある。

動きは俊敏で、しなやかな姿から抱く印象通りだ。

異形を翻弄するように、異形の攻撃を軽々と避けている。


(……かなりの魔力を取り込んでいるようだな)


以前から二足歩行をする変異動物を目撃してきたが、この狐はその中でも特に内封する魔力が豊富だ。

多分俺達が感じたのは、この狐が放つ濃密な魔力の気配なのだろう。

異形との戦いになって活性化した魔力を、俺達は感じ取ったらしい。


(……どうやら、このダンジョン周辺を縄張りにしていたようだな)


この狐は、恐らくダンジョンの近くで暮らしているうちに、そこから放出され続ける魔力を取り込んで変異したのだろう。

そして、その周辺をテリトリーとした。

そこへ変異した猪が、同じく魔力を求めてやってきたようだ。

自然界で興り得る縄張り争い。

魔力を求めあう事でも、それは発生するものらしい。


だが、驚くべきはここからだった。


異形の猪が、大きく飛びかかる。

狐は、それを避けようともせず、不意に軽く飛び上がると、一声鳴いたのだ。

その瞬間、狐の姿が揺らいだ。

そして次の瞬間には、狐の姿は消え、代わりに人間の武人が立っていた。


(……はぁ!?)


俺は、驚きに目を見開いた。

現れた武人は、精悍な面持ちで、歴戦の風格を持ち合わせていた。

そして、腰に差していた剣を、瞬時に抜き放ち、切り上げたのだ。


ザン!


空中では飛び掛かった勢いのまま何もできず、異形の猪は、真っ二つに斬られ、地に倒れた。


精悍な武人は、刀を鞘に収めると、再び姿が揺らぐ。

そして、次の瞬間、元の狐の姿がそこにあった。


狐は、倒れた異形を一瞥すると、山の奥へと消えていった。


俺は、呆然としつつ、今起きた出来事を解析していた。


魔力によって変異した動物が、姿を変える。

理屈としては分かる。

解析の結果でも、魔力を使って、疑似的な肉体を作り上げていたと判った。

そもそも、俺達がよく使う写し身も、魔力で生み出したもの。

あの剣も、魔力を元に作り出したようだ。

だが、それにしても、あまりにも完璧だった。

あれは、本物の人間にしか見えなかったし、そこまでの魔力操作を成せるほどの知性の高さは驚異的だ。


(アナタ、今のって……)

(ああ、化けたんだ。驚いたな……何時頃からあそこまでの変化が出来るようになったんだ?)


俺は、ダンジョンのデータベースにアクセスした。

他にも、こういう事例がないか調べてみる。


(……あった。これは、美濃の国での出来事か)


すると、一つの記録が見つかった。


時期は、数十年前。

場所は、美濃国──生前で言う岐阜に当たる場所のある村。


俺は、その記録を詳しく読み込んだ。


ある男が、山で美しい女性と出会った。

女性は、家族を亡くし、行く当てがないと言う。

男は、その女性を家に連れ帰り、妻とした。


二人は仲睦まじく暮らし、やがて子供も生まれた。


だが、ある日、男が飼っていた犬が、妻に吠えかかった。

驚いた妻は、思わず狐の姿に戻ってしまった。


正体を知られた妻は、泣きながら山へと帰っていった。

だが、子供への愛情は消えず、時々こっそりと訪れては、子供の様子を見ていたという。


(……これは)


俺は、魔力に刻まれた記録を呼び出した。


当時の様子が、映像として再生される。


そこには、確かに美しい女性の姿をした狐と、気のいい男が、仲睦まじく暮らしている様子があった。


女性は、料理を作り、洗濯をし、畑仕事も手伝う。

男は、そんな妻に感謝し、優しく接している。


そして、やがて……子供が生まれた。

元気な男の子だった。


(……本当に、子供が……)


ハルカが、感動したように呟く。


(素敵な話ね。種族を超えた愛……)

(……いや、待て。子供が、産まれた?)


俺は、流石に疑問を抱いて首を傾げた。


(どうやって、子供を作ったんだ!?)


狐と人間では、生物学的に子供ができるはずがない。


いや、そもそも、狐が人間の姿に化けているだけで、本質は狐のままだ。


(それが、どうやって人間の男性との間に子供を……?)


実際、俺達が魔力で作った写し身は、生物を正確に再現する。

もし、あの狐の変化もそれに近い再現度だとしたら……?


俺は、さらにデータベースを調べた。

魔力と生殖について、何か記録がないか。


すると幾らか判った事がある。


魔力は、生物の生殖にも影響を与えることがあるらしい。

特に、両親が強く子供を望む場合、その想いに魔力が反応するようだ。

結果、性交時に魔力が作用し、通常では不可能な受精を可能にする、らしい。

要は、魔力の働きで異種間の生殖が可能と言うわけだ。


この人間と狐の夫婦も、その事例の一つ。

狐の妻が人間の姿に化け、夫との間に子供を望んだ。

その強い想いに魔力が反応し、本来不可能な妊娠を可能にした。

そして、生まれた子供は、人間と狐の血を引く、半妖のような存在となったようだ。


(……いやまあ、出来なくはない、のか?)


俺は、唖然としつつも、同時に在る種の納得もしていた。


(よくよく考えれば、俺もアバターを使ってハルカの生前と子供を作った訳だし……)

(何て素敵な話なの……!)


一方、ハルカは感動している。


(愛する人との子供を望む気持ちが、奇跡を起こしたのね……!)

(あ~、まあ、そうなる、のか?)


俺は、密かに頭を抱えた。

改めて考える程に、魔力が万能すぎる。

生物学的に不可能なことを、想いの力で可能にするって、どういうことだ。

いや、確かに、魔力が生命に影響を与えるのは知っている。

ダンジョンのモンスターだって、魔力から生まれているようなものだ。


だが、それと、異種間で子供ができるってのは、また別の話だろう。


(……ケモナーにとっては最高なんだろうけどな……ん?)


俺は、さらにデータベースから情報を読み進めた。

すると、この話には続きがあることが分かった。


この美濃国の狐の嫁の話は、どうやら後世に語り継がれるようだ。

なんでも、『日本霊異記』という、日本最古の説話集に編纂されるらしい。

つまり、俺たちが今見ている狐の嫁の話は、後に『日本霊異記』に記録され、千年以上語り継がれることになるのだ。


(平安時代初期に、か。多分、この世界でも同様に編纂されるのだろうな)


俺は、改めて思う。

この世界の魔力は、本当に何でもありだ。


動物が人間に化ける。

異種間で子供ができる。

そして、その話が説話として残る。


生前の世界でも、狐が化けるという伝承はあった。

だが、それはあくまで伝説や創作の世界の話だと思っていた。


まさか、こっちの世界では、それが現実に起こるとは……。


(それにしても……)


俺は、再び山中の狐の姿を映し出した。

あの狐は、今後どうなるのだろう?


人間に化けることを覚えた狐。

もしかしたら、いつか人間の村に降りて、人と関わるようになるかもしれない。

いや、既にあのような武人の姿になるという事は、既に人と関わっているのか?


(……まあ、それはそれで面白いか)


俺は、小さく笑った。


この世界には、まだまだ俺の知らないことがたくさんある。

魔力が生み出す不思議も、これからもっと増えていくだろう。


(ねえ、アナタ)

(ん?)

(あの狐も、誰かと出会って、愛し合って、家族を作れたら……それって、とても素敵なことだと思うの)

(……そうだな)


俺も、そう思う。

種族が違っても、愛し合うことはできる。

それを可能にするのが、この世界の魔力。

だが、同時に、瘴気となって人々を苦しめることもある。


(今更だが……どうにも、扱いに困るな。魔力って奴は)


無暗矢鱈に万能すぎる魔力に対して、俺は改めて途方に暮れるのだった。

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― 新着の感想 ―
晴明=サンはこの世界ではガチで狐とのハーフになるんやろうなぁ
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