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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
間章3 ~時代の間のこぼれ話~

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ダンジョンと貨幣の話

(う~ん……どうしたモノかな)


俺は、魔力の流れの中で作り上げた空間で、目の前に浮かぶダンジョン機能のコンソールを見つめていた。

ダンジョンのドロップ品として、何を出現させるか。

これは、この国の経済や文化に影響を与える重要な問題だ。

そして今、俺が悩んでいるのは――貨幣をドロップ品にするかどうか、だった。


(貨幣か……確かに、需要はあるだろうな)


俺は、生前の記憶を辿る。

日本の貨幣の歴史について、俺はそれなりに知識を持っていた。

更に、ダンジョンのデータベースからも情報を読み取ることができる。


(まず、この国で最初に作られた貨幣は……富本銭だな)


富本銭。

飛鳥時代、天武天皇の時代に鋳造されたとされる貨幣だ。

俺も、この目で見たことがある。


直径約2センチほどの円形で、中央に四角い穴が開いている。

表面には「富本」の文字が刻まれていた。


ただ、これは試作的な意味合いが強く、広く流通するには至らなかった。

主に都周辺での限定的な使用に留まっていたのだ。


(そして、本格的に流通を目指したのが和同開珎だ)


708年、元明天皇の時代に発行された和同開珎。

これは、富本銭とは違い、全国的な流通を目指して作られた。


直径約2.4センチ、重さ約3グラム。

銅製で、表面には「和同開珎」の四文字が刻まれている。


朝廷は、この貨幣を普及させるために様々な政策を打ち出した。

貨幣を使った者には位階を授けるとか、税を貨幣で納めることを奨励するとか。


(それでも、なかなか定着しなかったんだよな……)


当時の人々にとって、貨幣という概念そのものが新しかった。

物々交換が主流だった社会に、突然貨幣経済を導入しようとしたのだから、無理もない。


それでも、都周辺では徐々に浸透していった。

俺も、市場で和同開珎が使われる様子を、何度も目撃している。


(そして、その後も朝廷は貨幣を発行し続けた)


和同開珎の後、朝廷は次々と新しい貨幣を発行した。

これらは後世、皇朝十二銭と呼ばれることになる。


万年通宝。760年、淳仁天皇の時代に発行された。

和同開珎よりもやや大きく、品質も向上していた。


神功開宝。765年、称徳天皇の時代に発行された。

これは、道鏡が権力を握っていた時期の貨幣だ。


俺は、これらの貨幣が鋳造される様子を、魔力の流れを通じて観察していた。

職人たちが、丁寧に鋳型を作り、溶けた銅を流し込む。

冷えた後、一枚一枚丁寧に仕上げていく。


(そして、これからも貨幣は発行され続けるだろう)


俺は、ダンジョンのデータベースから未来の情報を読み取る。


隆平永宝。796年、桓武天皇の時代に発行される予定だ。

平安京遷都後、最初の貨幣となる。


富寿神宝。818年、嵯峨天皇の時代。

承和昌宝。835年、仁明天皇の時代。

長年大宝。848年、文徳天皇の時代。


このように、皇朝十二銭は、約250年にわたって発行され続ける。


(ただ、問題もあるんだよな……)


俺は、データベースから得た情報を整理する。


皇朝十二銭の最大の問題は、品質の低下だった。

後期になるほど、銅の含有量が減り、鉛や錫の割合が増えていく。

つまり、貨幣の価値が下がっていくのだ。


これは、朝廷の財政難が原因だった。

良質な銅を確保できなくなり、安価な金属で代用せざるを得なくなった。


結果として、人々は新しい貨幣を信用しなくなり、古い和同開珎を好んで使うようになる。

これを「撰銭」という。


(そして、最終的には国産貨幣の流通が衰退し、大陸の貨幣に頼ることになる)


平安時代後期から鎌倉時代にかけて、宋銭が大量に流入してくる。

宋銭は品質が高く、人々に信用された。


その後、明銭、そして江戸時代には独自の貨幣制度が確立される。


(貨幣の歴史って、本当に複雑だな……)


俺は、改めて貨幣というものの難しさを実感した。


貨幣は、ただの金属の塊ではない。

それは、国家の信用そのものだ。


人々が「この貨幣には価値がある」と信じるから、貨幣は機能する。

逆に言えば、信用を失えば、ただの金属に戻ってしまう。


(だからこそ、ダンジョンで貨幣を出現させるのは危険、か)


俺は、コンソールに手を伸ばしかけて、止めた。

もし、ダンジョンで貨幣が大量にドロップするようになったら、どうなるか。

人々は、ダンジョンに潜って貨幣を集めるだろう。

そうなると、市場に流通する貨幣の量が急激に増える。


貨幣の量が増えれば、その価値は下がる。

いわゆるインフレーションだ。


(生前の世界でも、貨幣の過剰発行はよくあった)


歴史上、貨幣を大量に発行して経済が混乱した例は、数え切れないほどある。


古代ローマ帝国の銀貨の品質低下。

中世ヨーロッパの小型化する銀貨。

そして、近代の紙幣によるハイパーインフレーション。


貨幣の価値が暴落すれば、経済は大混乱に陥る。

人々の生活は破壊され、社会不安が増大する。


(この国は、まだ貨幣経済が根付き始めたばかりだ)


和同開珎が発行されてから、まだ100年も経っていない。

人々は、ようやく貨幣というものに慣れ始めたところだ。

ここで、ダンジョンから貨幣が大量に出現すれば、せっかく築きつつある貨幣への信用が崩れかねない。


(それに、朝廷の財政にも影響するだろうな)


朝廷は、貨幣の発行権を独占することで、経済をコントロールしようとしている。

これは、国家の重要な権力の一つだ。


もし、ダンジョンが貨幣を生み出すようになれば、朝廷のその権力は脅かされる。

最悪の場合、朝廷が貨幣の発行を諦め、貨幣経済そのものが崩壊する可能性すらあった。


(うん、やっぱり貨幣は駄目だな)


俺は、結論を出した。

ダンジョンのドロップ品として、貨幣を出現させるのは止めよう。

リスクが大きすぎる。

今まで通りに、武具や道具などの実用的なアイテムに留めておくのが妥当か。

それですら、人々の生活へ影響を及ぼしているのだから。


(……鉱石辺りは、普通のダンジョンでも出るようにしていいかもな)


その代わりに、比率としては高く無いものの、大仏建立時に出現させた試練のダンジョンのドロップ品を、出すことにしよう。

鉱石や、外傷を癒す薬品などは、朝廷がダンジョン利用に積極的になった今、需要がある筈だ。

これなら、経済への影響も限定的になる筈。


(ふう……)


俺は、光の粒子を消し去り、深く息を吐いた。


(お疲れ様、アナタ)


隣から、ハルカの声が聞こえた。

俺が振り向くと、ハルカが穏やかに微笑んでいた。


(ん? どうした?)

(ううん、何でもないわ。ただ、アナタが一生懸命考えている姿が、微笑ましいなって思って)


ハルカは、俺の頭を優しく撫でる。


(この国のことを、本当に大切に思っているのね)

(……そうか、な)


俺は、少し居心地が悪くなった。


この世界の担当仏に告げられた俺の役割に、この国の発展自体は含まれていない。

あくまで破局噴火を防ぐその延長線上に、ダンジョン運営があると言って良かった。

だというのに、俺は既に日本の歴史に過度な干渉をしている。

ただ魔力がある事での影響を越えて……。

そこには、確かな罪悪感がある。

俺の個人的な意思が、日本の歴史を歪めているのではなないか?

そんな想いだ。

ハルカが言う様な優しさには、ほど遠い。


試練のダンジョンを作ったのは、コアを簡単に利用されない為だが、俺が抱える罪悪感の代償、贖罪の表れだったのかもしれない。

だが、同時に、俺の力には限界があることも分かっている。


ダンジョンは強力な存在だが、万能ではない。

できることと、できないことがある。


そして、できることの中にも、やるべきことと、やるべきでないことがある。


(貨幣は、やるべきでないことだったな)


俺は、改めてそう思った。


(やっぱり、アナタは優しいわよ)


ハルカが、そっと俺の手を握る。


(この国の人々のことを、本当に想っている)

(……そうかな)

(ええ、そうよ。だから、ワタシはアナタが好きなの)


ハルカの言葉に、俺は少し恥ずかしくなった。


でも、悪い気はしない。

むしろ、嬉しかった。


(さて、次は何を考えるか……)


俺は、気持ちを切り替える。

貨幣の件は終わった。

次は、別のことに取り組もう。


平安京の建設も進んでいる。

新しい時代が、もうすぐ始まる。


その時代に、俺はどう関わっていくべきか。

そんなことを考えながら、俺はハルカと共に、魔力の流れを見つめ続けた。

書き溜めが尽きたので、しばらく毎日更新が怪しいかもしれません。

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