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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
陸章 奈良時代 ~律令制の成熟と天平文化 そして大仏~

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坂上田村麻呂は、武門の家柄である坂上氏に生まれた

(よかった……無事、産まれてくれたか)


俺は、魔力の流れの中で作り上げた空間で、目の前に現れた光の珠の様なものを見つめる。

それはゆっくりと人型へと姿を変えていき、ある時急に分裂したかと思うと、実体を持ち始めた。

そして現れたのは、5人の人影。


体長は30センチほど。

幼い少年や少女のような姿をしていて、貫頭衣のような簡素な服を身にまとっていた。

目を引くのは、ふわふわと漂う羽衣も身に着けている所だろうか?

時折大きく揺らめくさまは、まるで背に透明な羽が生えているようでもあった。


(生前に見ていたら、妖精みたいだと思っただろうな)


そんな印象を抱かかせるこの子達は、ダンジョンサポート用の意思体。

俺たちが構想していた、ダンジョン管理に特化した存在の生成に、ようやく成功したのだ。


(わあい!)

(きゃっきゃっ!)

(これなに~?)


今日の領域は、ちょっとした草原に時折花が揺れる長閑な空間だ。

その中を、5人の小さな少年少女たちが、思い思いに飛び回っている。

生まれたばかりだというのに、すでに見た目程度の知性はあるらしく、言葉を話し好奇心旺盛に周囲を観察していた。


(……アナタ、この子の名前はどうしましょう?)


隣に座るハルカが、慈愛に満ちた瞳で小さな存在たちを見つめながら尋ねる。


(ああ、それならもう付けてある……アマタ、そう呼んでやってくれ)

(アマタ?)

(ああ。アマタ、数多いという意味だ)


俺は、5人の少年少女たちを見渡した。


実のところ、当初はもっと管理に特化した自動装置レベルの存在を生み出そうと考えていたのだ。

ハルカやアマテラス達に語った通り。ダンジョンコアの機能だけで生み出した、自我の薄い機械的なものを。

だが、実際にその方法で生成したところ、操作できたのは個別のダンジョンの機能まで。

求めていた、複数のダンジョン間での魔力の流れに干渉できる力が無かったため、この方式は断念したのだ。


そこで別の案として考えたのが、俺達の様なコアに宿る意思をベースにした簡易複製体だ。

まあそれも幾らかの試行錯誤を経る必要があったが……こうして、何とか新たな意思を生み出せたのである。

まあ、生後直後から、こうして絶賛好奇心を発揮している最中なのだが……。


(……とはいえ、いきなりで分裂はな。皆、まずは挨拶だ。一つになりなさい)


俺は、5人の少年少女たちに声をかけた。

すると、5人が、一斉に光り始める。

そして次の瞬間、光が収束し、一人の少年へと姿を変えた。


(お父さん、お母さん! 初めまして! ボク、アマタだよ!!)


元気よく俺達に飛びついてくる、快活な印象の少年。

この状態だと、大きさはごく普通の子供程度だ。

その優しげな瞳は、ハルカによく似ていた。


(アマタね……ワタシの事が、分かるのね?)

(うん!)

(ふふっ、いい子。あなたにそっくりね)

(そうか……?)


アマタを抱きしめ、その顔を覗き込むハルカ。

とは言え、そっくりと言われてもピンと来ないのだが。


(……見ての通り、分裂と合体を行える特性を持たせてある。分裂した状態であれば、意識も分裂しただけ並列思考が可能になる筈だ。無数のダンジョンの管理を任せるのに、最適な力だろう)

(……でも、それはまだ先よね?)

(そうだな。色々と学んでからになる)


俺の説明に、ハルカが納得したように頷く。


(なら、これからワタシ達が色々教えてあげないとね!)

(ああ、勿論だ)

(うん、ボク一杯教えて貰うよ! あれもこれも、色々知りたい!)

(そうか……なら、分裂して色々見た方がいいな)

(うん!)


どうやら、知識欲旺盛らしく、俺の言葉に再びアマタは分裂した。

ハルカは、再び分裂した5人の少年少女たちを、慈愛に満ちた瞳で見つめている。


(あれなんだろ~?)

(ふわふわ飛べるの楽しい)

(お花だ~!)


生まれたばかりで、無邪気に遊ぶ小アマタたち。

それでいて、あの子達には既にダンジョン機能から基本的知識が流れ込み続けている。

アマテラス達にも行った処置だが、今回は流れ込む情報量が穏やかだ。

完全に情報を送り込み切るまで、数十年はかかるだろう。

その間、ゆっくり健やかに育っていけばいい。

そんな思いを抱きながら小アマタ達の様子を眺めていると、空間の入口から、アマテラスとツクヨミがやって来た。


(あら、アキト様! これは……まあ!)


アマテラスが、小アマタたちを見て、目を輝かせる。


(なんて可愛らしい……!)


そう言うと、アマテラスは飛んできた一人のアマタを抱きかかえ、優しく撫で始めた。


(わあ、ふかふかしてる!)

(ええ、あなたもとてもふかふかよ?)


どうやら一目で気に入ったらしい。

一方でツクヨミは、少年の小アマタにつかまっていた。


(こんにちは?)

(ええ、こんにちは。私はツクヨミ。あなたは?)

(ボクは……アマタ! アマタだよ!)

(ふむ、アマタですか。良い名ですね……弟の幼い頃を思い出します)


幼い口調ながらも、的確に受け答えをするアマタに、ツクヨミは感心した様子だ。

口ぶり的に、スサノオの幼い頃を思い出しているらしい。


(ハルカ様、この子たちは一体……?)

(前に、アキトが話していた、ワタシ達のお手伝いをしてくれる子達よ? アマタって言うの。仲良くしてあげてね?)


ハルカが説明すると、ツクヨミとアマテラスは小アマタたちの顔立ちをじっと観察する。


(……なるほど。アキト様とハルカ様、お二人によく似ていますね)

(本当だわ! ということは、もしかして……)


アマテラスとツクヨミは、互いに顔を見合わせ、何かを察したように頷いた。


(アキト様とハルカ様の、お子様のようなものなのですね?)

(それは素敵ですわ! おめでとうございます!)


二人とも勝手に納得している。

だがまあ、実際、間違ってはいない。

アマタは、俺とハルカが魔力の領域内の疑似的な肉体で交わり、お互いの因子を掛け合わせた結晶であるもの──光の珠より産み出された存在だからだ。

つまり、俺達二人の子供も同然なのだ。

……かつて、初めて作り出したアバターとハルカの生前との間には、4人の子供を設けていた。

そこから考えると、アマタは5人目の子と言うべきだろうか。

そんな事を考えつつ、ふと気になった事があった。


(ああ、ありがとう。ところで、スサノオはどこだ? 紹介しておきたいが……)


俺が尋ねると、ツクヨミが呆れたように言った。


(弟なら、写し身を作って、ある者と戯れていますよ)

(戯れている?)


気になった俺は、領域内にツクヨミが言う場所を映し出した。


そこは、とあるダンジョンの中。

深い階層の、広い空間だった。


そして、そこでは――


武人風の鬼と、一人の若武者が、激しく戦う姿があった。



【坂上田村麻呂】


おれの名は、坂上田村麻呂。

武門の家柄である坂上氏に生まれ、幼い頃から武を磨き上げてきた。


坂上氏の者は、代々多くの戦や重要な戦にも参戦してきた。

直近では、試練の魔穴にも参加し、最終試練の一翼を崩した武人を輩出している。

その誉を、おれは自身の誇りとしていた。


だからこそ、おれも身を磨こうと、積極的に魔穴に潜る日々を過ごしてきたのだ。

特に、帝が魔穴での研鑽を勅令とされた後は、近隣で最も深くまで階層がある魔穴へと遠征する日々だった。

そして今日も、おれは供の者たちと共に、その深き魔穴に挑んでいた。


「若君、先の階層に進みますか?」

「ああ。まだ余裕がある。先に進もう」


おれは剣を鞘に収め、供の者たちに指示を出す。

これまでの階層で得た武具や道具の数々を見た。十分な量だ。

だが、おれはまだ満足していなかった。

魔穴に挑むのは、物を得る為ではない。練武の為であるからだ。


もっと強くなりたい。

もっと深くまで進みたい。

その想いが、おれを突き動かしていた。


その想いが通じたのであろうか?

次々と階層を踏破した末──最下層に降りた時、おれは異変に気づいた。


「……何だ? この漂う気は……?」


いつもとは違う気配。

何時もなら、勢いよく襲いかかってくる魔穴に住まう獲物──魔物達が、怯えたように奥より逃げて来るのだ。

それらを打ち倒しつつ進んだ先、、その奥に見えたのは……角を生やした、鬼であった。


「若君、あれは……! もしや、音に聞く……」

「試練の魔穴の最奥に現れたという、あの鬼か……!」


仲間たちが、緊張した声を上げる。


試練の魔穴以後、現れるようになった人型の魔物。

その中でも、朝廷の兵に畏怖されているのが、試練の魔穴の最奥に現れたという、額に角を生やした鬼だ。

かの強力無双の力士により討ち果たされたという鬼が、時折こうして魔穴に姿を見せるという。

かつての試練の魔穴の如く、人の武を計るかのように。

その存在が、今、おれたちの前に立っている。


おれは、その瞳を見た。

そして、理解する。

格上であり、圧倒的な強者。

だが、同時に――この鬼は、おれたちを殺すために現れたのではない。


「皆、下がれ」

「しかし、若君!」

「判らぬか? これは誉ぞ!」


聞けば、この鬼は強き者、強くなる者、強くならねばならぬ者の前にこそ姿を見せるという。

その鬼が、おれの前に姿を現した。

これこそが、誉であろう。

おれは、剣を抜いた。


供の者たちを下がらせ、単身で鬼と対峙する。

いや、稽古をつけてもらうのだと、おれは攻めかかった。


「せやあっ!!」


全力で踏み込み、剣を振り下ろす。

だが――


「……っ!」


鬼の拳が、おれの剣を弾いた。

そして、その勢いのままに、おれの身体が吹き飛ばされる。


「ぐっ……!」


背中から地面に叩きつけられ、息が詰まる。

だが、おれはすぐに立ち上がった。


鬼は、そのおれの様子を見て、にやりと楽しげに笑っている。


(……やはり、格が違うか。当然か)


相手は、神代の武さえも操るという。

それが確かならば、鬼神であり、武神であるのだろう。

だが、おれは怯まない。

むしろ、血が沸き立つのを感じた。


これだ。

これこそが、おれが求めていたもの。

遥かな高み。超えるべき、壁!!


「もう一度……いや、何度でも!」


おれは、再び剣を構えた。

距離を取り、今度は弓を引く。

矢を放ち、同時に踏み込む。


鬼は矢を避けることなく、ただ二本の指で受け止めた。更にはその受けた矢の鏃で、おれの剣を受け止めたのだ。

何という……何という武の極みか!

だが、おれは諦めない。


剣を引き、体勢を変え、再び斬りかかる。

何度も、何度も。


その度に、鬼はおれを弾き飛ばす。

だが、その目には――確かに、楽しそうな光が宿っていた。



【スサノオ】


(……ははっ、活が良いな! いいぞ、もっと来い!!)


俺は、自分の写し身である鬼の姿で、田村麻呂とか言う元気な奴と戯れていた。

いや、戯れというには、少し本気が入りすぎているかもしれないが……。

だが、仕方ないだろう?


こんなに面白そうな奴を見つけたら、我慢なんて出来るものじゃない。

高ぶりを抑えきれなかったし、抑えなくて正解って奴だ。


挑みかかってくる田村麻呂を、一合で吹き飛ばす。

だが、奴はすぐに立ち上がる。


その目には、恐怖ではなく、闘志が宿っていた。


(……いいぞ! 本当に、いい目だ!)


真っ直ぐに俺を見据える眼を見て、俺の生前、戦いの技を叩き込んだ奴らを思いだす。

そして、次に試練の魔穴で、力を見せたあの力士を。

そして、コイツだ。

師匠から俺へ叩き込まれた技が、様々に形を変えてこいつにも受け継がれているのが、手に取るようにわかる。


(だが、まだまだだ)


俺は、にやりと笑った。


何度も何度も、挑んでくる田村麻呂。

剣を振るい、弓を放ち、体術を駆使する。


まだ若いが、その実力は本物──とはいえ、まだまだ未熟って奴だ。

だが意気が良い――その強くなりたいって言う意欲。

それを持っているなら、コイツも、きっと最高になる。


(先達として、いっちょ鍛えてやるかな!)


俺は、楽しげに笑いながら、拳を構えた。

コイツが、どこまで成長するのか、心底楽しみに思いながら。

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