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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
陸章 奈良時代 ~律令制の成熟と天平文化 そして大仏~

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大仏の開眼供養は、インドの僧、菩提僊那によって執り行われた

(ふう、ようやく一段落ついたな)


俺は、魔力の流れの中にある自身の領域で、ハルカと共にくつろいでいた。

今日の領域は、例によって和室。

それも少し手を加えて、中央に囲炉裏を据えていた。

その囲炉裏の周囲で、俺たちは茶を飲みながら、大怪異が及ぼした影響を確認している。


(アナタ、これは……)


まず映したのは、東北のある山地。

その光景にハルカが、顔を曇らせた。

それは、恐山から都までの、大怪異が通った跡だ。

木々は倒れ、無理やりに尾根を横断した後が、傷跡のように残されていた。

その上、彼方此方に瘴気の塊が残されている。

あの、大怪異が放った瘴気によって腐り果て汚泥の沼となっていた箇所と同様に。


大本の大怪異が滅びている為か、あの亡者の手の様な蔦が伸びるようなことはない。

しかし、それに触れた変異動物達は、瘴気に狂わされたのか凶暴化していた。

それどころか、明らかに新たな怪異とも言うべき存在に成り果てているモノさえいる。


(悪鬼のような存在に成り果てて、時には配下を率いて、か。既に一勢力を築いているものもいるな)

(なんて、めいわくな落とし物なのかしら!)


俺は、それらの動きを観察しながら答える。

そう言えば、山岳に住まう怪異というのは、俺の生前の伝承にも多く存在した。

確か、岩手の方には大岩丸、伊勢は鈴鹿山には大嶽丸なんて鬼が住んでいたとされていた。

あの様々な怪異の中には、そう言ったモノに成り果てる者達も居るのかもしれない。

それ以外にも、山姥とか人に害成すものが、あの瘴気を元に生まれてくる可能性はあった。


(あのままだと、里の人達にも被害が出そう……)


ハルカが、心配そうにつぶやく。

だが、そこまで心配する必要もない筈だ。


(国分寺などの浄化の範囲には近寄ろうとしないようだ。本能的に避けているらしいな……)

(そう……それなら良いのだけど……)


ハルカは、未だ不安そうだ。

無理もない。今は良くても今後どうなるか分からないのだ。


(まあ、ハルカが懸念している通り、力を付ければいずれは人里を襲うだろう)

(……そう、よね)

(だが、それは朝廷の仕事だ。俺たちが全て面倒を見るわけにもいかない)


俺がそう言うと、ハルカは少し寂しそうな顔をした。

しかし、不意に彼女は何かを思い出したのか、別の山岳の様子を映す。

そこには、神聖な輝きを放つ獣や鳥など、明らかに自然の物ではない存在が映りこんでいた。

ハルカはそれを見て、華を綻ばせたような笑顔を浮かべる。


(ふふっ、思った通りね、アナタ)

(……さて、何のことだか)


映っているのは、大怪異からのダンジョン防衛に配置していた聖獣や神獣だ。

緊急的にダンジョンの周辺に配置したものを、俺はまだそのままにしている。


(あの子達で、良くない子達を里に近づけさせないつもりなんでしょう?)

(あの怪異たちがダンジョンコアを狙わないようにするための処置ではあるが……まあ、結果的にそうなるかもしれないな)


俺は、少し気まずくなった。

名目としては、ハルカに語っている様にダンジョンやコアの防衛のため。

しかし同時に、この世界では集落の成立がダンジョンに紐づいている。

つまりダンジョンの傍には山岳部であろうと集落がある可能性が高い。

聖獣たちをそのまま配置したままにするのは、必然的に人里を守る事に繋がるだろう。


(ふふ、アナタって恥ずかしがり屋なのに優しいわ)

(……ノーコメントだ)


ハルカが、微笑みながらつついてくるが、こんな時何を言ってもドツボというモノだ。

俺は、話題を変えることにした。



(あ~、えっとだな……そうだ、朝廷側の様子だが、面白いものを見つけたぞ)

(ふ~ん、何かしら?)


未だによによしているハルカは何か言いたげだったが、此処は強引に話題を変えるに限る。

俺は、コアの機能を立ち上げ、書簡の数々を出現させた。

現れた書簡を見て、ハルカは首をかしげる。


(これは……書簡、かしら? でも都の人達が書いているのと、何か違う気がするわ)

(そう、これは海外のものだ。具体的には、都に居る唐や百済、新羅に渤海の使者たちが、各本国に宛てたものだな)

(……百済や唐は知っているわ。あとは、新羅も……でも、渤海と言うのは初めてね)

(ああ、大陸側は動きが激しいからな……もとは、高句麗と呼ばれていた地域にできた国だ)


渤海は、朝鮮半島北部、高句麗があった場所に成立した国だ。

データベースを確認すると、俺の生前でもほぼ同時期に成立していたらしい。

元々あった高句麗が唐に滅ぼされ、その後新羅が唐を半島から追い出し、半島統一を成した後に興ったのが、俺の生前の歴史での場合。

この世界では、後百済の成立で朝鮮半島南を押さえられた新羅は朝鮮統一を果たしていない。

高句麗を滅ぼしたのは、白村江の戦いでの敗北を払しょくする為に、唐が起こした遠征軍によるものだ。

この戦いに、新羅は参加していなかった。

白村江の戦いで責任の押し付け合いが発生した結果、唐と新羅は同盟を解消してしまっていたのだ。

その後高句麗の遺民説や粟末靺鞨ぞくまつまっかつ部族な出自説がある大祚栄が、唐の北東部の支配のゆるみに乗じて建国されたのが、渤海だ。


この渤海だが、北東部の諸部族や高句麗遺民の多くを取り込んで、かなり栄えているらしい。

唐とも正式の交流し、日本にも使節が来るなど外交も活発だ。


(で、だ。この書簡全部に共通しているのは、話題が大仏と大怪異の戦いについてなんだ)

(まあ……!)


俺の言葉に、ハルカは目を丸くした。


(それって、つまり……みんな見ていたのね?)

(ああ、あんな規模の戦いだ。都にいた他国の使者たちも、否応なしに目にしていた訳だ)

(あれだけ大きな音を立てていたし、とっても大きかったものねえ……)

(そりゃあ見るだろう。で、彼らは本国に、事の顛末の詳細を伝えた。日本の切り札である大仏の存在をな)


俺は、書簡の内容を要約しながら説明する。


(唐も新羅も、日本の兵の異常さは既に知っている。白村江の戦いでな。だから、大仏の存在を知って、本国は震え上がった)

(……それは、良いことなのかしら?)

(…さてな。もっとも、抑止力としては十分だろう)


そこで俺は、思わず笑った。


(一方で、日本の兵の戦いぶりを直接知らない渤海は、世迷言だと切って捨てたらしい)

(あらあら……)

(無理もない。むしろそんな世迷言と言われるのを分かっていても、何が起きたか書かなければいけなかった渤海の使者に同情するよ)

(可哀そうに……)


ハルカも使者の苦悩を察したのだろう。俺と同じく表情に同情の色を浮かべている。

ただまあ、この辺りは海外の事。とりあえずは気にしなくても良い話だ。


問題は、国内。


(話は変わるが、朝廷は今回の経験から、積極的にダンジョンを活用するようになった)

(活用? それって、あのみんなが潜っていた時みたいな?)

(ああ、アレほど激しくはないが……防人や官吏を、各地のダンジョンに挑ませているんだ)


俺は、朝廷の動きを説明する。


(ダンジョン内でモンスターを倒す、または長期に過ごすことで、高濃度の魔力を取り込める。心身や知能も強化される。朝廷は、それを今回の一件で学んだんだ)

(そういえば、今までは食べ物や道具を求める人以外、みんな余り潜らなくなっていたわ……それが変わったのね)

(その通りだ。特に朝廷が注目しているのが、防人だな)


俺はとあるダンジョンを映す。

そこには徒党を組んでダンジョンの深層に挑む兵達の姿があった。


(ダンジョン奥の高濃度の魔力を事前に取り込むことで、魔力の薄い百済で過ごしていても、魔力が抜けきるまでの期間が延びる。朝廷は、そう期待しているようだ。そして、その予想は正しい)


俺は、その朝廷の推測を肯定する。

魔力の拡散は個人差はあれども、体内に蓄積していた魔力の総量が、抜けきるまでの時間に比例する。

そして魔力の総量は取り込む際の濃度によって変わるのだ。


(魔力の特性から言えば、実際その通りだ。よく見抜いた、と言うよりも、一種の経験則なのだろうな)

(防人の人達がその辺りに気付いたのかもしれないわね……)


身体から魔力が抜けると言うのは、国内では余程の特殊な環境でなければ経験できない。

であれば、国外へ出向くことが多い防人こそ、それに気が付ける。

俺は、スサノオに見せられた、ダンジョン内で朝廷の兵を指揮する防人の将の姿を思い浮かべた。

気付くなら、彼だろうか。


(ただ、そうなると、だ)

(ダンジョンの管理が忙しくなるわね)


ハルカが、先回りして言う。

そう。今まで惰性で問題なかったダンジョンの運営を、見直す必要があるかもしれない。

ただまあ、今のところは何とかなっているので、追々でいいだろう。


(それよりも、だ。おっと、そろそろ始まるみたいだぞ、ハルカ)

(え? もうそんな時間なの?)


俺は和室風の領域の一面に、ある光景を映し出す。

目の前に広がる壮大な光景に、ハルカが、息を呑んだ。


それは、巨大な建造物だった。

大仏殿。

そして、その中に鎮座する、大金剛盧舎那仏。


(大養徳国金光明寺、後の時代で言う東大寺の大仏殿完成の祭礼だ。大仏の開眼供養が始まるぞ)

(凄いわ、ねえ……)


俺が知る、生前に見た東大寺よりも、遥かに巨大な大仏殿。

その威容に、ハルカは改めて感嘆する。


(こんなに……大きいの……?)


ハルカは、その巨大さに言葉を失い、同時にその前に並ぶ多くの僧達に圧倒されていた。



【沙弥勝満】


朕……いや、我は今、一人の僧として、この開眼供養に参加している。

沙弥勝満。

かつて、我は帝と呼ばれた者。

譲位し、出家した今、我はただの僧として、この大仏を見上げていた。


(長い道のりであった……)


大怨霊の発生から、ここまで。

大きく国が荒れ、疫病による多くの民の死。

朝廷一丸となって、国を立て直すために対応に追われる日々。

墾田永年私財法を制定し、開拓後の田畑の私有を認め、国力の増加に努めた。

その成果を待たずして、我は譲位し、娘の阿倍内親王に、帝の座を譲ったのだ。


そして今。帝となった娘は、開眼供養の祭礼の最前列にて、祈りを捧げている。

その隣には、熱心に読経する僧の姿がある。


(確か、あれが道鏡なる僧か)


かつて、魔穴核岩を大仏に埋め込む案を出した、あの若き僧。

今では、娘の信頼を得ているようだ。

だが、今は、そのようなことよりも見るべきものがある。

我は、聳え立つ大仏殿を改めて見上げ、感嘆に身を震わせた。


そして、そのお姿を収めるのは、壮麗なる大仏殿である。

この地には、元々金鐘寺や福寿寺などの寺院群があった。

だが、大仏建立にあたって、これらが統合・拡張され、大養徳国金光明寺となったのだ。

その中心たる大仏殿を構成する柱などは、巨大な神木で出来ていた。

そう、あの大怪異が取り込んでいた神木である。


戦の場となった地は大仏建立の地にも近い。

その地に遺された神木は、見方を変えれば比類なき建材であった。

かくして、結跏趺坐しているとは言え巨大な大仏を収容できる大仏殿の建立は、思いのほか順調に進んだ。

一度は穢され、瘴気に覆われていた神木は、他でもない大金剛廬舎那仏の御手にて浄化され、今こうして風雨から御身を守るものへと姿を変えたのだ。


もっとも、その成立には、朝廷だけではなく、多くの僧の尽力が必要であった。


特に功績高かったのは、行基という僧がであった。

まだ仏教が民に浸透し切っていない中、民の中に入って多くの救いを齎しながら、民への仏教の伝道に努めたのだ。

彼には、その働きを認め、我自ら大僧正の号を送った。


他には、鑑真という唐より招いた僧が居る。

日本の僧は、それまで明確な戒律によって出家するのではなかった。

不確かな任命則は、仏の教えを乱れさせかねぬ。

故に朝廷は、僧の任命が可能でそう言った戒律に詳しい鑑真を日本に招いたのだ。


しかし、彼の僧は、唐の引き留めや嵐などで、日本への渡航を何度も失敗した。

それでもかの僧は日乃本に正しき戒律を伝えんと、視力を失いながらも、この地にたどり着いたのである。

その意思に応えずして何が朝廷、何が日乃本か。

鑑真の意思に心打たれた僧らは、祈祷によりその目に光を取り戻し、その苦難に報いたのだ。

鑑真もまた、この地の御仏のお力に一層信心を深め、日乃本での布教に尽力している。

今もこの開眼供養にも参加しているのだ。


そして、今、開眼師を務めるのは、遥か天竺よりやってきた菩提僊那。

菩提僊那が、大仏を覆っていた幕を払うと、その眩きお姿が顕わになった。

おお、我が救い主。護国の守護者よ。

既に幾度となく御姿を見上げたが、未だにその度に畏敬の念がこの身を満たす。


同様に身を震わせる僧達の視線を一身に受け、開眼師が瞳を入れた。

その瞬間、大仏が輝いた。

大怪異との戦いなど無かったかのように、傷一つ無く光り輝く御姿。


(ああ……)


我は、涙を流した。

そして日乃本の、永久の平穏を祈る。


同時に思う。長らくの我の役目は、終わったのだと。

帝の座は、娘に譲った。

大仏は、完成した。

国は、立ち直りつつある。

もはや太上天皇の号すら必要あるまい。

ならば、我はただの僧として、余生を過ごそう。

仏に祈りを捧げ、民の安寧を願いながら。


(さらば、太上天皇の号よ。今、我は沙弥勝満なり)


我は、静かに、祈りを捧げ続けた。

次回は授業回

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