表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
間章2 ~時代の間のこぼれ話~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/109

とある高校生のダンジョン探索 その5

番外編の現代ダンジョンの様子の最後です。

【定原晢斗】


「はあっ、はあっ……!」


俺たちは必死に通路を駆けていた。

背後から追手が来る気配はないが、油断はできない。

一刻も早く、ここから出ないと。


「大丈夫か?」


俺は隣を走る少女に声をかけた。

彼女は息を切らしながらも、しっかりと頷く。


「は、はい……大丈夫です」


その声には、まだ恐怖の余韻が残っていた。

当然だろう。

あんな目に遭ったんだから。


「っと、そろそろ解除しないと流石に拙いな」


俺は走りながら、自分のスキルを解除した。

あの三人に掛けていた『固着』を、全て。


「……えっ」


少女が、僅かに驚いたように俺を見る。

俺が何を解除したのか、思い至ったのだろう。


「いいんですか? あの人たち、また追ってくるかも……」


「大丈夫だ」


俺は答えた。


「あのスキル、それなりに制限があってな。ずっと維持してたら、俺がモンスターと戦う時使えない」


それは本当だった。

固着できる箇所が増えたとはいえ、その数はまだ三カ所から増えていない。

同時に、まだモンスターとは『固着』なしで戦っていないかった。

疲労を感じ始めた中、スキルなしでの戦闘をする気には到底なれない。

今は、俺一人だけじゃないのだから。

それに……。


「……あいつらもモンスターと戦えた方がいい。三層目のモンスターがどんなのか知らないけど、動けないままだと危険だろ」


俺の言葉に、少女は複雑な表情を浮かべた。

だが、すぐに小さく頷く。


「……優しいんですね」

「そんなんじゃないさ」


俺は少し照れくさくなって、視線を前に戻した。


通路を進みながら、俺は周囲を警戒する。

モンスターが出てくる可能性もある。

実際、遠くから何かの気配を感じることもあったが、幸い直接遭遇することはなかった。


(リポップがまばらで助かった……)


授業などで学んだ通りに、モンスターの再出現には、ある程度の時間がかかるらしい。

それが、今の俺たちには幸いしていた。


「あの……」


少女が、遠慮がちに声をかけてきた。


「自己紹介、まだでしたね。私、芦原……木乃実このみといいます」

「ああ、俺は定原晢斗。隣の市の高校に通ってる」

「定原さん……助けてくれて、本当にありがとうございました」


芦原さんは、深々と頭を下げた。

その仕草に俺は、慌てて手を振る。


「いや、当然のことをしただけだから。それより……」


俺は少し躊躇ったが、やはり聞いておくべきだと判断した。


「何があったのか、教えてもらえるか?」


芦原さんは一瞬表情を曇らせたが、やがて口を開いた。


「……高岡さんに、誘われたんです。一緒にダンジョンに行こうって」


彼女の話は、静かに、だが確かに俺の耳に届いた。


高岡という少女からの誘い。

最初は嬉しかったこと。

だが、ダンジョンに入ってすぐ、罠だと気づいたこと。

男子二人に襲われそうになったこと。

必死に逃げたこと。


「……そして、あの部屋に追い詰められて……」


芦原さんの声が震える。

俺は何も言わず、ただ聞いていた。


「もう、ダメだと思いました。でも、定原さんが来てくれて……」

「……そうか」


俺は、拳を握りしめた。


あの高岡という女子、明らかに計画的だった。

芦原さんを傷つけようとしていた。

それも、かなり悪質な方法で。


(スクールカーストって奴か……)


今の俺のクラスは、微妙に緩くてそう言う空気はない。

いい意味でも悪い意味でも自由と言うか……変になれ合わないが、荒れる事も無いというか。

だから俺も緩く皆と付き合っているが、芦原さんの場合は違うらしい。

だが俺は、現実的な問題に触れざるを得なかった。


「なあ、芦原さん。証拠は、あるか?」

「……え?」

「その高岡ってやつらが、芦原さんを襲おうとしていた証拠だ。俺が見たのは、あの部屋での状況だけだ。その前に何があったか、俺は正直言えば判らない」

「そ、それは……」


芦原さんは、はっとした表情を浮かべて言葉に詰まる。


そう、証拠がないのだ。

俺が見たのは、あくまで『襲おうとしている瞬間』だけ。

それも、高岡は『パーティーの内輪もめ』だと言っていた。

もし管理事務局に報告しても、その言葉の通りに、内輪もめとして処理されてしまう可能性がある。

だが……。


「それでも、報告はするべきだと思う。何もしないよりは、ずっといい」


投げかけられた言葉に、芦原さんはじっと俺を見つめた。

そして、小さく微笑む。


「……はい。そうですね」


俺たちは頷き合い、再び走り出した。



階段を上り、二層目へ。

そしてさらに上り、一層目へ。


途中、何度か武装鹿や牙鼠と遭遇したが、俺の『固着』で難なく対処できた。

芦原さんも戦闘に参加しようとしたが、彼女は今戦えないらしい。

彼女の武器は、式神。複数の式神を同時に操り、モンスターを翻弄するらしい。

だが、あの三人に襲われた際に、その元となる呪符を使い切ってしまったのだとか。

式神と聞くと、ウチの担任の三上先生を思いだす。

あの人の式神は、強さも同時操作数も桁違いだった。


「式神か……凄いよな。応用も利くらしいし」


俺が感嘆の声を漏らすと、芦原さんは少し照れたように笑った。


「私の家系に伝わる、古式陰陽術なんです。小さい頃から、訓練してきました」

「陰陽術か……」

「はい。式神術や結界術、浄化の術なんかが中心です。基本的には、誰でも学べば習得できる技術なんですけど、家系によって得意不得意があって……」


彼女は少し考えるように言葉を選んだ。


「スキルとは違うんです。スキルは、個人が発現しないと得られない能力ですよね。でも、術は……資質の差はあっても、訓練すれば誰でもある程度は使えるようになります」

「なるほど……」


俺は、その説明に納得した。

確かに、スキルと術は別物として扱われていると、授業でも習った気がする。


「定原さんのスキルも、すごいですよね。あんな風に、物を固定できるなんて」


芦原さんが、遠慮がちに言った。


「あ、でも……ごめんなさい。スキルのこと、詳しく聞くのは失礼でしたよね」

「ん? ああ、気にしないでいいさ」


俺は笑って答えた。


「確かにスキルの詳細は、プライバシーに関わるからな。でも、別に隠すつもりはないし」

「……いいんですか?」

「ああ。俺のスキルは『固着』って名前でさ、触れ合ってるもの同士を離れなくする効果がある。今は三箇所まで同時に固定できる」

「三箇所も……」


芦原さんは驚いたように目を見開いた。


「俺も最初は驚いたんだ。このスキルを知ったのは、中学の時でさ」


俺は、当時のことを思い出しながら話した。


「工作の授業で、接着剤を探してたんだけど、見つからなくて。テープでもいいやって思って、部材を手で押さえてたら……離れなくなったんだ」

「それが、スキルの発現だったんですね」

「そう。それで、高校に上がった時に、市の識別室で正式に測定してもらった。魔力の波動を測定して、スキルの詳細を判別してくれる場所があるんだ」

「私も行きました。でも、私の場合はスキルじゃなくて、術の適性が高いって結果でしたけど」


芦原さんは少し寂しそうに笑った。


「スキルって、特別な感じがしますよね」

「そうでもないさ。術も、十分すごいと思うよ」


俺の言葉に、芦原さんは嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます」

「それに、測定結果は本人にしか知らされないから、安心していいよ。プライバシーは守られてる」

「……そうですね」


芦原さんは、ほっとしたように息をついた。


その後も、俺たちは会話を続けながら進んだ。

そして──。


「……見えた!」


遠くに、光が見えた。

入口だ。


「やった……!」


芦原さんが、安堵の声を上げる。

俺も、思わず笑みがこぼれた。


「ああ、もう少しだ」


俺たちは、最後の力を振り絞って走った。

そして、遂に──。

管理事務局のゲートを抜けて、俺たちは外に出た。


「はあ……はあ……」


二人とも、その場に座り込んだ。

疲労感が、どっと押し寄せてくる。


「……助かりました」


芦原さんが、もう一度俺に頭を下げた。


「本当に、ありがとうございました」

「いや……こちらこそ、無事で良かった」


俺は、心からそう思った。

短い時間だったが、俺たちはお互いのことを知った。

彼女のこと。

俺のこと。


「さ、管理事務局に報告しよう」


俺は立ち上がり、芦原さんに手を差し伸べた。

彼女は、その手を取って立ち上がる。


そして、二人で管理事務局の建物へと向かった。



数日後、俺は自分の席に座りながら、スマホの画面を見つめていた。


「……やっぱり、こうなったか」


あの日、俺と芦原さんは管理事務局に報告した。

高岡たちの犯行を。

だが、結果は芳しくなかった。

『パーティー内のもめ事』として処理されてしまったのだ。

確かに、ダンジョン内ではパーティー内でのトラブルは珍しくないらしい。

意見の食い違い、戦利品の分配を巡る争い。

そういったことは、日常茶飯事なのだという。

だから、俺たちの証言も『よくあること』として流されてしまった。


芦原さんの腕の傷も、治癒の術であっさりと治されてしまった。

痕も残らず、まるで何もなかったかのように。

それは、証拠が消えたことを意味していた。


後から出てきた高岡への追及も甘かった。

結局、実際に芦原さんに傷を負わせた大上と熊沢だけが軽い罰を受けただけ。

高岡は、何の罰も受けなかった。


「くそ……」


俺は、歯噛みした。

あんな明らかな犯行なのに。

芦原さんがあんな目に遭ったのに。


だが、芦原さんは冷静だった。


『定原さん、ありがとうございました。でも、これは予想していたことなんです』


彼女からのメッセージには、そう書かれていた。


『高岡さんは、クラスでも学校でも人気者です。私の発言なんて、誰も信じてくれないだろうって、分かってました』

『そうか……』

『でも、一つ決心がつきました』

『決心?』


俺がそう返信すると、彼女からは──。


『また後で連絡します。きっと、定原さんも驚くと思います』


そんな、意味深なメッセージが返ってきた。


それから数日。

彼女からの連絡はなく、俺はただこうして、日常を過ごしていた。


「おはよう、定ちー」

「おう」


クラスメイトが、いつも通りに声をかけてくる。

俺も、いつも通りに返事を返す。


その内にホームルームの時間が近づいて来た。

生徒たちが、ぞろぞろと教室に入ってくる。

そして──。


「皆、揃っているな?」


クラス担任の三上先生が、教室に入って来る。

先生はいつも通りの真面目な顔で、いきなり爆弾を投げつけてきた。


「ホームルームを始める前に、一つ連絡事項がある。今日から、急だが転校生が来ることになった」

「転校生!?」

「どんなタイミングっすか!?」


教室が、ざわついた。この時期に転校生なんて、珍しい。

そんな皆の反応を無視して、先生は入り口に声をかける。


「失礼、します」


ガラリ、とドアが開く。

そして──。


「……っ!」


教室中が、どよめいた。入ってきたのは、一人の少女だ。

落ち着いた雰囲気の、整った顔立ち。そして、何より目を引くのは──。


「すげえ……」

「マジか……」

「……いくつよ、アレ」


男子生徒たち(と一部の女子)が、ざわつく。

容姿もそうだが、彼女の豊かな胸に視線が集中していた。

だが、俺は違う意味での驚きを必死にこらえていた。


(……芦原、さん?)


そう、彼女は芦原木乃美だった。


「芦原木乃美です。よろしくお願いします」


彼女は、教室中を見回しながら、はっきりとした声で言った。

そして、その視線が俺に向けられた瞬間──。

彼女は、満面の笑みを浮かべた。

俺も、動揺を表に出さないようにしながら、何とか応じて笑い返す。


そして彼女の選択をようやく知った。

高岡の人気が高く、生徒も教師も言いなりな学校から、彼女は離れる決心をしたのだと。


そう言えば彼女は、元々周囲から浮いていたと語っていた。

だから彼女には、名残を惜しむ気もなかったのだろう。

そして、向かった先こそが……。


「芦原の席は、一旦後ろの空き机を使うように」


先生の言葉に、俺は思わず顔を上げた。

空き机は、最後列にある俺の席の隣にある。

芦原さんは頷くと、俺の隣の席へと歩いてきた。

その笑顔は、あの日よりもずっと明るい。


「これから、よろしくね」

「……ああ、よろしく」


俺は、彼女に笑いかけた。

新しい日常が、今日から始まる。

そんな予感がしていた。

次回、人物紹介

その後に奈良時代編へ

休暇中の気分転換な、ジャンル通りな話でした

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
芦原さんの式神が敵を牽制し、俺が『固着』で動きを止めて槍で仕留める。 式神、使いきっていたのでは?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ