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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
間章2 ~時代の間のこぼれ話~

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模様替えとミカンと甘味

今年最後の更新となります。

俺は長くダンジョンコアとして生きる中で、魔力の中に仮想的に部屋や自分の身体を再現できるようになっていた。

領域と呼んでいるこれは、中の状態を俺の認識で自由に設定できる。

今までは、アマテラス達が生きた時代の屋敷だったり、または秦河勝として生きた頃の宮中の部屋など。

それらは直近で生身で過ごしていた環境であるため、再現もしやすかった。

では、適当な想像の元に作り上げた場合はどうだろうか?

そんな思いつきで、俺はある時自分の領域を色々と模様替えすることにしたのだった。


(……で、作り上げてしまったのだが……未練だな、これは)


そこは、がらんとした殺風景な部屋だった。

コンクリート打ちっぱなしの、ほんの僅かな家具や机とベッドだけある、飾りなど何もない部屋。

窓は一応あるのだが、その先は霧がかったような何もない世界だ。

無機質にもほどがあった。


(……だが、ここが俺の原点か)


無意識に作り上げてしまったが、ここが俺が俺であるための始まりなのだろう。

困ったことに、もうダンジョンコアとして生まれ変わり、何万年という単位で時が過ぎているというのに、根というべき部分は変わらないらしい。

何しろダンジョンコアというのは生身ではない。

それどころか実体でもないためか、記憶なども劣化しないのだ。

だから、生まれ変わる前の記憶も、死んだ時点で思い出せる範囲は明確に覚えている。

……この部屋のように。


(っと、ハルカにこんな部屋を見られたら無用な心配をかけさせてしまうな)


遥か未来の、それもこんな殺風景な部屋を見たら、ハルカも混乱するだろう。

しれっと机の上に置かれたPCも再現されているので、万が一にも中を見られたらマズい。

俺もかつては色々と極秘なアレコレを保存したりしていたのだ。

この再現度合いだと、それらも忠実に再現しているだろうことは、想像に難くない。

俺は慌ててさらに部屋の様子を変えることにした。



(ん~、こんなものか?)


次に作ったのは、味わいのある和室だ。

広さは八畳程度。畳敷きで、中央には大きめの炬燵が据えてある。

壁の一面は障子戸で、他は落ち着いた色合いの壁紙を張っておいた。

いい感じにノスタルジーを感じるような部屋として仕上がったが、これでもこの世界では、遥か未来の産物となる。


(ハルカ達にはこれでも刺激が強そうだな……だが、気に入ったんだよなあ)


なかなかの出来に仕上がったので、これはプリセットとして登録しておこう。

特に無意識に作ってしまったが、炬燵の存在が格別だ。

冬の時期に呼び出して炬燵に入りながら現世の様子を見る、なんてこともできそうなのだ。

もちろん、籠に入れたミカンは外せないだろう。


(あれ?……この場合、この仮想的に再現する領域で食べ物はどんな味になるんだ?)


気になった俺は、既に再現してあった炬燵のミカンを剥いて口に放り込む。

……うん、美味い。美味いが、これは……。


(そうか、生前食べた味の再現か、これは)


このミカンは、今この世界で栽培されているような品種ではない。

俺の生前食べたことがある、品種改良を重ねられた末の糖度の高いものだ。

恐らく、無意識に生前の味の記憶を基に再現していたのだろう。


(美味いのは良いが、これもハルカ達にとって衝撃が強すぎるか)


同時に、今分かったことがある。

恐らく、俺が生前に食べた食べ物や料理は、この魔力の領域で全て再現できてしまうということだ。

特に甘味系は、ハルカ達にとって劇物になりかねない。

未だ現世は奈良時代に入ったばかりなのだ。

遥か未来の食べ物に慣れさせてしまっては、写し身での現世生活に支障が出かねない。


(当面は封印だな、これは……)


俺は様々な料理の仮想再現も、現世の歩調に合わせることにした。

まあ、そのうちに料理といった文化も発展していってくれるはずだ。

それを楽しみにしておくことにしよう。


(……そういえば、ミカンの栽培が盛んになるのはいつなんだろうな?)


気になってデータベースで調べてみると、柑橘類の日本への流入は四世紀ごろの橘が初めで、その後遣唐使等も様々な柑橘類を日本に持ち込んだとされていた。

ただまだ今の奈良時代の初期では、観賞用や薬用としての利用がほとんどであるようだ。

食用として広まるのは、平安末期から鎌倉時代まで待たなければいけない。

その頃になってようやく、紀州──つまり和歌山辺りで柑橘栽培が盛んになり始めるらしいのだ。

さらに、今食べたような糖度の高いミカンの品種の登場は、十九世紀を待たなければいけない。

何とも先の長い話だ。


(だが、楽しみでもあるな)


俺はこの先を楽しみにしながら、この和室を消滅させた。



(あら、何をしているの、あなた)

(ああ、ハルカ。ちょっとした模様替えだな)


その後も幾つかの部屋を作っては消しているうちに、ハルカがこの領域にやって来た。

今作ったのは、ログハウス風の小屋だ。

暖炉も備え付けてあり、そこではパチパチと音を立てて薪が燃えていた。

仮想的に再現しているとはいえ、ここで感じる事柄は現実に近い。

入口から覗き込むようにしているハルカを俺は招き入れた。


(ふわ~、こういうお家もあるのねえ)

(ああ、遥か先にはこういう家も作られる。だが、今でもこれは作ろうと思えば作れるだろうな)


何しろログハウス──つまりは丸太小屋なのだ。

構造はともかく、木材自体は豊富な日本であれば材料に困らない。

生前の時代のように人工的な植林を行ってはいないものの、元々杉などの真っ直ぐに育つ樹木は日本で相応に自生していた。

そのため、再現しようと思えば今の時代でも普通に可能だ。


(まあ、そこにかけるといい。何か入れよう)

(……?)


暖炉にかけていた薬缶が湯気を吹いている。

俺は金属製のポットに茶葉を入れて、適当に緑茶を入れていく。

素人の雑な代物だ。

かつての知り合いは様々な種類の茶に詳しく、その際の作法に煩かったのだが……俺ではこれが精いっぱい。

ログハウスの再現だったせいで湯飲みなどはなく、あるのはマグカップなのも雑な証拠。

それでもまあ、飲めなくはないはずだ。

自分の分も含めてカップを二つテーブルに置くとハルカは不思議そうな顔を浮かべていた。


(あなた、これは?)

(いや、普通に緑茶だが……ああ、そうか、失念していたな)


なるほど、ハルカが不思議そうにするのも無理はない。

茶という風習に、彼女は慣れていないのだ。

かつての知り合いが熱く語っていたところによると、茶の流入もまた遣唐使の持ち込みからであるらしい。

明確に記録に残っているのは、日本後紀でのもの。

永忠という僧が、嵯峨天皇に茶を献じたという記述が初出とされている。815年辺りの話だ。

つまり、まだ平城京に遷都したばかりのこの時期、茶もまた遥か未来の産物ということになる。


(それはそうだな……薬草を湯に入れたもの、かな。飲むと落ち着くぞ)

(そうなのね……う~、あなた、苦いわこれ)

(ああ、すまない。飲みなれていないと、そうなるよな)


仮想再現とはいえ、飲みなれていなければ、どうしても苦みが先に来てしまうか。

そんな彼女を微笑ましく思いながら、俺はかつての知り合いのアドバイスを思い出した。


(あまり俺はやらないんだけどな……)

(あらあなた、何を入れて……? あら、何だか飲みやすくなったわ!)


日本人にはなじみが薄いが、お茶の中に砂糖を入れるというのは、海外では普通らしい。

一種のハーブティーのような感覚であるとか。

日本国内でも、渋みの調整等で入れる場合も存在しているのだと、その知り合いは言っていた。

子供や初めて茶を飲む人々にとって、むしろ砂糖入りの緑茶は最適だとも。

考えてみれば、茶の一種である紅茶には砂糖を当然のように入れるのだ。

緑茶に砂糖を入れるのはそうおかしいことではない、はずだ。


(あ、いや、これも先走っているか)


だが同時に、これも時代を先取りしている行為だ。

何しろ、砂糖もまた遣唐使の持ち込みで、更に言うなら日本国内での製造となると千年近く先の話になってしまうのだ。

それだけ、日本において砂糖というのは貴重で、当初は薬用としてしか扱えないレベルだったとされている。

日本で甘いものと言うと、はちみつや果物で、それでさえ砂糖と同じく超高級品とされていた。

例で言うなら、奈良時代の記録だ。

739年に渤海国からの献上品として、蜜三斤が記されている。

これは当時、豹の皮六張と同額の価値とされていたらしいので、とんでもない高級品として扱われていたことが分かるだろう。

そのため一般流通はされずに、主に献上品として扱われていたようだ。


(でも、まあ……これは特権だな)

(あら、あなた? どうしたの?)

(いや、こんなのもあるんだが、食べるか?)

(はちみつ! わたし、これ好きよ!)


魔力で造った領域でなら、俺の知るものは幾らでも再現できる。

せめてもの縛りとして、貴重品とは言えこの時代でも手に入るものを出すのは構わないだろう。

俺は器にたっぷりと入れたはちみつも用意した。

縄文時代に何代もアバターで過ごした際、ハルカもはちみつを既に口にしていた。

やはり甘いものは格別だったようで、大喜びしていたのを覚えている。


(ただ、あの時は苦労したな……蜜蜂も魔力で大型化していたからな)


手のひらほどに大型化した蜜蜂の巣からはちみつを確保するのは、仕上がった武と強靭な肉体を持った当時のアバターでも酷く苦労させられたのを覚えている。

皮膚を魔力で強靭化して刺されるのを防ごうとしたのだが、それでも何度か刺されて痛い思いをしたものだ。

ただ、ハルカが喜ぶ顔を思えば、その程度は十分耐えられたし、刺されても直ぐに回復していたから問題はなかった。

今も嬉々としてはちみつを口にして表情を蕩けさせているハルカ。

そんな彼女を微笑ましく思いながら、俺はいつかもっと現世で発展した甘味を食べさせてあげたいと、そう願うのだった。

そのためにも……。


(日本には、この先もっと栄えてほしいものだな)


そんなことを思うのだった。

皆様、良いお年を。

あと、もし宜しければ、今年の締めとして評価などを入れて頂けると、作者として有難いです。

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