表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
間章2 ~時代の間のこぼれ話~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/110

前鬼と後鬼の子供の話

(二人とも、少し良いだろうか?)

(はて? 我らに?)

(何事かありましたでしょうか?)


俺は、普段魔力の流れの中で自分の領域としている箇所から、珍しく足を延ばしていた。

そこは、小さな小島に見える領域だ。

島の中心に石の柱が在り、その周囲にちょっとした屋敷があり、一組の夫婦が住んでいる。

そう、イザナギとイザナミだ。


彼らも、魔力の流れの中ただ意識として過ごすよりも仮想とは言え肉体を再現し、それと判る領域で過ごす方が落ち着くらしい。

この小島は、その表れだ。

小島の中心に聳える柱は、彼らに任せている海中のダンジョンコアの管理の為の、一種のコンソールであるらしい。

コアの機能を操作するのにも、何かに向けて念を飛ばす方がやり易いようだ。


そんな二人に、今日はちょっとした用事があった。


(いや、少し役割を持ち回りしてみたいと思ってな。海中の仕事を、あの三姉弟に任せてみようと思う)

(何と! しかし、よろしいのか? 我らがこの役割を担うのは、一種罰である筈)

(貴方様をかの樹に縛り付けた咎は、受けるべきでしょう?)


二人が言うように、海中のダンジョンコアネットワークの拡張とその制御は、ある意味の罰だ。

この夫婦は、自身の血を引くイワレヒコを倭国の王となれるように誘導するため、俺を大樹に縛り付けた。

だから、本来俺がやるべき仕事を、ずっと代わりにこなす様に命じていたのだ。

もっとも、それはあくまで名目だ。

元々それ以前から海中のコア網の拡張は彼らに任せていたし、正直な所相性というモノがある。


イザナギとイザナミ──その名の由来である伊邪那岐と伊邪那美は、言わずと知れた日本の国生みを担った神だ。

恐らく、彼らの生前の偉業──古代における倭国統一を成したことが、魔力に一体化したことで結びつき、かの国生みの神と紐づけられてしまったのだろう。

俺の生前の神話では、伊邪那岐と伊邪那美は混沌とした海をかきまぜ、大八島を生み出したとされている。

つまり、海より何かを生み出す事と相性がいいのだ。

実際、海中コアの拡張を任せた際の効率は、俺よりはるかに優れていた。

その為、ずっとその役割を任せていたのだ。


ただ、ちょっと事情が変わった。


(それなのだが、少し任せたい仕事があってな)

(ふむ、ただ任を解かれる訳ではないと?)

(ああ、二人に頼みたいのは、夫婦生活だ)

(……は? それはどういう……?)

(ちょっと、写し身として用意されている身体があるんだが、それが急に空いてな。その身体を操って……子作りしてほしいんだ)

(……んんんん!?)

(な、なにを仰っているのかしらぁ!?)


俺の言葉に困惑する二人だが、まあ色々あるのだ。



事の発端は、役小角が昇仙し人の世を離れる決断をしたことから始まる。

その際、スサノオとアマテラスが宿っていた前鬼と後鬼は解放される事になった。


俺の生前の伝承によると、この前鬼と後鬼は夫婦であったらしい。

そこに関しては、ツクヨミのシスコンを拗らせた暴走で知っていたのだが、その続きがあることを後に知った。

なんでもこの前鬼と後鬼は、修行の末に人となったらしい。

他にも、夫婦である為か子も成していたらしく、その数五人。中々の子沢山だ。

伝承によっては、役小角に従う際にはもうその子供達が居たのだとか。

五鬼ごきと呼ばれるその五人は、修験道の助けになる様に宿坊を開いたとされて、俺の生前の時代にも続いていたとされていた。


で、この世界の話に戻る。

解放されることになった前鬼と後鬼だが、この処遇で揉めたのだ。

まず俺の意向で、この身体は人として過ごしてもらう事にした。

その子供達には、伝承通りに修験道の宿坊を開いてもらわないと、今後の修験道の発展に影響が出ると考えたからだ。


同時に、別の思惑もある。

これ等の家系によって、俺達が地上で活動するための身体や戸籍といったものを、合法的に確保できるのではと考えたのだ。

何しろ、既に戸籍の管理が始まっている。

過去の時代のように、アバターを適当に作り出して社会に潜り込むというのも、今後は難しくなると考えたのだ。

一応秦河勝として生きたように、赤子の状態で拾われるというのも手ではあるのだが、正直あれは博打に過ぎる。

安易に使える手では無かった。

だが、俺達の事を申し合わせて身分を用意できる集落などがあれば、この問題を解決できる。

その為の家系を用意するには、今この時が最適だ。

何しろ、役小角は朝廷に貸しがある。

出来レースであり役小角本人も望んだとは言え、伊豆大島への流罪と言う冤罪を呑んだのだ。

使い魔を人にしてその戸籍を良しとさせる程度の事であれば、朝廷も否とは言えない。


……だが、ここで、ツクヨミが暴走した。


(夫婦で子作りなど許せるものではなくいえ愚弟では無く我が入れ替わったのならむしろですそうしましょう)

(落ち着け)


俺の生前での前鬼後鬼の逸話を知っているツクヨミは、その拗らせたシスコンをここに来て爆発させていた。

前鬼に関しては、スサノオとツクヨミが持ち回りで意思を宿していたのだ。

人に転じて後鬼と夫婦にするとなると、どちらの意思を宿した状態で、と言う話になってくる。

……なお、スサノオは全く乗り気では無い。

生前の妻であるイズモの姫を未だに想っているらしく、また姉であるアマテラスに関しても、


(最高の女性だとは思うけど、そういう風には見た事無いぜ!)


との事。

アマテラスはアマテラスで、


(その、初めては好き合った方が望ましく……)


等と夢見る乙女を未だ継続中の有様。

更に言うなら弟達を異性として認識しているのかすら怪しかった。


ただこのままでは、ツクヨミの暴走がどうなるか判ったものではない。

そこで俺に一つの案が浮かんだのだ。


(……いっそ元から夫婦だった意識に任せればよいのでは?)


と。


(なるほど、我らが適任だと? アキト様とハルカ様でもよろしいのでは?)

(それも考えもしたが、まだしばらくは広い目で時代を見続けたくもある。だから、今写し身に意識を縛られるのは避けたい)

(子を成せば、それだけで手が回らなくなりますからな)


現在は平城京に遷都されたばかり。

これからの時代の変動を見るには、子作りで数十年動けなくなるのは避けたかった。

その為、子作りに関してはイザナギ夫婦に任せる事にしたのだ。


(そこで開いた海底の仕事は、三姉弟に任せる事にしたい。あの三人は、まだこっちの仕事を任せた事が無いから、いい機会だ。経験を積んでもらおうと思っている)

(理解致しました。では、早速引継ぎを?)

(ああ、もうすぐアマテラス達が来る。問題無ければ、そのまま鬼の身体……いや、もう人に作り替えたから、その身体に宿ってほしい)

(はい。お望みのままに)


二人の了承を取り付けた俺は、アマテラス達と入れ替わりに立ち去ることにした。

いつも通り、自分の領域に戻り一息つく。

腰を下ろすと、ハルカが自然に俺に寄り添って来た。


(お疲れ様、アナタ。話は上手く行ったみたいね)

(ああ。これであの二人にも休暇をやれる)

(ふふっ、あの二人、ずっと働き通しだったものね……)


ハルカと語らっている通り、今回の件に関してはもう一つ目的があった。

それは、イザナギとイザナミに、生身の感覚を持って過ごしてもらう事だ。


今でこそ魔力の中に仮想的に領域や仮の肉体を用意して過ごせるが、そうで無い時は意識だけで過ごして来た。

実のところ、これは生身であった存在にとっては、かなりのストレスになる。

無意識のうちに摩耗していくのだ。

発狂と言った方向にはならないが、情動の起伏がゆっくりと平坦になり無感動になって行くというか……。

その対策としては、休眠して意識を落とすか、別の意識との語らい等が有効だ。

だが、最も有効なのは、生身での活動だった。

仮想の肉体のそれをはるかに上回る五感の刺激は、精神へ大きく影響する。

それもあって、俺達は頻繁に写し身に意識を宿して来たのだ。


だが、イザナギとイザナミに関しては、今まで意識を写し身に殆ど宿してこなかった。

海底のコア網の拡張を任せていたのもあって、そういった機会を逃していたのだ。


しかし、ここにいい口実が生まれた。

夫婦生活と子作り。かつてイザナギとイザナミの生前は、最後に悲しい別れとなっていた。

此処で幾らか、幸せな生活を取り戻しても構わないのではないかと思う。


(……まあ、順番だな)

(え?)

(今度こそ、初めから夫婦の写し身で現世を過ごそうか)

(アナタ……ええ、そうね。その時が楽しみ)


俺はハルカを抱きしめた。

こうして仮想の肉体で触れ合うのも良いが、やはり実体の肉体で触れ合いたい。

そう思いながら、俺達はひと時の穏やかな時を過ごすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ