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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
伍章 飛鳥時代 ~律令国家の萌芽と仏教の普及~

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天狗は、修験道の山伏の装束を着た姿として描かれる

(この辺りは、変わらずか)


主要な皇族と多くの豪族を巻き込んだ古代日本最大の内戦、壬申の乱が終わった。

結果は大海人皇子が勝利し、天武天皇が即位したのだ。


(……甥と伯父の争いなんて、家族も同然でしょうに。何で争わないといけないのかしら)

(国を治める。そのことを求めずにはいられないのだろうけど、大概はそれを推す勢力に担ぎ上げられているからだな)


共に即位の様子を見ていたハルカが嘆くが、権力の中枢にいるというのはえてして個人の感情とは別に動かされてしまうものだ。

今回のこの骨肉の争いも、内実を見れば有力な豪族や皇族の政治的な後押しが見え隠れする。

実際これから勝者である天武天皇の下で、彼の味方をした皇族や有力豪族を中心とした序列の再編が進むのだろう。


その表れとなるのが、八色の姓と言われる真人・朝臣・宿禰・忌寸・道師・臣・連・稲置の八級から成る身分制度だ。

以前厩戸王が主導し導入した冠位十二階は役人としての階級だが、八色の姓は皇族から民までも含めた序列制度になる。

天皇に近い血統や壬申の乱で功績を持つ氏族を上位に配置したこの制度は、旧来の氏姓制度を改編し官僚登用や位階制度と結びつき、後の令制官僚への橋渡しとなるはず。

少なくとも俺の生前の歴史ではそうなったし、恐らくこの世界でもそうなるのだろう。


とはいえ、壬申の乱の影響はそれだけにとどまらない。

国の上層が乱れれば、その下の層もまた影響を受けるものだ。


(瀬田の戦場は酷いことになっているな……)


特に決戦の舞台になった瀬田の唐橋では、討たれた兵や将の亡霊が現れるようになっていた。

実のところ、こういった戦の跡で亡霊が出るのは、今に始まったことではない。

死の瞬間の衝撃は人々に宿る魔力に強く結びついて、その場に焼き付けられたかのように残り続けることがあるのだ。

また、弔われず死体が打ち捨てられるような場合、そういった魔力が骸という器に焼き付いて、動く死体と成り果てることさえある。


そういった存在を放置するのは危険だ。

ほとんどは焼き付いた魔力が尽きて物言わぬ骸に戻るのだが、稀に魔力を取り込んで動き続け、死体から怪異へと変貌することがあるからだ。

そういった怪異は、人を襲う。

魔力がなければ存在を維持できないことを、一種の本能のように理解し、魔力がある存在の血肉から取り込もうとするのだろう。

特に大きな戦いの後など、死体が多く処理しきれないような場合、そういった怪異が多く生まれ、各地に散って災いとなっていく。


これらの怪異に対して、ただ武力で打倒するだけでは足りない。

そういった魔力を浄化する手段が必要になる。

そのために有用なのが、神道や仏教だ。

だが、神道は各地の土地に根付いた神職を中心とする以上、急に増やすというわけにはいかない。

それに対して、仏教は教えだ。学ぶことで僧となれる。

この世界のこの時代、朝廷が仏教を後押しするのは、そういった事情もあるようだ。



同時に、その状況で勢力を伸ばしていく集団があった。


(邪気退散ってな!)

(ああもう、一人で突っ込まないの! 行者さんは私が守っているから、しっかり活躍しなさい!)


瀬田の地に蠢く怪異を、大柄な人影がなぎ倒していく。

打倒された怪異は、その後からやって来た修行僧の読経で怨念に満ちた魔力から解放されて、元の躯に戻っていく。

修行僧の傍らには、もう一人の人影──こちらは、女の姿を取っていた。

彼らは、修行僧こと役小角とその使い魔──スサノオのアバターである前鬼と、アマテラスのアバターである後鬼の一行だった。


……ちなみに、ツクヨミは時々スサノオとアバターの操作を交代することで妥協していた。

大人しくなってくれて何よりだ。


その後方には、同じような装束──山伏のそれを着た者たちが付き従っている。


(いつの間にか、結構な勢力になっているな)

(本当にねえ。スサノオちゃんたちが活躍するから、人気なのね)


彼らは、役小角を中心とした一種の教団だ。

役小角が開眼した、修験の道を信奉する者たち。

役小角が各地で人々を怪異から救う中で、自然と形成されていった集団だった。

現状でもかなりの人数が参加しているのは、スサノオたちの活躍も大きいのだろう。


その中には、人ならざる者も混ざっている。

鳥の頭と翼を持つ者、赤ら顔で大きな鼻を持つ者、狗の頭を持つ者。

これらは調伏された怪異や、人並みに知恵を持つに至った変異動物たちだ。

以前から、人に近い姿になった烏の変異動物などは確認していたが、ここに来て人並みの知能を持つ他の動物や、発生元はともかく人に等しい理性と知恵を持つ怪異が現れるようになっていたのだ。


(どうみても天狗だな。赤ら顔は……ああ、猿の系統からの変異なのか)


山伏の装束を着た人ならざる者は、どう見ても天狗と呼ばれる存在だった。

確か、まだこの時代では天狗と言うのは流星等を指す言葉のようだが、姿としてはまさしくそれだった。


このうち、人並みの知能を持つ変異動物については、恐らく仏教の影響だろうと俺は予測していた。

恐らく六道輪廻のうちの、畜生道の考えが広まりつつある影響だ。

生まれ変わって時に動物となる。そんな考えが広まるにつれて、ある現象を起こした。

人の死後その記憶と知恵を写し取った魔力が、流転の末に動物に宿った時、その動物の知能を大きく引き上げたのだ。

そういった変貌は体型にまで影響を及ぼして、人に近い姿になることもある。

まるで鳥獣戯画や妖怪絵巻のような様相だ。


(……色々と放置していたら、何だかとんでもないことになっていた件)

(だいたいは棲み分けはしているみたいだけど、小角ちゃんの所みたいに人に混ざることもあるみたいねえ)


ハルカが言う通り、人に近い知恵を持った動物や怪異は、今の所基本的に人の住まう場所にはあまり近寄らない。

これはまだ人の領域というべき場所が全体比率として少ないのもあるが、魔力によって人が大体強い力を持っているせいでもある。

要は強大な力を持ちつつさらにダンジョン産の武器などを持つ人を、そういった知恵のある怪異側が恐れているのだ。

だからこそ、今までは人の中にそういった者たちが混ざることはなかった。


しかし、修験道というのは、人の領域ならざる山岳を中心に活動する集団だ。

自然とそういった変異動物や怪異と関わることになって、そこで交流の末に彼らも修験道に傾倒していったらしい。

元々変異動物は奇矯な変貌を遂げることがあったが、こういう変化は正直予想外だった。


(基本的に、ダンジョンで生み出されるモンスターは、動物系に限定していたのだがな……これらも動物判定されたか)


同時に、ダンジョンにもその影響が出ている。

俺は基本的に、ダンジョンで人型のモンスターを出さないように設定していた。

これは、人型の存在を倒すことを人に慣れさせたくなかったからだ。

人間同士の争いを後押しするような真似は、正直に言って俺の手に余る。


だから、これまで自分が操るアバターとして生み出すことはあっても、ダンジョンが自然に生み出すようなことは無いように設定していた。

基本的に、ダンジョンが生み出すのは、そのダンジョンの周囲にいる野生動物を幾らかアレンジしたものとしていたのだ。

そんなダンジョンで、人型の存在が生み出されていた。

とはいえ、完全な人型ではない。


(まだ、二足歩行した動物の範疇、か)


例の役小角が修行していたダンジョンでスサノオが斃していたモンスター。

それは、直立し二足歩行をした犬や猫、鹿に狐狸など。

これらに共通しているのは、実際に山野でこういう二足歩行をする動物が増えているということでもある。

更には、生ける屍のような怪異をアレンジしたものまで、戦場近くでは生まれるようになっている。


(いや、流石に死体は却下だ。ウチのダンジョンでは、アンデッドお断り!)


ダンジョンで生み出された死体の怪異を見つけた俺は、即座に全ダンジョンに設定を追加する。

これは、ある意味俺のわがままなのだろう。

ダンジョンを人にとっての脅威にはしたくない。

そこから生み出される存在は、人にとって何らかの益になるようにしたかった。

その一環として、基本的にダンジョン産のモンスターは、食べられるようにしている。

味の程度はともかく、そのように設定しているのだ。

だからこそ、生ける屍のような存在は却下だ。

戦場などで自然と産まれてしまうのは仕方ないが、ダンジョンで生み出す等一切許す気はなかった。


(ワタシは、食べられる動物だけ出るのは嬉しいけれど、それでいいの?)

(……少なくとも、今はまだだめだな。まだ、食料供給の面で、一般の人々は食料をまだダンジョンに頼っている)


そう、農業の普及と開拓によって、人々の食糧事情はかなり改善されているのだが、まだまだ人々はダンジョンを食料供給として必要としていた。

これは、全体的に気温が低めで、農業生産量が落ち込み気味なせいでもある。

俺の生前の歴史とリンクしたデータベースによると、飛鳥時代から奈良時代にかけて、全体的に20世紀と比べて数度平均気温が低い時期に当たるらしい。

このため、飢饉や栄養失調からくる疫病が蔓延して社会不安をもたらしていたという話もあった。

この世界でも気温は低めのようで、だからこそ食料供給源としてのダンジョンはまだまだ必要なはずだ。


(……この世界では、そうやって集落も生まれたからな。ここでいきなり梯子を外すわけにもいかない)

(ええ、分かっているわ、アナタ)


言い訳のようにつぶやく俺に、ハルカは微笑んでくれた。

ああ、実際これは言い訳だ。

自分のせいで歴史が変わることを俺は恐れているのに、この世界の日本は、俺の選択でもうとっくの昔に変貌し切っている。

各地の集落の元は、俺が生み出したダンジョンに根差して成立していた。

大まかな歴史の流れこそ、恐らく俺の生前をなぞろうとしているから似たような流れになっているだけ。

魔力の境目というべき場所では、白村江の戦いのようなことも起きる。

俺の意識に関わらず、魔力の存在は、これまでに不可逆の変化をもたらしている。


その矛盾を、俺は未だ消化しきれないでいた。


……とまあ、それはそれとして、だ。


(動く死体をモンスターとして出すと、これまでの流れで喰いかねない奴も居るだろうから、そういう意味でもダンジョンでは却下だ)

(みんなここから出てくるものは食べられると思っちゃっているものねえ)


長い時間かけて行われた刷り込みのせいで、ダンジョンから生み出される者は、食えると一般常識として浸透しているようだ。

ここでアンデッドをお出ししたら、うっかり人肉食が常識的になりかねない。


(今後試練としてその手のモンスターを出すにしても、倒したらドロップ品以外消えるように設定する必要があるだろうな)


俺も、いつまでもダンジョンを今のままにする気はない。

時代が下れば、人が力を伸ばすための試練としての意味合いも強くしても良いと思う。

その際には、人型のモンスターやアンデッド、更にはもっと強力な存在等も登場させるつもりだ。


(……出し始めるとしたら、武士の登場以後かな)


そんな未来を想像しながら、俺とハルカは各地のダンジョンの様子をチェックして問題がないか確かめていくのだった。

明日は更新をお休みするかもしれません。

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