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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
捌章 平安時代 中期 ~藤原氏の隆盛と、地方の大乱~

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とある学校の日本史授業風景 12コマ目 平安時代②

久々の授業回です。

午後の二限目。

窓の外からは、梅雨の合間の柔らかな日差しが差し込んでいた。

少しずつ春から初夏へ季節が移り変わっていく最中。そんな中、教師の三上による日本史の授業が始まった。


「では、前回の続きから始める」


三上が黒板に『藤原良房』と大きく書いた。その下に『藤原北家の隆盛と摂関政治』と続ける。


「前回、名前だけ出したこの人物だが、今日はこの藤原良房を中心に、平安時代中期前半の政治と文化について見ていく」


チョークで黒板を叩きながら、三上は続けた。


「まず、藤原良房がどのような人物だったか話そう。彼は藤原北家の出身で、承和の変で政敵を排除し、人臣として初めて太政大臣、そして摂政に就任した人物だ。長らく続く藤原氏の朝廷支配。その礎を築いた人物と言えるだろう」

「先生、承和の変って、具体的にどういう事件だったんですか?」


解説の中の言葉に疑問を持った芦原が、手を挙げた。

教師は頷き、資料集のページを開く。


「良い質問だ。資料集のこのページを開いてくれ」


生徒たちがページをめくる音が響く。

そこには、系図と年表が載っていた。


「承和の変は、簡単に言えば皇位継承を巡る争いだ。当時の天皇は仁明天皇。その皇太子は恒貞親王だった。だが、仁明天皇の実子である道康親王を皇太子にしたい勢力があった」


三上は黒板に簡単な図を描いていく。


「恒貞親王を支持していたのが、橘氏と伴氏。一方、道康親王を支持していたのが藤原良房たち。良房は、橘逸勢と伴健岑が謀反を企てていると告発し、二人を流刑にした」

「えっ、それって冤罪じゃ……」


坂上が思わず呟き、教師は静かに頷いた。


「その可能性は高い。だが、結果として藤原北家は政敵を排除し、道康親王が皇太子となった。これが承和の変だ」


次に手を挙げたのは、前側の席に座る男子生徒だ。


「先生、藤原氏はその後も権力を握り続けたんですか?」

「ああ。良房は自分の娘を天皇の妃にし、生まれた孫を天皇にした。つまり、天皇の外戚として権力を握ったんだ。これが摂関政治の始まりだ」


三上は黒板に「摂関政治」と書いた。


「摂政や関白として、天皇を補佐する形で政治を行う。これが、藤原氏の権力の基盤だ。これは身近な一族を帝の妃とする、外戚としての権勢も含まれる」


この三上の説明に、稲沢が手を挙げた。


「先生、でも藤原氏だけが権力を持っていたら、他の人たちは反発しなかったんですか?」

「無論反発する勢力は有った。それが顕在化したのが、応天門の変だ」


三上は新しいページを提示する。

そこには、炎上する門の絵が描かれていた。


「860年代中頃、平安宮の正門である応天門が炎上した。この事件で、伴善男が左大臣の源信を犯人だと告発したが、良房がそれを退けた。最終的に、伴善男自身が犯人とされ、伴氏は没落した」

「また冤罪っすか……?」


坂上が苦笑するも、教師の三上は難しい顔をする。


「歴史的には、そう見られているが、この事件は裏に色々な要素が含まれている。藤原良房とは別の貴族の怨恨が絡んでいるとされているな」


伴氏没落の原因となる、下級貴族の告発があったとだけ語った三上。

それだけでも、当時の貴族間の暗闘を想起させるには十分だった。


「この事件で藤原北家の地位はさらに固まったのだが……国内の動きは人に寄るものだけではない」


三上先生は黒板に年表を書き始めた。


「この時期は自然災害も多かった。特に重要なのが、864年の貞観大噴火だ」

「それって、確か富士山の噴火っすね」


坂上の言葉に、三上は頷く。


「その通り。富士山が大規模に噴火し、溶岩が流出した。湖が埋まり、地形が大きく変わった。富士五湖の内の二つは、この時に成立したとされている」


資料集の地図には、かつて存在していた古の湖が、噴火による溶岩流出により分断された範囲が描かれている。

生徒達が自然の驚異に感嘆の声を上げる中、三上はさらにつづけた。


「この噴火は、当時の人々に大きな衝撃を与えた。火山灰は関東地方の多くに降り注ぎ、これらの復興に朝廷は追われた」


その説明を聞きながら、定原が資料を見て首を傾げる。


「でも、死者はそれほど多くなかったみたいですね?」

「ああ。被害地域の神社や寺で事前に神託があり、人々が避難していたという記録が残っている。恐らくは、神仏は噴火を察知していただろう」


三上の言葉に、納得したような生徒のささやきが響く。

些細な噴火ならともかく、大規模なものとなれば神仏も騒ぎ出すのはよくある事だ。

実家が神社である女生徒などは、訳知り顔で大きく頷いていた。


「さて、次に重要な動きは、遣唐使の廃止だ」


三上は黒板に、『890年代 菅原道真による遣唐使廃止』と書き記す。


「菅原道真という学者が、遣唐使の廃止を提言した。理由は、唐が既に衰退していたこと。そして、危険な航海をしてまで行く価値がないと判断したためだ」

「でも、それって日本が孤立することになりませんか?」


定原が真面目な顔で尋ね、三上は同意する。


「良い視点だ。確かに、中国との公式な交流は途絶えた。だが、朝鮮の後百済との交易は継続されていた」


簡易的な大陸と朝鮮半島の地図を描いた三上は、九州から朝鮮半島を繋ぐ線を描いた。


「この頃になると、朝鮮で僅かながら魔力が存在していたという形跡がある。そのため、朝鮮との交流はむしろ活発だった。そして……」


三上は、大陸の中原部に、×のマークを付けた。


「遣唐使を廃止して10年程度で、唐は滅亡している。菅原道真の予測は正しかったと言えるだろう。そして何より、この決断が日本独自の文化を育てることになった」


表示される資料を切り替える三上。画面には、美しい装束を着た貴族の絵が映し出された。


「これが国風文化だ。遣唐使廃止後、日本は独自の文化を発展させた。まず、文学。900年代中頃に古今和歌集が編纂された」


芦原が手を挙げた。


「それって、最初の勅撰和歌集ですよね」

「その通りだ。天皇の命令で編纂された和歌集であり、これにより、和歌が貴族の教養の中心となった。恋の歌、自然の歌、様々な和歌が詠まれるようになったわけだ」


恋と言うフレーズに、稲沢が目を輝かせる。


「恋の歌! どんな歌があったんですか?」

「例えば……『花の色は 移りにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせしまに』。これは小野小町の歌だ。美しさが衰えていくことを、花に例えている」

「切ないっすね……」

「小野小町……!」


坂上が感心したように呟き、芦原が才色兼備を謳われる歌人の名に目を輝かせた。

その様子を見つつ、三上は更なる文化的な事例を挙げていく。


「この時期、女性貴族による日記文学も発展した。これらは、後の時代に成立する諸作品の土台になるものだ。国風文化の成熟は、こうして進んでいった」


さらに三上は、黒板に『十二単』『雅楽』のキーワードも書き記す。


「国風文化は、装束の面でも発展した。十二単は知っているな? 何枚も重ねた着物は、色の組み合わせで季節や身分を表現した。この様式が成立したのがこの時期だ」


次いでめくられた資料集には、和楽器の数々の写真も載せられている。


「音楽では、雅楽が発展した。中国や朝鮮から伝わった音楽を日本風にアレンジし、独特の様式へと形作られたのも、この時期になる」


そして三上が記したのは、『大学寮』『陰陽寮』の文字。


「学問や術式の面でも、朝廷によってこれらの組織が作り上げられ、発展していった。現代で言う魔力術法省の遠い起源にあたる」

「先生、でも貴族ってダンジョンに潜らないんですよね? 魔力とかはどうしてたんですか?」


ある男子生徒の言葉に、三上は頷いた。


「良い質問だ。貴族は直接ダンジョンに潜る事例は少なく、多くの場合術師を雇っていた。陰陽寮に詰める陰陽師だけでなく、密教儀礼を担う僧などもな」


資料集に描かれた、密教儀式の様子を示す三上。


「天台宗や真言宗といった密教は、既に宮廷政治と深く結びついていた。加持祈祷、護国思想。これらは、魔力を使った儀式として、実際に効果をもたらしていた」

「つまり、貴族は術師に守られていた、と?」


久留間が低い声で尋ねる。


「その通りだ。そして、その術師たちの力を支えていたのが、ダンジョンから得られる魔力だった」


三上は、ここで一呼吸置いた。そして、黒板に大きく『菅原道真』と書き記す。


「さて、先にも触れた菅原道真だが、彼の人生は悲劇的だった」


教室の空気が、僅かに張り詰める。

生徒達も少なからず知っているのだ。

かの大怨霊の存在を。


「道真は優秀な学者で、右大臣にまで昇った。だが、藤原時平という左大臣との政争に敗れ、大宰府に左遷された。そして、失意のうちに死んだ」

「それで終わり、じゃないっすよね?」


坂上の確認めいた言葉に、三上は頷く。


「ああ。道真の死後、都で不可解な事件が続いた。その果てに、清涼殿に雷が落ちた」


プロジェクターに、雷に打たれた建物の絵が映し出された。


「この落雷で、藤原清貫という公卿が即死した。他にも多くの死傷者が出た。これらの事件から、人々は『道真の怨霊』を噂するようになったとされている」


術に心得のある生徒は、清涼殿と言う霊的守りが硬い筈の場所ですら猛威を振るった怨霊の力に、背筋を凍らせる。

そうでない生徒も怨霊の脅威は理解している。

その一人でもある稲沢が、震える声を漏らした。


「こ、怖い……」

「この事件後、道真を祀る天満宮が建立された。北野天満宮と、大宰府天満宮だ。怨霊を鎮めるためにな」

「先生、それって本当に道真の怨霊だったんですか?」


三上の言葉に対し、ある女子生徒が手を挙げる。

その問いに対して、三上は首を横に振った。


「分からない。だが、多くの証言が残され、その威は人々に強烈な畏怖をもたらした。更に道真は学問にも秀でて居た為、何時しか学問の神としての側面を得て、今も信仰されているわけだ」


そう三上が言い終えた時、予鈴が鳴る。

改めて時計を確認した三上は、気を抜きつつある生徒達に告げた。


「どうやら時間のようだな。なら、今日はここまでだ。次回は、平安時代中期の二つの大きな地方反乱について解説する。平将門の乱と、藤原純友の乱だ」


告げられる二つの乱の名に、生徒達に緊張が走る。


「将門公……」


無意識なのか、誰かがその名を呟いた。

授業が終わったというのに、どこか張り詰めた空気が流れる。


「この二つの乱は、武士の台頭を示す重要な事件だ。しっかり予習しておくように」


生徒達の緊張を知ってか知らずか、三上はそう告げて教室から立ち去った。

後に残された生徒達は、ため息のような大きな息を吐き、ようやく一息つく。

今なお語られる大怨霊の名は、それほどに大きなものであるらしい。


窓の外では、いつの間にか太陽が雲に覆われ、ポツリポツリと雨が降り出そうとしていた。

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