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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
間章4 ~時代の間のこぼれ話~

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異国の地で とある防人の戦い

遅刻しました。

【とある防人】


矢が、空を切り裂いていた。

敵方の兵が立てこもる砦から、無数の矢が射かけられる。

だが、それを躱しながら味方の兵たちが、砦に迫っていた。

俺も、その一人だった。


「行くぞ!」


俺とは装いの違う兵が、叫んだ。

異国の兵だ。


(いや、異国の兵は、俺達の方か)


戦場だというのに、そんな愚にもつかぬ想いが浮かんだ。



そう、ここは異国だ。

故郷を離れ、船に乗り、たどり着いたその先。

昔、大きな戦の果てに建てられたという国が、俺達の防人としての任地だった。

後百済とかいうこの国で、俺達防人は、更に新羅と言う、別の国と戦をしてる。


(昔あった百済って国は、滅ぼされたんだったか)


なんでも、一度百済って国を滅ぼしたのが、新羅と言う国らしい。

領地を根こそぎ奪われて、その王族が日乃本まで逃げて来たのだと聞いている。

そこから俺達の国の帝が力を貸して、土地を取り戻したのだとか。

だけど、全部の土地を取り戻したわけじゃなかった。

だから、後百済の国は、その取り戻した土地の守りや、たまにこうして古い土地を取り戻す為に戦っている。


俺達防人は、その助けの為に朝廷から、こうして異国にまでやってきているわけだ。



そんな事を考えている間も、戦は動き続けている。

後百済の兵が、俺達防人の横で、勢いづき、叫ぶ。

そいつらは、明らかに新羅の兵よりも、動きがいい。


(……対馬で一緒に過ごしてからか、そうなったのは)


初めこの異国に来た時、俺は驚いた。

異国の連中は、とんでもなくひ弱だったのだ。

走れば直ぐに疲れるし、岩一つ持ち上げられないし、何より火起こしの術すら使えない。

今日び、よっぽどの田舎でも、火おこしの術位は、誰かしら使えるものだろう?

古くからの神職や、都からの役人や、お坊様、そんな人らが使ったり、何なら教えてもくれる。


(まあ、俺は使えなかったがな……)


どうにも俺には素質って奴が無かったらしく、火の術は使えない。

代りに別の術は使えたけれど……まあ、それは今は関係ないか。


要するに異国の連中は、とんでもなく弱いんだ。

だけど、同時に別の事も感じていた。

力が妙に抜ける様な感覚が、ずっと消えない。

それが、日乃本に満ちる力の有無のせいだと知ったのは、もうしばらく後の事だった。


(対馬までは、力が溢れているのにな)


力が抜ける感覚は、対馬で過ごす間は無く、むしろ抜けた力が再び満ちていく感覚があった。

だから、俺達防人は、異国でしばらく働くと、またしばらく対馬で休む、と言う日々を送っていたんだ。


(その中に、いつの間にか後百済の奴らも混ざるようになったんだよな……)


それが最近、後百済の兵も、対馬で過ごすようになっていた。

そうすると、連中も俺達みたいに力が付くらしく、どんどん動きが良くなっていった。


(それからだったな。後百済が領地を回復していったのは)


兵が力を得たせいなのか、後百済は古い領地をどんどん取り戻すようになった。

幾つもの砦や、村を取り戻して……気づけば、この砦までやって来た。

今目の前にあるのが、昔の百済の領地に残る、新羅の最後の拠点だ。


「あれを落とせば、悲願はなされる!」


後百済の将軍が、兵に呼びかけると、


ウオオオオオオォォォォォォ!!!


地響きのような雄叫びが響いた。

俺達も、その声に負けないように、叫ぶ。


俺たちは、共に戦ってきた。

言葉こそ通じぬことも多いが、戦場で背を預け合い、共に血を流し、共に勝利を分かち合ってきた者同士だ。

もはや、戦友と呼ぶに相応しい間柄だった。


そしてこの戦いは、後百済にとっての悲願なのだ。

旧百済領の回復。

新羅に奪われた土地を、取り戻す。

それが、後百済の国是というやつで、この国に生きる全ての者が胸に抱く想いであるらしかった。

そのせいか、兵たちの士気は、俺が見てきたどの戦よりも高い。


俺たち防人も、勢いづいている。

戦友への共感もあるが、それだけではない。

戦で活躍すれば、豊富な褒章が与えられる。

情報通の奴が教えてくれたが、後百済は日本との交易で潤っているらしい。

その成果、その財は惜しみなく、俺達防人たちに分け与えられた。

それが、俺たちのやる気を支えているのだ。


「ぬおおおおお! ゆくぞぉ!!!」


前方では、一人の防人が矢を難なく躱しながら、砦に肉薄していた。

降り注ぐ矢の雨の中を、まるで舞うように身体を捻り、時に地を蹴って跳躍し、一本の矢にも触れることなく進んでいく。

そして防壁に至ると、その男は力任せに拳を振るった。


ドン!


凄まじい音が響く。

石と土で固められた防壁に、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。

常人であれば拳が砕けるであろう一撃を、その防人は平然と繰り出していた。

体内に宿る魔力が、肉体を強化しているのだ。


「よし、もう一発ぅ!!」


その防人が、再び拳を振るう。

今度は、防壁に穴が開いた。

さらに、そこを広げるように、何発も。


「開いたぞ!! 突破口だぁ!!!」

「「うおおおおおっ!?」」


人がゆうに通り抜けられる大きさの穴の奥では、敵兵が慌てふためいているのが見えた。

そこから、後百済の兵たちが雪崩れ込んでいく。


「俺はこっちからだ!!」


また別の防人は、超人的な跳躍力で聳え立つ防壁を、走って駆け上がっていた。

まるで、壁が地面であるかのように、そいつは容易く壁を走った。

日乃本に満ちる力によって、俺達の身体は、異国の常識を超えた動きを可能にする。


「なにっ!?」

「い、いかん!! 防げ!」

「遅いなあ!」


そして、慌てふためく守備の兵に、そいつは躍りかかった。

放たれた矢を身をよじって交わしたかと思うと、手にした剣を振るって防壁の上で暴れ回る。

新羅の兵が悲鳴を上げて倒れ、壁の上から投げ出され、悲鳴を上げて落ちて行った。


俺は、そのような仲間たちの活躍を見ながら、


(最近、みな調子が良いな……)


ふと、そんな風に感じていた。

力が抜ける速さが、鈍ったような、そんな感覚がある。

以前は、こうはではなかった。

日乃本を離れると、体内の力が抜けていく感覚。

それが、最近鈍っている。

対馬に戻らなければいけないほどに力が抜けきる期間も、伸びているという実感があった。

理由は分からないが……。


(だが、ありがたいことだ)


戦いやすくなったのは、間違いない。

だから、こんな事も、この地で出来るようになった。


「土行を以て、命じる。生じよ」


俺は足元の土に命じる。

すると、土くれが固まって、硬い石が生み出された。

生み出された石を、俺は手に取り、狙いを定め、投げる!

石は、凄まじい勢いで飛んでいく。

防壁を超え、兵達の頭の遥か上を飛んで、


「行け!!」


俺が命じると、石はそこから真下に軌道を変えて、守備の兵の頭に、正確に命中する。

兵が、脳天を兜ごと貫かれて力なく倒れた。

兜の飾りからして、きっと兵をまとめる役の者だろう。


これが、俺の得意技だ。

石を生み出す、土行の術。

そして生み出した石を、幾らか操れる。

この技のおかげで、俺はそれなりの働きをこれまでも成して来た。


俺はその後も、次々と石を投げる。

遠投と操作による精度。

どちらも、常人を遥かに超えている。

次々に、新羅の兵が倒れていく。

出来れば、指揮をしているらしい連中を、重点に。



やがて、砦の屋根に後百済の旗がたなびいた。

後百済の将軍が、新羅の指揮官を討ったのだ。


「勝った!」「勝利だ!」


鬨の声が上がる。

砦は、陥落したのだ。


勝利に、後百済の兵たちが、歓声を上げる。

俺たち防人も、共に喜んだ。

だが、後百済の兵たちは、歓声だけでは足りぬかのように、涙さえ流していた。

旧領の回復。

それが、どれほどの悲願だったか……俺たちには、完全には理解できないだろう。

俺たちは、朝廷の命でここに来ただけだ。

だが、その喜びは、確かに伝わってくる。

そんな時、隣の防人が、囁いてきた。


「聞いたか?」

「何を?」

「新羅が、北からも攻められているらしい」

「北?」

「渤海だ」


渤海……確か、北の国だ。

一応、名前は聞いたことがあった。


「確か、そこも、日本と交易しているんだろう?」

「ああ。魔穴の武具や薬を手に入れて、力をつけているらしい」


別の防人が、話に加わってくる。

事情通らしい男だ。

この男は、いつも色々な噂を仕入れてくる。


「それなら、新羅という国は、遠からず消えるかもしれないな」

「南北から挟まれては、厳しいだろうな」


俺たちは、そんな話をしていた。

新羅がどうなろうと、俺たちには関係ない。

だが、戦場での話題としては、興味深かった。

その時、俺達防人の指揮官が、やってきた。


「皆、よくやった!」


指揮官の声に、防人たちが集まる。

俺も、仲間たちと共に指揮官の前に並んだ。


「喜べ! 今回の活躍には、十分な褒章を約束しよう! 後で宴もある!!」


その言葉に、防人たちが沸き立つ。

褒章……故郷に持ち帰れる富だ。

家族を養い、安定した暮らしを手に入れられる。


「だが、それだけではないぞ?」


指揮官が続ける言葉を、俺たちは黙って聞いていた。


「後百済は、旧領の回復を果たした。当面、これ以上の領土拡大は望まない」


それは、理解できる。旧領を取り戻しただけで、十分な成果だ。


「つまり、防衛のみの役目になる。人員は削減される。それが何を意味しているか、分かるな?」


俺たちは、その言葉の意味を理解した。

ざわめきが、広がっていく。


「喜べ! 多くの者が、帰還できるぞ!」


その言葉に、防人たちが、再び沸き立った。

帰還だ。

故郷に、帰れるのだ。

それは、何よりも嬉しい知らせだった。


俺も、喜びを感じた。

褒章と共に、故郷に帰れる。

長い間、異国の地で戦ってきた。

言葉も、風習も、食べ物も違う土地で、日々戦い続けてきた。

もちろん、悪い経験ばかりではない。

戦友もできたし、見たことのない景色も見た。

だが、やはり故郷が恋しい。


「……帰れるんだな……故郷に」


俺は、故郷があるであろう方向を眺めた。

海の向こうに日乃本が、故郷がある。


(長い戦いだったな……だが、ようやく終わだ。だったら……)

「まずは、宴だな」「ああ!」


俺は安堵と共に、再び仲間たちと、勝利の喜びを分かち合うのだった。

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