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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
漆章 平安時代 前期 ~貴族政治の確立と国風文化の形成~

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壺中の天とは、後漢の故事である

(……終わったか……良いものを見せてもらった。あの階層を作ったかいがあったな)


俺たちも田村麻呂と阿弖流為の一騎打ちを観戦していた。

今の戦いを見ていたのは、俺とハルカに、アマタ。

観戦用に、今の領域は大画面のシアター風にしてある。

魔力の領域に映し出された臨場感のある一騎打ちの様子は、迫力満点だった。


(現地で見たスサノオとアマテラスが、羨ましくもあるな……)


一方で、イザナギ夫婦はあまり興味を抱いて居なかったし、ツクヨミは現世。

一応記録として残しては有るので、その三人も気が向いたらみることはできるはずだ。


(すごい……! 二人とも、格好良かった!)


戦いが終わり、アマタが、目を輝かせている。

純粋に、子供らしく二人の英雄の戦いに魅了されているようだ。

分身した時には男性人格や女性人格に分かれるものの、大本のアマタは男の子らしさを有している。

既にかなり成長していて、ダンジョンの仕事もかなり任せられるようになってきているのだが、情緒の面ではまだ成長途中と言った所か。

一方で、少々顔を顰めたのはハルカだ。


(でも、二人とも傷ついてしまって……)


彼女にとって弾けた鮮血は、少々刺激が強かったらしい。

やはり、彼女は争いを好まないのだろう。

それでも観戦していたのは、アマテラスを案じての事だろうか?


(大丈夫だ。高子が治療に向かっている)


俺は、そう告げた。

何より、あの二人は既に人ではない。

田村麻呂の身体は既に生前を模した写し身であるし、阿弖流為の身体も魔力に置き換わりかけている。

つまり、それぞれ重傷ではあるが、死にはほど遠い。

放置していれば傷は治るだろうし……。


(万が一のために、魔力で傷を修復する霊薬も持たせてある。死にはしないさ)

(そう……ならいいのだけれど)


ハルカは、少し安心したようだった。

とはいえ、最後だけは危なかった。


(お互い、適切に動いて居なければ、そこそこに後を引く怪我を負っただろうな)


俺は、二人の技量を観察していた。

スサノオの弟子であり、俺はその師に当たる。

だからこそ、純粋に技術的な面を見ていたのだ。


途中の攻防に、最後の咄嗟の動き。

阿弖流為の側は、最後に踏み込まなければ、身体を両断されていただろうし、田村麻呂は心臓に突き入れられた筈の矢を、僅かに身体を捻り軌道を逸らしていた。

それらも賞賛されてしかるべきだが、俺が一番気になったのは、阿弖流為が発揮した隠形の技だ。


(あれは……義父殿の隠形か。懐かしいな……)


かつて、初めて俺が写し身を作りだした古代。

そこで巡り合った、ハルカの父であり、俺の義父であった槍戦士の技を、思い起こさせられた。

思い起こせば、俺にとって武とは、アレが始まりだ。

高質な写し身の身体能力によるごり押しではなく、戦いの中で磨かれた、技術。


(そうね……お父さんみたいだったわ)


ハルカも、阿弖流為の技には思う所があったようだ。


(私も覚えているわ。アナタが必死に再現しようとしていたわよね?)

(……ああ。俺には才能が無かったからな。身に着けるには随分と時間がかかった)


俺には才能が無い。だから、目にした技術を体得するのに、膨大な時間がかかってしまった。

あのスサノオや二人の様に、一回の人生で習得し、発展させるなんてことは到底できなかったのだ。

縄文時代、写し身を何代も経由してようやく身に着けた時は、心底嬉しかった。


その後現世で過ごす中、模倣していたそれを、俺から生前のスサノオ──戦の王子に伝え、そしてこうして田村麻呂や阿弖流為にも受け継がれている。

それが、何とも嬉しかった。

更に、あの二人はそれぞれに新たな技、神器の模倣さえ編み出している。

きっとこうして古き技を伝えつつ新しい技も加えられ、それぞれに発展していくのだろう。

その事が嬉しくもあり、同時に才能の差というものを実感もする。


(全く天才って奴は……)


羨望にも似た気持ちを抱いていると、不意にハルカが大画面に映し出された草原や森を指差した。


(それにしても、ダンジョンに、あんな草地や森を作れるなんて。どうやったの、アナタ?)

(あ、それも凄いよね! お父さん、どうやったの?)


可愛らしく首をかしげるハルカに、好奇心で目を煌めかせるアマタ。

ああ、それの事か。


(あれは、ちょっとした新機能だな。田村麻呂の頼みで、思いついたんだ)



それは少し前、スサノオと田村麻呂が俺の元にやってきた時の事だ。


(この田村麻呂と、阿弖流為。二人の勝負、見たくないか?)

(人知れず、阿弖流為殿と戦いたいのです。出来得るなら、本来戦っていたであろう、胆沢の地で)


田村麻呂はスサノオと共に、こう頼み込んできた。

俺は、田村麻呂の目を見る。

……なるほど。心残りか。

盟友となったが為に、成立しなかった戦い。

武人であるが為に、そこがどうしても気にかかると言った所か。


(それとも……ある種の歴史の揺り戻しか? 本来の歴史で戦った為に、そこに引きずられている……?)


俺はそんな風にも考える。

胆沢の地、と言うのもその辺りが理由かもしれない。

恐らく、本人たちにその自覚は無いだろうが。


(……人知れず、か。確かに、お前はもう死んだことになっているからな)

(はい。ですから、人目に触れぬ場所で……)

(だが、胆沢の地であっても、蝦夷の者の目があるだろう? あの地でも田村麻呂の顔は知られている。人知れず、と言うのは難しいぞ?)

(それは……)

(魔穴の通路や部屋じゃあ、阿弖流為には狭すぎるだろうからな! 師匠、何とかならないか?)


俺の指摘に、言いよどむ田村麻呂。

スサノオもそんな田村麻呂の後押しをしてきた。


(……確かに、弓を使う阿弖流為には、狭いな)


俺は、考え込む。

今作っているダンジョンは、純粋に地下に空間を作っている。

その為、あまり広大な空間を作ると、崩壊の危険が生まれるのだ。

魔力による補強にも限界があるため、要望されるほどの空間が作れるだろうか?


(生前見た、首都圏外郭放水路のような構造なら、行けるか……? いや、田村麻呂たちが戦うと、柱がもたないか)


思い浮かべたのは、生前に映像で見た、洪水を防ぐための大規模な地下放水路だ。

あのような空間なら作れると思ったが、思い直して首を振る。

仮に柱などで補強しても、田村麻呂クラスが戦えば、それら柱が損壊してやはり崩落する可能性があるだろう。


(どうしたものか……)


だがそこで、俺はふと、辺りを見回した。


魔力の中で仮想的に作り出した、この部屋。

今は解放感を重視して、窓の外には山野の光景も広がっている。

そして、仮想的に再現した、俺たちの肉体。


(待てよ……これを、現実に投影できないか?)


俺は、着想を得た。

そして、昔聞いたことのある故事。

それらが結びつき、一つのアイディアが形になった。

俺は急ぎダンジョンの機能を立ち上げ、確認する。


……行ける。

浮かんだアイディアは実現可能だ。

だが、一応の検証は必要だろう。


(少し試したいことがある。その実験台になってくれないか?)

(構いません!)


俺の申し出に、田村麻呂は即答した。



俺が行ったのは、魔力内に仮想的に再現した世界を、現実に投影し再現するというものだった。


限られた空間に、魔力で再現した世界を収納し、展開する。

一種の空間制御のような効果を発揮させ、広大な草原や森林をダンジョン内に再現したのだ。


スサノオと田村麻呂が、その空間への出入りや内部での活動を検証してくれた。


(このような広大な空間が……)

(すげえな師匠! これなら好き放題戦えるぜ!)


中で軽くスサノオと田村麻呂が手合わせしても、問題無さそうだ。


(成功だな……ただ、流石に魔力を食うな、これは)


ただし、この空間の発生と維持は、これまでの比ではない魔力を必要とする。

当面は、限られたダンジョンにしか配置できないだろう。

もっとも、それはそれで利点ではある。

俺は、ある可能性に気づいたのだ。


(……この膨大な魔力の消費量は、一つの問題の解決につながりそうだ)


日本国外の内陸火山に配置した、ダンジョンコア。

今は、海外では魔力をダンジョン外へ放出せず、ただ魔力を貯め込むばかりだった。

だが、どこかでその魔力を消費する必要がある。


(魔力による再現空間は、有用だな)


海外各地の火山の地下に、このような拡張空間を作り出す。

そこで魔力を消費すると同時に、万が一破局噴火が起こりそうなときの、溶岩の逃げ道とする。

奇しくもそれは、一瞬思い浮かべた地下の放水路の様な用途だった。


(これなら、両方の問題が解決するだろう……田村麻呂の申し出は、天啓だったな)


俺は、アイディアを出すきっかけとなった田村麻呂へ感謝するのだった。



(──という訳だ。いわば、魔力で再現した、壷中の天だな)


新たなダンジョン機能の発生の経緯を語った俺は、そう締めくくる。


(壷中の天?)


その言葉に、アマタが、首を傾げる。

ハルカも、知らないようで、同様に首をかしげた。

母子らしいそっくりな姿に微笑ましさを感じつつ、


(ああ、中国の故事だ。後漢の頃の話らしいな)


俺は、説明を始めた。


(費長房というが、市場で薬売りの老人を見かけた。その老人は、店先の壺に飛び込んだらしい)

(壺に……?)

(ああ。翌日、気になった費長房老人に頼んで壺の中に入れてもらうと、そこには宮殿や美酒佳肴が満ちた別天地が広がっていたのだとか)


つまるところ、その老人──壺公は、仙人や道士の類だったのだろう。

その神秘に触れた費長房は壺公に師事し、仙術を学んだと伝わっている。


(壺の中の、別天地。つまり、壺中の天だ。狭い範囲にある理想郷などの表現にも使われたりする逸話だな)

(まあ……不思議なお話ね)


ハルカが、感心したよう頬に手を当てる。

もっとも、この世界では、そう言った不思議も現実となった前例がある。


(道術に長けた者が、実際に仙人になり、さらに自然と一体になったこともある。そのような仙術も、再現可能だったわけだ)

(確かに、そうだったわね……)


昔、ハルカと見た天然自然と一体化し消えて行った徐福の姿。

俺達が関与しなくても、あのような事が起きるのだから、魔力の奥深さは底知れない。

とはいえ、その辺りは今気にする必要はないだろう。

むしろ、本題はこっちだ。


(そして、海外の火山各地に壷中天を作ったら……いよいよ、俺たちが現世で過ごす時だ)


俺は、ハルカとアマタに向き直った。


(本当!? いよいよなのね!)


ハルカが、嬉しそうに声を上げる。


(ああ。準備は整った。あとは、どう現世に降り立つかだな)

(はじめての、現世だ! 楽しみ!)


アマタも、目を輝かせている。

俺は、二人の様子を見て、笑った。

長い準備期間が、ようやく終わり、久々の現世での日々が目の前に来ている。

後を任せられる人員も増え、俺も久々の現世での日々に、思いを募らせるのだった。

次回、授業回。

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― 新着の感想 ―
この世界、ジュール・ヴェルヌの「地底旅行」がノンフィクションになりますね。まさにアイスランドとイタリアの火山の地下空間が舞台になっています。
ヨーロッパあたりで壺中天が見つかったら妖精郷って呼ばれそうw
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