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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
漆章 平安時代 前期 ~貴族政治の確立と国風文化の形成~

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奥州霊異譚 第五幕 霊山の神仙

昨日は体調を崩して更新できませんでした。申し訳ありません。

【三善高子】


私は、この地の霊山を目指していました。

蔵王山。

かつて私が、役小角様の使い魔、『後鬼』としての写し身で活動していた際のこと。

役小角様が、吉野から蔵王権現を奉還し、蔵王山と名付けた山。

それこそが、私の目的地。


その道は、険しいものです。

本来であれば、獣が通るようなかぼそき道を、山々を越えつつ進まなければいけません。

騎馬に乗って進むとしても、困難極まる道。

ですが、今は緊急なのです。


「白鶴の皆、此処に来て」


その為私は、術者たちに教えたように、騎乗用の式神を作り出しました。

私が呼び出したのは、純白の鶴の群れ。一匹一匹が人を乗せて飛べるほどの大きさがあります。

私であれば、地を駆ける生き物ではなく、空を飛ぶ式神を作り上げられるのです。

とはいえ、私は良いのですが、護衛は少し大変そう。


「ヒィィィィィッ!?」

「地が、あんなに遠くに!?」

「た、高子様……! 少し、速度を……!」

「なりません。今は一刻を争うのです」


護衛の兵が、悲鳴を上げます。

式神の速度は、地上の騎馬なんて比べ物にならないほどですから、仕方がない事なのでしょう。

それとも、山々を見下ろすほどの高さが、問題なのでしょうか?

ですが、今は急ぐのが先です。


「せ、せめてもう少し高さを……」

「あまり低くを飛ぶと、木々に当たりかねません。申し訳ありませんが、我慢してください!」

「う、うわぁぁぁぁ!?」


護衛の悲鳴を今は聞き流して、私は式神を駆り続けました。

田村麻呂様が、待っていらっしゃるのです。

一刻も早く、神器を届けなければなりません。


そんな時です。


カッ!! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!


「雷!?」

「高子様! あちらを!!」

「……な、なんだ、あれは……」


私が向かう先、蔵王の山が突如黒雲に覆われたのです。

そして激しい稲光と、雷鳴。

山の天気は変わり易いと言いますけれど、きっとコレは自然のものではありません。

何故なら、あの黒雲からは、強い瘴気を感じるのです。


ですが、今はそれすら気にかけている暇はありません。

一刻も早く、あの黒雲の中にある筈の、魔穴へとたどり着かなければ。



そして、蔵王山に辿り着いたとき、私は思いもよらない光景を目にしました。


「これは……ここにも、鬼が」


そう、こちらにも、怪異の長の一匹が攻め寄せていたのです。

霊山の魔穴……ダンジョンに、侵入しようとしている鬼と、その眷属である怪異たち。

山頂にほど近い僅かな平地に、その魔穴はぽっかりと入り口を開いているのです。

その入り口の周囲には、風雨が魔穴に入らないようにと、社が作られていました。

これも、かつて役小角様が作り上げられたもの。


その社の周囲を、取り囲むように怪異が押し寄せています。

このままでは、魔穴が放出する魔力を怪異たちが取り込み、田村麻呂様を脅かす強大な災厄へと変化しかねません。


ですが……それを阻むものが、既にこの地に居ました。

次々に飛び掛かる大小の怪異を、悉く叩きのめしている、細身の鬼。

その鬼は、どこかで見たような姿をしていました。

そしてその動きも。

武を熱心に修めた訳ではない私でも、その動きならばわかります。

何故なら……。


「ふっ!」

「ゴバァッ!??」

「「「グギャァ!?」」」


今まさに、怪異たちの長らしき雷を纏った、巨大な鬼を投げ飛ばしたその技。

それは余りにも見覚えがある物でした。


全身を雷で覆い、常人が触れれば、即座に焼け焦げになってしまうであろう怪異の長。

しかし、細身の鬼は、怪異の長に手をかざすと、触れずして投げ飛ばしてしまったのです。


その技こそ、アキト様が私の下の弟、スサノオに伝授した万物を自在に投げ飛ばす武の極。

つまり、あの細身の鬼は……。


私がその様に考えている間にも、戦況はどんどん変わっていきます。

脳天から真逆さまに怪異の群れへと叩きつけられた怪異の長は、その身にまとっていた雷で、配下たる怪異を焼いてしまいました。

自身も酷く岩場に打ち付けられて、ボロボロになった怪異の長。

それでも、未だ戦意を衰えさせる気配はありません。


ですが……。


「!?」


どうしたというのでしょう?

不意に魔穴へと目を向けると、大きく飛び退いて黒雲の中に姿を隠してしまったのです。

そして、その黒雲も瞬く間に何処かへと流されていったのです。


(怪異の長が、逃げた……? いえ、今はそれよりも)


一方で、怪異を打倒した側の鬼は、それを追わず、私に歩み寄ってきます。

護衛の兵たちが、私を守ろうと前に出ますが、私は手を上げて制しました。


「大丈夫です。この鬼は悪しき者ではありません」


私は、その鬼が誰なのか、気づいていました。

かつて役小角様に『前鬼』として使役されていた頃の、弟スサノオの写し身。


(姉上、久しぶりだな!)

(ええ、久しぶりね、スサノオ……どうしてここに?)

(それなら、師匠に言われてな!)

(アキト様が?)

(ああ、魔力を求めた怪異の長が、ダンジョンコアを取り込もうとしているってな!)


私の傍までやって来た前鬼の姿をしたスサノオが、心に語り掛けてきました。

変異した動物が、魔力を求めて魔穴核岩──ダンジョンコアをその身に取り込もうとすることは、これまでもたびたび見られました。

その場合には、普段現世へ力を以って干渉することを控えよるアキト様も、一切容赦なく力を振るわれるのです。


(師匠は、それだけは見過ごせないと、各地の魔穴の防衛を強化しているんだ!)

(そうだったのね……)


私は、頷きました。

ダンジョンのコアこそ、この世界の魔力の源。

確かに取り込めば力を得るでしょうが、怪異がそんな力を得てしまったら、この世界の根幹を脅かす何かが生まれてしまう。


(この地には、怪異の長の一角が直接攻めてきたからな! だから、オレが守っていたんだ! あとは……まあ、護衛だな)

(……護衛?)


その時、弟の言葉に応えるように、魔穴を囲う社から声がかけられたのです。


「よく来たな、高子」

「そ、その声は……!」


その声に、私は目を見開きます。

社の扉が開かれます。

その奥から現れたのは、一人の老人。

修験の者が着る装束を纏ったその方は、ただならぬ気配を放っておられました。

溢れる神気に、供の者達が驚愕するのを感じます。

しかし、私にとっては懐かしい気配でした。



「役小角様……!」



そう、この方こそ、役小角様。

神仙に至って各地の霊山を渡り歩く、修験道の祖たる方です。

かつて私も、弟と共にこの方の使い魔として過ごしていた事がありました。


「は!?」

「まさか、この方が……!?」


私の言葉に、護衛の兵たちも、声を失っています。

役小角様の名は、神仙に至った者として知られていますから、その登場に驚くのも無理はありません。

そして、役小角様もまた、私に歩み寄ってきました。


「要件は、分かっている。」


役小角様が、穏やかに言います。


「これを求めて来たのであろう?」

「その光の珠は……!」


役小角様は、そう言って、幾つかの光の珠を差し出されたのです。

それこそまさに、私がこの地で生成しようとしていた、神器の分け御霊に他なりません。


神仙に至られた役小角様は、その力をみだりに振るう事を望まれず、こうして山野で過ごされています。

人の世の事は、人が治める。その在り様は、アキト様の在り様にも通じるもの。

ですが、今回は幾らかの例外と言う事なのでしょう。


「各地の怪異の長を倒す為の神器の分け御霊は、預かっている。これを渡すために、待っていた」

「それは、有難く思いますが……役小角様が、何故……?」

「何、そこの前鬼より経緯を聞いた故にな。感謝ならば、根乃国大神にするがいい」


根乃国大神は、アキト様の神としての名。

つまりこれは、スサノオをこの地に差し向けたのと同じく、アキト様が尽力してくださったものなのです。


「役小角様……ありがとうございます」


私は、役小角様とアキト様、そして弟に感謝しながら、その光の珠を受け取りました。

神器の分け御霊。

かつて、私が田村麻呂様に託したのと同じ、強い力が込められているのを感じます。

これがあれば、田村麻呂様は怪異の長を倒せるはず……。


役小角様が、私に告げます。


「今いる怪異の長は、かつての鈴鹿山の大嶽丸が操った嵐の要素を、それぞれ操る」

「嵐の要素を?」

「風と、雨と、雷。それぞれを操る、三匹の鬼だ」

「三匹……」

「今逃げて行ったのは、雷を操る大猛丸。神器の分け御霊の気配を感じて、逃げ出したのであろう。」


役小角様は、そう説明され、私の手の中にある神器の分け御霊を指差しました。

そして、蔵王山から、胆沢の地の方角を見ます。


「今、胆沢を襲っているのは、三匹の怪異の長の内、大岳丸。突風を操る鬼だ」

「田村麻呂様が……」


私は、胸が締め付けられました。

田村麻呂様が、あの鬼と戦っていらっしゃるのです。


「決着は、今を生きる者が為さねばならない。解るな?」

「はい、心得ています」


役小角様が、私に告げます。


「行け、高子。お前の夫のもとへ」

「……はい!」


私は、しっかりと頷き、そして、踵を返します。

今まさに、胆沢の地で戦いを繰り広げている夫、田村麻呂様の元へ急ぐために。


(姉上、武運を)

(ありがとう、スサノオ)


私はスサノオと別れをこの場を掛けあって、そして、再び式神に乗りました。

護衛の兵たちも慌てて私に続き、私達はこの場を去ったのです。


役小角様と、前鬼の姿をしたスサノオは、私の姿を見送ってくださいました。

無事を祈る様に。


私は、全速力で式神を駆ります。


(田村麻呂様……待っていてください。必ず、神器を届けてみせます)


そして、共にあの鬼を倒しましょう。

私の心は、ただ一つのことだけを考えていました。

田村麻呂様のもとへ。

愛する夫のもとへ。

私は、蔵王山を後にし、胆沢の地へと向かったのです。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 体調悪いときは、本当に仕方ないですよねー……
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