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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
漆章 平安時代 前期 ~貴族政治の確立と国風文化の形成~

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奥州霊異譚 第四幕 胆沢の戦い 合流

ちょっと体調を崩して居まして、やや短めです。

【坂上田村麻呂】


おれは、先行した阿弖流為殿を追って、朝廷の兵を率いていた。

騎馬だけではなく、徒歩の兵や術師たちも共に動いている。

それ故、通常であれば、阿弖流為殿の軽装の精鋭部隊よりも、大幅に遅れるはずだっただろう。

しかし……。


「田村麻呂様、準備が整いました」

「よし、では頼む」


加茂の術者が、おれに報告してきた。

おれが頷くと、術者たちが一斉に術を発動させる。


「式神、出でよ! 駆牛! 載鹿!」


その瞬間、巨大な牛や鹿の姿をした式神が、次々と現れた。

それぞれが、数人の兵を載せられる大きさだ。


「全員、式神に乗れ!」


おれの命令に、徒歩で移動するより他なかった兵たちが、式神に乗り込み、しっかりとその身体に掴まる。

一方で、兵糧などの物資の袋には、別の術がかけられた。

袋が、宙に浮いて、兵たちの後ろについて飛んでいく。


「これで、全員が騎馬の速度で動けるが……見事なものだ」


術者たちから進言された策だが、このような術があるとは。

俺が感心していると、一通り術をかけ終えたらしき術師達がやってきた。



「見事だ。だが、これほどの術を、どこで……?」

「高子様より、お教えいただいた術です」

「高子が……」


おれがその労を労いつつ、訊ねると、術者は恭しく答えた。

その言葉に、おれは胸が熱くなる。

高子は、おれたちのために、ここまで準備をしてくれていたのか。

術者たちに、自分の知る術を惜しみなく教え、こうして戦場に送り出してくれるとは。


(感謝してもし切れぬぞ、高子……)


おれは、心の中で妻に呼びかける。

そして、気持ちを引き締めた。

今も霊山を目指す高子の想いに応えるためにも、おれは勝たねばならない。


「出発するぞ! 全軍、おれに続け!! 阿弖流為殿に合流するのだ!!」

「おおおおおっ!!」


兵たちが応え、気勢を上げる。

その勢いに任せ、おれたちは、山野を踏破していった。

その速度は、騎馬に劣らない。

いや、険しい山道では、通常の騎馬よりも、むしろ式神の方が速いかもしれない。


おれは、毅然として兵を率いた。

高子の置き土産を無駄にはしない。

必ず、阿弖流為殿と合流し、怪異を討つのだ。



山野を駆け抜けた先、胆沢の地に到着したその時、おれは目を見張った。


「あれは……!」


怪異の長たる鬼が、天空に向かって腕を振り上げている姿が、遠目に見えた。

その瞬間、轟音と共に、天から猛烈な突風が、蝦夷の戦士たちへと叩きつけられたのだ。

阿弖流為殿や蝦夷の戦士たちが、その風に吹き飛ばされ、地に倒れ伏す。

怪異の群れを巻き込む事さえ厭わないその一撃。

しかし、阿弖流為殿はすぐさま立ち上がった。

だが、辛うじて立ち上がった阿弖流為殿に対して、鬼は再び腕を振り上げる。

追撃の突風を起こそうとしているのだ!


「させぬ!!」


おれは、愛剣を抜き放ち、魔力と剣気を刃に練り込む。

全身の力を、この一撃に込めねば、取り返しのつかぬ事になる!


「はあああっ!!!」


おれは渾身で剣を振う。

斬撃が光の刃となって、鬼の振り上げた腕を切り裂いた。


斬ッ!!

「グオオオァァァッツ!??」


鬼が、苦痛の咆哮を上げ、振り上げた腕を押さえた。

高まっていた力も霧散し、追撃の突風は、起こらない様子。


(……間一髪で、食い止められたか。だが……)


鬼の腕は、切り落とされることはなく、深い傷を負わせたにとどまった。


(やはり、神器の力が必要か……!)


手ごたえ自体は、かつて鈴鹿山の大嶽丸の腕を切り落とした一閃に匹敵した。

しかし、断ち切れない。

かつての大嶽丸の際との違いは、手にした愛剣に神器の分け御霊が宿っているか否か。

それはつまり、高子が言うようにおれ一人の力では、怪異の長たる鬼を攻め切れぬという事。

おれは、歯噛みした。


だが、今は阿弖流為殿たちと合流することが先だ。


「全軍、前進! 阿弖流為殿と合流する!」


おれは、式神を駆って、阿弖流為殿たちのもとへ急いだ。

兵たちも、おれに続く。


「田村麻呂殿……!」


阿弖流為殿が、息を切らせながら、おれを見た。


「遅れたな。だが、今から挽回する」

「済まぬ……そして、助かった」


阿弖流為殿は、短く答えた。

おれたちは、短く戦況を確認し合う。

先にみたとおり、この鬼は、天空からの突風を操る。

その力は、圧倒的だ。

かつての大嶽丸と比べ、突風の威力だけで比べるなら、その力を上回っているとさえいえるだろう。

そして、怪異の群れも、鬼を守るように配置されている。


「おれが前衛を務める。阿弖流為殿は、後衛から鬼の腕を妨害してくれ」

「心得た。なにをしてくるかは分かったのだ。あの風、押さえて見せよう」


阿弖流為殿が、頷く。

その頃には、他の蝦夷の戦士たちや、朝廷の兵たちも立ち上がっていた。

そして、怪異たちも、また再び動き出す。


ここに、朝廷と蝦夷の軍と、怪異たちとの本格的な戦いが、始まった。



「突撃!」


おれは、叫んだ。

兵たちが、怪異の群れに突入する。

剣と剣、斧と爪、矢と牙が、ぶつかり合う。

兵たちは、怪異を次々と斬り伏せていくが、怪異たちも、執拗に襲いかかってくる。


兵と怪異がぶつかり合う中、おれと阿弖流為殿は、鬼と対峙していた。

鬼の周りには、輿の如き玉座を担いでいた怪異たちが居たのだが、既にそれらは居ない。


ゴアアアアアッ!!!


巨躯を誇る己の身の丈ほどもある金棒を、鬼が振り回し始め、それに巻き込まれたのだ。

鋼の暴風の如き金棒の暴虐は、護衛であったはずの怪異たちをほんのわずかな間に無数の肉片へと変えた。


その金棒の旋風に対し、おれは、前衛として斬りかかった。

剣気にて愛剣の間合いを伸ばし、金棒の間合いの外から切りつける。


「!?」


僅かに切り裂かれる、鬼の肩。

しかし、浅い。

それでも傷を負わせたのには変わらない。

振り回される金棒の合間に、おれは次々と剣閃を差し込んでゆく。

鬼の顔が歪んだ。

重傷とはいかなくとも、煩わしさを感じたのだろう。

おれを振り払わんと、腕を高くつき上げた。

その瞬間、阿弖流為殿が、後衛から矢を放った! 鬼の腕を狙ったのだ。


「させん!」


放たれた矢は、狙い違わず鬼の腕を射抜いた。

鬼の二の腕に、深々と刺さった矢。


だが、その傷は、すぐに、塞がり始めた。

肉の盛り上がりに押され、矢が砕け、落ちていく。


「再生する……だと!?」


おれは、驚愕した。

見れば、それまでに負わせていた傷も、腕と同じくふさがっていくのだ。


「ならば目ならばどうか!!」


阿弖流為殿が、今度は鬼の目や喉を狙う。

しかし、此方もまた時間を置かず再生し始めた。


(なんという……風と再生こそ、こやつの力か!)


これでは、幾ら傷を負わせようとも、致命傷には至らない。


一方で鬼は、依然巨大な金棒を振り回してくる。

その一撃一撃が、嵐のように激しい。

掠めただけでも肉が削げ落ち、まともに当たれば輿を担いでいた怪異の如くに弾け飛ぶだろう。


おれでさえ、剣で受け止めるのではなく、逸らすのが精々。

その度に衝撃で腕が痺れる。

もしまともに受けたのなら、愛剣は砕けるやも知れなかった。


「ぐっ……!」


おれは、歯を食いしばった。

心身ともに、削られていく。

阿弖流為殿も、矢を放ち続けているが、疲労の色が見え始めている。


(このままでは……)



一方で、兵たちの戦いも、激しさを増していた。

怪異たちは、鬼のように強力な再生能力ではないが、それでも傷が癒えていく。

兵たちは、怪異の攻撃をよく凌いでいるが、疲労が積み重なっていくだろう。


幾らかの救いは、集落の防護柵や濠などを活用できている事だ。

怪異たちのように再生などは見込めないものの、蝦夷とおれの配下の兵が交代で休めているようだ。

何より、神域の浄化の範囲では、怪異たちの傷は癒えぬらしい。

その為、攻めては引きを繰り返している。


そこまで見て取って、おれは改めてこの場での脅威を見据えた。

この鬼だ。

こいつだけは、おれと阿弖流為殿でなければ相手にならぬだろう。

そして、もしおれたちが倒れれば、この鬼は戦場を残さず蹂躙する。

それだけは、何としてもふせがねばならない。


おれはここまでの戦況を読み取り、悟った。

やはりこの鬼を倒すには、神器が必要だ。

つまり、唯一の勝ち筋とは……。


(高子が、神器の分け御霊を持ってくるまで、時間を稼ぐ。これしかない)


おれは、覚悟を決めた。

どれだけ削られようとも、ここで踏みとどまると。

高子が来るまで、必ず持ちこたえてみせる。


(高子……頼むぞ)


おれは、再び剣を構え、鬼に向かって、斬りかかっていった。


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