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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
漆章 平安時代 前期 ~貴族政治の確立と国風文化の形成~

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坂上田村麻呂は、征夷大将軍に任じられた初の人物である

【坂上田村麻呂】


平安遷都から数年が経った。

おれは今、関東の地に立っている。

桓武天皇から征夷大将軍に任じられ、蝦夷討伐の任を受けたのだ。


「田村麻呂様、陣の準備が整いました」


部下の報告に、おれは頷く。


「ご苦労。引き続き、警戒を怠るな」

「はっ」


部下が去った後、おれは奥州の方角を見つめた。

あの地には、阿弖流為という指導者がいる。

彼は、山野に潜み、軍の隙を狙って襲いかかるという。

地の利を活かした巧みな戦い方で、朝廷の軍を翻弄し続けているのだ。

山も森も深い奥州では、余りに脅威だった。

そして、何より――


「瘴気が、想像以上に深刻のようだな……」


おれは、呟いた。

奥州では、かつて大怪異が残した瘴気の塊が、あちこちに残っている。

あの鈴鹿の山で見たような、瘴気の塊だ。

それらに影響された怪異や、狂った民が、朝廷の兵を苦しめていた。


(……蝦夷の妨害が無ければ、浄化も成されていたのだろうが……)

「田村麻呂様」


おれが考え込んでいると、背後から、声がかけられた。

振り返ると、妻である彼女が立っている。

高子……そして鈴鹿御前としての名も持つ彼女は、今回の遠征に同行しているのだ。


「どうした、高子」

「お疲れではありませんか?」


高子が、心配そうに訊ねる。


「いや、大丈夫だ。それより、お前こそ疲れていないか?」

「私は平気です。それに、私が同行したのは、瘴気の浄化のためですもの」


高子は微笑む。

確かに、彼女の巫女としての力は、この戦いに不可欠だ。

瘴気を浄化し、怪異を弱体化させる。

朝廷の領域を確保するには、それが不可欠であり、おれたちの戦略の要でもあった。


「そうだな。頼りにしている」

「ところで、田村麻呂様。今後の方針は?」


おれは、高子の肩に手を置くと、彼女が訊ねてきた。


「そうだな……まずは、ここ関東に拠点を固める。そこから、ゆっくりと奥州攻略に取りかかることとなるだろう」

「ここに拠点を?」

「ああ。その後も、随時拠点をたてながら進むこととなるだろう。なに、急ぐ必要はない。焦れば、相手の術中にはまる」

「慎重なのですね」

「相手は、地の利を知り尽くしている。こちらも、しっかりと準備をしなければならないからな」


おれは、今一たび奥州の方角を見た。

朝廷の軍を打ち破りし、蝦夷の将。

阿弖流為はこの先に居る。


(……いかなる人物なのであろうか?)


まだ見ぬ敵将を、おれは想わずにはいられなかった。



【アキト】


(……まだまだ、時間がかかりそうだな)


俺は、魔力の流れの中で、奥州の様子を観察していた。

平安京遷都から数年。

田村麻呂が征夷大将軍として奥州へ出陣したが、まだ平定には至っていない。


(ハルカを待たせることになるが、もうしばらく写し身での生活は、待ってもらわないとな)


おれは、アマタと共に過ごしているハルカを見た。

彼女には早く写し身を使っての現世生活を過ごさせてあげたい。

しかし、まだ朝廷も安定し切っていない中、戦を好まない彼女を現世で過ごさせるのは危険が伴う。


(だが、そう先の事ではないはずだ)


俺は、視線を田村麻呂に戻す。

田村麻呂と高子――アマテラス――が、関東の地で拠点を固めていた。

五行使いなどの術師の手にかかれば、ちょっとした土塀で陣地を囲む程度は直ぐに出来るらしく、瞬く間に砦としての体裁が整っていく。


(短期決戦を狙う気はないようだな)


砦を建てつつ進軍する気らしい田村麻呂の戦略。

俺はその様子に一つ頷き、彼の相手となる奥州の状況を、詳しく調べ始めた。


(……なるほど、複雑な状況だな)


そして分かったのは、想定していたのとは違う奥州の状況だった。


この世界の蝦夷は、おれの生前の歴史と比べて、勢力を強めている。

奥州のほぼ全域を支配しているうえに、時折関東や北陸などへと侵入しようとしていたのだ。

だがその実、蝦夷には、二種類いるというのが判った。


一つは、阿弖流為が率いる、純粋な蝦夷の民。

彼らは、朝廷に抵抗する、誇り高き人々だ。

特に陸奥の国を中心として奥州の平野部を押さえている。


もう一つは、瘴気に狂った怪異だ。

大怪異が残した瘴気の影響で、狂暴化した存在。

主に山地にある瘴気の塊で変容した怪異であり、関東や北陸に攻め込んで来るのはこいつらが殆どだ。


朝廷からは、両者が連携しているように見えているようだが、実際にはこの二つもまた争っているらしい。

つまり、奥州は、二つの勢力に分かれているのだ。


更に詳しく調べると、当初瘴気で変じた怪異たちは、阿弖流為の勢力を襲わなかったようだ。

怨念から生じた瘴気に触れていたため、朝廷への恨みが何より強かったのだろう。

しかし、朝廷の勢力が撤退すると、怪異たちは、阿弖流為の軍にも襲い掛かるようになった。

怪異にとって、変容していない者は全て獲物だという事なのだろう。


それらの結果、奥州は混沌の中にある。


(田村麻呂は、この状況を把握したようだな)


おれは、田村麻呂の動きを観察した。

彼は、関東に拠点を置き、じっくりと準備をしている。

そして、現地の状況を正確に把握しようとしている。


(さすがだ。焦らず、確実に)


おれは、田村麻呂を賞賛した。

彼は、ただの武人ではない。

優れた戦略家でもあるようだ。


そして、彼の指揮により、朝廷の反撃が、始まろうとしていた。



【坂上田村麻呂】


「全軍に告ぐ。これより、奥州への進軍を開始する」


おれは、兵たちに宣言した。


「ただし、我らが最初に叩くのは、瘴気による怪異である! 関東や北陸に攻め込むのこ奴らを打ち倒すのだ!!」

「「「「オオ~~!!!」」」」


兵たちが、雄叫びを上げる。

一方で、先にこの地で守りを固めていた者は、訝し気に首を傾げた。


「蝦夷ではないのですか?」

「数は怪異共の方が多い。被害もな。故にこちらを叩くが先決だ」


おれは、地図を指さした。


「もとより、蝦夷の支配地はまだ先だ。この辺りは皆怪異共ばかりだからな」

「……そうなのですか?」

「斥候や遠視の術を使う術者に確かめさせたゆえ、確かだ。」


蝦夷の反乱は、朝廷から送られた官吏の横暴より始まったと聞く。

故に土着のものが反乱を起こした。

そして、そこには本来支配欲までは無い様なのだ。

己が生まれた地を、己で統べる。その意思が強いのだろう。

一方で、怪異はその様な意思は無く、ただ人を襲う。


「瘴気の怪異は、死者の怨念が凝り固まり、人を襲う。これは、蝦夷にとっても脅威だ」

「蝦夷にも、で御座いますか?」

「この先改めて、朝廷の民となるものたちぞ? 守らずして何とする?」


疑問の声を上げた副将に、おれは続けた。


「怨霊の害意は、敵味方を問わない。生きる者全てを憎む。故に、まずこれを排除する」


副将が、納得したように頷く。


「我々がそれを排除すれば、奥州の民も安堵し、庇護を望むでしょうな」

「それだけではない。瘴気の怪異を排除すれば、戦場が整理される。敵が明確になる」


おれは、高子を見た。

彼女は、凛とした表情で頷く。


「田村麻呂様、陰陽寮からの援軍も到着しております」


高子が、報告する。


「そうか。術師は拠点づくりにも益となる。陰陽師たちの力も、この戦いには不可欠だ」


おれは、陣営に集まった陰陽師たちを見た。

五行の術を操り、式神を使役する者たち。

その中には、加茂の一族の者もいる。

かの葛城山の神使を源とした、陰陽術の大家とも言える一族だ。

その実力は高く、おれもこれまでの遠征で力を借りる事があった。


「高子、そして陰陽師の方々。瘴気の浄化を、頼む」

「お任せくださいませ」

「我らが秘儀、お見せいたしましょう」


高子と加茂の長が、力強く答えた。


「では、出陣する。各部隊、予定通りに動け」

「はっ!」


兵たちが、動き出す。

おれたちは、関東から、ゆっくりと北上を始めた。



数日後、おれたちは最初の瘴気の塊に遭遇した。


「あれが、瘴気の塊か……」


副将が、呟く。

黒い霧のようなものが、森の中に漂っている。

そして、その中から、怪異が、次々と現れた。


「来るぞ! 構えろ!」


副将が声を上げる。


怪異共は、人の姿をかろうじて保っているが、明らかに異常だ。

目は虚ろで、口からは黒い靄が漏れている。


「高子! 術師よ!!」

「はい!」「お任せあれ」


おれの声に、高子と加茂の者が応える。

高子が前に出て、両手を天へと掲げた。


「天つ神、国つ神、この穢れを祓い給え!」


高子の体から、眩い光が放たれたかと思うと、瘴気が、瞬く間に薄れていく。


そこへ合わせるように、加茂一族の陰陽師達が、術を発動させる。


「五行の理、火よ!」

「式神、出でよ!」


炎が、怪異たちを包んだかと思うと、別の陰陽師が、色鮮やかな獣たち──式神を召喚する。

青龍、白虎、朱雀、玄武。

四神と呼ばれるらしいそれらが、怪異たちに襲いかかり、瞬く間に打倒していった。


「よし、今のうちに討つ! 全軍、突撃!」


おれは、馬を駆けさせた。

牛車ほどもありそうな軍馬が、怪異をはね飛ばしながら突撃する。

おれも愛用の剣を抜き、剣気をその刃に乗せ、


「はあああっ!!!」


一閃させる!

斬ッ!!!


放たれた剣気が巨大な刃となって、怪異の一団を纏めて両断した。

瘴気が薄れ、術で弱体化した怪異たちでは、防ぎようがない一撃だ。


おれは軍馬を駆り、戦場を駆け抜け、怪異の首を、次々とまとめて刎ねていく。


しかし、怪異もその強さに差があるらしい。


「田村麻呂様、右翼が押されております!」


兵の一人が、叫ぶ。

声に導かれ右翼に視線を送ると、そこには他とは一線を画する巨躯の怪異が居た。


「右翼、おれが行く! 中央は副将に任せる!」


おれは、即座に判断した。

指揮官として、全体を見渡し、必要な場所に、自ら駆けつける。


「うおおお!」


おれは、右翼に突入した。

押されていた兵たちが、おれの姿を見て奮い立った。


「大将だ! 大将が来た!」

「続け!! 田村麻呂様に続け!!」


おれは、右翼を押し込む怪異の群れ、その先頭に立つ巨躯の怪異へと襲い掛かった。


「グォァァァ!?」


渾身の一撃だったが、巨躯通りの頑丈さもあるらしく、一撃では倒れない。

だが、敵の勢いは止まった。その間におれは、兵たちに更なる指示を出す。


「左から回り込め! 中央は突破しろ! ここはおれが引き受ける!」


おれの指示通りに、兵たちが動く。どうやら右翼以外は、脅威が薄い。

その右翼も、この巨躯の怪異さえ討ち取れば瓦解するだろう。


その予想通りとなった。



「田村麻呂様、瘴気の浄化、完了しました」

「ご苦労。では、残った怪異を掃討する」


高子が、おれに報告するころ、おれは巨躯の怪異を打倒していた。

その頃には、この近辺の瘴気は残らず浄化されており、怪異の群れもほぼ打倒している。

おれたちは、初戦に勝ったのだ。


兵達が完成を叫ぶ中、おれは剣を鞘に収めた。


「よくやった。負傷者を確認し、手当てをしろ」

「……田村麻呂様、お怪我は?」


高子が、心配そうに駆け寄るが、おれは、笑って答える。


「大丈夫だ。かすり傷もない」


そして、味方の軍を見渡した。

瘴気を先に払ったせいだろう。負傷した兵は少なく、術師や魔穴より出でる薬で完治するものばかりであるようだ。


「それにしても、高子や陰陽師たちの力は頼もしいな」

「私たちも、田村麻呂様がいてこそです」


視線をかわした俺達は、微笑み合うと戦後の諸事にとりかかるのだった。

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