表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄と海の帝国  作者: 007
第0章 巨艦の胎動

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/36

鉄と金の夜明け

1772年、田沼意次の進言により、江戸幕府は開国の門を開いた。長崎と江戸でのオランダとの交易拡大は、日ノ本の運命を変える第一歩だった。それから10年、1782年の春、江戸城の御座之間は熱気に包まれていた。田沼意次、老中首座として将軍・徳川家治の前に立つ。彼の顔には、10年間の成果とさらなる野望が刻まれていた。長崎の出島にはオランダ船がひしめき、江戸の街には西洋の科学書と鉄の響きが満ちていた。だが、この変革は容易ではなかった。

開国の火蓋が切られた1772年、田沼は幕府の改革を急いだ。長崎の出島にオランダの技術者が招かれ、各種技術が流れ込んだ。江戸には蘭学塾が立ち、若者たちが西洋の数学と冶金を学び始めた。田沼はこれを機に、幕府の経済を根底から変える構想を推し進めた。日ノ本は『米本位制』の呪縛から解き放たれねばならなかった。田沼は家治に直訴した。

「上様、米に頼る年貢制度は、もはや限界にございます。飢饉と天災が民を苦しめ、幕府の財庫は涸れつつあります。貨幣経済に移行し、租税を米で無く貨幣で納める制度に改めましょう。これでこそ、日ノ本は列強に並ぶ国となれます。」

家治は静かに頷き、田沼に命じた。「意次、そなたの志は理解した。だが、祖法を覆すは重い決断だ。幕臣の反対もあろう。どう進める?」

田沼は目を輝かせ、答えた。「広く浅く税を取り、民の力を引き出すのです。これが私の策です。商業と鉱山を振興し、金貨を大量に発行。市場に金を回し、天下の富を動かします。金は天下の回りもの――これで日ノ本は甦ります!」

老中の一人が声を荒げた。「田沼殿、貴殿の賄賂政治が幕府を乱しているのに、さらなる改革だと? 祖法を軽んじ、西洋の術に頼るは危険だ!」

田沼は冷静に反論した。「賄賂と誹るか。だが、長崎の交易は倍増し、幕府の財庫は満ちつつある。民の飢えを救い、幕府を強くするには、金と技術が要る。西洋の征服欲は待たぬ。この機を逃せば、日ノ本は滅ぶ!」

家治は黙考の末、決断を下した。「意次に命ずる。租税を貨幣に改め、商業と鉱山を振興せよ。だが、幕府の秩序を保つことを忘れるな」

かくして、幕府は動き始めた。年貢米に代わり、貨幣による租税制度が導入された。田沼は税率を低く設定し、『広く浅く』の理念で民の負担を軽減した。豪商や富農が市場に金を投じ、江戸と長崎は交易の中心として沸騰した。金貨が市場に溢れ、商人たちは新たな事業に乗り出した。長崎の造船所では、大型外洋船の試作が始まり、鉱山では銅と銀の産出が増えた。田沼の商業振興は、まるで西洋の経済論を先取りするかのようだった。金持ちはさらに富み、貧しい者も市場の恩恵を受け始めた。金が天下を回り、幕府の財庫はかつてないほど潤った。

この10年、幕府の改革は目に見える成果を上げた。江戸の街には、蘭学者の手による鉄の機械が並び、長崎の港にはオランダ船が連日入港した。そして1775年、幕府はオランダと正式な国交を樹立。アムステルダムと江戸に大使館が設けられた。田沼はこれを機に、大胆な策を講じた。大使館を西洋の情報収集拠点とし、幕府の御庭番――忍者やくノ一を密かに送り込んだ。彼らは商人や外交官に化け、欧州の政治、経済、軍事、技術の機密を収集。オランダの造船技術、英国の蒸気機械、フランスの火砲――これらが幕府の手に渡り、江戸の工房で試作された。

だが、改革の光には影が伴った。長崎と江戸が繁栄する一方、地方の藩は取り残された。薩摩や長州の武士たちは、幕府の商業偏重を「国を売る行為だ」と糾弾した。経済格差が深まり、尊皇攘夷の声がひそかに高まり始めた。田沼はこれを承知しつつ、なお改革を推し進めた。「日ノ本が列強に並ぶには、今が分水嶺だ。地方の不満は、富の拡大で抑えられる」と彼は信じた。

1782年、江戸城で田沼は家治に成果を報告した。長崎の交易額は10年前の5倍、幕府の税収は3倍に膨れ上がっていた。造船所では大型外洋船の試作が成功し、蘭学塾では火砲の改良が進んだ。御庭番が持ち帰った情報は、欧州の革命と戦争の動向を示していた。アメリカの独立、フランスの不穏――世界は変革の嵐にあった。

「上様、開国から10年、日ノ本は変わりました。金と技術が我々を強くし、列強の脅威に対抗する基盤が整いつつあります。だが、これで終わりではございませぬ。さらなる飛躍のため、軍備を強化し、海を支配する力を築かねばなりません」

家治は静かに頷いた。「意次、そなたの志は日ノ本を変えた。だが、地方の不満は聞こえておる。どう対処する?」

田沼は目を細め、答えた。「富を地方にも広げ、幕府の力を示します。海軍を興し、列強に立ち向かう船を造る。これでこそ、日ノ本は一つになる」

老中たちが沈黙する中、家治は微笑んだ。「よし、意次に命ずる。改革を続け、日ノ本を列強に並ぶ国とせよ」

その夜、長崎の港にオランダ船が入港した。甲板には鉄の砲が並ぶ。御庭番の報告書を手に、田沼は海を見据えた。10年の改革は、日ノ本に鉄と金の夜明けをもたらした。だが、その先に待つのは、さらなる試練と栄光だった。尊皇の声、列強の影――田沼意次と徳川家治の決断は、帝国の胎動を刻み始めた。

将軍家治がそんなすんなりと改革を受け入れるか!

大丈夫です、皆さん。

本人が一番そう思っています。

ですがそうしないと、小説の本題に進みませんからね。

ご了承下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ