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鉄と海の帝国  作者: 007
第0章 巨艦の胎動

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ジュネーブ講和条約

1918年4月1日、永世中立国たるスイス連邦の都市ジュネーブにて、第一次世界大戦の講和会議たる『ジュネーブ講和会議』が開催された。これまで人類が経験した事も無い、最大規模の戦争だった。総勢7000万人以上の軍人(うちヨーロッパ人は6,000万人)が動員され、人類最初の世界大戦になった。第二次産業革命による技術革新、塹壕戦による戦線の膠着、総力戦によって死亡率が大幅に上昇し、戦争に関連するジェノサイドやスペイン風邪による犠牲者を含めると、戦闘員900万人以上、非戦闘員700万人以上が死亡、負傷者2,000万人を出した。使われた砲弾は、約15億発にも及んだ。

その大戦争を終わらせる為の講和会議であり、各国は政府首脳陣を含めた代表団を送り込んだ。講和会議の中心を担ったのは大英帝国・フランス共和国・ロシア帝国・イタリア王国・オスマン帝国、そして大日本帝国だった。何と言ってもジュネーブ講和会議は、大日本帝国が中心で主導権を発揮したのである。大日本帝国代表団の代表を務める桜庭静香総理大臣は、出国前の御前会議で陛下直々に大日本帝国を代表して単独で講和条約調印の大権を与えると、断言された。

これは極めて異例の事であった。大日本帝国は陛下が主権を有する国家であり、その全ては陛下の御聖断により決定されるからである。それが今回は陛下の代理を桜庭総理大臣が担う事になった。

あまりの事態に驚きの声が出たが、地理的にジュネーブと大日本帝国の距離があり過ぎ円滑な意思疎通が出来ない以上は、全ての権限を与え講和会議の運営に支障をきたさない事が最優先事項である、と陛下は語られたのである。

そのように陛下に言われると誰も反論出来ず、御前会議で決定され更には帝国議会衆議院貴族院、そして枢密院でも桜庭総理大臣の陛下の代理としての大権譲渡が決まった。こうして桜庭総理大臣は内容の協議と調印という、全ての大権を有してジュネーブ講和会議に参加し、講和会議に於いて主導権を発揮する事になった。

何せ大日本帝国は連合国側のオーナー的立場であり、大日本帝国の大規模な軍事援助があったからこそ連合国側は第一次世界大戦に勝利出来たのである。こうして大日本帝国が取り仕切るジュネーブ講和会議には連合国側と中央同盟国側合わせて、世界から36ヶ国(イギリス自治領含む)120人の全権と1500人以上の随員が集まった。


ジュネーブ講和会議に於いて、大日本帝国桜庭総理大臣が示した大方針は『過度な要求はしない』というものだった。これは特に大英帝国とフランス共和国に対して示したものであり、両国が戦費全額を中央同盟国側に賠償させると語っていたからである。実際問題として戦費全額を賠償させるとなると、賠償金2690億金マルクにもなりそれは円換算で約4304億円にもなる莫大な金額だった。

そのような膨大な金額の賠償金を提示しても、そもそも論として回収出来なければ意味が無いのである。その為に桜庭総理大臣は『過度な要求は、将来に禍根を残す』として現実的賠償金にするように語ったのである。更に桜庭総理大臣は大英帝国とフランス共和国の語る、ドイツ帝国への軍事制限にも反対した。

国家の最大の役割は国防と外交であり、国家には自衛権がありそれを担保するのが軍事力である。その軍事力を制限するのはその国の自衛権を侵害し、自尊心を踏み躙る行為であり何があっても行ってはならない行為、だと桜庭総理大臣は断言した。桜庭総理大臣の強烈な反対に大英帝国とフランス共和国は狼狽えたが、これは戦勝国としての当然の権利だと訴えた。

何せ大英帝国は戦費として約900億円、フランス共和国は戦費として約600億円もの金額を消費していた。これに加えて大日本帝国からの軍事援助として大日本帝国の銀行から融資を受けており、大英帝国は約200億円、フランス共和国は約130億円を借款しておりこれだけで約1830億円もの財政負担となっていた。これを返済する為そして経済復興の為にも特にドイツ帝国に対して、莫大な賠償金を請求したのである。

だが桜庭総理大臣は現実的理由を挙げて莫大な賠償金請求を否定した。まずは『世界恐慌への懸念』だった。 大日本帝国の経済学者や政治家達は、大英帝国とフランス共和国が莫大な賠償金を請求するのを知ると、ドイツ帝国の経済破綻が世界的な金融システムを不安定化させ、大日本帝国を含む世界各国に深刻な影響を及ぼすことを懸念し経済破綻を招かない現実的金額の賠償金にするべきだとしていた。

そして『借款の回収』も理由に挙げた。もし仮に莫大な賠償金を請求しドイツ帝国が支払うとなると、経済的に不可能である為に賠償金支払いを円滑にするには、民間銀行を通じて多額の借款(融資)を行うしか無くなる。当然ながらそのような多額な借款を行えるのは経済的に余裕のある大日本帝国となり、そうなるともしドイツ経済が崩壊すれば、これらの借款が回収できなくなる恐れがあった。更に『経済的安定』も理由に挙げられた。ドイツ経済の安定は、賠償金支払い能力の維持に不可欠であり、ひいては戦後のヨーロッパ経済全体の復興に繋がると考えられ、経済破綻をドイツ帝国に強いるのは大英帝国とフランス共和国、ひいては世界全体を巻き込んだ世界恐慌に発展すると桜庭総理大臣は警告したのである。

その警告は大英帝国とフランス共和国以外の各国に賛同を受けた。ロシア帝国とオスマン帝国・イタリア王国は、大英帝国とフランス共和国に対して大日本帝国の提案を受け入れるように迫ったのである。他の国々もそれに追従し、中央同盟国側各国は大日本帝国の冷静な判断を称賛した。だがそれでも大英帝国とフランス共和国は引き下がらなかった為に、遂に桜庭総理大臣は軍事援助の融資金額の即時一括での返済を迫ったのである。戦費に困窮している現状で、即時一括での返済はどうやっても不可能だった。

桜庭総理大臣にしてみればそれが分かっていたからの、ある種『恫喝』を行ったのである。これが決定打となり大英帝国とフランス共和国は、大日本帝国の『過度な要求はしない』という大方針を受け入れるしかなかった。こうしてジュネーブ講和会議は完全に大日本帝国の取り仕切る場となり、全ての条項は大日本帝国の提案を各国が受け入れるという形で構築された。

そして1918年6月15日に連合国側と中央同盟国側全ての国々がジュネーブ講和条約に調印し、正式に第一次世界大戦は終結したのである。






『ジュネーブ講和条約

1.中央同盟国側は戦争の責任を認め、連合国側に謝罪する。ただし、国家解体や指導者の処罰は求めない。

2.ドイツ帝国はアルザスロレーヌ地方をフランス共和国に、東プロイセンをロシア帝国に割譲する。

オーストリア=ハンガリー帝国はボスニアヘルツェゴビナをセルビア王国に、ガリツィアをロシア帝国に割譲する。南チロル(ドロミーティ山脈を含む、主にドイツ語圏の地域)、トリエステ(アドリア海に面する重要な港湾都市)、イストリア半島と一部のダルマチア沿岸(アドリア海東岸に位置する地域)はイタリア王国に割譲する。

ブルガリア王国はマケドニアをセルビア王国に割譲する。

大日本帝国はこれらの割譲を監督し、平和的な移行を保証する。

3.ドイツ帝国の植民地を連合国側で分配する。大日本帝国はドイツ帝国領南洋諸島(マリアナ諸島、カロリン諸島、マーシャル諸島)を獲得する。ドイツ帝国領東アフリカは大英帝国とベルギー王国で分割する。フランス共和国はドイツ帝国領カメルーンを獲得する。ドイツ帝国領トーゴランドは大英帝国とフランス共和国で分割する。ドイツ帝国領南西アフリカは南アフリカ連邦が獲得する。ドイツ帝国領ニューギニアはオーストラリアが獲得する。ドイツ帝国領サモアはニュージーランドが獲得する。

4.アメリカ合衆国はグアム島とミッドウェー島を大日本帝国に割譲する。フィリピン自治領は独立国家とする。

5.中央同盟国側は連合国側にそれぞれ賠償金を支払う。ドイツ帝国は各国に15億ドル、オーストリア=ハンガリー帝国は各国に10億ドル、ブルガリア王国は各国に6億ドル、アメリカ合衆国は各国に20億ドルをそれぞれ賠償金として支払う。

6.中央同盟国側に対する軍事制限は一切課さない。国家の自衛権は不可侵のものであり、軍備維持を認める。

7.中央同盟国側の指導者は戦争責任を認め謝罪するが、処刑や追放は求めない。

8.割譲地域の住民は自由に居住の選択を可能とする。連合国側は人権保護を保証し、どちらに帰属するかを割譲地域の住民に与える。

9.両陣営は5年間の軍事行動を禁止する。

10.調印国は1918年8月1日までに批准し、ジュネーブで交換する。』




以上の内容で調印された。賠償金は日本円にして各国は102億円ずつ受け取る事になり、経済規模に考慮した金額となっていた。これにより過度な経済負担を強いる事無く、中央同盟国各国は賠償金を支払う事になった。

ジュネーブ講和会議終了後、桜庭総理大臣は連合国側各国を集めて戦時中の軍事援助の返済を協議した。そこで桜庭総理大臣は返済の意思を各国に尋ねた。もし踏み倒す事を考えても、それは通用しないと断言したのである。だが各国にとってはかなりの経済的負担なのは事実だった。そこで桜庭総理大臣は各国に債務を半額にする方法があると、語った。

それに各国は飛び付いたが、その提示はかなり大規模なものだった。だがそれでも各国は受け入れるしかなく、桜庭総理大臣の提示した条件を了承した。こうして『ジュネーブ覚書』が締結されたのである。





『ジュネーブ覚書

1.大英帝国は大英帝国領北ボルネオと保護国サラワク王国・ディエゴガルシア島を、大日本帝国に割譲する

2.フランス共和国はフランス共和国領インドシナを、大日本帝国に割譲する。

3.ロシア帝国はロシア帝国領内のシベリア鉄道運行権・資産を、大日本帝国に割譲する。

4.オスマン帝国はクレタ島を、大日本帝国に割譲する。』



このように決まった。この一連の割譲で、大英帝国・フランス共和国・ロシア帝国・オスマン帝国は債務を大日本帝国により、半額にまで減額してもらえる事になった。大日本帝国が何故このような事をしたのか、には明確な理由があった。第一次世界大戦中、大日本帝国政府は『敵性財産管理官庁』を設置し、ドイツ企業とアメリカ企業が保有していた約12万件の特許を没収したのである。これは単に特許を無効にするだけでなく、大日本帝国企業にその技術を無償で利用させることを可能にしたのだ。主な利益の例として化学・製薬産業が挙げられた。ドイツ帝国は当時化学産業の分野で世界をリードしており、特に染料や医薬品アスピリンなどの分野で多くの特許を保有していたが、これらの特許が大日本帝国企業に無償で解放されたことで、大日本帝国の化学・製薬産業は急速に発展したのである。例えばドイツのバイエル社が保有していたアスピリンの特許も没収された。これにより技術革新の促進が行われドイツの特許技術を利用することで、大日本帝国の企業は自社の研究開発を大幅に加速させることが出来たのである。これにより大日本帝国は多くの産業分野でドイツ帝国を追い抜くきっかけを掴んだのである。この措置は戦争中の経済的な措置だったが、結果として大日本帝国の産業に長期的な利益をもたらしたのである。

更にそれはアメリカ合衆国に対しても行われ当時アメリカ合衆国が保有していた特許は、多岐にわたる産業分野に及び特に自動車・電気・通信・化学の分野で多くの重要な発明がなされていた。ドイツ帝国が化学・製薬分野で強みを持っていたのに対し、アメリカ合衆国も多くの分野で特許を保有していた。まずは自動車関連である。タイヤや部品の特許であり自動車の普及に伴い、より耐久性のあるタイヤや、エンジンの性能を向上させるための部品に関する特許が多数出願されていた。電気・通信関連もあり、電球の改良が行われトーマス・エジソンをはじめとする発明家によって、電球の寿命や効率を向上させるための特許が次々と生み出されていた。

電話・ラジオ関連は電話網が全米に拡大する中、通信技術に関する特許が多数取得され、またラジオ放送が始まる前の時期であり、無線通信技術に関する特許も多く保有していた。その他にも数多くあり、食品分野は缶詰技術や食品保存に関する特許。日用品分野は冷蔵庫や掃除機などの初期の電化製品、安全カミソリなどの日用品に関する特許等があった。このようにアメリカ合衆国は近代的な工業力を背景に、生活を豊かにする発明や、生産性を向上させる技術に関する特許を多数保有していたのである。だがこの技術も大日本帝国により全て没収されこれらの特許は、ドイツ帝国から接収した特許と合わせて、戦後の大日本帝国の産業発展の原動力となったのである。

その為に大日本帝国にとっては天文学的数字とも呼んでも過言では無い利益が、第一次世界大戦の勝利に舞い込んだのである。これが大日本帝国が中央同盟国側に、『過度な要求はしない』という大方針を採用させた理由だった。そしてこの特許没収はドイツ帝国とアメリカ合衆国に、大英帝国とフランス共和国の賠償金請求を防ぐ為だとして、大日本帝国は了承させていた。

この結果、第一次世界大戦は大日本帝国の一人勝ちとも呼べる状態で、終結したのであった。そしてこれが、必然的に第二次世界大戦を呼び込む要因となったのであった。

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― 新着の感想 ―
イギリスとフランス敵になりそうだな笑
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