開国の決意
まぁ、本題は第二次世界大戦ですから。
色々端折って、大胆に簡略的に進みます。
1772年、江戸城松の廊下。春の陽光が障子越しに畳を照らすが、老中・田沼意次の心は嵐のように揺れていた。長崎からの報告書を手に、彼は将軍・徳川家治の御前へと急ぐ。オランダ商人の情報――西洋列強の船が大洋を席巻し、植民地として各地飲み込む――が意次の危機感を煽った。だが、彼の胸にあったのは、それだけではなかった。近年、飢饉が東北を襲い、疫病が村々を荒らし、天災が民を苦しめていた。幕府の財政は逼迫し、武士の不満が募る。意次は老中になる前、郡奉行の頃からこの国難を打破する構想を練っていた。鎖国の壁を破り、西洋の技術と富を取り入れる――それが日ノ本を救う唯一の道だと。
「このままでは、日ノ本は滅ぶ」。意次は袴の裾を払い、歩みを速めた。オランダの科学書、蘭学者の囁き、ロシア船の蝦夷地接近――世界は動き、幕府だけが時を止めたままだった。だが、国内の不安こそが、開国の火を点けたのだ。
御座之間に通された意次は、家治の前に平伏した。家治は30代後半、穏やかな顔に鋭い目を光らせ、静かに見下ろす。幕臣達が控え、部屋に緊張が漂う。
「意次、何用か」家治の声は静かだが、幕府の重みを帯びていた。
意次は深呼吸し、畳に手を突いた。
「上様、日ノ本の存亡を憂い、諫言申し上げます。西洋列強は大型船と大砲で世界を蹂躙し、数多の国がその欲に屈しております。更に、脅威は外だけにありません。飢饉が民を飢えさせ、疫病が村を荒らし、天災が国を揺さぶっております。このまま農業国家に甘んじれば、幕府は内外の危機に耐えられませぬ。老中に登る前より、わたくしはこの国難を打破する策を練って参りました。西洋との交易を開き、技術と富を取り入れ、経済を立て直す――これこそ日ノ本を救う道であります!」
重い沈黙が流れた。幕臣の1人が眉をひそめ、声を上げた。「田沼殿、口を慎め! 鎖国は祖法、幕府の礎だ。貴殿の賄賂まみれの政治は、既に幕府を乱している。開国など、祖法を蔑ろにする無謀な策だ!」
意次は鋭く幕臣を見据えた。「賄賂と誹るか。だが、我が政策は幕府の財政を立て直し、長崎の交易を倍にした。豪商の力、鉱山の収益――これが日ノ本の未来を支える。飢饉で民が死に、疫病で村が空になる今、経済を強化せねば幕府は立ちゆかぬ。西洋の征服欲は待たぬ。オランダの外洋船は海を切り裂き、鉄の砲は城を砕く。いま動かねば、日ノ本は奴隷の国となる!」
ざわめきが広がった。もう1人が冷ややかに言った。「田沼殿、言葉が過ぎる。西洋の蛮人と手を結ぶは、幕府の威信を貶める。祖法を守り、国内の秩序を保つが我が道だ」
意次は動じず、畳に拳を叩きつけた。「威信で民は救えぬ! 長崎の出島に、オランダは科学と技術を持ち込む。蒸気船、火砲、冶金の術――これを学べば、飢饉を防ぐ富を生み、軍備を整え、列強に対抗できる。ロシアは蝦夷地を窺う。遅れを取れば、幕府の旗は風前の灯だ!」
家治は手を上げ、議論を制した。幕臣たちが息を呑む中、将軍は意次を見つめた。「意次、そなたの言う内外の危機は理解した。だが、開国は祖法を覆す重い決断。幕府の総意を得ねばならぬ。どう進めるつもりだ?」
意次は目を閉じ、構想を言葉に変えた。「まずは長崎と江戸に限り、西洋との交易を広げます。オランダから技術者を招き、蘭学を奨励。造船所を興し、鉄と蒸気の力を我がものにします。飢饉を乗り越え、経済を立て直し、軍備を整える――これで日ノ本を列強に並ぶ国にせねば、子孫に顔向けできませぬ」
幕臣たちの間に不満の呟きが漏れた。幕臣はなお反対したが、渋い顔で黙り込んだ。家治の目は揺らいでいた。「意次、そなたの志は大胆だ。失敗すれば幕府の基盤が揺らぐ。覚悟はあるか?」
意次は深く頭を下げ、声を震わせた。「老中に登る前より、この構想に命を賭けております。どうかこの諫言をお聞き届けください」
家治はしばし黙考し、やがて頷いた。「よし、田沼意次に開国の命を下す。長崎と江戸にて、オランダとの交易を拡大せよ。だが、祖法を重んじ、幕府の秩序を乱さぬよう進めなさい」
部屋にどよめきが広がった。意次は額を畳に擦りつけ、感謝の言葉を述べた。心の奥では、燃えるような決意が渦巻いていた。開国の門が開かれた瞬間、日ノ本の運命は動き始めた。長崎の海に西洋の船が集い、江戸の街に鉄と蒸気の響きが響く――その先に、誰も知らぬ帝国の未来が待っていた。




