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インビジブル  作者: あおいろもなか
8/10

討伐戦


奈白達は街の南門から出て、2kmほど離れた森林地帯を歩いていた。


「ここがアギールの森よ」

「見た目はただの森だな」


かなり広大な森で、近くから見ると木々が視界を覆い尽くすほどに乱立している。

通りからは外れているため整備こそされてはいないが、そこそこ歩きやすい道のようなものは出来ていた。


「昔はかなり魔境だったらしいけど、ヌシを倒した後も今は国からそこそこいい金額で定期的に色んな討伐依頼が出てるからね。ヤバイやつに出会うこともほとんどないわ」

「ほとんどねぇ…」

「ビビってんすか?旦那、オレ結構強いんすよ!大船を持った気持ちでイイっすよ」

「…大船を持った??」


歩きながら他愛の無い会話を続ける。


「そういえば奈白さんは何か魔法とか使えたりされるんですか?」

「いや、それが魔力の出し方とかも分かんなくって」

「あら、そうなのですか?ではちょっと止まって下さい」


立ち止まり、マリネが奈白に向かって手をかざすとマリネの手が淡い光を纏う。


「魔力自体は微弱ながらあるようですね。魔法を使うのは難しいかもしれませんが、魔道具を使う分には問題はないかと思います」

「えっ!?魔法使えないのオレ?」

「い、いえ、訓練すれば魔力も多少は上がるんじゃない…かと」

「ハハ…そっか…ハハハ…」


少し気まずい空気が横切ったところで草むらを擦るような音が響き、唸り声とともにケモノが顔を覗かせた。


「ちょうど来たわね。アイツが依頼のロングコートウルフよ」


地面に着くほどの長い銀色の毛に覆われたオオカミ型の怪物だ。

毛の塊に口が生えているように見えなくもない。


「まぁ、ちょっと見てなさい」


アリシアは前と同じように腰の袋に手を突っ込むとジャララと鳴らしながら小さな玉を1つ取り出した。

それをすぐさま威嚇しているロングコートウルフに向かって投げ付ける。


「貫けッ!ラピッド・ショット!」


ロングコートウルフは飛んでくる玉を避けようと横に飛び退いたが、魔力が加わり槍のように鋭利な物へと姿を変えた瞬間軌道を変えてその横腹を貫いた。


なぜ真っ直ぐ投げた玉の軌道が変わったのかアリシアを見ると、伸ばした右手の人指し指が銃口のようにロングコートウルフの身体に向けられていた。


魔力注入の際に多少の軌道操作は可能ということだろう。


「まっ、こんなもんね」


上機嫌で、まさにドヤ顔。


「さすがっすね、ギルマス」

「あなた前より精度が上がったんじゃない?」

「…すごーい」


喜ぶギルドの面々。

コナも両手を上げて喜んでいる。


アリシアは褒められてまんざらでもなさそうにしながら背中のリュックからスマホのようなデバイスを取り出し、何か解析でもしているかのように青白い光を討伐したロングコートウルフに照射する。

対象の全体を照射し終えると持ってきた大きな布袋にロングコートウルフを入れて肩に担いだ。


「あと4匹ね。どう?少しは勉強になったんじゃない?」

「え?どこが?」


真顔で返す奈白にアリシアはムッとした表情になる。


「んじゃ、次はオレっすね。アイツらはよく群れでいるからあと何匹か近くにいると思うんすけど…」

「えっと、リグナスはどうやって戦うんだ?」

「オレは近接戦オンリーなんで今の旦那には一番参考になるんじゃないっすかね」

「おぉ!」

「あっ、ちょっとトイレ…。すんません、お手本になると思ったら緊張しちゃって」


「あんた本当に緊張感無いわね」

「緊張はしてるっすよ」


そう言ってリグナスは見えないように少し離れた木の後ろに回った。

そして少しの後、木の後ろから出てきてこちらにニコニコしながら歩いてくる。


「すんませんギルマス、手ぇ洗うとこないからしょうがないっすよね…」

「あ…」

「オイッ!」


ガブリ!


リグナスを追い掛けて来たのか、草むらから急にロングコートウルフが飛び出しリグナスの左足に食らい付いた。


「イテテテ…。でも、ちょうど見つけたっす、よっ!」


少しだけ痛がる素振りを見せると、腰の後ろ辺りに下げている短剣を抜き、そのままロングコートウルフの首元へと突き刺した。


「オッシ!討伐成功っす!本当はもっとカッコよくやりたかったんすけどね」

「え?足、痛くないの?」

「いや、痛いに決まってるじゃないっすかー、ほら」


リグナスが噛まれた部分を見せるが擦り傷のような痕しか残っていない。


「ん?もしかしてロングコートウルフってそんなに攻撃力は高くないの?」

「そっすね!」


「いや、このバカの言うことは聞かなくていいから。普通に足の1本噛み千切るくらいには強いんだから。リグナスが特別硬い特性を持ってるだけよ」

「えぇ…」


「オレの固有技能はコーティングって言って、水でも汗でも血でも何でも良いんで濡れた部分にしばらくの間見えない硬いバリアみたいなのが出来るんっす。あっ、でもオシッコが掛かったわけじゃないっすからね。ハハハ」

「ちょっとぉ、汚い!」

「不潔です」

「…ばっちぃ」

「だから汗っすってば」


先程と同様にスマホのようなデバイスでアリシアがロングコートウルフに光を当てる。

女性陣から総ツッコミを食らいながらも、リグナスは気にする様子もなく仕留めたロングコートウルフを布袋の中に入れて持ち上げる。

その様子を奈白は冷ややかな目で見つめる。


(さ、参考にならねぇぇぇ)

「そう言えばアリシアがさっきから使ってるその機械は?」


「あぁ、これ?これはエニーフォン。色々便利なのよ。離れた人と話しも出来るし、何か調べ物をしたり、ゲームなんかも出来るのよ?ギルド関係では依頼の受注や討伐対象の登録と分析なんかに使われて、これをギルドに提示するだけで討伐の確認が出来て便利だし。一昔前までは実物の提示だったからギルド会館も血の汚れや臭いも酷かったらしいし」

(ほぼスマホじゃねぇかよ…)

「へ、へぇー…。で、分析って何か成分とか?」

「あたしも詳しくは知らないけど傷口やダメージの程度、腐敗具合なんかを見てるみたい。討伐した死体を使い回して何回も不正に報酬を貰うバカが初期にいたらしいから」


そうこうしてると騒ぎを嗅ぎ付けてか近くに居たであろうロングコートウルフが2匹飛び出してきた。


「じゃあ私たちの順番ね。コナちゃん、一緒に頑張りましょう」

「…あい」


マリネが早速アリシアの使っていた物と同じような玉をサイドポシェットから1つ取り出すと握り潰して、霧状に変化したそれをロングコートウルフに向かってふぅーっと吹き掛けた。


「エアロ・ビート」


飛んでいく霧状の魔力が空気に溶けて周辺の空間を小刻みに振動させていく。


激しい空気の振動に2匹のロングコートウルフは方向感覚と平衡感覚を失い、その場でふらふらと千鳥足になり満足に動けなくなる。


そこへ合わせるようにコナが両手を前に向けて狙いを定める。


「…フレア」


2匹のロングコートウルフを包み込むように足元から発火。

その火はガスバーナーの炎のように物凄い勢いで燃え盛り、一瞬で消えた。

文字通りの瞬間火力。

綺麗だった銀色の毛が黒く焦げている。


「ナイス!コナちゃん」

「…マリ姉もありがと」


「うわぁーー、コナちゃんが燃やしたー。毛がー、毛がぁーー」


頭を抱えながら泣いているアリシアをそのままに、倒した獲物を2人が機械で分析し、それぞれの布袋に入れているところで奈白が少し疑問に思ったことを聞いてみた。


「コナって魔法の玉は使わないの?」

「…ちょっと、訓練中」


「マジックセルを使わずに魔法を使うと魔力の総量が鍛えられるの。少し上げるだけでも数年掛かるから大変なのよ」


涙を袖で拭きながらアリシアが教えてくれた。


「なるほど。で、その玉がマジックセルっていうの?」

「…ふぅ、そ。正式には凝縮魔力物質って言うんだけどお店ではほとんどマジックセルの名前で売ってあるわ。形も色も色々あるわよ」

「へぇー。アリシアとかはもう鍛えないのか?」

「10年で3つくらいしか上がらなかったし、そんなもんなのよ。それに1度マジックセル使っちゃたら便利すぎて戻れないわ」

「アリシアの魔力量ってどれくらいなの?」

「今、だいたい140くらい。ついでにマリ姉は160、コナちゃんは130、リグナスは60くらい。あんたはちゃんと測ってないけどたぶん10も無いわね」

「え?そんなに低いのオレ?」

「だからマジックセルよ。魔法によっては10分の1くらいのコストで出せるし、ほらアンタには代わりに魔道具あげるわ」


アリシアは背負っていた小さいリュックから野球ボールくらいの白い玉を取り出し、奈白に渡した。

少し前に見たお店のやつと似ているがコインを入れる穴等はない。

所謂(いわゆる)無属性の安い廉価版ってところか。


「…コレ、ドウヤッテ ツカウノデスカ?」

「それは魔法が使えない人でも使えるやつだから。何も考えず思いっきり握りゃいいのよ」

「なるほどな。りょーかい」


それなら自分でも扱えそうだと奈白はニカッと笑う。


また少し森を歩くと1匹のロングコートウルフが休んでいるのを、先を歩いていたリグナスが見つけた。


「旦那、居たっすよ。1匹だけっす」

「おっ、いよいよオレの番だな」


戦闘に備えて白い玉を思いっきり握り締めると粘土のようにグニャリと変形し、そのまま握り箇所が持ち手となって瞬く間にロングとまではいかないまでも白いミドルソードへと姿が変わった。


「おっし!」

「奈白は燃やさないでよ?毛は素材として売れるんだから」

「だからオレ魔法使えないっての」


奈白が意気揚々と草影から飛び出るとロングコートウルフが唸りながら頭を低くし、尻尾をゆらゆらと左右に振り出す。

それに反応して奈白は戦闘経験も無いまま取り敢えず構える。

奈白がジリッと足を開けば、ロングコートウルフは頭から尻尾の方へと全身の毛を震わせ、尾の先が震え終わると高く上げた尻尾をしならせ奈白の方へ振り払った。


ツカカカカカッ!

「おわッ!?」


振り払われた尻尾から無数の棘が飛ばされた事に驚き、奈白は咄嗟に避ける事が出来たが、元居た場所周辺の地面や木には大量の棘が突き刺さっていた。


「あっ。言うの忘れてた。ごめん、そいつ尻尾の毛を飛ばしてくるから気を付けてねー!」

「アホかッ!先に言えよ!!」


テヘッと、やっちゃったポーズをあざとく決めるアリシアに一喝してロングコートウルフに向き直る。


「みんな1発でのしてたから雑魚かと思ったのに、わりと危ねぇモンスターじゃねぇか」

「当たり前でしょ。だから討伐対象なんじゃない」

「ぅぐっ…」


それはそうだ。ぐぅの音も出ない。


「…チクショー」


覚悟を決めて走り出す。

両手に構えた剣を振り上げ、右肩上から標的を目掛けて左下へと思いっきり振り下ろす。

振り下ろした刃は見事に空を裂き、空振った無防備な横っ腹にロングコートウルフの体当たりを受けて奈白は吹き飛ばされた。


ロングコートウルフがまた身を震わせ唸っている。

(やべぇ、また棘だ。避けねぇ…と…)

それは奈白からすれば一瞬だった。

相手を視界に捉えたまま瞬きをする。

ただそれだけ。

それだけだったのに、目を閉じ、そして再度開けた時には目の内に捉えていたはずの殺気立ったロングコートウルフの姿はなく、木々の枝葉とその隙間から見える綺麗な青空が写っていた。


「…ん、ヤバッ!」


瞬間的な状況の変化に、奈白は焦ってガバッと飛び起きる。

しかし、ロングコートウルフはいない。

持っていた剣もとうに消滅しており、場所もいつの間にか森の入り口付近に戻っていた。

周りにはアリシアが1人、木を背にして座っている。


「…あ、やっと起きたわね」

「…起きた?」

「アンタ、ワンパンで気ぃ失ってたのよ」

「嘘だろ!?」

「なんていうか、ごめんね。アンタにちょうど良いんじゃないかって思ったんだけど…」


アリシアは目を逸らして頬をポリポリ、若干の気まずさが滲む。


「オレって弱くない?」

「た、たぶんまだ病み上がりだからよ!それに敵もそこそこ強いやつだし…」

「うっ、気を使わないでくれ。すんごい傷付く」

「まぁ、ちょっと実戦は止めてリグナスと訓練の方が良いかも」

「オレもそっちのが良いや。ハハ…。そういや他の人達は?」

「アンタが目を覚ますまで時間あるだろうからって色々採りに行ってるわよ」


そう言ってる内に森の中から声が聞こえてきた。


「リグ君、その赤いキノコ捨ててって言いましたよね?何でまだ持ってるんですか?」

「綺麗で美味そうじゃないっすか?」


リグナス、マリネ、コナが両手いっぱいにキノコやら野草やらを抱き抱えて戻ってきていた。


「そういうのが一番危ないんですからね。絶対毒です、毒!」

「ほんとかなー?リンゴも赤いっすよ?」

「またややこしい事を...。ダメったらダメです。ついでにそのカラフルなやつもダメです」

「せっかくいっぱい集めたのにぃー。あっ、旦那起きたみたいっすよ。おーい!」


奇妙な色のキノコ達を捨てると、ほとんど手ぶら状態になったリグナスが先頭を切って手を振りながら戻ってきた。


「さ、みんな戻ってきたし帰ろっか。これ持って」

「これって」

「あんたが倒し損ねたやつよ。それなりに重いんだから1人1匹ずつ持ってくの、ほら」

「お、おぅ。ありがとう」


グイと半ば押し付けられたロングコートウルフの入った布袋を担ぎ、みんなで帰路に着く。


「次は旦那も倒せるようになれるといいっすね」

「ほんとになぁ。自分がここまで弱いとは…」

「単純に戦闘経験とかも足りてないんすから、これからっすよ」


リグナスのカラッとした爽やかさが奈白に突き刺さる。


見るからに少ししょんぼりしている。


可哀想に思ってか、コナが奈白の服の後ろ裾をクイクイっと引っ張ると、

「…なしろん、ドンマイ」

と、元気付けてくれた。


「あら、良い呼び名ですね。なしろんさん、そういえば昨日よりは皆さんと打ち解けたようですね」

「そういや確かに。んー…なんだろ、死にかけた…からとか?」


「ふっ、何よそれ」


はにかむ奈白につられて横で聞いていたアリシアが優しく笑う。


街に着くまでの間、気絶して眠っていた奈白の変な寝言の話から始まり、採れたキノコと野草の話、報酬で各々買いたい物などみんなで色々と話しながら帰り、時間も忘れていつの間にかあっという間に着いていた。



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