ギルド
マリネからしこたま怒られた後、みんなで一緒にご飯を食べ、片付けと皿洗いを奈白とアリシアが反省の意を含めて担った。
その後、寝るまでにまだ時間があるのでまたみんなで集まって話をしていた。
「そう言えば俺、ギルドってもっと受付がいて掲示板があって…みたいな感じだと思ってたけど違うんですね」
「いや、アンタが言ってるのギルド会館のことじゃない?」
「ギルド会館?」
「アンタ本当にどっから来たのよ…?」
「えぇーと…ハハハ…」
「まぁいいわ。ギルド会館っていうのはデカいギルドよ」
「は?」
「ギルマスは説明雑過ぎるんすよ。簡単に言うとギルド会館は誰でも良いから依頼をこなしてくれって感じなんでいっぱい依頼があるんすよ。国からの依頼も大体はギルド会館におろしてありますし、俺たちもギルド会館で依頼を受けてるのがほとんどっす。んで、この人達に依頼を受けてほしいとか、大勢の人に依頼内容知られたくないなっていうのを俺たちみたいな個人ギルドに依頼したりするんすよ。ギルドのおまけみたいなもんっす」
「は?何がおまけなのよ!?実力が認められれば国からも直接依頼が来るから報酬は全額私達がもらえるし、値段交渉で料金をつり上げて大儲けだって…ぐへへへ」
仲良く並んで座っているマリネとコナがアリシアの顔を哀れむように見つめる。
「実力が上がってもギルドのマスターがこれじゃあねぇ?」
「…ねぇー」
「あぁ、あなただけがこのギルドの癒しよ!」
マリネが隣に座っているコナを泣きながら抱きしめている。
いつものことなのか、慣れているのか傍目にはなかなか揺さぶられているように見えるが、コナは人形のようにされるがままで当人なのに我関せずといった感じだ。
「ギルドマスターさん、ところで鍛えてくれるっつってたけど俺は明日からどんなことすりゃいいんだ?」
「そんなの、実戦あるのみよ。訓練にもなって報酬も貰えるし一石二鳥じゃない?それと、アリシアでいいわよ。小さいギルドなんだし。リグナス達は律儀にギルマスとかなんとか呼んでるけどね。ま、明日はみんなでギルド会館に行くわよ」
「いや、何の技も使えないんだけど」
「簡単そうな依頼選べば良いじゃない。何事も経験よ」
「これがギルマス流っすからね。俺も半端なく鍛えられたっす。前に間違えてみんなでバンブーベアの巣穴に入っちゃった時はいつの間にかみんな帰っちゃってて死にかけたっすよ、ははは」
「え?」
「げっ。ぃ、いや、あの時はまだ私も未熟だったし?てか、そもそもバンブーベアが目の前で威嚇してんのに堂々と物を取っていくバカがどこにいるわけ!?」
「アリシアが一目散に逃げてたから、私も釣られて逃げちゃった。てへっ」
「…あの時はリグっち死んだと思った」
「あぁ、みんなヒドイっす…薄情っす…」
「えぇ…」
「そんな昔の話しはもういいからっ!はいはい、さぁもう寝るわよ」
アリシアが手を2回パンパンと叩くと、各々軽く返事を返しながら寝室に戻っていく。
「奈白も空いてる部屋使って良いから」
「ありがとう」
奈白はこっちに来て初めて普通の部屋で睡眠を取った。
ーー翌日ーー
日の出からしばらくして部屋の外の喧騒に奈白が目を覚ます。
「ちょっとトイレ早くっ!何でトイレ1つしかないのよー!」
「ふぅー。お待たせしました、今日も快便っす!」
「ちょっと、くさいッ!アンタねー、もうちゃんと消臭しときなさいよ」
「…コナもトイレー」
「私が先に並んで…しょうがないわねぇ。ほら入って。終わったら手洗うのよ」
「あーい」
「ギルマス、コナっちには甘いっすよねぇ」
「うっさいわね」
朝からバタバタと駆け回るような音に奈白が部屋から出て階段から下を覗くと、トイレを我慢しているのかその場でジタバタ足踏みをしているアリシアの姿があった。
数分後奈白もトイレを済ませリビングへ。
コナはソファに座ってテレビを見ながら笑っている。
他の人達の姿は無いがキッチンから複数の声が聞こえる。
「1、2、3、4…ギルマス、ウインナーがあと7本しか無いっす」
「足りないじゃない。マリ姉、ランニングバードの肉使う?」
「そうねぇ、誰か食べたい?」
「俺、食いたいっす!」
「今野菜切ってるからリグナス、冷凍庫に入ってるやつマリ姉に渡してくんない?」
「オッケーっす。っと、はい、マリ姉」
「ありがとう、じゃあリグ君ともう一人は申し訳ないけど奈白さんに食べてもらいましょう」
「よっしゃ」
「出来上がったやつ向こうにお願い」
「はいっす!」
「マリ姉、その目玉焼き黄身がぐちゃぐちゃじゃない?」
「しょうがないわね、これは奈白さんに食べてもらいましょう」
朝食の準備もバタバタしているうちに終わり、みんなが席に着く。
ウインナー2本とベーコン1枚、目玉焼きとサラダ、ご飯と何かのスープだ。
奈白にはウインナー1本と代わりに焼いた肉、ぐちゃぐちゃの目玉焼き、他は同じ。
リグナスにはウインナーの代わりに焼いた肉を多めによそってある。
「ちょっと奈白には悪いけどまだ稼ぎがないからそれで勘弁ね」
「いやいや、食べ物にありつけるだけでありがてぇ」
いただきます、とみんなで声を合わせ食べる。
食事を囲むこと自体が奈白には久々でとても懐かしい感覚を思い出していた。
ギチッ。
「硬っ!え?硬ぁ…」
リグナスは美味しそうに噛み付いているが、
ランニングバードとやらの焼いた肉は分厚いジャーキーのようにこの上なく硬かった。
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朝食後、早速奈白達はギルド会館に来ていた。
ギルド会館は中心街を挟んで兵舎と正反対の場所に位置している。
見た目も大きく、中もかなり広い。
軽い飲食店やお土産屋さんなんかもギルド会館の中に用意されている。
入り口も自動ドアだ。
受付もいるし、昔ながらの掲示板もある。
見た感じでは今はタッチパネル式の電子パネルを使ってる人も多い。
「奈白?たぶんギルドカードも持ってないのよね?身分証みたいな物だから作っといた方がいいわよ」
「あぁ、分かった」
アリシアが指差し、それに従い受付へと向かう。
「おはようございますっ!今日はどういったご用件でしょうか?」
可愛らしい制服を纏った女性が元気に挨拶をする。
「ギルドカードを作りたいんですが、作ったことがないのでどうすれば…」
「かしこまりました!ギルドカードの作成ですね?ふふ、簡単ですから大丈夫ですよ」
受付の女性が机の下から紙を取り出し、胸ポケットのペンと一緒に奈白の前に置いた。
胸の名札に〈クラパンス〉と書かれている。
「ではではこちらに名前と年齢の記入をお願いします。その下の所属ギルド名や固有技能等は分からなければ書かなくても結構ですよ」
「分かりました。明石…そういや文字も普通に書けるな」
「どうかされましたか?」
「あぁいえ、何でも。…ギルド名はトワイライトガーデンっと。固有技能って特殊スキルとかかな?まだここは書かなくていいか。…出来ました、お願いします」
「はいっ!承りましたー」
クラパンスは紙に書かれた情報をマンガ本くらいの大きさのタブレット型デバイスに入力していく。
すると、数秒経たずに後ろに置かれた細長いコピー機のような機械からカードが排出される。
「お待たせしましたー!どうぞ」
「おぉ」
カードにはギルド名と名前が記されている。
裏面には空白があり、おそらく扱える技能を記入する場所なのであろう。
「出来たみたいね。じゃあ早速行くわよ、ケモノ退治」
後ろで待っていたアリシアが近付いてきて奈白の肩をポンと叩く。
「…ケモノ?最初は薬草採集とかそんなんじゃないの?」
「そんなんじゃ訓練にならないでしょ?」
「えぇ…」
「もう依頼はパーティーとして受けてるから。大丈夫よ、みんないるし」
そう言うアリシアの視線を辿るとギルド会館の出入口付近でマリネ、リグナス、コナが手招きしたり手を振ったりしながら奈白を待っていた。
アリシアのあっけらかんとした笑顔に、奈白は頭を掻きながら少し諦めたように苦笑いを浮かべる。
「そうだな…まっ、どうにかなるか」




