トワイライトガーデン
次の日。
奈白は無事退院し、外に出た。
行く場所はもう決まっていた。
(なんだかんだいい人だったしな。えぇと、なんてギルドだったっけかなぁ?)
「あ、すいません、プリティガーデンっていうギルド知ってますか?」
街往く人々に聞いて回る。
「すいません。プリティガーデンっていうギルド…」
「ごめん、知らないな」
「えー、プリティキャッスル?っていうギルド…」
「すまん。聞いたこと無いな」
「あの、ヘヴンズキャッスルって…」
「あぁ、それなら…」
……………………
…………
(…これは絶対違うな)
いつの間にか、奈白はいかがわしいピンクの小さいお城の前に立っていた。
(どこで間違えてしまったんだ…)
そんなこんなでなんとか、正真正銘ギルド・トワイライトガーデンの入り口まで辿り着く。
中心街からは少し離れた場所ではあるが人通りもまあまあ多い。
やや古くさいというかボロいというか、実際見た目は綺麗とは言い難い風体の建物だ。
「ここ、本当にギルドか?」
壁やドアが薄いのか、隙間があるのか中から声が聞こえてきた。
「アリシア!これは何!?なんでまた請求書が増えてんのよッ!?私たちお金無いってのに」
「仕方ないじゃない、必要経費だったのよ!」
「ギルマス、最近毎日出掛けてると思ったらクエストじゃなくて病院行ってたんすか?どっか痛めてたんすか?」
「私がそんなヘマするわけないじゃない!」
「……マスター…」
「あぁもうそんな目で見ないでよ!私が悪かったわよ!勝手にギルドのお金使っちゃって!今週の掃除は私が全部するから、それでいいでしょッ!?」
ドアの向こうの会話に言わずもがな奈白は少し心当たりが浮かぶ。
(もしかしなくてもあの入院費って…、何か入りずらいなぁ)
ドアをノックしようかするまいか迷い、意を決してドアを叩き、開ける。
「失礼しま…」
「あ!やっぱり来たわね」
アリシアは予想通りと言わんばかりに ふんっ と鼻を鳴らし偉そうに立っている。
「えぇと、あっ!クエスト依頼ですか?」
「加入者よ。…でしょ?」
「何?知り合い?」
みんなが奈白の顔を不思議そうに見つめる。
「はい、よろしくお願いします」
「んじゃ、さっさと紹介するわ。そこのちょっと背の高いおばさんがマリネ」
「誰がおばさんよ!少ししか歳違わないじゃない!?辞めるわよ?」
マリネが睨みつけている。
「そこに座ってるのがリグナス」
「よろしくっす!」
リグナスはにこやかに笑っている。
「この小さくて可愛い子がコナちゃん」
「…ょろしく…です」
コナは恥ずかしそうにフードを握り締め深く被っている。
「んで、私がこのギルドで一番偉い人。これで全員。さぁアンタの番よ」
「明石奈白って言います。鍛えてもらいに来ました。よろしくお願いします」
奈白が深々と頭を下げるとマリネはニッコリと笑顔を見せ、リグナスはひらひらと手を振り、コナはお辞儀をしたりと三者三様に受け入れた。
「ちょっとタイミング悪かったわね。私達クエスト行ってくるからアンタは留守番ね。まだ退院したばっかりだし、ゆっくりで良いから掃除とかお願い。帰ったらまた色々と説明するわ」
「はい、分かりました」
ササッと3人が集まり顔を見合わせる。
「ギルマス、掃除したくないだけっすよね」
「絶対そうよ」
「…マスター、自分が掃除当番って言ったのに…」
「ちょっと!何ヒソヒソ話してんのよ!ほら、行くわよ」
4人はわいわい話しながら奈白を残し、ギルドを出ていった。
(みんな仲良さそうだな)
とりあえず部屋を見回す。
外観と比べると中はそこまで汚なくはないが綺麗とも言えない。
「まぁ、少しずつやってくか。掃除道具は…っと」
掃除道具を探しがてらギルド内を見て回ることに。
ギルド内は思ったより広く、2階建てだった。
1階は応接室兼リビング、小さいキッチンと物置き、トイレ、浴室等もある。
2階はそれぞれの部屋、空き部屋、物置き等があった。
「へぇ、みんなここに住んでるんだな」
1階の物置きで見つけた掃除機を引っ張り出してくる。
掃除機は奈白の居た世界のものとデザイン以外はほとんど同じだった。
「えぇーと…コンセントどこ?あ、コードレスタイプかこれ」
とりあえずスイッチを押してみると電源が入って動き出す。
「おぉ、充電は残ってるみたいだな」
他にやることもないのでだらだらと掃除を始める。
オリジナルの適当な鼻歌を奏でながら床からテーブルの上まで、さして確認することもなく掃除機に飲み込ませていく。
ガリガリガガガガッ…
「んぁ?何か詰まっちまったか」
吸い込み口を見てもよく分からず、パンパンと叩いてみるが出てくるはずもなく、諦めてそのままテーブルの上に置きソファに深く座り込む。
「…まっ、壊れちまったんならしょうがねぇか」
掃除に関しては得意ではないのか、かなりの雑さである。
周りを見回し、目についた本でも手に取ってみる。
「これであなたも損しない。無駄にしないための素材大全100選…か」
パラパラめくって気になったページを飛ばし飛ばし読んでいく。
「うわ、ドラゴンとかもやっぱいるんだ。…たっか!爪だけでもそんなすんのか。体全部に値段付いてるじゃん、こんなやつどうやって倒すんだよ…。そういやこの前の、ドッペルって言ってたな」
パラパラとめくり目次も見てみるが載っていない。
「無いな。そんなメジャーなヤツじゃないのか…まぁ、100選だしな」
またパラパラとページをめくる。
「お、スライムだ!かわ…うーん。いや、かわ…うーん。…まぁ可愛いか」
「オオカミだ。こいつカッコいいな、シャドウイーターっていうのか。けっこう強そうだな」
「何だこいつ武器使うヤツもいんのか。へぇー」
しばらく読んだ後、飽きたのか本を閉じてテーブルの上の掃除機を再び手に取る。
「初日からサボっちゃいられねぇしな」
再びスイッチを入れるも案の定ガガガガッと音が鳴る。
「そういや詰まってたわ。まっ、いいか。少しくらいはまだ吸えるだろ」
ガリガリガガガガッという音を響かせながら掃除の続きを始めるのであった。
ーー時間は過ぎて、日が傾きかけた夕方頃ーー。
ギルド・トワイライトガーデンのドアが開く。
「待たせたわね。意外と遠かったから時間掛かっちゃって」
アリシア達が帰ってきた。
「お帰りなさい」
奈白がソファから立ち上がり出迎える。
「嘘おっしゃい。時間かかったのはあなたがゴネたからでしょ?」
「すぐ近くって言ってたのに、北の森にまで行かされたのよ?文句くらい言ってもバチ当たんないわよ」
「まぁ、ギルマスが言い詰めたお陰で報酬ちょっと多くもらえたし」
「…マスター、ぐっじょぶ」
「ふふん、当たり前でしょ」
「アリシア!あなたねぇ、ギルドの評判下がったらどうするのよ?」
「ぅぐっ、ぁ ぁ あいつもウソついてたからお互い様でしょ?」
物凄い剣幕でアリシアが追い込まれ冷や汗をタラタラ流している。
ギルド内で実質立場が強いのはマリネのようだ。
話しを逸らすためにか奈白の肩を良くやったと言わんばかりにぽんぽん叩きながら、アリシアはウンウンと首を縦に振る。
「掃除してくれてたみたいね、やるじゃない新入りくん」
見違えるほどではないが散らかっていたものは多少スッキリしていた。
そして今度はマリネがテーブルを見て冷や汗を流しながら何故か青い顔をしている。
「…奈白さん?テーブルの上にあった書類達は何処へ?」
「散らかってたんで吸い込んどきました。掃除機で」
安心させようとマリネに笑顔を送るが、さっきよりも多く冷や汗が吹き出ている。
「ちょちょちょ、請求書とか他にも大事な物置いてあったのよ!?なに掃除機で吸っちゃってんのよ!」
「うげっ」
その様子を見てアリシアがニヤリと口角を上げる。
「…請求書が無ければ請求されてないのと同義、払う必要も無くなる…か。なるほどね!アンタなかなか冴えてるわね」
「あ?そうそう!気が利くってよく言われる気がするんですよ」
「さぁ他の請求書もこの際捨ててしまうわよ」
「だははは」「だはははは」
お互いに見合ってバカみたいに笑い合う。
「…んな訳ッ無いでしょッ!!!」
マリネが筋の浮き出るほど握り締めた拳を振り上げたと思ったら、ゴチン・バキンと凄まじい音が鳴り響き、奈白とアリシアの頭には揃って大きなたんこぶが出来上がっていた。
「それはギルマスと旦那が悪いっす…」
「…バカ」
怒鳴り散らかされている2人を少し離れた場所からリグナスとコナが哀れむように見つめていた。




