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インビジブル  作者: あおいろもなか
3/10

異変

異世界に転移して最初の朝が来た。


「ふぁ~あ、良く…ネレナカッタ…。あちぃ~、そういえば夏だったわ。てか、こっちの世界も夏なのか」

(昨日の兵舎クーラー効いてたんだな…)


あくびをしながらまだ寝不足の目を擦る。


(そういや異世界に来たってことは俺も何か強力な力もらってんのかな?)


腕、体、足等を観察したり触ってみたりするが変化を感じられない。


(んー、神や女神っていう存在もまだ会ってないな…その内出てくんのか?)


取り敢えず散策がてら歩き出す。


「あ、ここら辺は近くに武器屋があるはずなんだが…」


昨日の地図の記憶を頼りに探し、

「あった、あった。ここだな」

と見つけるやいなや買う金もないまま店内に入っていく。


店内には戦いにはお馴染みの剣から杖、銃、はたまた変わった見た目の物まで置いてある。


「すみません、このマジックガンっていうのは名前的に魔法撃てたりするんですか?」

戦いとは無縁そうな優しい雰囲気の年配の店員に尋ねてみる。


「そうだよ。お客さんあんまり武器に詳しく無い人かね?まぁ使わないに越したことはないが物騒になってきたからね」


「…そうなんですか?あまり世界情勢に疎くて…」


「まっ、人それぞれだわな。そいつはそこの棚にあるマジックバレットっていう魔法を圧縮させた疑似弾を入れて使うんじゃ」


棚には属性ごとに分けた様々な色の小さなケースが売ってある。

眺める分には普通に綺麗で飾りにも使えそうなデザインだ。


「あぁ、疑似弾っていうのは100%魔法で作られていて物体はないからそう呼ばれている。属性付与した弾丸もあるが持ち歩きに重たくてかさばるから今はほとんど使ってる人はいないね。疑似弾なら軽いし、そのケースをそのまま入れて使える上、好きな属性で4つまで中に入れられるよ。1つのケースで大体30発撃てる。本来は魔法が使えない層の護身用に作られたんだが、自分の魔力消費温存と使い勝手も良くて魔術師も愛用してる人多いね」


「へぇー!じゃあこの小さいボールみたいなのは…サプライズソードって書いてあるけど」


「それはボールに貯金箱のような穴があるじゃろ?その中にそこのマジックコインを入れるとその属性が付与され、握り潰すと一瞬にして剣になる。手指の形を認識するらしいから変な方向に刀身が飛び出ることは無いらしいが、私はあまり筋力がないので使ったことは無くてね。まあこれは基本的に使い捨てじゃな。剣の状態になると1時間で消えるしの」


こちらの方も色々な色の属性コインが売ってある。


「へぇー!!じゃあこっちの…」

目に入るものが珍しく、その後も色々な武器や道具の説明を聞き、店を出たのは3時間後だった。


(色々店を回りたいからもう少し早く出る予定だったんだけどな…でもまぁまだ昼くらいか)


近くの食事処が目に入ると思い出したように途端に腹の虫が鳴く。


(そういや、昨日はカップ麺1つしか食ってないしこっちに来てからも変な味の水だけだったからなぁ…)


金が無いので店内には入れず、ただ店を見つめたまま漂ってくる良い匂いに呆然としていると突然後ろから声を掛けられる。


「邪魔よ!オ、ジ、さん」


「え?」


「だから、店の入り口にボケッと立たれてたら邪魔だって言ってるの」


綺麗なブロンドの長髪をした気の強そうな女の子が立っていた。

背中に小さなリュック、両サイドの腰にも厚手の小さな巾着のような物を携えている。


「…あぁ!すいません。ぼーっとしてて」

奈白はササッと横に避けて道を開ける。

(それにしてもオジさんか…そんな老けてるように見えるのか?まぁ30だけども…か…悲しい…)


「入るなら早く入ってくれない?並んでたんじゃないの?」


(人当たりがキツいな、この子。オジさん…いやいや、おにいさん泣きそうだよ…)

「いいえ、すみません。ただぼーっとしてただけなんで、お金も持ってないし…」


腹の虫が恥ずかしげもなく鳴き喚く。

それよりも、微かに「なんだ。ただの可哀想な人だったのね」と聞こえたような聞こえなかったような気がして奈白は少し傷付いた。


「…ふぅーん。別に文句を言いたかったわけでも無いから。ただ、入り口を塞いでる迷惑なヤツかと思って私も少し言い過ぎた…かもしれないし」


女の子はそう言うと奈白の前を通り店に入って…

いや、店のドアを開けたまま立ち止まり…

いや、奈白の目の前まで戻ってきて


「…これあげるわ。色んな味が入っててお得だから買ったんだけど、この味あんまり好きじゃないから。…早く仕事でも探すことね」


女の子はお菓子の大入り袋のようなところから小袋を1つ取り出して奈白の手に無理矢理持たせると、今度こそ店内に入っていった。


「…あ、ありがとうございます!」


その声が聞こえたのか聞こえなかったのか、戸惑っている内に礼を言うのが遅れてしまっていた。


(恐い子なのかと思ったけど、意外と良い人だったのかもな…)


歩きながら貰ったお菓子を頬張り空腹を満たす。

小袋にはモイモイ草味と書かれている。


「何だこれ?…うまっ!」


チョコボールのような構造で、モイモイ味のチョコみたいな物にナッツが包まれている感じである。

味の元ネタが不明だが奈白には美味しかったようだ。


(良く分からんがこんなお菓子があるなら俺の世界の美味しい物を作って一獲千金ってのも難しいか…)


通り過ぎる店々を見てみても多種多様なお菓子や非常食のような物等も気軽に売られている。


(…発展してるなぁ。武器も食い物も、文明も...。俺、何のためにこの世界に...。必要あんのかなぁ…?)


街行く人々の往来を眺めてため息をひとつ、思わず空を見上げる。



(……空に…何か…)



奈白の見上げた先の空が、微かに歪んでいる。


瞬きを挟む間に、歪みは亀裂を生み出し、亀裂からは人間のものでは無いようなおぞましい手が更に亀裂を裂き広げようと力を込めた手を震わせている。


ギギギギ…


(…何が起きてんだ…)


誰も気付いていないのか奈白の他に足を止めるものはいない。


亀裂がおそらく8メートル程の大きさに達した時、中からドロッとした黒い液体が街の中、数百メートル先の建物周辺にヌルリと垂れ落ちた。


次の瞬間、亀裂はブツンと穴を閉じ、引っ込め損ねた不気味な指がねじ切れて霧散したように見えた。


時間にして10秒程だったであろうか。


今はもう亀裂も歪みも無く、さっきまでの空に戻っている。


(何だったんだ今の…?とにかくブラズさんに伝えておいた方がいいか…)


奈白は兵舎に戻るために駆け出した。




ーーー黒い液体の落下地点ーーー



家屋に囲まれた路地裏の陰でブクブク、グツグツと煮えたぎるような音をさせながらドロリとした液体がゆっくりと人の形を成していく。


人というにはまだ未完成のそれはまたゆっくりと動き出した。


一番近くの家屋へと。


…コンコン。

ノックする音に、1人の中年男性がドアを開ける。


「はぁい……あれ?誰もいない…」


気のせいか、または単なるイタズラかとドアを閉めようとした時、


「…イルヨ」


すぐ目の前で声のようなものが聞こえたが、男性の目には何も映らない。


玄関の周囲を見るために身体を乗り出した瞬間、見えない何かにぶつかり驚きとともに尻餅をつく。


「…ツカ…レタ」


その声と同時に男性の目の前にかろうじて人間の形を成したそれが姿を現し、中に侵入すると人間を見つめたまま後ろ手にドアを閉めた。


「な…んだ…おまえは…?」

「…ノウミソ」


急に現れた異形の存在に男性は悲鳴を上げる間もなく頭を引きちぎられ絶命。

ゴリゴリ、グチャグチャ。

バリバリ、ムシャムシャ。


「…ふむ。あまり美味いものでもないな。まぁ、これで人並みに話せれば十分か…」


先程までの稚拙な言葉は何処へ、今では流暢に言葉を操り近くに掛けてあった衣服に袖を通している。

それも殺された男性の姿を模して。


「……さて」


怪しい視線で窓の外を見つめる怪物は何をしようとしているのか。

今はただ血だらけの自分の手を美味しそうに舐めている。



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