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インビジブル  作者: あおいろもなか
11/12

早起き


次の日。


少し遠くで鳴り響き続ける目覚ましの音に奈白は目を覚ます。


まだ寝ぼけ(まなこ)のまま部屋の外を見ると、左斜め前にある部屋の前に大音量で振動し続ける目覚まし時計が転がっていた。

ドアも半開きになっている。


奈白が自室のドアノブに手を掛けたまま、あくびをしてこっくりこっくり ぼーっと落ちている目覚まし時計を眺めているとダダダダッと右側から何かが勢いよく近付いてくる音が聞こえた。


「うっっっさぁぁぁぁぁいッッ!!!!」


アリシアが猛スピードで奈白の部屋の前を走り過ぎ、騒ぎ続ける目覚まし時計を流れるように拾い上げると、半開きのドアの中へと目掛けて全力投球した。


中からガンッという鈍い音と「ンガッ!」という声が聞こえて、同時に音も止まった。


パジャマ姿で寝癖だらけのアリシアは、まだ目が覚めきらないのか半開きの目を眠そうに擦りながらふらふらと部屋に戻っていく。



・・・・・

・・・



それからまもなくして、

シャカシャカシャカ…。


マリネがすでに起きてニュースを見ながらコーヒーを飲んでいる中、起きたばかりであろうその他の面々はみんな横並びに洗面所で歯を磨いていた。


左からリグナス、奈白、アリシア、コナの順に並んでいる。

コナはまだ背が低いので椅子を台代わりとして置いてあり、その上に立っているようだ。


奈白がまだふわふわした顔でお腹を掻きながらリグナスの頭を見る。


「…頭、ハチにでも刺されたの?」

「なんか起きたらこうなってたっす…」


コナも気になるのか椅子の上でつま先立ちして覗こうとしている。


「…いたそー」

「つーか、アンタ一体どんな寝方してたら目覚まし時計が部屋の外に出てくるわけ?」


頭になぜかたんこぶが出来ているリグナスがいた。

コナはちょっと触りたそうな顔をしている。


「いや、目覚ましならちゃんとベッドの上にあったっすよ」

「ふぉれは!あたしが!置いてあげたのッ!!」


口の中の泡を撒き散らしながら、アリシアの歯ブラシが怒りの声とともにリグナスにビッと向けられる。

それに動じることもなく歯ブラシを口に咥えたまま、いつ置いたんだろう?というような表情でリグナスは腕を組み考えている。


「おいおい、歯ブラシを人に向けんじゃねぇよ。こっちにもなんか飛んできただろーが」


顔の片側に多少の被害を被った奈白が、前を向いたまま歯を磨きながら鏡越しのアリシアに気怠げに文句を垂れる。


「そ、それぐらいちょっと避けりゃいいだけでしょ?間に突っ立ってるあんたもあんたよ」

「まぁまぁ御両人…」

「アンタねぇ…」


なだめようとするリグナスを見て疲れたのか、もはやアリシアは怒りを通り越して呆れ始めている。

関係のないコナはマイペースにゴロゴロとうがいをしている。


「…つーか今日何か早くない?」


奈白が洗面所の上に取り付けてある掛け時計を眺めて呟く。

時計は現在朝の5時30分頃を指していた。

昨日はみんな起きてきたのが朝のだいたい8時前後くらいだっただろうか。

それと比べるとだいぶ早い。


もともと1人で何でも屋のような仕事をしていた奈白は、起きたら事務所を開ける感じで決まった始業時間などなかった。

飲み過ぎた翌日は昼から始業することもざらにあり、そんなことがあまり依頼が来なかった要因の1つでもあろう。

要は、比較的朝に弱い。


「あれ?昨日言わなかったっけ?今日は北の森に行くからちょっと早めに出るって」

「ん?…そういや晩飯の時に聞いたような、聞いてないような」

「言ったのよ!…てか、リグナスも目覚まし掛けるの早すぎ。そのせいでみんな起きちゃったからもういいけど」


「いやぁ、起きれるか不安だったんで5時のちょっと前から5分毎に目覚まし鳴るようにしといたんっすよ」

「もう、7時くらいでよかったのにぃ」


「それで北の森って何かの依頼とかで?」

「クエストとかじゃないわ。ちょっとした探し物よ。あんたの特訓とかにも役立つやつ」

「特訓に役立つ?」

「集中力が上がるのよ。早く一人前になってもらわないといけないし、まぁわりと良い値段でも売れるしね」

「…売る方がメインだろそれ」


歯みがきを済ませたあと顔を洗ったりしてみんなでリビングに向かう。


「あ、マリ姉おはよっす。早いっすね」

「…何の拷問か、あなたの部屋のすぐ隣ですからね」

「?」


「おざーす」

と、まだ眠気の取りきれない奈白。

「…おあよぅ」

コナもまた、まだ少し眠そうにして目が開いているのか開いていないのかふにゃけた顔をしている。

「おはー」

アリシアは軽く手を振りリビングに入る。


「みなさんおはようございます」


リビングで過ごしていたマリネに各々一声掛けてそれぞれソファ等に腰を掛けた。


マリネが飲んでいたコーヒーのマグカップをコトンと机に置いたタイミングでアリシアが口を開く。


「昨日夕御飯の時にちらっと言ったけど、何を探しに行くかまでは言ってなかったから改めて。今日早く起きたのは北の森に冬の忘れ物(ウィンタードロップス)を採りに行くからよ」

「なんだそれ?」

「あぁ、確かにそれなら一石二鳥かもしれませんね」

「…コナ、ネットの写真持ってる」

「実物はおれもまだ見たことないんっすよね」


「それがさっき特訓にどうたら言ってたやつ?」

「そそ。あんたは見たことないっぽいから、どんな物かは現地に着いてから言うわ。せっかく予定より早く起きたんだからパパッと行ってパパッと終わらせましょ」


「そうですね。探すのにどれほど時間が掛かるかも分かりませんし、日が落ちる前には帰りたいですしね。では朝は簡単にカップ麺でも食べますか?ちょうど人数分あったような気がしますし」

「うはっ。おれカップ麺好きなんっすよね!極みチキン味もらってイイっすか?」

「ハイハイ。あたしは何でもいいからマリ姉達も好きなの取ってよ」


マリネはインスタントのパスタを、コナはポタージュ味のヌードル、奈白はうどんっぽいやつ、アリシアはエナジーミックス味のヌードルになった。


自分のところに来たカップ麺を見てアリシアは右目をピクピクと震わせながら小さくため息を吐く。


「何でもいいとは言ったけど…まぁいいわ。こんな変な商品ばっかり誰が買ってきてんのかしら」


お湯を入れて各々記載された時間を待つ。

色々いい匂いが漂う中、エナジーミックス味だけ違うベクトルの匂いをほのかに出していた。


それぞれ蓋を開けてみれば、アリシアのカップ麺だけ中身が異様に黄色い。


「何それ黄色過ぎない?食えんの?」


奈白が思わず口に出す。


「見た目通りただの(あっつ)いエナドリよ」

「うわぁ…」


「なんかエネルギー回復しそうっすよね」

「まだなんも疲れてないっての。てか、これ買ったの絶対アンタでしょ!?」

「そっす。だってエナジーが入ってるんっすよ」

「うっさい!」


その後、「合わない、全然合わない」と嘆きながらもアリシアは頑張って全部食べきっていた。


サッと腹ごしらえを済ませ、それぞれ出掛ける準備をして玄関前に集合することに。

奈白は悲しいかな用意するものが何も無いので最初に外に出ていた。


軽く周りを見回し、改めて変なとこに来たんだなと感慨にふける。

この世界に来て何をすればいいのか、はたまた別に何をせずともいいのか一切分からないまま1日1日が過ぎていく。


元の世界へ帰る方法も、この世界に来た目的も、何も提示されぬ状況に多少の不安を感じていた。


「…神さーん。いるのー?天使ぃー、悪魔ぁー、女神ぃー」


空を見上げながら何の感情もこもっていない声でボソッと呟いてみる。

当然ながら返事はない。


「……ま、なるようになるか」


深くため息を吐いた後、諦めたように自分に言い聞かせた。

奈白は良くも悪くもわりと楽観的なところがある。


ほどなくしてギルドの面々が次々と出てきて、全員が揃った。

アリシアは皆の前に立つと意気揚々とした顔でビシッと全員を指差す。


「点呼を取ります!番号ぉぉぉーッ!あたしイッチバーン!」

「オレっ、オレ2番っす!!」

「では、私は3番で」

「…よん」

「えー、5?」

「ヨシッ!上等ね。奈白以外は」


皆の番号を聞いてアリシアは満足そうに笑顔を見せる。

リーダーっぽい感じがして嬉しいのだろう。


確認後さっそく北の森に向けて歩き始めた。

朝の気怠さが微かに残っていたが、なんだかんだで皆のやる気のスイッチはほのかに入ったように感じられる。



街はかなり大きくトワイライトガーデンは南西に位置しているので、北の門に行くまででも割りと時間が掛かる。


バスや電車などもあるが、節約のためにアリシア達は滅多に利用しない。

追い越していくバスやバイクのようなものを奈白は羨ましそうに横目に見ながら歩き続ける。


「そういや距離ってどんくらいあんの?」

「そのうち着く程度の距離よ」

「…数字の情報をくれよ」

「時にはゴールを知らない方が疲れないときもあるでしょ?」

「そうか?」

「そうよ。景色でも見ながら歩いてりゃすぐよ」

「まあ、そういうことにしとくか」


奈白とアリシアの後ろでは、昨日見たドラマの無意味な?討論が3人で繰り広げられているようだ。


「そういやアリシアは昨日のドラマ見なくて良かったのか?探偵のやつ」

「あたしも見たかったけど、マリ姉に話を頼んでたし。ま、録画はしてるから帰ったら見るわ。そのためにあんまりアッチの話が聞こえないようにしてるんだから」

「あれネタバレとか関係あんの?」

「あの面白さが分かんないなんてまだまだあんたは浅いわね。あ、こっちこっち」


そう言うと進行方向を変えて建物の方へと向かっていく。

てっきり歩きで行くものと思っていたが、さすがに徒歩では時間が掛かりすぎるのかアリシアは駅に入っていった。

ちょっとした券売機と改札がある田舎にあるような無人の小さな駅だ。


「駅?金、掛かるんじゃないの?」

「さすがに歩きじゃ遠いし、ここからなら北門まで50リルだから。タイム イズ マネーよ」



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