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インビジブル  作者: あおいろもなか
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神隠し

ー 2023年、夏の夜 ー


明石奈白あかしなしろという男はとある廃村にいた。


人里離れた森の奥、壊れた家々には植物等が絡み付き、何十年も人の手が入っていないであろう廃れた集落にひとつの深い溜め息が溶ける。


「…んだよ、もう。幽霊の証拠って何すんの?心霊写真?とか、エクト…プレ?…何だっけ?怖ぇよ…適当に写真でも撮って加工すりゃバレねぇんじゃねぇの?依頼料だけもらって…いやいや、信用商売なんだから後々の事を考えるとちゃんと…」


心細さに一人でぶつぶつ呟き続ける。


「こういう時のためにも、やっぱり助手とか雇った方が良いよなぁ。まぁ、雇う金なんて無いんだけど。あぁ…会話相手欲しぃ…」


ぶつぶつ呟きながら村の奥へと恐る恐るあてもなく進み続け、1メートル程の大きさの石にボロボロの縄が絡まっている墓のような物の前で足を止めた。


「…なんだこれ?えー…"此所に…"?ロープが邪魔で読みにくいな…まぁ一応撮っとくか」


パシャ!


稲光のようなフラッシュが周囲に瞬く。


「ッ!?」


(…今、右の方に何か居なかったか?)


バリバリ…グチャグチャ…


草木の擦れる音?

枯れた枝葉の砕ける音?


何の音か分からないが不気味な音が一定間隔で響く。


"逃げた方が良い"


第六感がそう囁く。


奈白の前方、右の方にある大木の後ろから音が聞こえる。


なるべく音のする方から目を離さないように、背中を向けないようにしながらゆっくりと来た道を後退っていく。


一歩、もう一歩…、音を鳴らさぬように慎重に…


…ビチャッ!


すぐ後ろで響いた音に、ビクッと身体がこわばった。


湿った何かが地面に叩きつけられたような音。


そして、気のせいではない。

自分の呼吸音の他に、すぐ首の後ろからとで何故か吐息が二重に聞こえる。


背筋が凍った。


(走れッ!)


無理矢理足に言い聞かせ、とりあえず走り出す。


来た道とは反対方向になってしまったがもはや関係ない。

遭難しようがなんだろうがアレから距離を取らないと命は無いと直感が告げた。


月明かりも届かない暗い森の中を突き出た根に足をすくわれながら、尖った枝で身体を切り裂かれながら必死に走り続ける。


ガリガリ…グチョグチョ…ボリボリ…ベチョ…


そんな音が右からか、左からか、あらゆる方向から聞こえるような気がしてならない。


…ドガッ!


何も見えない中を夢中で走っていると幹から飛び出た太い枝に額を打ち付け身体が宙に舞った。


もろに強打だ。


身体が動かない。


(…クソッ…ここまでか…)


朦朧とした意識の中、破裂しそうな程の心臓の鼓動だけが奈白の中に強く響く。


一寸先も見えない暗い森の中、何も見えないけれど何かが見える。


(…こんな暗闇なのに黒猫って…)


死に際の幻のようなものか。


(…黒猫っていやぁ、…そうか…"ポイ"が迎えに来てくれたんだな…)


黒猫が何かに答えるようにニャアとひとつ鳴く。


(…悪かったな…最後まで貧乏でお前に良い暮らしもさせてやれなくてよ…)


黒猫はニャアともうひとつ鳴くと背を向け歩き出す。


(…待ってくれ)


弱々しく伸ばされた手が何かを掴んだ。


(…御守り…)


見覚えのあるそれは、むかしポイの首輪に合わせて作った手作りの小さな御守りだった。


"交通安全"


御守りの効果も虚しくポイは事故に遭い死んでしまったのだが…。


よく見てみれば、


"交通安金"


(…ったく、安金って何だよ……こんなんじゃ、呆れられてもしょうがねぇよなぁ…)


遠くでポイの争うような鳴き声が聞こえる。

ガサガサ…バタバタ…暴れているのか。


ひとしきり続いた騒がしい音は、またいつの間にか静寂に溶けていた。


身体の痺れが引いてきたというのに、顔を上げれば

目の前にはもう何かが立っている。


グチョグチョ…ベチョ…


「…痛…ッガアアァァアァァアアア‼…ク…ソッ!離ッせぇッ…‼」


目を引っ張り出そうとしているのか、右目を激しい痛みに襲われる。

右目に触れている腕なのか何なのか分からない物体に現状動かせる力で必死にもがく。


この廃村にはもう誰にも忘れられたうたがある。


  フルイ フルイ オイシサマ

  タタクト メンタマ タベラレタ


  オイシモ カラスモ メンタマ サガスガ

  コノミノ チガウハ セイカ シカ


  カラスガ ナイタラ アソビマセ

  カラスガ ヤムマデ アソビマセ


ブヂッ…。


言葉にならない激痛に顔を押さえ、悶絶する。


…コリコリ…グチャグチャ…


何を喰っているのか考えたくもない。

というよりは痛みで何を思考する余裕もない。


喰い終えた何かが再度奈白の顔に手を伸ばす。

次は左の目だろうか…。


左目は死守しようと両手で必死に押さえるが、力が入らない。

開いた右目が冷ややかな風を吸い込む。

…何も見えないのは暗いからか、それともやはり右目は…


次の瞬間、寝ていたカラス達が一斉に騒ぎ出し、暗い森にサイレンの如く不快な音色を叫び続けた。


薄れ行く意識の中、カラスが騒ぎ出すその直前、ポイの鳴き声がすぐ顔前で聞こえた気がした…。



ー 2023年、夏 ー



人里離れた森の奥、地図からもいつの間にか消えた廃村で一人の人間が神隠しにあった。



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