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アオハル・スノーガール  作者: 無月弟
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髪を戻して初登校

 目立つのはあまり好きじゃない。

 例えば人前で何かを発表したり、大勢の前でスッ転んでしまって注目を浴びた時は、恥ずかしさで溶けちゃいそうになるか、ネガティブになって冷気を暴走させちゃうかする事が多いけど。そんな私には生まれながらに、目立つ要素が備わっていた。


 雪のように白い髪。

 東京では髪を脱色させている人も少なくないけれど、ここまでしっかりと白なのは珍しく、どこへ行っても視線を感じていた。


 そんなに注目を浴びなれてるのに、どうして目立つのが苦手なんだろうって、自分でも不思議だけど。これに関しては、目立ち方の違いとしか言いようがない。

 他の事で注目されると緊張しちゃうけど、髪に関しては仕方がないかって思えるんだよね。


 ただそれにしたって今日はちょっと、ううん、かなりドキドキしている。

 黒に染めていた髪を、カミキリさんに白に戻してもらってから、一夜明けた月曜日。

 登校してきた私は、早くも多くの視線を感じていた。


 顔も知らない上級生がこっちを見ては、ヒソヒソと何かを話している。

 無理もないか。この学校の生徒は髪を染めていたとしても、せいぜい茶色にするくらい。だけどそこにいきなり、真っ白な髪をした生徒が現れたのだ。否応なしに目を引いてしまう。


 だけど、こうなる事は分かっていた。何も悪い事なんてしていないんだから、堂々としていれば良いんだ。


 自分の教室に行ってドアを開けると、やっぱり私の姿を見たクラスメイトはみんなビックリしていたけど。そんな中、駆け寄ってくる女子が二人いた。


「おおー、本当に白くできたんだ!」

「う、うん。変じゃないかな?」

「ぜんぜん。雪みたいで綺麗。似合ってるよー」


 やって来てくれたのは、もちろん里紅ちゃんと楓花ちゃん。二人とも興味津々といった様子で髪を見つめて、そっと撫でてくる。


 ふふ、くすぐったい。だけど優しい手の感触がとても心地良い。

 するとそんな様子が気になったのか、数人の女子が声をかけてきた。


「ねえ、その髪どうしたの?」

「ずいぶん派手な色だけど、意外。綾瀬さん、髪を染めたりするんだ」


 みんな珍しそうに集まってきて。そうでない人も遠巻きに様子をうかがっているけど、今のうちに言っておかなきゃならないことがある。

 すうっと息を吸い込んで、ハッキリと口にした。


「ううん、そうじゃないの。実は元々こっちが本当の色で、今までが黒く染めてたの」

「へ、そうだったの? ひょっとして綾瀬さんって、ハーフか何か?」

「うーん、そういう訳じゃないんだけどね」


 いちおう、妖の血が混じっているクォーターではあるんだけどね。

 けど雪女って事は秘密なんだから、こればかりは言うわけにはいかない。


「訳あって今まで黒く染めてたんだけど、塗ってた色を落としてもらったの」

「へえー、そんな事できるんだ。さらさらで艶々で羨ましいー。ねえ、私にも触らせて」


 そんな感じで、一人が触ったらすぐに私も私もとみんなが代わる代わる髪を撫でていって。それはまるで、触ったらご利益のあるお地蔵様みたい。


「けどいきなり色変えちゃって、先生から何か言われない?」

「平気、ちゃんと許可をとってあるから。元々こんな色してたんだから、ダメって言われても困るよ」

「そうそう。大丈夫、もしもグダグダ言うやつがいたら、アタシがぶっとばすから」


 ちょっと過激だけど、里紅ちゃんが頼もしい事を言ってくれる。

 さすがに楓花ちゃんはここまで大胆な事は言わなかったけれど、「何かあったら遠慮無しに相談してね」って言ってもらえて。奇異な目で見られるんじゃなくて、受け入れてもらえるのが嬉しかった。


 というわけで。髪を白くしてのクラスデビューは成功したわけだけど。それでも皆が皆、理解してくれる訳じゃない。


 残念ながら否応なしに目立ってしまうこの頭の事を面白くないと思う輩は、どこにだっているみたい。


 最初は特に咎められる事もなく、ホームルームも授業も、つつがなく進んでいったんだけど。

 午前の授業が全部終わった昼休み。トイレに行って教室へ戻ろうとしていた所で、それは起こった。


「綾瀬さん、ちょっといいかな?」


 ……何となく、嫌な予感がした。

 廊下を歩いている途中、不意に後ろから聞こえてきた抑揚の無い声。

 恐る恐る振り返ると、そこには数人の女子が立っていて。先頭にいる茶色い髪の女子は眉をつり上げて、腕を組ながらギロッと私を睨んでいた。

 前に一度だけ話をした事がある彼女の名前は……。


「杉本さん、何か用でしょうか?」


 転校してきたばかりの頃、私を自分たちのグループに引き込もうとした杉本さん。

 正直、里紅ちゃんや楓花ちゃんの事をバカにしていた彼女にはあまりいい印象が無く、つい身構えてしまう。


 すると杉本さんは私の質問に言葉で返すのではなく、鋭い目でわたしを睨んで。ズカズカと歩み寄って来たかと思うと、頬に伸びていた私の髪を、引っ張ってきた。

「——痛っ! 何をするの!?」

「何を? こんな派手な髪しておいてよく言うわ。非常識だって思わないわけ?」


 乱暴に髪を引っ張られて。たまらなくなって振り払ったけど、杉本さんは逃がしてくれない。


「ひょっとして、転校してきてから知らないの? ここにはね、髪を派手な色に染めちゃいけないって決まりがあるの。分かる? アンタがやってる事は、校則違反よ」

「そんな、杉本さんだって染めてるじゃないですか」


 自分の事を棚に上げて、何を言っているんだろう?

 だけど、そんな事で引き下がる彼女ではなかった。


「バカじゃないの? アタシのは、少し色変えただけだからいいの。けどアンタのはダメ。派手すぎるもの」


 悪びれる様子もなく言い放たれた言葉に、耳を疑う。そんなの、杉本さんの匙加減じゃない。

 だいたいこう言っちゃ悪いけど、とても彼女が校則や規律に厳しいようには見えない。制服は着くずしているし、髪だけならたしかに私の方が目立っているかもしれないけど、爪はカラフルに塗られ、派手なアクセサリーをつけているし。

 別にそれが悪いって訳じゃないけど、私だけが悪者にされるのは納得できない。


(どうして、放っておいてくれないのかな?)


 心の中で、盛大なため息をつく。

 ある程度予想はしていたけど、やっぱりこんな風に絡んでくる人はいたか。前の学校で上級生の女子がそうだったように、杉本さんからは彼女達と同じものを感じる。


「ほら、何とか言いなさいよ」

「早いとこ謝って、そのおかしな髪を染めてきたら?」

「そしたら私達も、許してあげるから」


 杉本さんは呆れている私を、言い返せずに黙っているって思ったのか、強気な態度を示してくる。

 彼女の周りにいる取り巻きの女子達も、クスクスと嫌な笑いを浮かべていて止める気配はないけど、ここで屈したりはしない。

 何も悪いことなんてしていないんだから、今度こそ堂々としておけば良いんだ。


「あの、勘違いしているみたいですけど、私のこれは地毛です。何も問題はありません」

「はあ? そんなバレバレの嘘が通用するとでも……」

「本当です。疑うのなら、生活指導の先生に聞いてみてください。ちゃんと許可はとっていますから」

「うっ」


 ハッキリ言い返されて嘘じゃないって分かったのか、杉本さんは言葉に詰まっている。

 後ろにいる他の女子達も「どうする、聞いてみる?」、「嫌だよ。あの先生に、この前注意されたばかりだもん」なんて言ってるし。

 と言うかこの人達、普段は自分達が注意される側なのに、人の髪を派手だなんて文句をつけてきたのか。


 もしかしたら、この前グループへの誘いを断った事を、根に持っているのかもしれない。

 ああ、こんな事なら、もうちょっと言葉を選んで、やんわりと断っておけばよかった。結局、断ることに変わりはないんだけどね。


 だけどハッキリ言ってやったのに、杉本さんはなおも食い下がる。


「許可を取ったかどうかなんてどうでも良いの! そんなみっともない頭してその辺を歩かれたら、同じ学校ってだけでアタシらまで変な目で見られるじゃない。迷惑なのよ!」

「なっ!? みっともないって、失礼じゃないですか」

「うるさいわね、周りを見てみなさいよ。アンタ以外にそんな頭してる人いる? いないでしょ。だったら普通は、周りに合わせようとするでしょ。悪目立ちして、恥ずかしくないわけ?」


 なんて酷い言いがかり。

 杉本さんの言うことはまるで筋が通ってないのに、さもそれが当然みたいに上から目線で語ってくる。さらに。


「ほら、何とか言いなさいよ。まったく、転校してきた時は声をかけてあげたのに、こんなどうしようもない子だったなんてね。私達の誘いを断って、変な人達とつるんでるみたいだしさ」

「——っ! 変な人達って、誰の事ですか!」


 思わず強い口調で聞き返すと、杉本さんは蔑むような目をして。ニタリと嫌な笑いを浮かべた。


「何て言ったかなあ? ああ、そうそう、郷土研だっけ。古くさい事ばかり調べて、よくやるわよねえ。あんなの何が楽しいのって、ずっと不思議に思ってたのよね」

「そんなの、杉本さんには関係ないじゃないですか!」

「そうね。一緒にいたら恥ずかしいから、アタシもできれば関わりたくないわ。けど、綾瀬さんならある意味お似合いね。変な人同士集まって」

「……いい加減にしてください」


 どうしてそこまで言われなきゃいけないの?

 私の事を悪く言われるだけならまだいい。だけど一緒にいるってだけで、岡留くんや白塚先輩までバカにされるのは嫌。

 怒ったところで、きっと彼女は反省してはくれないだろうけど。それでも言い返そうと、息を吸い込む……。


「ちょっといいか」


 不意に声がして、ポンと肩を叩かれた。

 誰!? 思わずビクッと体を震わせてから、振り返って目を向けると。


「岡留くん?」


 そこには「落ち着け」と言いたげな眼差しで私を止めながら、黒々とした目を向ける、岡留くんの姿があった。


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